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コラム

ちょっと気楽に銀行法(8):そのパスポートは何のため?(バーゼル規制との関係)

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とある独立行政法人の職員となり海外赴任する知り合いの方と話をしていたら、パスポートの色が緑色になるようなことを言っていました。

緑色のパスポートは公用旅券といって、政府関係者や国際機関職員の方が持つもの。
他にはお馴染みの一般旅券(赤または紺色)、皇族や閣僚等の外交旅券(茶色)、人道上の理由等による緊急渡航が必要な場合の緊急旅券があるそうです。

さて、金融とりわけ国際金融取引の世界においても“パスポート機能”を持つとも言われる仕組みがあります。
それがバーゼル規制です。
今回は、このバーゼル規制について見てみたいと思います。
(あくまでも銀行法との関係を見るので、バーゼル規制の自己資本比率に話を絞っています。さらにバーゼル規制そのものの内容については必要最低限かつ超概説レベルでしか触れていませんので、悪しからず!)

バーゼル規制のはじまり

1974年に旧西ドイツのヘルシュタット銀行が倒産し、いわゆるヘルシュタットリスクが顕在化したことを契機に、監督当局の国際的な協力機関としてバーゼル銀行監督委員会(バーゼル委員会、BCBS)が設置されました。
ヘルシュタットリスクとは
外為取引を行う銀行が倒産した場合、双方の国の決済システムの稼働時間および決済タイミングが異なることから、一方の銀行が支払った後に、相手方銀行が破綻すると、支払いを行った銀行は相手方からの支払いを受け取れなくなることで生じるリスクのことです。
バーゼル委員会(BCBS)発足の時点では、まだバーゼル規制は定められていませんでしたが、1980年代に中南米発の経済危機がアメリカにも波及したことから、システミックリスクを引き起こさない目的で、1988年にバーゼル委員会において、銀行の自己資本比率の最低水準の国際的な基準等を定めたバーゼル規制が合意されます。いわゆるバーゼルⅠと呼ばれるものです。
システミックリスクとは
一つの金融機関が破綻(支払不能)することで、他の銀行への支払が連鎖的に不能となること。また、その影響が市場全体に波及することです。
バーゼルⅠでは、国際的に活動する銀行の自己資本比率の測定方法や、達成すべき自己資本比率の最低水準を8%とすることが定められました。
(日本では、海外拠点を持つ金融機関には8%超が適用され、海外拠点を持たない金融機関には国内基準として4%超が適用されています)

粗く言うとバーゼル規制とは、「どれだけの資産≒運用しているお金(分母)」に対して、「どれだけの自己資本≒返さなくてよいお金(分子)」を持っているかを示す世界共通の物差しと言えますが、自己資本比率が8%以上あれば不測の事態で損失を出しても破綻せずに耐えられる体力があると見なされています。

自己資本比率8%の基準を達成していることは、システミックリスクの引き金になる危険性が低いことを示しているため、国際的な金融取引への参加に必要な通行証(パスポート)だという言い方をする人もいます。

ちなみに8%の根拠ですが、はっきりとした定説はないようです。最低水準の検討の際、統計学を踏まえたいくつかの数字が上がるなか、少しだけ高めのハードルとして8%が出てきたという説が有力なようです。検討に参加した委員たちが議論のあとで外に出て空を見上げたら、雲の形が8という数字に見えたという逸話もあるそうです。

バーゼル規制の変遷

バーゼルⅠは1988年に国際的に合意され、日本国内では1992年度末から適用
開始となりました。しかし、もうこれで安心とはならず次の心配事が出てきました。
 
何が心配になってきたかというと、分母にあたる資産のリスクの把握の仕方が少し大雑把すぎないか?という点です。そこをもう少し精緻化しようということになりました。

細かくなり過ぎないように触れてみると…
一口に銀行が運用する資産といっても国債や現金と、一般企業への貸出ではリスクが異なりますよね?自己資本比率を計算する際の分母の部分はリスクアセットと呼ばれますが、保有する資産(貸付債権、有価証券など)によって貸出先の信用に応じたリスクウェイトを掛けて算出します。(例えば、現金や国債ならリスクウェイトは0%=リスクがない、一般企業への貸出は100%=リスクがある、など)

バーゼルⅡでは、このリスクウェイトの算出の仕方について、2つの選択肢が示されました。
一つは従来のバーゼルⅠに基づいた「標準的手法」、もう一つは銀行のリスク管理手法の考えを取り入れた「内部格付手法」です。

ちなみに、内部格付け手法を用いると、より精緻にリスクアセット(分母)を計算することができるため、結果として分子にあたる資本が小さくて済むというメリットがあるとされています。ただし、内部格付手法を選択する場合には、当局(金融庁)の承認が必要になります。

バーゼルⅡが適用された後(日本では2006年度末)、リーマンショックによる金融不安(2008年~)がおきましたが、引き金となったリーマンブラザーズも自己資本比率は11%あったとされています。

そこで、今度は分子にあたる自己資本の質と量の見直しが行われました。
これがバーゼルⅢです。バーゼルⅢでは自己資本の定義を厳格化する等、主に分子の部分に見直しが加えられました。

もともと分子にあたる資本には、Tier1という銀行が思わぬ損失を被った時にすぐに補填等に使える資本(資本金、内部留保、普通株式等)と、Tier2という補完的な位置づけで使える資本(劣後債等)という少し異なる性格の資本が含まれていました。

このTier1・Tier2の要件を厳格化したり、最低所有水準を引き上げる等により損失吸収力の向上が図られました。分母に関しては、リスクの算出の仕方の見直しも行われています。

