プレ富裕層の増加に見るウェルスマネジメントの概況変化
個人の資産形成や相続を巡る行動には、近年、量的な変化がはっきりと表れています。特に注目すべきなのが、資産形成を進めながら、将来の承継も意識し始めている「プレ富裕層」の増加です。
まず、資産形成に取り組む人の増加は、統計データからも確認できます。日本証券業協会によれば、NISA口座数は拡大を続けており(※1)、長期・積立・分散投資を実践する個人投資家が着実に増えています。さらに、2026年12月には年金制度のiDeCoも、より使いやすい形へと改正される予定です。また、日本銀行の資金循環統計を見ると、家計金融資産全体が過去最高水準に達する中で、株式や投資信託などリスク性資産の残高も増加傾向にあります(※2)。こうした潮流をふまえると、いまや、資産形成は一部の富裕層に限られた行動ではなくなっているといえるでしょう。
同時に、相続税対策に動き始める人も増えています。国税庁の相続税統計によれば、相続税の課税対象となる被相続人数は年々増加しており(※3)、生前贈与を含めた早期の相続対策が一般化しつつあります。生命保険を活用した親子間での資産移転なども、承継手段の一つと考えられるでしょう。
これらのデータが示しているのは、資産形成を進める人が増え、その結果として「プレ富裕層」と呼ばれる、一定の金融資産を保有する中間層が着実に拡大しているという事実です。投資に加え、保険、相続といった複数の金融テーマに同時に向き合い始めているプレ富裕層は、金融機関にとってトータルなウェルスマネジメントを提供できる将来の中核顧客層として、戦略的に捉えるべき存在になりつつあります。
まず、資産形成に取り組む人の増加は、統計データからも確認できます。日本証券業協会によれば、NISA口座数は拡大を続けており(※1)、長期・積立・分散投資を実践する個人投資家が着実に増えています。さらに、2026年12月には年金制度のiDeCoも、より使いやすい形へと改正される予定です。また、日本銀行の資金循環統計を見ると、家計金融資産全体が過去最高水準に達する中で、株式や投資信託などリスク性資産の残高も増加傾向にあります(※2)。こうした潮流をふまえると、いまや、資産形成は一部の富裕層に限られた行動ではなくなっているといえるでしょう。
同時に、相続税対策に動き始める人も増えています。国税庁の相続税統計によれば、相続税の課税対象となる被相続人数は年々増加しており(※3)、生前贈与を含めた早期の相続対策が一般化しつつあります。生命保険を活用した親子間での資産移転なども、承継手段の一つと考えられるでしょう。
これらのデータが示しているのは、資産形成を進める人が増え、その結果として「プレ富裕層」と呼ばれる、一定の金融資産を保有する中間層が着実に拡大しているという事実です。投資に加え、保険、相続といった複数の金融テーマに同時に向き合い始めているプレ富裕層は、金融機関にとってトータルなウェルスマネジメントを提供できる将来の中核顧客層として、戦略的に捉えるべき存在になりつつあります。
(※1) 日本証券業協会「NISA及びジュニアNISA口座開設・利用状況調査」
(※2) 日本銀行「資金循環統計」
(※3)国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」(令和6年12⽉)
(※2) 日本銀行「資金循環統計」
(※3)国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」(令和6年12⽉)
プレ富裕層の理解と最近の傾向
本章では、最近存在感が高まりつつある「プレ富裕層」の実態を理解したうえで、そこから見えてくるデジタルニーズについて確認していきます。
野村総合研究所の分類(※4)では、金融資産3,000万〜5,000万円を保有する層を「アッパーマス層」、5,000万〜1億円を保有する層を「準富裕層」と位置づけています。 本記事では、こうした富裕層手前の中間層を総称して「プレ富裕層」と呼びます。人数ベースでは厚みのある層であり、富裕層ビジネスの入口として、ウェルスマネジメントの対象としての重要性が高まりつつあります。
近年、このプレ富裕層の内訳を見ると、いくつかの特徴的なタイプが目立つようになっています。その一つが、長期の就労や退職金、企業年金、各種制度の活用などを通じて、明確な転機を意識することなく、結果として一定の金融資産を保有するに至った、いわゆる「いつの間にか富裕層」と呼ばれる層です。 また、共働きによる高い世帯年収を背景に、比較的若い段階から資産形成が進んでいる「スーパーパワーファミリー」と呼ばれる層も存在感を増しています。
