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金融が変われば、社会も変わる!

コラム

現在の生成AIの動向
書籍「この一冊で深く理解するLLM・RAG・AIエージェントの本質」の著者に聞く

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LLM(大規模言語モデル)の登場から最近までの進展があまりに早く、キャッチアップしきれていないと感じられる方もいらっしゃるかと思います。Transformer、Attention、強化学習、RAG、AIエージェントなどのLLM関連の動向を詳細に解説した書籍「この一冊で深く理解するLLM・RAG・AIエージェントの本質」が2025年9月に発行されました。この書籍ではLLMには直接関係しないニューラルネットワーク以外のAI技術や、いわゆる過去のAIブームのAIエージェントについても記述されています。今回は、著者であるAIファイナンス応用研究所の所長 櫻井豊さんに、書籍を刊行された理由、AI技術の進化の流れ、金融分野におけるAIの可能性とリスクなどについてお聞きしました。

はじめに

2022年11月のChatGPTの登場から、LLMで実現できることは日々拡大しています。RAGによる企業内データの利用が可能になり、それをもとにしたAIエージェントが社内外のシステムを動的に利用できるようになっています。このタイミングで書籍を刊行なさった理由をお聞かせください。

-技術的な転換点、「潮目」であると感じられたのは何を目にされたタイミングでしょうか。

2023年から2024年にかけて、ChatGPTなどがChain of Thought※やRAG※といったLLMが学習していない外部のデータを探して回答に含める機能の実装を、予想以上に早いタイミングで実現したぐらいでしょうか。LLMが単なるチャットボットではなく、社会を大きく変えるAIに変貌しつつあると感じました。ChatGPTの技術的な父ともいえるイリヤ・サツケバーの言動には以前から注目していたのですが、彼自身がGPT-3以降のLLMの性能向上を驚きをもって受け止めたことは、大きな潮目であったと思います。

※Chain of Thought:日本語では思考の連鎖。LLMが最終的な回答だけでなく、そこに至る「考え方の途中」を文章として展開しながら推論する仕組み。一度に最終的な回答を出すよりも段階的に考えたほうが誤った回答が出づらい、人間から見て「なぜその回答になったのか」が分かる、などのメリットがある。

※RAG:RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、LLMが自分の記憶だけで答えるのではなく、外部の資料を探してから答える仕組み。LLMの学習時以降の情報や社内資料や社内ルールなどの情報を、LLMが探して回答することができる。

―2022年11月のLLMの登場からの変化を質的な転換だとお考えでしょうか。

必ずしも質的な変化であるとは思いません。LLMの登場から現在までの変化は、トランスフォーマー※を用いて大規模化と微調整を推進した結果が、当初の予想をはるかに上回るものであったことが判明した状況だと考えています。トランスフォーマーの登場自体は大きな質的変化をもたらしましたが、現在までの発展はその延長線上にあると思います。しかし、ここから先にこれまでのペースでAIの能力を飛躍させるためには、次の何らかの質的な変化が必要だと考えています。そのための研究はすでにさまざまな形で始まっており、どこかでそのどれか、あるいはそれらの発展形のどれかがトランスフォーマー級のインパクトを持つ手法であることが明確になっていくのだと予想します。それが次の質的な変化につながるのだと思います。

※トランスフォーマー:Transformerは、生成AIが文章の意味を正しく理解し、自然な文章を作るための“中核技術”である。文章全体を一度に捉え、どの部分が重要かを見極めることで、ユーザーからの質問や文脈を正確に理解し、その文脈に沿った適切な回答を生成できる。

-書籍の骨格としてある「要点句」と「Chain of Thought」への思いについてお聞かせください。

本書の執筆作業は、LLMからAIエージェント時代に至るまでの重要な技術の本質とその進歩を、簡潔な「要点句」として表現することから始めました。そして、その「要点句」をできるだけ重要事項の漏れがないように作ることを心がけた結果、それが一種の「Chain of Thought (CoT)」、つまりステップバイステップの思考につながることに気づきました。CoTはLLMの推論機能向上に劇的な役割を果たしたのですが、そのようなステップを踏むことによる効果はAIだけでなく人間にも同じように有効だと思います。LLMやAIエージェントの本質を適切に把握するのにこの方法が有効だと考え、本書全体にこのアプローチを適用することにしました。これにより、読者にとっても断片的な知識の寄せ集めでは到達できない、より深い構造的理解と哲学的含意に到達できることを期待しています。