バーゼルⅢの適用については、日本国内では海外拠点を有する銀行(≒メガバンク)は2013年から、海外拠点を持たない銀行は2014年からとなっています。

なお、バーゼル規制はメジャーバージョンアップ(Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ)の他に、マイナーバージョンアップを行っていて、いまはバーゼルⅢに手直しを加えたバーゼルⅢ最終化という段階にあります。

バーゼル規制と銀行法

日本国内ではバーゼルⅠの段階から自己資本比率の考え方が導入されていましたが、当初は通達(告示)と行政指導によって自己資本の充足が求められていました。
1992年の銀行法改正で自己資本比率に関する条文が定められたことで、国内のバーゼル規制に銀行法という根拠法が与えられた形になります。
(経営の健全性の確保)
第十四条の二 内閣総理大臣は、銀行の業務の健全な運営に資するため、銀行がその経営の健全性を判断するための基準として次に掲げる基準その他の基準を定めることができる。

一 銀行の保有する資産等に照らし当該銀行の自己資本の充実の状況が適当であるかどうかの基準

二 銀行及びその子会社その他の当該銀行と内閣府令で定める特殊の関係のある会社(以下この号、第三章及び第四章において「子会社等」という。)の保有する資産等に照らし当該銀行及びその子会社等の自己資本の充実の状況が適当であるかどうかの基準
 第14条の2では、内閣総理大臣が定める基準は、“銀行がその経営の健全性を判断するための基準”であるとしています。内閣総理大臣が直接決めるのではなく、実務を取り仕切る金融庁と読み替えられます。

先に触れたようにバーゼル規制は各国間の合意ですが、この条文を根拠として金融庁の告示が示されることで、国内に適用が図られています。第1号では銀行単体ベース、第2号ではグループをベースにしていますが、いずれも“自己資本の充実”が適当であることの基準を定めるとしています。

基準を満たせなかった時はどうなる?

さて、第14条の2には“銀行がその経営の健全性を判断するための基準”とありますが、仮にどこかの銀行が自己資本比率8%(国内基準4%)を満たせなかった場合、自分で判断した結果として「ま、いっか…」は許されるのでしょうか?
バーゼル規制の導入背景(システミックリスクの抑止等)からすると、当然Noですよね。
では、自己資本比率の基準を満たせなかった場合はどうなるかと言うと…
けっこう大変なことが待っています。行政処分について定めた箇所を見てみましょう。
(業務の停止等)
第二十六条 (略)

2 前項の規定による命令(改善計画の提出を求めることを含む。)であつて、銀行又は銀行及びその子会社等の自己資本の充実の状況によつて必要があると認めるときにするものは、内閣府令・財務省令で定める銀行又は銀行及びその子会社等の自己資本の充実の状況に係る区分に応じ、それぞれ内閣府令・財務省令で定めるものでなければならない。
いわゆる一般的に「早期是正措置」と呼ばれているものです。
簡単に言うと、自己資本比率が低下し健全性に懸念が生じるような場合には、いくつかの区分に応じて改善計画の提出等の命令を出すことが定められています。

その区分は3つ(細かくは4つ)に分かれており、もっとも厳しい措置だと業務停止命令が待っています。区分と措置については、銀行法第二十六条第二項に規定する区分等を定める命令で定められています。

早期是正措置がある理由

自己資本比率という指標を明確にし、それを満たせなかった場合に発動される命令の内容をあらかじめ定めておくことによって、銀行自身による健全性の確保(あるいは回復)にむけた努力を促すことになるとされています。

また、自己資本比率が不足した際の措置を示しておくことで、銀行の経営危機が生じた時に当局が迅速に対応することができ、混乱の拡大を押さえることが期待されるとも考えられています。

銀行の役割として金融仲介というのがあげられますが、その大きな機能の一つに、預金者から集めたお金を企業等に貸し出すというものがあります。

しかし、不良債権等によって健全な経営が損なわれてしまうと、最悪の場合、預金者のお金が失われる可能性が生じてしまいます。

そうならないためにも、バーゼル規制を一つの有力な指標として健全な経営を行うことが求められ、それを守れない場合には相応の厳しい措置がとられるということになります。

ところで、日本の緊急用のパスポートですが、旅券法施行規則とかも見てみましたが色に
関する規定は見当たりませんでした…。
画像検索もしてみましたが、鮮やかな紫色のパスポートの画像が…。
何が正解なんだろう…??

今回のまとめ

・バーゼル規制の自己資本比率=自己資本÷リスクアセット。
・自己資本比率の水準は、国際的に活動する銀行には国際統一基準の8%超、海外拠点を持たない
 銀行には国内基準である4%超を適用。
・銀行法第14条の2で、健全性を判断するための基準としてバーゼル規制を規定。
・自己資本比率の水準を満たせない場合には、段階に応じた早期是正措置が発動。
(銀行法 第26条第2項、銀行法第二十六条第二項に規定する区分等を定める命令)
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NTTデータ入社以来、代表的な決済システムの開発に従事し、その後、銀行間をつなぐ金融のネットワークシステムの営業・企画を担当。それらの経験を活かし、ASEAN各国でのマーケティング活動にたずさわり、数年にわたりASEAN各国と日本を行き来する。特にミャンマーやベトナム、フィリピンの金融機関を頻繁に訪問し、関係者とのリレーションを構築。中でもベトナムには知人も多く、思い入れが強い。現在は、国内金融分野の行政や政策の分析を行い、社内むけのメールマガジンの発信や勉強会を主催している。コロナ禍で続くテレワークでできた時間を有効活用し趣味の料理にいそしむものの、ルーチン化しつつあることに気付き、パンづくりにも手を伸ばす。

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