「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

コラム

サプライチェーンファイナンス 未来の資金繰りは「受注時点」で決まる? FIN/SUM2025レポート第3弾

画像

2025年3月4日から3月7日までの4日間、東京都千代田区の丸ビルでFIN/SUM2025 FINTECH SUMMITが開催されました。主催は日本経済新聞社、金融庁です。「“真のマネタイズ”に挑む次世代フィンテック」をテーマに開催されたこのイベント。今回は、最終日に開催されたセッションの「サプライチェーンファイナンスのパラダイムシフト」に注目し、その模様をお伝えいたします。

下請法改正がサプライチェーンへ与える影響とは

サプライチェーンファイナンスは、大企業の資金を確保する仕組みとして誕生しましたが、昨今はサプライチェーン全体の金融面での安定が重要視されるようになりました。中小企業の資金繰りを守る「レジリエンスの強化」を目指す流れが強まり、その具体的な解決策として下請法の改正案が注目されています。一方、建設業やシステム開発などのように受注から支払いまでの期間が長い業界には、いまだ課題が残っています。サプライチェーン全体の資金の流れを見直すことで、中小企業の成長と日本経済の活性化が期待されています。
全国中小企業団体中央会 及川氏は、同団体の要望を取りまとめる形で、以下の5点を解説しました。

1.    価格転嫁不足による賃上げ停滞
物価上昇やコスト増が生じても価格が据え置かれ、中小企業の賃上げが進まない。サプライチェーン全体での交渉・対話を促す法的措置を求め、中小企業の価値向上につなげる必要がある。

2.    約束手形の廃止
発行側・受取側ともに廃止を望む一方、慣行として存続している。下請法が原則現金払いを規定しているため、手形制度を維持する必要はない。

3.    物流業界の課題
荷主との契約において長時間の荷待ちや、無契約の付帯作業が常態化している。働き方改革を進めるうえでも早急に解消が必要。

4.    資本金操作による下請法逃れ
資本金操作して下請法の対象外になる事例が存在する。不正行為として許されないため、実効性のある対策が求められる。

5.    サプライチェーンの深層での価格転嫁難
中小企業や小規模事業者間での取り引きで価格転嫁が進まない。

このような商慣習を改めるためにも力強い支援策が不可欠です。
公正取引委員会事務総局 亀井氏は、受注した企業が、発注者側から支払いを受けるまでの期間が長期化することで、受注者側の資金負担が増大している点を指摘しています。約束手形は、商品やサービスを納品したにもかかわらず、現金ではなく「将来支払います」という約束だけで済ませる仕組みです。支払日までの間、中小企業は実質的に利息なしでお金を貸している状態となり、大きな負担となります。また、現金払いと比べて入金が大幅に遅れるため、中小企業の資金繰りが厳しくなりがちです。さらに、手形を早めに現金化するためにファクタリングを利用すると、手数料が高く、結果的に中小企業の利益が減ってしまう点が問題視されています。

中小企業における新たな資金調達手段

帝京大学経済学部 宿輪教授は、PO(purchase order=受発注)ファイナンスを紹介しました。POファイナンスとは、まだ商品やサービスを納品していない「受注段階」から金融機関が融資を行えるようにするサービスです。具体的には、発注企業・納入企業・金融機関がインターネット上でつながり、紙の受発注書を電子記録債権(※1)に変えることで、受注した時点から資金を借りられるようになります。これまで納品後でないと難しかった銀行からの融資を、受注段階で受けられる仕組みが大きな特徴です。また、銀行も融資機会と収益の拡大が見込めるため、信用保証協会を活用しながら地方銀行や信用金庫、信用組合も積極的に導入を検討すべきと強調していました。
日本経済団体連合会 小畑氏は、賃上げ原資確保についても、下請法改正による紙の手形廃止やファクタリング手数料負担の是正が、中小企業の資金繰りに大きな影響を与えると指摘しています。大企業と中小企業の間で昔から続いてきた商取引の慣習を、早急に改善する必要があるとしています。また、2025年度には、正社員の給料を上げようと考えている企業が6割以上にのぼり、これまでで最も多くなりました。一方で、小規模企業の給料水準は依然として低いままであり、価格転嫁や、大企業と中小企業の取り引き方法の見直しが不可欠だとまとめています。
リーテックスの小倉氏は、商品を受注してから納品するまでの間に必要な運転資金を確保するのが難しいことや、従来の約定弁済型の融資では十分な成長資金を調達できないという仕組み上の課題があると指摘しています。そのうえで、こうした課題を解決する手段として、商流ファイナンスの重要性を強調しています。中小企業が運転資金不足に陥る背景として、現在の融資は、前の年の決算をもとに返済額を決める「約定弁済型」が主流なので、必要なお金をタイミングよく確保できず、企業の成長を妨げているとしています。そこで、受注時点から取り引きを担保にできる商流ファイナンスの導入が重要だと強調しています。
(※1) 電子記録債権は、手形や指名債権と同じく事業資金を調達するための金融手段。売掛債権の譲渡にかかる手間やコストの削減ができる。