-こちらの書籍ではLLMを書籍執筆に利用したとのことですが、これまでの執筆とどのような変化があったでしょうか。

LLMの登場と外部検索機能の付加などによって、私の執筆作業は劇的に変わりました。私は以前にも4冊の本を上梓してきましたが、基本的にはまず目次案づくりに非常に時間をかけ、どんな内容を書きたいか、その全体像をはっきりさせます。今回もその段階の作業には大きな変化はありませんでした。そして、いったん書きたい内容を固めると、あとはその内容を、適切さの確認や細部の調査などをしながら、文章を作っていくのですが、今回はその作業がLLMを活用することによって、以前よりはるかに効率的になりました。

以前は「この用語や概念の説明はこれでよいか? あるいは、どのように説明するのが適切か?」と確認したい場合、Web上の情報や論文をあれこれ漁って読んで確認していたのですが、この「探す、読む」という作業の多くをLLMが代替してくれます。さらに、多少の修正でそのまま書籍で使えそうな形に整理してくれる場合もあります。
さらには、LLMは、勝手に書き変えないようにプロンプトでしっかり指示をすれば、優秀な編集者になり、誤字脱字の修正だけでなく、読みやすい文章への修正案なども出してくれます。今回、出版社を通さずに直接出版をすることができたのは、LLMのおかげです。

AIの進化の流れ 過去と現在のつながり

書籍では、LLMには直接関係しないニューラルネットワーク以外のAI技術や、いわゆる過去のAIブームのAIエージェントについても記述されています。こちらにもとづき、過去の情報処理技術と現在のLLM進展の関係についてお聞かせください。

-2000年代初頭のナレッジマネジメント、情報検索、AIエージェント技術と、現在のLLM、RAG、AIエージェントの共通点と違いについてお聞かせください。
 

共通点は、どちらも“知識利用の自動化”を目指した点だと思います。2000年代初頭のナレッジマネジメント(KM)は、暗黙知の形式知化やドキュメント検索の高度化によって、必要な情報にすぐ到達することを目的としていました。これは、現在のRAGが目指している方向性と非常に近いと言えます。

一方で、決定的な違いは LLMによる文脈把握と文脈統合能力です。当時のKMは「知識を検索する」ことはできても、LLMのように複数文書の内容を理解し、整理し、文脈に沿った回答として“生成する”ことはできませんでした。

さらに、検索技術そのものも大きく異なります。21世紀初頭の検索はキーワード一致が中心で、意味や文脈を扱えないものでした。一方、現在の検索はLLMとembedding技術に支えられ、“意味にもとづく検索”へと大きく進化しています。つまり、現代は 2000年代が目指した知識活用の構想を、はるかに高い性能で実現できる時代 になったと言えるでしょう。

-人間の思考とChain-of-Thoughtの関係について、類似している点と異なる点についてお聞かせください。また、過去のAI技術と比べ、LLM関連のAI技術が人間の思考に近づいた技術的要素についてお聞かせください。

間違った答えに到達することを避ける方策としての、Chain-of-Thought(CoT)、つまり「ステップバイステップ」的な思考の有効性は、人間もAIもまったく同じです。そしてこれは拙著の中心的なアプローチでもあります。
私自身は、最近のLLMがこのCoT能力を獲得したのは、巨大なトランスフォーマーモデルによる膨大な“次の単語予測”を繰り返した結果として生じた 副産物 だと考えています。開発者たちも当初からこの能力を予想していたわけではなく、スケール効果によって思いがけず創発した機能の代表例でしょう。

実際、LLMでは軽量チューニングによってCoT能力を強化できますが、その前段階でも、単純にプロンプトで“step by step”と指示するだけで推論力が向上していたことが、それを裏付けています。つまり、LLMは膨大なテキストを学習する過程で、人間的な推論の表現様式の基盤をすでに獲得しており、それを引き出すために特別な新機構を追加する必要はなく、むしろ微調整によって顕在化させるだけで十分だったと言えます。

金融xAIの可能性とリスク

金融とLLM、RAG、AIエージェントの組み合わせによる可能性と限界、加えてリスクについてお聞かせください。

-AIエージェントと相性のよい金融業務についてどのようにお考えでしょうか。


現在のAIエージェントは、LLMによって自然言語や一部の専門用語を適切に理解し、次の行動を計画することが可能です。しかし、LLMの確率的な性質※により出力にばらつきがあるため、複雑な状況判断や重要な意思決定を安定的に行うには課題があります。

したがって、金融に限らず、手順が明確で、一定のボリュームがあり、許容できるエラー率の範囲内で処理できる業務がAIエージェントと相性がよいと言えます。具体例としては、支店における定型的な事務作業、全社共通の資料作成、経理事務の一部などが挙げられます。

