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いま再注目のダイナミックプライシングとは。メリットや事例、活用動向を紹介!

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古くはホテルや航空券の予約から、近年ではテーマパークやイベントのチケット購入など、幅広い業界、ジャンルで導入されている「ダイナミックプライシング」。再び注目される背景には何があるのでしょうか。ダイナミックプライシングがもたらすビジネスインパクトや企業の導入事例、導入のポイントを解説します。

ダイナミックプライシングとは

「ダイナミックプライシング」とは「変動料金制」のことで、古くから需要と供給のバランスに応じて商品やサービスの価格を調整することを指します。近年ではそれがより正確にリアルタイムで可能になりました。人手不足で足りない供給すらダイナミックに補うのが、進化したデジタル時代のダイナミックプライシングの特徴です。
私たちが日常で購入するあらゆる商品やサービスは、原則として固定された価格で販売・提供されています。しかし、さまざまな事情により需要が大きく増えたり、逆に減ったりすることがあります。そこで活用されるのがダイナミックプライシングです。
  • 需要が多いときは価格を上げて需要を抑える
  • 需要が少ないときは価格を下げて需要を喚起する
このように価格をコントロールすることで需要を調整する手法は、古くから行われてきました。

真っ先に思い浮かぶ例は、航空チケットやホテルの価格ではないでしょうか。年末年始やゴールデンウィークなどの繁忙期には価格が上昇し、閑散期には価格が下がります。居酒屋のハッピーアワーやスーパーのタイムセールも、広い意味でダイナミックプライシングの一例です。
ダイナミックプライシングは航空業界や宿泊業界にとどまらず、近年ではスポーツやライブ観戦、テーマパークのチケットなどの領域にも広がりつつあります。例えば東京ディズニーリゾートの1日券「1デーパスポート」の料金は、時期に応じて7,900円から10,900円の6段階のダイナミックプライシングの料金体系になっています。

なぜ今ダイナミックプライシングに注目が集まるのか

ダイナミックプライシング自体は古くから活用されてきた仕組みです。それが今、改めて注目されている主な背景として、次の2点が挙げられます。
  • 供給を調整する新たなサービスが出てきたこと(社会的背景)
  • AIが力を発揮できる環境が整ったこと(技術的背景)

供給を調整する新たなサービスの登場(社会的背景)

観光の分野では、新型コロナウイルス感染症が5類に移行してからインバウンド需要が復活し、オーバーツーリズムの様相を呈しています。また、物流業界では「2024年問題」といわれるように、ECなどの物流需要に対して供給しうる労働力がひっ迫する状況にあります。
このような背景から、従来のように需要を調整するのではなく、
供給サイドの行動変容を促して需要をカバーする、新しいタイプのダイナミックプライシング
が注目されています。
その一例がアメリカの「Uber」や中国の「DiDi(滴滴出行)」などに代表される、自動車のライドシェアサービスです。
需要が見込まれる時間帯に価格を上げれば、配車しようとするドライバーが増えます。逆に閑散時には価格を下げれば、ドライバーは減少します。つまり、需要を喚起したり抑制したりするのでなく、需要に対して供給(ドライバー)の数を変動させて需給バランスを均衡させています。
それだけでなく、同じ需要の時間帯であっても、乗り心地のよい車なら高く、乗り心地はほどほどでも少々安い、といったサービスの質と価格の調整もなされています
とりわけシェアリングエコノミーは、ダイナミックプライシングと親和性が高い分野。さまざまなサービスが広がるにつれて、ダイナミックプライシングへの注目も集まっているといえます。

AIが力を発揮できる環境が整った(技術的背景)

従来のダイナミックプライシングは、マーケティングや営業担当者などが業界の慣習や自身の経験に基づいて価格設定することが一般的でした。
ところが、日々膨大なデータが収集され、ビッグデータとして蓄積されるようになり、サービスを提供する側(企業)のIT化も大きく進展し、顧客データを活用できるようになっています
AIに膨大な顧客データを機械学習させることで、需要予測の精度が向上。手動に比べて最適な価格をきめ細かく割り出せるようになりました。かつ、日々リアルタイムで更新されるデータを反映した最新の価格を提示してくれます。
AIは「価格の最適化」「リアルタイム性」の二つの方向で、ダイナミックプライシングを導入する業種を拡大させているのです。