こうした動きから、プレ富裕層は特定の年齢層や職業に限定されるものではなく、20〜30代から40〜50代まで、幅広い年齢・ライフステージにまたがる層として形成されていることが分かります。 資産形成に至る経路は多様であるものの、「一定規模の資産を保有し、資産管理や将来設計の重要性が高まっている」という点は、共通の特徴といえます。
こうしたプレ富裕層に見られるのは、金融行動をデジタル前提でとらえるスタイルです。
複数の金融機関・口座を使い分けつつ、残高や資産配分の確認、情報収集を日常的にオンラインで行うケースが少なくありません。 一方で、相続や老後資産設計のような判断の重い場面では、人による助言や対話を組み合わせる動きも続いています。 そのため、プレ富裕層の金融行動は、「日常はデジタル、重要局面は人」というハイブリッド型として整理することができます。 こうした行動様式の広がりにより、ウェルスマネジメントにおけるデジタルは、サービスを支える基盤としての役割を担いつつあります。
このように、プレ富裕層とは、一定の資産規模に達したことで、資産を増やすだけでなく、守り方や使い方、将来の引き継ぎ方までを意識し始めた層であり、近年は「いつの間にか富裕層」や「スーパーパワーファミリー」といった特徴的なタイプが増加しています。 こうした層の拡大と行動特性を踏まえると、ウェルスマネジメントにおいてデジタルが重要な役割を担う理由が、顧客側の変化からもより明確に見えてきます。 次章では、このデジタルの役割が、具体的にどのようなサービスや体験として求められているのかを見ていきます。
野村総合研究所の分類(※4)では、金融資産3,000万〜5,000万円を保有する層を「アッパーマス層」、5,000万〜1億円を保有する層を「準富裕層」と位置づけています。 本記事では、こうした富裕層手前の中間層を総称して「プレ富裕層」と呼びます。人数ベースでは厚みのある層であり、富裕層ビジネスの入口として、ウェルスマネジメントの対象としての重要性が高まりつつあります。
近年、このプレ富裕層の内訳を見ると、いくつかの特徴的なタイプが目立つようになっています。その一つが、長期の就労や退職金、企業年金、各種制度の活用などを通じて、明確な転機を意識することなく、結果として一定の金融資産を保有するに至った、いわゆる「いつの間にか富裕層」と呼ばれる層です。 また、共働きによる高い世帯年収を背景に、比較的若い段階から資産形成が進んでいる「スーパーパワーファミリー」と呼ばれる層も存在感を増しています。
こうした動きから、プレ富裕層は特定の年齢層や職業に限定されるものではなく、20〜30代から40〜50代まで、幅広い年齢・ライフステージにまたがる層として形成されていることが分かります。 資産形成に至る経路は多様であるものの、「一定規模の資産を保有し、資産管理や将来設計の重要性が高まっている」という点は、共通の特徴といえます。
こうしたプレ富裕層に見られるのは、金融行動をデジタル前提でとらえるスタイルです。
複数の金融機関・口座を使い分けつつ、残高や資産配分の確認、情報収集を日常的にオンラインで行うケースが少なくありません。 一方で、相続や老後資産設計のような判断の重い場面では、人による助言や対話を組み合わせる動きも続いています。 そのため、プレ富裕層の金融行動は、「日常はデジタル、重要局面は人」というハイブリッド型として整理することができます。 こうした行動様式の広がりにより、ウェルスマネジメントにおけるデジタルは、サービスを支える基盤としての役割を担いつつあります。
このように、プレ富裕層とは、一定の資産規模に達したことで、資産を増やすだけでなく、守り方や使い方、将来の引き継ぎ方までを意識し始めた層であり、近年は「いつの間にか富裕層」や「スーパーパワーファミリー」といった特徴的なタイプが増加しています。 こうした層の拡大と行動特性を踏まえると、ウェルスマネジメントにおいてデジタルが重要な役割を担う理由が、顧客側の変化からもより明確に見えてきます。 次章では、このデジタルの役割が、具体的にどのようなサービスや体験として求められているのかを見ていきます。

(※4)「野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計」
デジタルがもたらすプレ富裕層との関係構築