※LLMの確率的な性質:LLMは、次に来そうな言葉を確率的に選びながら文章を生成することで質問に対する柔軟な回答をすることができる。あらかじめ決まった答えをそのまま返すのではなく、文脈に合った表現を選びながら文章を生成する。そのため、同じ質問でも、表現や言い回しが少しずつ異なることがある。


-AIエージェントを使った場合、金融業務はどのように自動化するでしょうか。また、自動化の限界としてセキュリティなどが考えられますが、限界となる要因についてお聞かせください。

 これからの金融業務は、データレイク化などのデータ整備をAIエージェントの活用によって進めることで、一定のボリュームがあるペーパーワークの多くが自動化可能だと思います。また、顧客に対する説明や提案についても、一定の範囲であれば自動化は可能だと思います。しかしながら、その限界は、まさに金融特有の正確性やセキュリティに関するリスクへの対応の部分になるでしょう。例えば、顧客の信用リスクの分析に関連する書類作成では、数値の正確性を担保した上でのAI活用や、顧客への提案は人間が作った提案のなかからAIが選択するなどの対応が求められるかもしれません。

-金融業務にAIを適用する場合のリスクについてお聞かせください。

この問題には当局なども強い関心を寄せていて、一般的には次のようなリスクが挙げられると思います。
1. 生成AI特有のリスク(ハルシネーションと情報漏洩)
2. データ・モデル関連リスク(バイアスと説明可能性の欠如)
3. 運用・セキュリティリスク
4. システム全体へのリスク(金融安定性への影響)

個人的には、金融機関が、自身が活用しているAIのメカニズムや限界を十分に理解できないリスクが、これらのリスクの根本原因になると考えます。ただし、AIのメカニズムや限界を「組織として理解する」ことは容易な課題ではなく、それを実現する方法を模索することが、金融機関におけるこれからの最も重要な課題の一つになると考えます。

読者に伝えたいことと未来への展望

最後にこの書籍の読者となる方々に対するメッセージという意味合いでお聞きいたします。

-まずは、この書籍を読んでほしい読者層をどのようにお考えでしょうか。そうした方たちがどのような行動をすることを期待なさいますか。


この本を書こうと思った直接的な出来事は、6月に行われた金融ITのイベントで「LLMから進化したAIエージェントの時代がやってくる」という話をした際に、聞いていた金融関係の方々が「LLM、RAG、AIエージェントの関係性」などについてあまりピンと来ていない様子だったことにあります。現状のAIに関する情報は、そのほとんどが断片的であり、しばしば適切でない説明を目にします。そうしたなかで、来るべきAIエージェント時代において、LLMを中心とするAIに関して、LLMからRAGへ、そしてAIエージェントという全体像の適切で体系的な説明書の必要性を痛感しました。このような体系的な知識は、幅広い層の理解や知識の整理に役立つと考えています。

特に「AIエージェント」という言葉は最近非常に頻繁に耳にしますが、その実、多くの場合が単なる「プロンプトを設定したLLM」であり、本来エージェントと呼ぶにはふさわしくないものです。私は、読者が本書を読むことによって、そうした表面的な言葉に惑わされず、本質を把握できるようになることを期待しています。

-AIが進展する未来に向けて、今後必要とされる金融スキルはどのように変化するとお考えでしょうか。

今後必要とされる金融スキルは、大きく分けて2種類の相異なるスキルが求められる時代へと変化していくと思います。一つは、金融とAIの両方のリテラシーを高め、両者をつなぎ合わせるイマジネーション力を持つ「AI関連スキル」、もう一つは、それとはまったく別のソフトスキルと人間的要素です。

AIを適切に開発・運用するという観点では、「AIは業者任せ」というスタンスではなかなかうまくいかないことが予想されます。やはり、金融業務とAIの本質を深く理解した上で経営と運営をする必要があります。そういう意味で、これまでの人材育成方法と業務に対するスタンスの両方を、AI時代に適合させていく必要があるのでしょう。つまり、「AIはもはや金融の本業なのだ」という枠組みにする必要があるのです。

-量子コンピューターやエネルギーの効率化なども含めた新規技術と、AI、金融の変化についてお聞かせください。

金融業界にとって、量子コンピューターや、それを含めた計算エネルギーの効率化の動きがもたらす影響は、暗号解読など業務に直接的な影響を与える部分と、社会や産業構造の大きな変化という間接的な影響があると考えます。そして、どちらかというと、後者の影響が全体として大きい気がします。