ダイナミックプライシングのメリット

供給サイドにはたらきかける新しいサービスが登場したり、AIの活用によって進化したりと、改めて注目されているダイナミックプライシング。収益の最大化をはじめ、需要の充足やフードロスの削減、価格設定業務の負担削減などのメリットがあげられます。
さらに期待されるのは、これらのメリットが「働き方改革の推進」につながっていくこと。私たちの暮らし方や生き方まで好転しそうな未来が見えています。ダイナミックプライシングの主なメリットについて、詳しく見ていきましょう。

1.収益の最大化

キャパシティが限られている業種にとって、最も大きなメリットです。航空チケットやホテル、ライブチケットなどは、座席数や部屋数など供給できるキャパシティに限りがあるので、需要に応じて供給を増やせません。一方で、予約が埋まらないからといって、ストックして明日以降に持ち越すこともできません
そこで、需要が低いときには価格を下げ、商品やサービスの利用を促進。これにより潜在的な需要を掘り起こし、売り上げを増やせます。需要が高いときには、価格を上げて商品やサービスを提供。コストは増やさずに、利益率を高められます。

2.需要の充足

繁忙期に価格を上げて供給サイド(サービスの担い手)を増やすUberのようなダイナミックプライシングは、増加した需要を吸収し、機会損失を防げます。「価格が高くてもいいから今すぐ利用したい」という需要に応えられ、ユーザーの満足度向上につながるでしょう。
また閑散期には価格を下げることで供給サイドの人員余剰が起きにくくなり、人的リソースの最適化も期待できます。

3.フードロスや不良在庫の削減

生鮮食品や惣菜(そうざい)などのストックできない食品は、古くからダイナミックプライシングが活用されてきました。しかし、その他の食品にも賞味期限や消費期限がありますし、在庫として管理するにもコストが発生します。
AIによるダイナミックプライシングを適用し、適切なタイミングで適切な値下げができれば、フードロスや不良在庫の削減につながります。また不良在庫をさばくための過剰な値下げによる、利益損失を防ぐことも期待できるでしょう。
フードロス削減のメリットは、サステナビリティの観点からも注目されています。現に廃棄予定の食品や菓子を専門に仕入れ、安い価格で販売するサービスなど市場が拡大しています。

4.価格設定業務の負担削減

担当者の経験と勘頼みによるアナログ時代のダイナミックプライシングは、価格を決定する担当者に過度な負担を強いるものでした。AIを活用したダイナミックプライシングでは、基準となる価格が決まれば、あとはAIによる需要予測をもとに自動で価格設定をしてくれます。業務負担を軽減しながら、より顧客のニーズに即した適正な価格を設定することが可能になります。

5.働き方改革の推進

ダイナミックプライシングは、低賃金での長時間労働といった「悪いデフレ」から脱却し、サステナブルな働き方の実現をもたらす可能性があります。
人口減少をはじめオーバーツーリズムや物流業界の「2024年問題」などを背景に、各業界が人材不足に悩んでいることは言うまでもありません。
限られた供給量で需要を満たしていくためには、ダイナミックプライシングを活用して適切に価格を上げることが第一。値上げで得られた収益を供給サイドに還元すれば、離職を防いで人材を確保でき、ひいては長時間労働の是正につながります。

