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2030年代の銀行はこう変わる【後編】

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2030年代、エージェント型AIが社会基盤となる中で、銀行の戦略は大きな岐路に立っています。銀行は、顧客接点の主導権を握るのか、専門エージェントに徹するのか、それとも金融インフラとなるのか、経営判断が問われます。前編では、金利上昇・人口減少・AIの劇的進化・地政学リスクといった複合変化の中で、銀行が「非連続進化」を迫られる背景を整理しました。本記事ではその続編として、エージェント時代における具体的なポジショニング戦略と、フロント・事務・基盤・組織に求められる抜本変革を解説します。

前編に引き続き、後編ではNTTデータが公表したホワイトペーパー『2030年代の銀行はこう変わる 〜エージェント時代に求められる非連続進化〜』(※注1)P7以降をもとに、特に重要な論点をいくつか抜粋しながら、2030年代に起こる銀行の“非連続な進化”の中身を読み解いていきます。
(※注1)
NTTデータでは、各種金融のForesightをホワイトペーパーとしてまとめています。詳細は下記HPよりご覧ください。
NTTデータ金融分野のホワイトペーパー一覧
ホワイトペーパー『2030年代の銀行はこう変わる 〜エージェント時代に求められる非連続進化〜』

2030年代に起こる銀行の「非連続進化」とは

2030年代にはエージェントの社会普及が進み、銀行のデジタル変革は大きく方向転換していきます。これまでの変革は「人がテクノロジーを使って効率化する世界」が前提でしたが、これからは「エージェントが主体となって価値提供・意思決定・ガバナンスを実行する世界」へ移行していきます。これは段階的な高度化ではなく、設計思想そのものが変わる非連続な進化であり、銀行業務の前提を塗り替える可能性があります。

■図1:2030年代に起こる銀行の非連続な進化(ホワイトペーパーP7より)

図1は、2010年以降のデジタル改革と、2030年へ向けたAIネイティブ化を、フロント・事務・基盤の三領域で対比したものです。ポイントは「改善の延長」ではなく「実行主体の入れ替え」が起きることです。フロントは社内外エージェント連携を前提に価値提供が組み替わり、事務は承認まで含めて自律完結する“人ゼロ”前提に転換します。基盤も人中心の構造の強化ではなく、AIの同時多発開発と運用を支えるAI中心の構造へ移行します。

エージェント時代のフロント再定義

エージェント時代の顧客接点は、人の手を離れます。パーソナルAIが顧客の生活や事業全体を伴走し、人に代わって手続きや契約、交渉まで行うようになります。銀行の役割は、エージェント同士の自律的な連携を通じて、顧客が意識しないうちに課題解決を完了させる「価値創造型インターフェース」の提供へ変化します。

■図2:エージェント時代におけるフロント再定義(ホワイトペーパーP8より)

図2は、顧客がまずパーソナルAIに相談し、パーソナルAIが銀行の専門エージェントと交渉して、手続きを自動完結させる流れを示しています。読み取れるポイントは三つです。第一に、顧客接点の主導権が人からパーソナルAIへ移ることです。従来のマス広告やチャネル誘導は効きにくくなり、「パーソナルAIに選ばれる存在」になることが重要になります。第二に、エージェント間の交渉言語や専門性・信頼性を客観的に示すための対応が競争力になることです。第三に、UIの使いやすさ以上に、エージェント同士が自律的に契約を締結し、コンプライアンスを遵守するための動的ガバナンスと、信頼性の高いデジタル環境を整備することが鍵となることです。顧客接点は「顧客に使ってもらう場」から「顧客が意識しなくても機能する場」へ進化します。

エージェント時代における銀行のポジショニング【3分類】

エージェントが契約や手続きを自動完了させる形へ移ると、銀行は「どのレイヤーで顧客接点の主導権を握るのか」を決めなければなりません。金融領域に限定しないパーソナルAIのポジショを獲りに行くのか、銀行専門エージェントとして選ばれる存在となるのか、徹底的に商品・サービス力・コスト効率化を高め金融インフラ提供者となるのか。大きく3つのポジショニングに分類され、その選択によって収益構造も大きく変わると考えられます。

