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若年層の口座獲得は“量”から“関与”へ
― ライフステージ変化を起点とした金融機関の新戦略 ―

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金融機関にとって、新規の口座獲得は、もはや単なる「見込顧客の囲い込み」ではありません。少子高齢化の進行により将来的な顧客母数が縮小する中、若年層との早期接点の確保は、中長期的な収益基盤を維持するうえで極めて重要なテーマとなっています。
しかし、口座数の増加が必ずしも取引拡大や収益化につながらないという現実もあります。若年層の金融行動は多様化・断片化しており、「口座を作ればメインとして利用される」という前提は成り立ちにくくなっています。
従来、金融機関は「安心」、「信頼」を強みとしてきました。しかし、若年層にとって信頼は前提条件であり、差別化要素にはなりません。使いにくい、分かりにくいサービスは、それだけで選択肢から外れてしまいます。
本記事では、大学生から新社会人層を中心とする若年層を対象に、従来型のアプローチの限界を整理したうえで、ライフステージの変化に着目した長期的視点での口座獲得戦略を考察します。

金融機関の典型的な顧客アプローチ

金融機関の口座獲得施策は、大きく三つに整理できます。

一つ目は、「来店促進型」です。
店舗改装や接客品質向上、営業担当の育成などを通じて来店を促す方法です。
しかし、大学生・新社会人は店舗来訪頻度が低く、多くの取引をオンラインで完結させています。来店前提のモデルは、若年層に対しては効果が限定的です。

二つ目は、「デジタルチャネル強化型」です。
スマートフォンアプリの高度化やオンライン完結型口座開設は、各金融機関が注力しています。ただし、メガバンクやネット銀行が巨額投資を行う領域であり、地域金融機関が同質的な機能競争で差別化するのは容易ではありません。

また、アプリのUI改善や機能追加といった施策は本来手段でもあるにかかわらず、目的化してしまうケースも見受けられます。「なぜその金融機関を選ぶのか」という根本的な問いに答えられなければ、持続的な競争の優位性は生まれません。

三つ目は、「キャンペーン型」です。
現金還元やポイント付与による短期的な顧客獲得施策も広く行われています。一定の効果はありますが、持続性に課題があり、体力勝負になりやすいのが実情です。キャンペーンで獲得した口座が定着しないケースも少なくありません。

いずれの取り組みにも意義はありますが、単独では決定打になりにくいのが現実です。

発想の転換 ~ライフステージ変化に着目する!

若年層の口座獲得を成功させるためには、「どのチャネルで獲得するか」ではなく、「どの瞬間に関与するか」という視点への転換が必要です。

大学生・新社会人期は、初めて給与を受け取り、自ら生活費を管理する転換点です。その後も、転職、リスキリング、起業・独立、結婚、住宅取得など、経済環境が大きく変化するライフイベントを経験します。
こうしたタイミングでは収入構造が変わり、資金需要が生じ、金融サービスへの関心が高まります。この「変化の瞬間」に金融機関が適切に関与できるかどうかが、その後の関係構築を左右します。

若年層口座は短期収益で評価すべきものではありません。一般に個人口座の年間収益は3,000円程度とされますが、法人口座は約60,000円規模です。若年層の中には将来の起業家層も含まれます。個人口座は将来の法人取引への入り口として捉える視点が必要です。

効果的なアプローチの設計のポイントとは

では、金融機関はどのような観点で若年層を取り込んでいったらよいのでしょうか。

1.ライフイベントを軸とした体系化
就職、リスキリング、起業、住宅取得などのイベントごとに施策を点で打つのではなく、20代から30代の変化を通じて一貫して支援する枠組みとして設計することが重要です。

例えば、
 就職時: 給与振込口座開設支援、初任給の資金管理支援
 リスキリング時: 教育ローンや資金計画の提案
 起業時: 個人から法人へのシームレスな移行支援
 住宅取得時: 住宅ローン事前相談と将来設計支援

こうした設計により、金融機関は「資金の預け先」から「人生の転機を支える存在」へと役割を広げられます。

2.データ活用によるイベント検知
ライフイベントは突発的に発生するわけではありません。キャンペーンなどで獲得した口座への給与振込開始、支出構造の変化、副業関連入出金などのデータから兆候を把握できます。

重要なのは、高度なAIの導入そのものではなく、「既に保有しているデータを確実に活用する設計」です。イベント検知とアクション設計を組み合わせることで、提案の精度とタイミングは大きく向上します。

3.評価指標の転換
口座開設数だけでなく、利用頻度、ログイン率、取引継続率といった定着指標を重視する必要があります。獲得中心の発想から、関係性構築中心の発想へ転換しなければ、本質的な成果は得られません。

4.顧客体験(CX)起点の再設計
若年層は「迷わず使えること」、「すぐに結果が返ってくること」を重視します。いわゆる“タイパ”志向です。金融機関の業務都合ではなく、顧客行動を起点にサービスを再設計する姿勢が不可欠です。

SNSの活用や大学連携、金融教育といった施策も有効ですが、利用行動と結び付ける設計がなければ成果は限定的です。教育や情報発信を「口座利用の導線」まで設計できているかが問われます。

おわりに

若年層口座獲得は、個別施策の積み上げだけでは不十分です。組織横断で若年層戦略を位置付け、評価制度や投資判断に反映させる必要があります。
また、Fintechや異業種との連携も、単なる機能補完ではなく、顧客体験全体を再設計する視点で捉えることが重要です。

大学生・新社会人層の口座獲得は、短期的な収益にはなりにくいかもしれません。しかし、将来の顧客基盤を形成する戦略投資であることは間違えありません。

「何件口座を開設できたか」ではなく、「何人の人生の転機に関与できたか」。その視点への転換こそが、これからの金融機関の競争力を左右するのではないでしょうか。
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執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

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