ダイナミックプライシングのデメリット・課題

もちろん、ダイナミックプライシングはメリットだけではありません。デメリットや課題も見ておきましょう。

消費者の不満・不信感を買う可能性がある

ダイナミックプライシングでは、特に価格を上げる場合、「この価格でも価値がある」と多くの消費者が納得し、受け入れられる必要があります。
提供する商品・サービスの絶対量が少なく、それを消費者が理解しているのであれば、ダイナミックプライシングを導入しやすいでしょう。しかし価格設定の根拠がわからない場合や納得できない場合、ユーザーが不信感を抱く可能性が高まります。
例えば夏の暑い時期に「ジュースが売れるだろう」と、街なかにある自販機のジュースの価格を上げたとします。しかし、少し歩けばコンビニやスーパーで安く購入できますよね。価格をつり上げた自販機のジュースは売れないどころか、消費者の気持ちを逆なでするリスクがあります。
このように、供給量や調達のチャネルが豊富にあり、どこにでも手に入るような食料品や日用品(コモディティ商品)は、そもそもダイナミックプライシングに適していません。また希少性を認めるにしても、消費者の評価に対して不当に高い価格が設定されてしまうと、消費者の不満を買いやすくなります。

最適な価格設定ができないこともある

今日のダイナミックプライシングでは、AIの機械学習による高精度の需要予測が成否のカギを握っています。そのため予測のためのデータが不足している場合は、おのずと価格設定の精度が低くなります。

値引きを待たれてしまうことがある

消費者がこの先の値引きを予測できたり、頻繁に値引きが行われたりすると、消費者に値引きを待たれてしまうことがあります。また値引きのタイミングで「まとめ買い」されることもあり、意図する方向にダイナミックプライシングが機能しないことがあります。

企業のダイナミックプライシング導入事例

今日、さまざまな分野に浸透しつつあるダイナミックプライシング。ここで、実際の導入事例を紹介します。

タクシーアプリ「Grab(グラブ)」

前述のとおり、世界中で普及しているライドシェアサービス。そのうち、シンガポールなど東南アジア圏でその地位を確立している自動車配車アプリが、マレーシア発の「Grab」です。アプリ上でピックアップ場所と行き先を入力し、「Book(予約)」ボタンを押すと配車されます。
金額はあらかじめアプリ上で表示されますが、ここにダイナミックプライシングが導入されていて、朝や夜の混雑時は高く、そうでない時間帯は安く表示されます。「料金は多少高くてもいいから早く来てほしい」「今は急いでいないから安くてかまわない」といった、消費者心理に応える料金体系を実現しています。

駐車場予約アプリ「akippa(アキッパ)」

駐車場も曜日や時間帯によって需要変動が起きやすく、特に都心などでは供給量が限定されていることから、ダイナミックプライシングとの親和性が高いサービスの一つです。
日本の駐車場予約アプリ「akippa」では、15分単位で駐車場の予約・利用ができます。駐車場の利用料金は、日々蓄積される駐車場予約データをAIが解析。エリアや時間帯ごとに最適な価格を自動で算出する仕組みになっています。ダイナミックプライシングによって、収益最大化を図りたい駐車場オーナーの満足度を高めています。

家事代行サービス「CaSy(カジー)」

家事代行サービスは、シェアリングエコノミーが普及している分野の一つ。日本の家事代行サービス「CaSy」では、登録している家事代行キャストへの報酬設定にダイナミックプライシングを導入しています。
家事代行の依頼は土日や平日夜に集中しやすいものの、サービスを提供するキャスト側は平日の日中に働きたい主婦層が中心。そのギャップを埋めて、マッチング率を高めることが課題になっていました。
そこで、同社内に蓄積された利用データをもとに利用者とキャストとのマッチング率を事前予測し、キャストへの報酬を変動。「報酬が上乗せされるなら、多少行きづらい立地や条件であっても働きたい」といったキャストの声がよせられ、マッチング率の向上が期待されています。

今後、ダイナミックプライシングはどの分野に拡大していく?