■図3:銀行のポジショニング【3分類】(ホワイトペーパーP9より)

事務フローはどう変わるか ― 融資契約の未来像

ポジショニングを決めても、事務が人前提のままではエージェント時代のスピードに追いつけません。従来の事務フローにおける「人の判断・承認」というプロセスは、エージェント時代においてAIの領域へと移行していきます。エージェント時代は、顧客接点と事務を分断せず“自律完結”を前提に設計する必要があります。例えば融資契約事務であれば、顧客のパーソナルAIと銀行専門エージェントが対話・連携し、銀行内部では審査から契約実行までを各部門の業務特化エージェントが自律的に処理を完結し、顧客はパーソナルAIとのやりとりだけで融資実行が完了する世界が想定されます。

■図4:融資契約事務の未来像(ホワイトペーパーP10より)

図4は、顧客がパーソナルAIに資金相談し、銀行内部では各部門の業務エージェントが連携して審査から契約実行までを完結させる流れを示しています。ポイントは三つです。第一に、パーソナルAIによるCXの深化です。他行預金や将来収入見込みなども参照し、顧客は“借りる”行為を強く意識する前に、必要資金が適切な条件で算出されます。第二に、部門間サイロの消滅です。営業・審査・法務・事務がリアルタイムでつながり、速さと規制遵守を両立できます。第三に、CXの摩擦ゼロ化です。紙・押印・署名といった手続きの摩擦が消え、条件合意が成立すれば契約と実行が完了します。事務は“処理の場”から“体験品質を評価される場”へ変わっていきます。

「事務」の実行主体がエージェントへ

先ほどの前章では、「取引の未来像」を示しました。本章では「誰が実行し、誰が統率するのか」という役割について焦点をあてます。エージェント時代における事務の変革は、単なる自動化のレベルを超え、業務の実行主体と統制の主体を「人」から「エージェント」へと転換すると考えられています。この転換により、「取引事務」では最終承認までエージェントが自律完結し、「管理・企画事務」ではルール策定や更新の主体もエージェントへ移ります。事務は“人が回す仕組み”から、“エージェントが自律的に動く仕組み”へと設計思想が変わります。その結果、従来の自動化では実現できなかった、効率性とリアルタイムな統制の両立が実現されると想定されます。

■図5:事務の非連続進化 (ホワイトペーパーP11より)

図5は、事務を「取引事務」と「管理・企画事務」に分け、従来との違いを整理したものです。取引事務(口座開設、振込・送金、融資契約など)は、これまでは人の最終承認が前提でしたが、エージェント時代は承認まで自律完結し、ワークフローは無人化します。これにより、人はタスク実行から解放され、監視と例外対応に専念できるようになります。

一方、管理・企画事務(コンプラ、監査、リスク管理、業務企画など)では、これまで人が担ってきた統制やルール策定もエージェントが担うようになります。統制ロジックはリアルタイムで運用され、業務データを踏まえて更新されます。人は、ガバナンスの設計と監督に専念する形へ変わります。

組織・基盤はどう進化するか

フロントや事務の設計思想を変えるには、それを支える組織と基盤も同時に進化させる必要があります。テクノロジーの進展に伴い、組織・基盤の在り方も段階的に変わってきました。海外大手銀行では2020年代前半、複数のデジタル改革を同時に走らせながら、スピードとROI(投資対効果)を高める体制づくりを進めてきました。しかし、2030年代のエージェント時代を見据えたいま求められているのは、AIをあらゆるサービスやプロセスのベースとするための、基盤と働き方のさらなるアップデートです。国内銀行においても、社会・経済・業界構造の変化を踏まえれば、組織レベルでの変革は避けられません。

■図6:組織・基盤の進化段階(ホワイトペーパーP12より)

図6は、2030年までに取り組む組織・基盤改革の進化の段階を示しています。これまでの改革は「デジタルを速く回すための体制づくり」が中心でしたが、これからはAIを安全かつ高速に動かし続ける組織運営へと軸足が移ります。外部モデル接続の統制や、複数モデルによる相互検証、AIによる動的ガバナンスなど、運用そのものがAIネイティブへと進化していきます。
7:AI中心構造基盤(ホワイトペーパーP13より

