資金決済制度をめぐる議論
本セッションではEYストラテジー・アンド・コンサルティングの小川恵子氏がモデレーターを務め、金融庁企画市場局参事官の若原幸雄氏、一般社団法人Fintech協会 代表理事副会長の落合孝文氏、京都大学公共政策大学院教授の岩下直行氏、Internet Financial (Circle) 副社長のヤム・キ・チャン氏が登壇しました。
ヤム氏を除く登壇者は、2025年2月に公表された、資金決済制度等に関するワーキンググループの報告書作成メンバーです。報告書には送金・決済サービスと暗号資産に関する内容が記載されています。セッションでは暗号資産仲介業の設立の狙いやステーブルコインへ寄せられる期待等、ワーキンググループで交わされた議論の一部が紹介されました。
ヤム氏を除く登壇者は、2025年2月に公表された、資金決済制度等に関するワーキンググループの報告書作成メンバーです。報告書には送金・決済サービスと暗号資産に関する内容が記載されています。セッションでは暗号資産仲介業の設立の狙いやステーブルコインへ寄せられる期待等、ワーキンググループで交わされた議論の一部が紹介されました。
暗号資産仲介業の設立
2017年から日本国内で暗号資産を事業として取り扱う場合は暗号資産交換業へ登録を行う必要がありました。登録をすれば暗号通貨の売買、交換、取次・代理、媒介、管理といったすべての業務を取り扱えます。しかし、現行の決まりでは一部の業務しか取り扱わないビジネスモデルでも交換業の登録をしなければいけません。暗号資産登録業だけでは不必要な規制が課され、参入障壁になってしまうという課題がありました。そのため、一部の業務だけを行いたい事業者に対して必要十分な規制を行えばビジネスが展開しやすくなります。こうした考えのもと、暗号資産仲介業が設立されることとなりました。仲介業が設立されたことで、暗号資産取引の「媒介」を専業とする事業が可能になります。が新たな仲介業制度により、媒介専業の事業者が過剰な規制を受けずに暗号資産交換業者(取引所)と利用者の間を仲介し、売買や交換の取引成立をサポートできます。
例えば、ゲーム内アイテムの売買や企業ポイントシステムなど、暗号資産を活用した媒介業務だけであれば仲介業登録で対応できるため、事業展開がしやすくなります。
さらに、仲介業者は利用者の資産を預からないため、従来の交換業者に課されていた厳格な財務要件やマネーロンダリング対策(AML/CFT)規制の多くが適用されません。これにより、スタートアップや新規参入企業も参入しやすくなります。
一方で、利用者保護の観点から、仲介業者にも交換業者同様の説明義務や広告規制が課されます。従来通り、取引のリスクや仕組みは、利用者に適切な説明を行わなければなりません。
例えば、ゲーム内アイテムの売買や企業ポイントシステムなど、暗号資産を活用した媒介業務だけであれば仲介業登録で対応できるため、事業展開がしやすくなります。
さらに、仲介業者は利用者の資産を預からないため、従来の交換業者に課されていた厳格な財務要件やマネーロンダリング対策(AML/CFT)規制の多くが適用されません。これにより、スタートアップや新規参入企業も参入しやすくなります。
一方で、利用者保護の観点から、仲介業者にも交換業者同様の説明義務や広告規制が課されます。従来通り、取引のリスクや仕組みは、利用者に適切な説明を行わなければなりません。

ステーブルコインの規制緩和
ステーブルコインは、運用の規制緩和が提言されています。日本ではステーブルコインは100円で発行したら100円で流通させなければいけないとして、普通預金で運用されていました。しかし、国債や短期国債で運用できるというのが世界の潮流です。日本でも今後は短期国債でもステーブルコインを運用できるように緩和する予定です。
ステーブルコインはブロックチェーン上で管理されるため、中間の金融機関を介さずに送金ができるメリットがあります。国内に堅牢な金融システムのないラテンアメリカやアフリカなど一部の地域では送金の手段として大きな期待が寄せられています。一方で、金融システムを持ち、従来の方法で決済を行える先進国はコストをかけてAML/CFTやKYCに取り組んでいます。暗号資産はAML/KYCの仕組みが整備されておらず、犯罪に利用されるリスクが繰り返し指摘されてきました。暗号資産を使いやすくしたものがステーブルコインであるため、ステーブルコインも同様の課題を抱えています。