前章で見たように、プレ富裕層は日常的な資産管理をデジタルで行いながら、重要な判断場面では人の助言を求める傾向があります。こうしたハイブリッドな行動特性に対応するため、海外の金融機関ではデジタルを活用した関係構築の取り組みがすでに進んでいます。
まず、シンガポールのDBSが注目されます。DBSは、資産規模に応じて顧客セグメントを段階的に設計しています。具体的には、35万シンガポールドル以上の資産を持つ顧客向けの「Treasures」、150万シンガポールドル以上の「Treasures Private Client」、そして500万米ドル以上の「Private Bank」という三層構造です。この設計により、顧客は資産形成を進める中で自然に上位層へ移行でき、金融機関としても長期的な関係構築が可能になります。実際に、DBSの2024年度報告によれば、新規プライベートバンク顧客の4割がTreasures顧客からの昇格であったとされています(※5)。
さらにDBSは、プレ富裕層においてAIを積極的に活用しています。同行は、顧客の取引履歴や行動データをもとにパーソナライズされた「ナッジ(行動促進メッセージ)」を配信しており、その数は年間12億回以上、対象顧客は1,300万人を超えます(※6)。ナッジの内容は、資産配分の見直し提案や、投資機会の通知など多岐にわたります。このナッジに反応した顧客は、非利用者と比較して貯蓄額が2倍、投資額が5倍、保険加入率が約3倍に達するという成果が報告されています。デジタルを通じて潜在的なプレ富裕層を可視化し、適切なタイミングで働きかけることで、将来の中核顧客を早期に発掘する仕組みが機能しているといえます。
また、Bank of AmericaのAIアシスタント「Erica」が代表的な事例です。Ericaは2018年に提供を開始し、2025年8月時点で累計30億回以上の顧客インタラクションを記録、利用者数は約5,000万人に達しています(※7)。Ericaの特徴は、単なる問い合わせ対応にとどまらない点にあります。インタラクション全体の50〜60%は、顧客からの問い合わせではなく、Erica側からのプロアクティブな提案やアラートで占められています。たとえば、定期課金サービスの料金が上昇した際の通知、支出パターンの変化に基づく注意喚起、返金処理の完了報告などが自動的に届けられます。顧客が意識する前に有益な情報を届けることで、日常的な接点を維持しながら信頼関係を深めているのです。また、複雑な相談が必要な場合には、会話の文脈を引き継いだまま人間のアドバイザーへスムーズに接続できる設計となっており、デジタルと人的対応のシームレスな連携が実現されています。(※8)
まず、シンガポールのDBSが注目されます。DBSは、資産規模に応じて顧客セグメントを段階的に設計しています。具体的には、35万シンガポールドル以上の資産を持つ顧客向けの「Treasures」、150万シンガポールドル以上の「Treasures Private Client」、そして500万米ドル以上の「Private Bank」という三層構造です。この設計により、顧客は資産形成を進める中で自然に上位層へ移行でき、金融機関としても長期的な関係構築が可能になります。実際に、DBSの2024年度報告によれば、新規プライベートバンク顧客の4割がTreasures顧客からの昇格であったとされています(※5)。
さらにDBSは、プレ富裕層においてAIを積極的に活用しています。同行は、顧客の取引履歴や行動データをもとにパーソナライズされた「ナッジ(行動促進メッセージ)」を配信しており、その数は年間12億回以上、対象顧客は1,300万人を超えます(※6)。ナッジの内容は、資産配分の見直し提案や、投資機会の通知など多岐にわたります。このナッジに反応した顧客は、非利用者と比較して貯蓄額が2倍、投資額が5倍、保険加入率が約3倍に達するという成果が報告されています。デジタルを通じて潜在的なプレ富裕層を可視化し、適切なタイミングで働きかけることで、将来の中核顧客を早期に発掘する仕組みが機能しているといえます。
また、Bank of AmericaのAIアシスタント「Erica」が代表的な事例です。Ericaは2018年に提供を開始し、2025年8月時点で累計30億回以上の顧客インタラクションを記録、利用者数は約5,000万人に達しています(※7)。Ericaの特徴は、単なる問い合わせ対応にとどまらない点にあります。インタラクション全体の50〜60%は、顧客からの問い合わせではなく、Erica側からのプロアクティブな提案やアラートで占められています。たとえば、定期課金サービスの料金が上昇した際の通知、支出パターンの変化に基づく注意喚起、返金処理の完了報告などが自動的に届けられます。顧客が意識する前に有益な情報を届けることで、日常的な接点を維持しながら信頼関係を深めているのです。また、複雑な相談が必要な場合には、会話の文脈を引き継いだまま人間のアドバイザーへスムーズに接続できる設計となっており、デジタルと人的対応のシームレスな連携が実現されています。(※8)