シェアリングエコノミーと親和性が高いダイナミックプライシングですが、他にはどのような業界において普及・検討が見込まれるのでしょうか。

タクシー業界

日本のタクシー運賃は、輸送の安全性を確保する観点から、国土交通省が定めた運賃幅の範囲内で、各事業者が適用運賃を設定しています。原則として、需給に応じて柔軟に運賃を変動させて減額・増額することはできない制度になっています。
しかし世界中でライドシェアサービスが普及しているように、「高くてもいいからすぐ乗りたい」「もう少し安ければ乗りたい」というニーズがあります。タクシー業界としてもニーズに応えて利用者を増やしたい狙いがあります。
これを受けて、国道交通省の「タクシーにおける事前確定型変動運賃の制度化に関する検討会」は2023年3月、タクシー運賃にダイナミックプライシングを導入する方針を固めました。
配車アプリを通じて事前に料金を確定させる場合に適用するものとし、通常料金の5割引き~5割増しの範囲で設定できることとしています。

カード業界

2023年11月にシンガポールで開催されたフィンテックフェスティバルでは、マスターカードがAIコンシェルジュサービスを紹介しています。
例えば「どうしても明日までにシンガポールからロンドンに着かなければならない」といった場合に、AIコンシェルジュが航空チケットやホテル、レンタカー、どこで外食するといいか? などを提案してくれます。
第一の目的が「必ず明日までにシンガポールからロンドンに着くこと」である場合、AIは「価格の安い遠回りよりも、ロンドンに明日必ず着くことが優先事項」と考えて、高値のチケットを提案するのが特徴。価格が安いものだけに引っ張られて提案すると、かえって消費者の満足度が下がることがあるためです。
価格だけで消費者の満足度は確定するわけではありません。これを踏まえて、消費者がどんなものが欲しいのかをAIに学習させ、一人一人のニーズにジャストミートするダイナミックプライシングが導入されています。

ダイナミックプライシングの導入に必要なものとは

ダイナミックプライシングの実施ステップは、大きく分けて3段階です。
  1. データの収集・蓄積
  2. データの分析・活用
  3. 分析結果を機械学習させるためのAIアルゴリズム開発
このステップごとに、必要なものを紹介します。

1.需要と供給の予測に必要なデータ

高精度の需要予測を行うには、AIに機械学習させるためのデータがあることが大前提になります。顧客の購買・サービス利用履歴をはじめ、天候、人流、競合他社の価格など、活用できるデータはさまざま。
まずは社内にどんなデータが保有・蓄積されているかを、洗い出してみましょう。実は埋もれているお宝(データ)があるかもしれません。

2.データを分析・活用できるDX人材

データ分析で活躍するのはデータアナリストですが、単純なデータのとり扱いだけなら、人材を外部に委ねる選択もあるでしょう。ただしデータ分析には、自社商品への深い理解やサービスの課題を熟知している必要があります。プロジェクトそのもののマネジメントを遂行できる必要もあります。

3.AIアルゴリズム開発

データの分析結果を機械学習させるためには、AIアルゴリズム開発が必要です。業界によってはエンジニアの採用が難しい場合もあるため、ツールの利用や外部委託が検討されます。
これらのステップを踏んだとしても、最初から最適な価格を割り出せるものではありません。可能な範囲でテスト的にダイナミックプライシングを導入して、PDCAサイクルを根気よく回して、最適解を見つけ出す必要があります。

ダイナミックプライシングが商品・サービスの新しい価値を提示する

「価格」の決定は、ビジネスにおいて最も重要な意思決定の一つです。にもかかわらず、過去の経験や勘を頼りに決める、あるいは原価からの積み上げで機械的に決める、という手法がこれまでの“常識”とされていました。
これからのダイナミックプライシングは、データとテクノロジーを活用し、需要と供給を可視化し、状況に応じて価格を弾力的に設定していく手法が主流になっていくでしょう。自社商品・サービスの収益を拡大し、新たな顧客体験価値を創造するなど、大きな可能性を秘めています。
またダイナミックプライシングとは、価格という自社商品・サービスに対する「評価」を市場に委ねることでもあります。ダイナミックプライシングの導入によって、自社商品・サービスのもつ新しい価値が見えてくるかもしれません。
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執筆 オクトノット編集部

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