さらに図7では、AIが高速かつ安全に動ける「AI中心構造」への転換を示しています。エージェント時代は、社会の変化スピードがこれまで以上に加速します。そのなかで競争力を保つには、エンドツーエンドで大量のトライ&エラーを実行できる基盤と組織が不可欠です。実証コストを抑えながら、迅速に試し、学び、改善できる構造が求められます。そのためには、データ・AI運用・ガバナンスを一体で推進し、AI-CoE(AI戦略・基盤整備・ガバナンスを担う専門組織)を中心に基盤を継続的にアップデートしていく体制が重要になります。

エージェント時代の組織・基盤改革は、単なるIT高度化ではありません。AIが進化し続けられる企業構造をどう設計するかという経営課題そのものなのです。

2030年代に銀行が求められる抜本的な変革

ここまで見てきた変化を、図8の通り、フロント・事務・基盤・組織の四つの領域で示すことができます。エージェント時代の変革は、どれか一つを変えればよいというものではありません。四領域を同時に組み替えることが前提になります。
フロントサービスでは「エージェント経済圏」を前提とした体制へ転換し、事務ではエージェントによる自律化を前提にプロセスを再設計します。こうした変革は、収益拡大とコスト効率化の両立を実現するためのものです。そのためには、ビジネスプロセスを支える基盤と組織の設計まで踏み込むことが欠かせません。

■図8:2030年代に銀行が求められる抜本変革(ホワイトペーパーP14より)

図8から読み取れるポイントは次の通りです。
フロントでは、エージェント連携による「価値創造型インターフェース」への進化が中核になります。その前提として、顧客のパーソナルAIの座を狙うのか、銀行領域の専門エージェントとして選ばれるのか、金融インフラに徹するのか、勝ち筋に応じた戦略的ポジショニングが必要です。さらに、顧客が手続きを意識することなく課題解決から契約実行までが完了する「摩擦ゼロ」体験の構築が求められます。

事務では、AI自律完結型プロセスへ転換し、人は実行者からガバナンスの担い手へ役割を変えます。
基盤は「AI中心構造」を前提に、リアルタイム意思決定を支えるデータ統合基盤と、スピードと安全性を両立する「動的な統制の仕組み(AIが自動的に監視・制御する仕組み)」が必要になります。

組織は、経営トップダウンでAI活用を進めつつ、AI-CoE(AI戦略・基盤整備・ガバナンスを担う専門組織)を戦略中枢として位置づけ、データ民主化により現場で自律的な改善とイノベーションが継続的に生まれる組織風土を構築することが鍵になります。

後編まとめ

前編では、金利上昇や人口減少、AIの劇的進化、地政学リスクといった複合変化の中で、銀行が「選択と集中」を迫られ、デジタル化の延長線では勝ち切れないことを示しました。後編では、その先にある“非連続進化”の具体像に踏み込んできました。

エージェント時代の変革は、「AIを使う」ことではありません。エージェントが価値提供・意思決定・ガバナンスを担うことを前提に、戦略・フロント・事務・基盤・組織を同時に組み替える挑戦です。フロントサービスは価値創造型インターフェースへ、事務は自律完結型プロセスへ、基盤はAI中心構造へ、組織はAI共進化型カルチャーへと、一体で姿を変えていきます。その出発点となるのが、「どのレイヤーで顧客接点の主導権を握るのか」というポジショニングの明確化です。答えは一つではありません。しかし、勝ち筋を定め、その戦略に沿って仕組みを再設計できるかどうかが、2030年代の競争優位を分けます。

非連続進化とは、部分最適の積み上げではなく、銀行という存在の設計思想を変えることです。外部環境の変化が避けられない以上、“どこで勝ち、何を作り替えるのか”という経営判断こそが、次の10年を決めます。
NTTデータでは、エージェント時代を見据えた戦略策定から業務変革、AIガバナンス設計、データ・基盤整備まで、金融機関の変革をご支援しています。金融機関向けコンサルティングにご関心のある方は、こちらからお問い合わせください。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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執筆 オクトノット編集部

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