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金融業界に広がるXR活用―市場拡大と活用事例から読む

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オクトノットでは、これまでにXR(Extended Reality)がもたらす新しい体験の可能性を取り上げてき ました。それから数年の間にも、XRを取り巻く市場は急速に広がり、業界ごとに研究開発、実証実験が進むとともに、実用的な導入事例も次々と生まれています。XR 市場は、世界・日本ともに2030年代前半まで高い成長が続く見通しです。世界ではゲームやエンタメが市場の成長を牽引しつつ、企業分野ではトレーニングやシミュレーション、遠隔支援などの実装が着実に広がっています。国内では、消費者需要に加えて産業用途の拡大が成長の下支えになります。

XRの市場規模

XRの世界市場の見通し

世界市場は、コンテンツの充実とハードウェアの高性能化を背景に拡大していくといえます。
短期的にはゲーム/エンタメが牽引し、企業分野では安全教育・技能伝承・設計レビューなど、既存業務の効率化に直結する領域から導入が進むでしょう。中期的にはデジタルツインや遠隔協働の活用が広がり、継続的な需要を生みやすい構造へ移行すると考えられます。
出典:Fortune Business Insights「拡張現実(XR)市場規模、シェア、業界レポート2032」
金融業界では、研修や事故体験のシミュレーション、ARグラスを活用した新しい購買体験など、従来の“座学”や“手作業”では得られなかった価値を顧客・従業員双方に提供し始めています。
XRを取り巻く環境は、技術の進化とユースケースの拡大が相互に作用し合い、新たなビジネス価値を創出するフェーズに入っているといえるでしょう。
本記事では、XR市場の成長トレンドを整理するとともに、国内外の金融分野で進む先進的な活用事例を紹介していきます。

XRの日本市場の見通し

国内市場は、世界市場に比べて個人利用よりも「産業用途の拡大」という側面から成長していくと考えられます。
産業分野においては、製造・流通・医療・建設/インフラといった現場作業や教育コストが高い業種での活用が特に注目されています。
例えば、製造業では、XRを用いた作業手順の可視化や技能伝承が進められており、新人教育の効率化やヒューマンエラーの削減につながっています。医療分野では、外科手術のシミュレーションや遠隔診療での支援、建設・インフラ分野では複雑な設計レビューや危険作業の事前トレーニングに活用されています。こうした取り組みは、業務効率化・安全性向上の両面で導入効果が現れやすい領域といえます。
その背景には、トレーニングの標準化や遠隔支援によるダウンタイム削減といった具体的なニーズがあります。特に人材不足や技能伝承の課題を抱える日本の産業構造において、XRは効率性と生産性を補完する有力な手段として注目されています。将来的には、製造から医療、公共インフラに至るまで幅広い分野で、XRが「現場の当たり前」となるかもしれません。
出典:「日本における拡張現実(XR)市場規模、シェア、トレンド予測(2025~2033年)」|NEWSCAST掲載/IMARC

市場拡大の背景

費用対効果の可視化

XRは学習定着・習熟スピード・コスト削減といった効果を数値で示しやすい領域です。たとえばPwCの大規模検証では、VR学習は集合型研修と比べて最大4倍速く修了し、受講者は学んだ内容を実務に適用する自信が最大+275%、集中度はeラーニング対比で最大4倍という結果でした。受講者3,000人規模では、集合型研修より52%のコスト削減になり、投資回収の設計がしやすいことが示されています。 

通信・コンピューティングの進歩

高速かつ遅延の少ないネットワークと計算資源の進歩が、遠隔作業・共同設計の実用性を押し上げています。特に5Gの普及はその中心的な役割を担っています。
一方で、ローカル無線でもWi-Fi 6E(6GHz帯)の普及が進み、混雑の緩和や、低減・広帯域化により、AR/VRを用いたリアルタイムで動作するアプリのパフォーマンス向上が期待できます。

金融×XR:国内の活用事例

AR:三井住友フィナンシャルグループ

三井住友フィナンシャルグループでは、セブン-イレブン店舗(銀行内)にてCellid社が開発したメガネ型ARグラスを従業員が装着し、本人確認・商品認識・決済に加え、商品レコメンドや陳列棚案内などの視覚的補助機能を通じた新しい購買体験を実証中です。ARグラスにより、スマートフォンなしで現実空間にデジタル情報を重ね合わせることで、直感的かつシームレスな購買行動を可能にし、ユースケースの検証と将来的なサービス展開への布石としています。(※1)

VR:東京海上日動火災保険

東京海上日動では、ディーラー代理店向けに「自動車事故VR動画」を導入しています。運転中の事故状況をVRで疑似体験できるコンテンツで、安全運転啓発に活用されています。VRにより、事故発生の原因や注意点を主観・客観の両視点から分かりやすく理解でき、PC・タブレット・スマートフォンなど多様なデバイスで視聴可能な点も特徴です。(※2)

VR:三井住友海上火災保険

三井住友海上では、Synamon社と共同で「VR自然災害損害調査研修」を開発し、地震被害を受けた家屋の損害調査をバーチャル空間で体験できる研修を導入しています。これにより、従来の座学では難しかった実践的な学習や反復研修が、いつでもどこからでも可能となり、社員のスキル向上や研修コスト削減にもつながっています。大規模災害への備えとして、損害調査体制の強化を支える新たな取り組みとして注目されています。(※3)

金融×XR:海外の活用事例

AR:Flybits

カナダのFlybits社は、2025年5月にARとAIを融合した決済カード「XRCard」を発表しました。ARグラスを装着してカードを見るだけで、支出履歴や取引データを立体的に可視化し、請求書の金額計算や配分をAIが自動で実行。従来のプッシュ通知に代わり、インタラクティブな情報取得体験を提供します。スマートフォン不要で音声操作が可能な完全ハンズフリー型で、北米・英国・中東などでの展開が予定されています。(※4)

VR:Bank of America

米国のBank of Americaは、2021年10月より、社内向けにVR研修プログラムを導入しました。VR空間を活用し、窓口対応・顧客応対・営業・マネジメントなどをシミュレーション形式で実践可能にしました。強盗対応などの高ストレス環境再現や、AI相手のロールプレイを通じた即時フィードバックでスキル強化を図っています。試験運用では受講者の97%が「現場で自信を持って対応できる」と回答。2024年5月にはArborXRを活用し、このVRプログラムを全世界の従業員約20万人へ拡大する計画を発表しています。(※5)

XRの活用によってさまざまな可能性がうまれる

近年、金融分野でもXR技術を活用した取り組みが広がりを見せています。特に日本では、保険業界を中心にVRによる事故疑似体験や、損害調査の研修といった実践的な事例が増えています。
従来の座学や集合型研修から進化し、よりリアルな体験や反復学習を可能にすることで、社員のスキル向上や業務効率化に貢献しています。
さらに最新の動きとして、三井住友フィナンシャルグループでは最新のARグラスを活用した実証実験を進めており、直感的な情報提示やシームレスな店舗業務を実現するための基盤づくりが始まっています。
しかし、現時点では本格的なユースケースはまだ限定的です。デバイスの進化やネットワーク環境の整備がより進むことで、金融業界でもARグラスを活用した多様な体験やサービスが次々と生まれくるでしょう。XRは今後、現場の効率化や顧客体験の向上にとどまらず、金融サービスを変えていく可能性を秘めています。技術の進化と活用シーンの拡大が相互に作用し合い、金融分野におけるXRの可能性は、これからますます広がっていくことが期待されます。
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執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

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