金融庁の若原氏は、分散型台帳は今後重要な技術になっていく中で、重大犯罪が起こって分散型台帳技術の発展が遅れては非常に大きな損失となると述べました。暗号資産やステーブルコインの運用を円滑に進め、分散型台帳技術の活用を目指して制度運用に務めるとのメッセージでセッションを終えました。
大和証券のWeb3の取り組み
本セッションでは大和証券グループ本社執行役員、大和証券常務取締役の板屋篤氏が単独講演を行いました。
大和証券グループは、ブロックチェーンやWeb3.0など最先端テクノロジーを活用したデジタルアセットの分野で、国内証券会社の中でも積極的な取り組みを進めています。
デジタルアセットは資産として価値のあるデジタルデータ全般を指す言葉で、仮想通貨、NFTなどのブロックチェーン上の資産だけでなく、電子書籍やデジタルアートなども含まれます。セキュリティトークンは株式や社債、不動産などの有価証券に表示される権利を、ブロックチェーン技術を用いてデジタル化したものです。
デジタルアセット化することで、本来分割しえない資産を小口化できます。従来は一部の機関投資家向けだった不動産や再生エネルギー設備なども少額から投資が可能になり、より多くの個人投資家が参加しやすくなります。
板屋氏は大和証券グループではセキュリティトークンを投資家への新たな資産運用手段の提供、発行体の新たな資金調達方法の提供という観点から大きく成長するビジネスであると捉えていると述べました。
セキュリティトークン市場のさらなる発展のために重点的に取り組む領域として、流動性を更に向上させること、アセットを多様化すること、ステーブルコインを活用することを挙げています。
例えば、STARTは大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営するセキュリティトークン専用の二次流通市場です。STARTでの取り扱い銘柄や流通量の増加についてSTART運営委員会による議論が進められるとのことです。また、不動産や社債以外のアセットのセキュリティトークン化が検討されている他、決済手段としてステーブルコインを活用することも考えられています。
大和証券グループは、ブロックチェーンやWeb3.0など最先端テクノロジーを活用したデジタルアセットの分野で、国内証券会社の中でも積極的な取り組みを進めています。
デジタルアセットは資産として価値のあるデジタルデータ全般を指す言葉で、仮想通貨、NFTなどのブロックチェーン上の資産だけでなく、電子書籍やデジタルアートなども含まれます。セキュリティトークンは株式や社債、不動産などの有価証券に表示される権利を、ブロックチェーン技術を用いてデジタル化したものです。
デジタルアセット化することで、本来分割しえない資産を小口化できます。従来は一部の機関投資家向けだった不動産や再生エネルギー設備なども少額から投資が可能になり、より多くの個人投資家が参加しやすくなります。
板屋氏は大和証券グループではセキュリティトークンを投資家への新たな資産運用手段の提供、発行体の新たな資金調達方法の提供という観点から大きく成長するビジネスであると捉えていると述べました。
セキュリティトークン市場のさらなる発展のために重点的に取り組む領域として、流動性を更に向上させること、アセットを多様化すること、ステーブルコインを活用することを挙げています。
例えば、STARTは大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営するセキュリティトークン専用の二次流通市場です。STARTでの取り扱い銘柄や流通量の増加についてSTART運営委員会による議論が進められるとのことです。また、不動産や社債以外のアセットのセキュリティトークン化が検討されている他、決済手段としてステーブルコインを活用することも考えられています。

続いて、暗号資産とNFTについても言及がありました。
講演では、デジタルアセットローンやデジタルアセットステーク、誰でも簡単にNFTを受け取れる「NFT Cocoon」を提供するFintertech社の紹介がありました。