大企業による支払い繰り延べ金は20兆~30兆円にのぼる

納品後の資金繰り問題は、今回の下請法改正で解決に向かう見通しですが、受注から納品までの期間における資金繰り問題はなお残っています。独占禁止法の優越的地位濫用規制(※2)によって、大企業などの発注者側が一方的に支払日を遅らせる行為は規制の対象です。しかし、具体的な基準や運用方法を示すガイドラインが十分に明確になっていないため、早急に整備すべきだという声が上がっています。
小倉氏によると、大企業が支払いを遅らせることで、サプライチェーン全体で20兆~30兆円ものお金の受け取りが先延ばしされているといいます。その結果、本来は早く手元に入るはずだったお金の受け取りが遅れます。中小企業はその間の資金不足を銀行からの借り入れなどで補う必要があり、その利息として年間で合計約6,000億円(平均利率約2%)を支払っている、という指摘です。
下請法の改正だけでなく、独占禁止法の優越的地位濫用の取り締まりをより具体的に強化することで、これまで大企業にとどまっていた多額のお金が中小企業へ早く行き渡るようになります。その結果、中小企業が抱えてきた資金調達コストの負担が減り、国内での投資も活性化し、日本経済の成長につながると期待されています。
受注から納品までの期間に必要な資金をどう確保するか、という課題は依然深刻です。そこで、宿輪教授は、受注時点で信用力を評価し、銀行が早い段階で融資を行えるPOファイナンスの有効性を強調しています。これによって融資の枠が広がり、サプライチェーン全体で大きな変化(パラダイムシフト)が起こることを期待しています。
(※2) 取引上優越した地位にある企業が、取引先に対して不当に不利益を与える行為

オクトノット編集部の所感

サプライチェーン全体の資金の安定が重要視される中、下請法の改正案によって中小企業の資金繰りが改善され、レジリエンス強化の切り札となると感じました。
しかし、受注から納品まで長い期間がかかる業種や、資本金を操作して法の適用を逃れるケースなど、まだ解決すべき課題は残っています。制度の厳格化や、受注時点から融資を受けられる「POファイナンス」の導入の必要性を感じました。さらに、大企業が支払いを遅らせることで、サプライチェーン全体では数十兆円もの資金が滞っているとされています。その結果、中小企業は年間6,000億円もの金利負担を強いられており、この現状は放置すべきではないと感じました。
また、下請法の改正案の中では、今の「下請事業者」という呼び方を「中小受託事業者」に改め、主に大企業などの取り引きを発注する側は「委託事業者」と呼ぶ方針が示されています。発注する企業が受注者側を下として見る意識をなくし、企業間の取り引きで公正に価格を決めやすい社会になることを期待します。
こうした法改正や新たなファイナンスの活用で中小企業の負担が解消されれば、成長や雇用の拡大につながり、日本経済の活性化に寄与するでしょう。
※本記事は、イベントを取材し、執筆者が記事にしたものです。
※本記事の内容は、執筆者およびイベントの登壇者、協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

画像提供:123RF
画像

執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン