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コラム

ちょっと気楽に銀行法(6):銀行って買えるの !?

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日本の企業が海外の企業を買収する、海外の投資ファンドが日本の企業を買収する、というニュースをかなり頻繁に耳にするようになりました。銀行についても買収のニュースが出ると大きな話題になります。そもそも銀行を買収することができるのでしょうか?今回はその辺を見ていきましょう。

セブン&アイホールディングスに買収提案を行ったことで一躍話題になったアリマンタシオン・クシュタール
(Alimentation Couche-Tard)。
ちょっとインドの言葉っぽい響きにも感じますが(自分だけ?)、カナダのフランス語圏にある会社です。

アリマンタシオンはフランス語で「①栄養摂取、②食料品」という意味の名詞で、Couche-Tardはフランス語の話し言葉で「夜更かし、夜型人間、宵っ張りの人」等の意味です。
つなげると…うーん、何でしょう?夜中でも食べ物とかを買える店、というイメージは伝わってきますね。

この買収提案のニュースには非常に驚かされましたが、銀行についても買収のニュースが出ると大きな話題になりますよね。

ところで、そもそも銀行って買うことができるんでしょうか?
今回は、その辺を見ていきましょう。
【復習:銀行って何?】
本題の前に、そもそも銀行とは何かを軽く復習です。

まず、銀行とは総理大臣の“免許”を受けて「銀行業」を行う者を指します。
その銀行業とは、以下の営みを行うものになります。(銀行法 第2条)
①預金・定期積金の受け入れと、資金の貸付け・手形の割引の両方を行う
②為替取引を行う

また、銀行は株式会社である必要があり(銀行法 第4条の2)、資本金は20億円以上が必要(銀行法施行令 第3条)とされています。
(銀行の機関)
第四条の二 銀行は、株式会社であつて次に掲げる機関を置くものでなければならない。
一 取締役会
二 監査役会、監査等委員会又は指名委員会等(略)
三 会計監査人
    *下線は筆者によるもの。

この他にもさまざまな規制がありますが、それは銀行が信用を与えること(与信)で、資金の提供を行うという重要な社会的役割を担っていることから、安定性と中立性を求められているからです。

異業種による参入の歴史

実は今までにも、異業種による銀行業への参入はけっこうありました。

2000年にジャパンネット銀行(現 PayPay銀行)、2001年にはアイワイバンク銀行(現 セブン銀行)、イーバンク銀行(現 楽天銀行)、ソニー銀行と参入ラッシュとも呼べる時期がありました。

この頃、銀行に対する監督指針は存在していましたが、異業種の新規参入に関する規制としては発行済株式の50%を超える株式が特定の会社により取得される場合に届出が必要という規定があるだけでした。

一方で、新しく銀行の設立を申請する場合には、最低資本金の問題だけでなく適格性の審査が行われます(銀行法第4条)。
(営業の免許)
第四条 銀行業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができない
2 内閣総理大臣は、銀行業の免許の申請があつたときは、次に掲げる基準に適合するか
どうかを審査しなければならない。
一 銀行業の免許を申請した者(以下この項において「申請者」という。)が銀行の
業務を健全かつ効率的に遂行するに足りる財産的基礎を有し、かつ、申請者の当該
業務に係る収支の見込みが良好であること。
二 申請者が、その人的構成等に照らして、銀行の業務を的確、公正かつ効率的に遂行
することができる知識及び経験を有し、かつ、十分な社会的信用を有する者であること。
新たに銀行を設立する場合には上記のような審査があるのに比べて、既存の銀行の株式を取得してしまう方が、ハードルが低いように見えますよね。
(もちろん、お金があれば…という前提にはなりますが)

2000年の金融審議会第一部会の報告書では、異業種参入による業界活性化への期待を示す一方でハードルの低さが指摘され、それを受けて2001年の銀行法改正で規制が導入されることになりました。

 2001(平成13)年の改正では、主に以下の2点が定められています。
 ①5%を越える議決権を保有する場合には届出が必要
  (5%を越えて議決権を保有する者を、銀行議決権大量保有者と言います)
 ②20%以上の議決権を保有する場合には認可が必要
  (20%を越えて議決権を保有する者を、主要株主と言います)

銀行議決権大量保有者(5%超)だとか、主要株主(20%超)だとかの言葉が出てきましたが、そもそも企業の株の3%を越えて保有する者は大口株主となります。そのうえで、銀行法ではさらなる定義付けをしていることになります。

図1:銀行法における銀行の株主

銀行議決権大量保有者=5%超を保有する場合

まず初めに、銀行議決権大量保有者について見てみましょう。
(銀行等の議決権保有に係る届出書の提出)
第五十二条の二の十一 一の銀行の総株主の議決権の百分の五を超える議決権又は
一の銀行持株会社の総株主の議決権の百分の五を超える議決権の保有者(国、地方公共団体
その他これらに準ずるものとして政令で定める法人(第五十二条の九において「国等」という。)を除く。以下この章及び第九章において「銀行議決権大量保有者」という。)は、内閣府令で
定めるところにより、銀行議決権大量保有者となつた日から五日(略)以内(略)に、
次に掲げる事項を記載した届出書(以下この章において「銀行議決権保有届出書」という。)を
内閣総理大臣に提出しなければならない。
一 議決権保有割合(略)に関する事項、取得資金に関する事項、保有の目的その他の
銀行又は銀行持株会社の議決権の保有に関する重要な事項として内閣府令で定める事項
二 商号、名称又は氏名及び住所
三 法人である場合においては、その資本金の額(出資総額を含む。)及びその代表者の氏名
四 事業を行つているときは、営業所の名称及び所在地並びにその事業の種類
    *下線は筆者によるもの。

けっこう長文ですね…。簡単に言うと、以下のようになります。
・銀行の株式の5%以上を保有する者を銀行議決権大量保有者と呼び、
・大量保有者となった日から5日(営業日)以内の届出が必要
・届出(銀行議決権保有届出書)の内容は、
  ―議決権の保有割合、取得資金に関する情報、保有目的等
  ―商号や名称
  ―(法人の場合は)資本金の額
  ―(事業を行っている場合は)所在地や事業の種類

この届出は、金融庁が大口株主について把握することで、その情報を監督に役立てることを目的とした規定とされています。
ちなみに、国や地方公共団体等は銀行議決権大量保有者の対象にはなりません。

銀行主要株主=20%超を保有する場合

では、銀行主要株主の場合はどうでしょうか?
(銀行主要株主に係る認可等)
第五十二条の九 次に掲げる取引若しくは行為により一の銀行の主要株主基準値以上の
数の議決権の保有者になろうとする者又は銀行の主要株主基準値以上の数の議決権の
保有者である会社その他の法人の設立をしようとする者(略)は、あらかじめ、
内閣総理大臣の認可を受けなければならない。
一 当該議決権の保有者になろうとする者による銀行の議決権の取得(略)
二 当該議決権の保有者になろうとする者がその主要株主基準値以上の数の議決権を
保有している会社による第四条第一項の免許の取得
三 その他政令で定める取引又は行為
    *下線は筆者によるもの。

ここで新たに「主要株主基準」という言葉が出てきましたね。
これは、何かというと銀行法第2条9項にあります。
9 この法律において「主要株主基準値」とは、総株主の議決権の百分の二十
(会社の財務及び営業の方針の決定に対して重要な影響を与えることが推測される
事実が存在するものとして内閣府令で定める要件に該当する者が当該会社の議決権の
保有者である場合にあつては、百分の十五)をいう。
    *下線は筆者によるもの。

つまり、議決権の20%を「主要株主基準」といい、それを越える議決権を保有する場合は認可が必要ということになります。
(こちらも、国や地方公共団体等は対象外です。)

また、内閣府令で定める要件に該当する場合には15%が基準となります。
その要件はというと、例えば事業会社の役員が銀行の取締役等に就任していて経営判断に重要な影響を与える場合、となります。

ただし、この主要株主基準は金融だけが特別というわけではなく、会社法等の影響力基準に準じた基準となっています。

銀行主要株主の適合審査

議決権取得の目途も立ったので、いざ申請ということになりますが、銀行主要株主には銀行の株主として問題がないかの適合審査があります。これをパスしないと、認可が受けられません。
第五十二条の十 内閣総理大臣は、前条第一項又は第二項ただし書の認可の申請が
あつたときは、次に掲げる基準に適合するかどうかを審査しなければならない。
基準は比較的平易な文ですが、長くなるので意訳してみます。

①主要株主基準を超え保有しよう(している)銀行の業務の、健全かつ適切な運営を損なうおそれがないこと。
 主要行等向けの総合的な監督指針(以下、監督指針)を見ると、もう少し詳しく書かれていて、短期の転売目的でないか、過度な借り入れによる議決権取得でないか、グループ会社を含め取引の適正確保が行われているか等がチェックされます。
②銀行主要株主となろうとする者が、財政的に銀行の健全性や適切な業務運営を損なうおそれがないこと。
 監督指針によると、銀行主要株主が財政的に子会社となる銀行の経営を圧迫しないこと、銀行の経営が悪化した           
際に支えることができること等が必要になります。

③銀行主要株主となろうとする者が、銀行の公共性について理解があり、社会的に信用があること。また、銀行の経営の独立が損なわれていないか。(監督指針)

④充分なリスク遮断が行われているか。
 例えば、銀行主要株主となろうとする者の経営が悪化した場合、子会社である銀行の融資や支援を受けないこと、銀行主要株主の破綻等により銀行の事業継続が困難にならないような措置が求められます。(監督指針)

これらは監督指針の「VII -2-2-1 事業会社等による銀行主要株主認可申請」に書かれていますが、銀行業務の健全かつ適切な運営を確保することが目的とされています。

銀行主要株主に対する監督

20%超の議決権を保有する場合、単に認可を受けて終わりというわけではなく、金融庁の監督を受けることになります。
ここも、全部を引用すると長いので要約してみます。
・第52条の11:必要と認められた場合には、報告・資料の提出を求めることができる
・第52条の12:必要と認められた場合には、立入検査を行うことができる
・第52条の13:銀行主要株主が認可の基準に適合しなくなった場合には、基準に
        適合するための措置をとることを命令できる
・第52条の15:課せられた処分に違反したり公益を害する場合には、(改善等の)
        必要な措置を命じることができ、認可を取り消すこともできる

認可が取り消された場合には、決められた期間内に、主要株主基準以上の議決権保有者でなくなるように、株式の売却等を行う必要があります。

ところで、第52条の14をスキップしましたが、そこには50%を越える議決権を有する銀行主要株主にのみ適用される規定が書かれています。50%を越える議決権を有する大口株主に対しては、その支配力にかんがみ、改善計画の提出を求め、必要な改善の実施を求めることができます。

この第52条の14には、銀行主要株主に対し、子会社にあたる銀行に対する監督責任を持たせようという意図があるとされています。

このように実質的な影響力を行使できる株主については、子会社にあたる銀行が高い健全性と適切な業務運営を求められる存在であることから、親会社に対してもより慎重なチェックと継続的モニタリングを行う必要があると考えられています。

これまでの話を表にまとめたものが下記になります。

【ちょっと横道】
先ほどから、銀行議決権大量保有者においては“届出”、銀行主要株主では“認可”という言葉がでてきていますよね。
“届出”と“認可”では、何が違うのでしょうか。

届出:一定の事項を通知する(届け出る)ことで、届出をすれば完了になります。
   ただし、実際には一方的に届け出れば受理されるものではなく、届出の前に届出先との内容
   に関する事前調整や不備がないかの確認があり、そのうえで届出することになります。

認可:申請と諾否の応答という関係性があります。
   つまり、何かをしたい人が“申請”し、それを行政が“認めるか認めないかを回答”します。
   そして、認められれば法的な効力を持つことになります。
   鉄道や電気の料金改定なんかが該当します。

図2:届出と認可の違い

今回のまとめ

・銀行の議決権の5%を越えて保有する場合には届出が必要
  5%を越えて銀行の議決権を保有する者を、銀行議決権大量保有者という
    →第52条の2の11
・20%以上の議決権を保有する場合には認可が必要 →第52条の9
  20%を越えて銀行の議決権を保有する者を、銀行主要株主という
    →第2条9項、第2条10項
・銀行主要株主は金融庁の監督を受ける →第52条の11~15
さて、銀行を買うことは理屈上ではできても、なかなか大変なことも分かりましたね。
ジャンボ宝くじの当選を連発しても、銀行を買ってやろう!とか考えずに別のことに使った方が気楽なようですね…。

連載第1回から読みたい方はこちら
銀行法でやってはいけない事は何か? 連載第2回
銀行法の改正の歴史をひも解く 連載第3回
銀行の子や孫の名前を解説!? 連載第4回
出資規制とは何か? 連載第5回
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

NTTデータ入社以来、代表的な決済システムの開発に従事し、その後、銀行間をつなぐ金融のネットワークシステムの営業・企画を担当。それらの経験を活かし、ASEAN各国でのマーケティング活動にたずさわり、数年にわたりASEAN各国と日本を行き来する。特にミャンマーやベトナム、フィリピンの金融機関を頻繁に訪問し、関係者とのリレーションを構築。中でもベトナムには知人も多く、思い入れが強い。現在は、国内金融分野の行政や政策の分析を行い、社内むけのメールマガジンの発信や勉強会を主催している。コロナ禍で続くテレワークでできた時間を有効活用し趣味の料理にいそしむものの、ルーチン化しつつあることに気付き、パンづくりにも手を伸ばす。

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