デジタルアセットローンは法人もしくは個人事業者を対象に、ビットコインやイーサリアムを担保として、法定通貨を融資するサービスです。暗号資産の将来性に期待している長期保有の方々の資金需要に応える狙いがあります。デジタルアセットステークは顧客が保有する暗号資産(イーサリアム)を貸し出せるサービスで、貸出人は賃借料を受け取れます。デジタルアセットステークを利用することで使用予定のない資産を利用して収益をあげることが可能になります。
また、新たな取り組みとして、2024年にはシンガポールのビットコインやイーサリアムなどの暗号資産(仮想通貨)への投資や事業を通じて、巨額の資産を築いた人々に幅広くネットワークを持っているPenguin Securitiesというスタートアップと資本業務提携を開始しています。Penguin Securitiesはシンガポールのクリプト富裕層の幅広いアクセスと暗号資産運用の知見、ネットワークを有しています。シンガポールでの金融事業を行うライセンスを取得し、日本への展開も考えているとのことでした。
講演では、デジタルアセットローンやデジタルアセットステーク、誰でも簡単にNFTを受け取れる「NFT Cocoon」を提供するFintertech社の紹介がありました。
デジタルアセットローンは法人もしくは個人事業者を対象に、ビットコインやイーサリアムを担保として、法定通貨を融資するサービスです。暗号資産の将来性に期待している長期保有の方々の資金需要に応える狙いがあります。デジタルアセットステークは顧客が保有する暗号資産(イーサリアム)を貸し出せるサービスで、貸出人は賃借料を受け取れます。デジタルアセットステークを利用することで使用予定のない資産を利用して収益をあげることが可能になります。
また、新たな取り組みとして、2024年にはシンガポールのビットコインやイーサリアムなどの暗号資産(仮想通貨)への投資や事業を通じて、巨額の資産を築いた人々に幅広くネットワークを持っているPenguin Securitiesというスタートアップと資本業務提携を開始しています。Penguin Securitiesはシンガポールのクリプト富裕層の幅広いアクセスと暗号資産運用の知見、ネットワークを有しています。シンガポールでの金融事業を行うライセンスを取得し、日本への展開も考えているとのことでした。
オクトノット編集部の所感
2024年の米大統領選挙で暗号資産推進派のトランプ氏が当選し、米国はデジタル資産に対して積極的な政策転換を進めています。世界的に暗号資産への関心は高まっています。日本でも暗号資産の利用拡大や投資家保護のため、与党が税制見直しや金融商品としての法的位置づけの再検討、サイバーセキュリティ強化を提言しています。2025年3月、暗号資産(仮想通貨)の仲介業創設や、信託型ステーブルコインの裏付け資産の柔軟化などを規定する、資金決済法の改正案が閣議決定されました。
暗号資産は日本でも市場を増やしつつありますが、依然として税制や規制、セキュリティの面では課題を抱えています。テクノロジーの進展に伴って柔軟な対応が求められる中でも、金融の安定性や消費者保護は保たれなくてはなりません。特にデジタル金融法制の未来のセッションでは、暗号資産におけるAML/CFTのプロセスは確立されていないものであり、慎重な運用が必要である点が強調されました。一方で、国際的な決済にステーブルコインが活用される、中央デジタル通貨が発行されるといった潮流は存在し、安定した既存のシステム以外の選択肢を提供することが重要であるといった視点もあります。
テクノロジーの恩恵を享受するために、世界のスタンダードに合わせられるようにしながら、安心して利用できる金融システムを築いていく必要があるといえるでしょう。
テクノロジーの恩恵を享受するために、世界のスタンダードに合わせられるようにしながら、安心して利用できる金融システムを築いていく必要があるといえるでしょう。
※本記事は、イベントを取材し、執筆者が記事にしたものです。
※本記事の内容は、執筆者およびイベントの登壇者、協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※本記事の内容は、執筆者およびイベントの登壇者、協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
画像提供:123RF