量子コンピューターについては、一般的にはいろいろな誤解があると思いますが、現状の量子コンピューターの方式は「万能」という名がついていても、現時点ではかなり限られた用途にしか向いていません。金融業界でいえば、RSA暗号の解読などが、数少ない直接関係のある領域です。そうした領域でも、真の実用化にはまだかなりの時間が必要そうです。

一方で、「量子の可能性」という意味では計り知れないものがあり、これから何らかの技術的なブレークスルーが起これば、量子コンピューターがAIの性能を飛躍的に高め、かつエネルギー効率の面でも大きく改善するということも、近い将来ではないものの、可能性はあります。その時には、金融業の在り方も根本的に変わるかもしれません。

-AIを使うことで知的労働が大きく変化すると思います。金融業の来るべき姿の展望をお聞かせください。

現在、金融機関の保有するデータは急速な勢いで容易に検索可能で、AIによる分析や生成が容易になるデータプールやデータレイクとして保持される方向へとシフトしつつあります。これは、社内情報や公開された外部情報を使って、書類作成の大半の作業をAIやAIエージェントが担う時代に向かっていることを意味します。また、データプールなどの整備はそれらのデータを好きなように活用して分析や予測ができることを意味します。

これは、これまで人間が行っていた知的労働の多くがAIにとって代わられる一方で、その基盤となるデータ整備やAIモデルの開発やメンテナンス、さらにAI導入で新たに発生するリスクの管理など、これまでにはほとんどなかった仕事が急激に増えることを意味します。そして、金融機関という業態の特質上、AI導入のリスク管理など「守りの部分」の比重が一般企業よりはるかに大きくなる可能性があります。

 こうした「固い守り」の上に、AIを業績拡大という「攻め」の方向に使うことができる金融機関が新しい時代の勝者になるのでしょう。いずれにしても、「AIリテラシー」の高さとそのリテラシーに裏付けられた「判断力」が決定的に重要になっていくのでしょう。

この記事を書いた人
RPテック株式会社 取締役 櫻井 豊さん
早稲田大学理工学部数学科卒。
金融機関(東京(三菱)銀行およびソニー銀行)の東京とロンドンにおいて、20数年間に渡ってデリバティブのトレーディングや商品開発、債券運用に携わったあと、2010年よりRPテック取締役。2017年からは同社内に設立したAIファイナンス応用研究所の所長を兼務。
AI、量子コンピューターと金融などの融合領域で、数多くの研究と実務プロジェクトを推進。最近はAIエージェントの研究と応用が主要なテーマ。
主な著書に『機械学習ガイドブック』(オーム社)、『人工知能が金融を支配する日』(東洋経済新報社)、『数理ファイナンスの歴史』(金融財政事情研究会)がある。

記事の編集を終えて

2025年9月に刊行された櫻井さんの書籍「この一冊で深く理解するLLM・RAG・AIエージェントの本質」を拝読し、こちらの記事のもととなるインタビュー項目を用意いたしました。現在の生成AIの金融業での活用に必要な構成要素である、LLM、RTG、AIエージェントについて整理された書籍であることを認識しました。業務での知識や情報の活用という古くからあるナレッジマネジメントの解決策としてのLLMの活用について、丁寧に解説いただいた櫻井さんに感謝いたします。

こちらの書籍は現在の市場にある生成LLM関連の書籍とは異なっています。LLM関連の書籍の多くは、入門者向けの解説書が多く、それ以外であればRAGやファインチューニング、AIエージェントの実装ノウハウなどの技術的な専門書になるのではないでしょうか。櫻井さんの書籍では、プレプリントサイトで公開された学術論文などで速報として扱われた生成AIに関する要素が、生成AIの発展の流れに合わせ「要点」として整理されています。

例えば、LLMの言語能力を使ってLLMが学習していない社内文書等にある知識を使うため、RAGに対する期待が高まりました。そのRAGについて、初期のRAGの限界が何に起因するのか、LLMやRAGのハルシネーションの原因、RAGの精度向上といった流れがこの書籍のなかで「要点」としてまとめられています。

この「要点」を読むことで、2022年の登場からあまりに速い動きで、その動向を見逃してしまったLLMの要素をキャッチアップできます。LLM登場から最近までの流れとして形成されたLLMのChain-of-Thought(思考の連鎖)のなかで、見逃してしまった点や理解できていない点が読者の方にあると思います。LLMの進化の流れがChain-of-Thoughtとして丁寧に整理されています。LLMの進化のなかで十分な理解に至っていない点を補うためにも本書をお手に取ることをお薦めします。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

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