(※5)DBS「Annual Report 2024: Consumer Banking/Wealth Management」
(※6)DBS「Annual Report 2024: Innovating Impactful Solutions for Customers」
(※7)Bank of America「A Decade of AI Innovation: BofA's Virtual Assistant Erica Surpasses 3 Billion Client Interactions」
(2025年8月)
(※8)CX Dive「How Bank of America's Erica raised the stakes for virtual assistants」(2025年8月)
(※6)DBS「Annual Report 2024: Innovating Impactful Solutions for Customers」
(※7)Bank of America「A Decade of AI Innovation: BofA's Virtual Assistant Erica Surpasses 3 Billion Client Interactions」
(2025年8月)
(※8)CX Dive「How Bank of America's Erica raised the stakes for virtual assistants」(2025年8月)
ウェルスマネジメントにおけるデジタル活用の展望
このように、ウェルスマネジメントは、プレ富裕層の拡大を背景に、富裕層に到達する前の段階から、継続的なコンタクトやアドバイスを前提とした取り組みへと変化しています。プレ富裕層は、日常的な資産管理や情報収集を自ら行いながらも、資産規模の拡大やライフイベントの到来に伴い、次第に専門的な助言の必要性を感じ始める層です。こうした顧客との関係構築において、デジタルは重要な役割を担います。
具体的には、デジタル活用は大きく二つの軸で考えられます。一つは、顧客の行動履歴や資産状況の変化をデータとして捉えることです。投資・資産承継・保険といったテーマへの関心が高まり始めたプレ富裕層を早期に把握し、自然な形で接点を持つために活用します。もう一つは、日常的な情報提供や気づきを促すコミュニケーションを通じて、資産形成や管理への理解を深め、顧客自身が将来の選択肢を整理できるよう支えていく役割です。
重要なのは、こうしたデジタルの活用が、人の助言に取って代わるものではなく、むしろ相談をより有意義なものにするための土台となり得ることです。プレ富裕層にとってデジタルは、判断に必要な情報を整理・可視化し、相談すべきテーマやタイミングを明確にするための基盤として機能します。デジタルと人的対応を組み合わせながら、資産形成の段階からライフステージの変化に寄り添い続けることが、プレ富裕層向けウェルスマネジメントにおいて、今後ますます重要になっていくでしょう。
具体的には、デジタル活用は大きく二つの軸で考えられます。一つは、顧客の行動履歴や資産状況の変化をデータとして捉えることです。投資・資産承継・保険といったテーマへの関心が高まり始めたプレ富裕層を早期に把握し、自然な形で接点を持つために活用します。もう一つは、日常的な情報提供や気づきを促すコミュニケーションを通じて、資産形成や管理への理解を深め、顧客自身が将来の選択肢を整理できるよう支えていく役割です。
重要なのは、こうしたデジタルの活用が、人の助言に取って代わるものではなく、むしろ相談をより有意義なものにするための土台となり得ることです。プレ富裕層にとってデジタルは、判断に必要な情報を整理・可視化し、相談すべきテーマやタイミングを明確にするための基盤として機能します。デジタルと人的対応を組み合わせながら、資産形成の段階からライフステージの変化に寄り添い続けることが、プレ富裕層向けウェルスマネジメントにおいて、今後ますます重要になっていくでしょう。


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