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A2A決済とは? ~A2A決済の今と未来~

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ここ数年でよく聞くようになったA2A決済とは何でしょうか?日本語で検索してみると「決済事業者を中抜きにする、加盟店を救う」といったあたかも世界を変える新しい仕組みが登場したかのように見えます。
果たして本当にそうでしょうか?本稿ではA2A決済をめぐる世の中の状況を読み解き、決済を取り巻く世界や日本の状況を改めて考察しました。そこからは決済の未来への期待が見えてきます。

世界を変える新しい仕組みの登場?A2A決済とはなにか?

A2A決済とは”Account to Account Payment”の略語が日本語になった言葉で、買い手の口座から売り手の口座への支払いを指しますが、口座から口座へ「直接」、つまり仲介者が存在しないというニュアンスが含まれています。決済事業者を中抜きにし、手数料が抑えられると期待される理由がここにあります。

またいつでもどこからでも、すぐに支払うことができる、といったこれまでになかった特徴も含まれています。
昔からある給料日に家賃を家主に振り込むATM振り込みや光熱費の定期的な口座振替等も、仲介者が存在しないという意味では「Account to Account」にあたりますが、スマホアプリからできたり、即時性を追求した新しいサービスが、昨今注目が高まっている「A2A決済」と呼ばれています。

A2A決済の定義

近年言われるようになった新しい言葉であるA2A決済を理解するには、もう少し金融システムの仕組みを詳しく見る必要がありそうです。

A2A決済が注目されるようになった背景

銀行の口座から口座へリアルタイムに直接支払いができるようになった背景には、1番目に、新しい技術を使ってこれまでにない便利なサービスを提供するFinTech事業者が多くあらわれ、FinTechへの期待が著しく高まったことがあります。
各国の規制当局や金融業界は、自然と、もしくは規制を緩和させる方向でこの動きを後押ししました。オープンバンキングというのはいわばこうしたムーブメント全体をさす言葉です。
その結果、銀行は人手を介することなく、コンピュータのアプリケーションが銀行口座の残高を参照したり、資金を移動させたりするインターフェース(これを銀行APIと呼びます)を用意して外部に開放するようになり、3年5年と時を経た今ではこの銀行APIへの理解が進み、さまざまな活用をされるようになってきました。
もう一つ忘れてはならないのは、ACHを始めとした、金融機関が昔から運営している決済システムのリアルタイム化が進展したことです。金融機関が運営するこうした決済システムは、資金の取りはぐれや不足、万が一支払先の金融機関が破綻した場合にどうするかといった安全性を考慮して設計されており、現代社会で金銭の授受をするために欠くことのできない重要な特徴を持っています。金融機関以外が構築することは、不可能ではなくとも、非常にハードルが高いことは容易に想像できるでしょう。
ACH (Automated Clearing House)
遠隔地への支払いを行うために、昔は手形が発行されていました。銀行に持ち込まれた手形は一か所に集められ、清算(Clearing)した上でその差額だけを銀行間でやり取りしていました。決済に必要とする全体の合計資金が少なくて済む重要なこの仕組みを提供していたのがClearing House(手形交換所)の起源です。歴史的には1日に1回行われるのが通例でした。手形の送付や、清算後の資金の受け渡しにはさらに時間を要します。

清算がコンピュータで自動化されるようになると、手形交換所は自動精算所、つまりAutomated Clearing Houseと呼ばれるようにもなりました。さらに近年では、IT技術や安全を考慮した取り決めやアルゴリズムの発展により1日1回から1日のうちに何回も行えるようになり、それがさらに進んで、今ではリアルタイムに行うことができるACHもあります。

日本には銀行が集まって運営する全国銀行データ通信システムがあり、米国には中央銀行が運営するFed ACHや民間銀行が運営するThe Clearing Houseがあるように、歴史的な経緯で複数存在する国もあります。発展途上国の中には先進各国が経験した歴史を一足飛びに飛び越えて最新の決済システムを構築した国もあります。
手形を遠隔地に送り決済に何日もかかっていたのも今は昔。先進各国や発展途上国も今では多くの国でリアルタイムに決済が可能になりました。銀行APIを使ってこうしたリアルタイムになった金融機関が運営する決済システムを間接的に利用できるようになった。これが近年A2A決済を可能とした大きな理由の2番目です。
もう何十年も前から存在しているACHが最近出てきた言葉である”A2A決済”のプラットフォームだといわれると、多くの金融機関の皆さんが違和感を覚えるでしょう。しかし、このように見てくると、A2A決済という言葉は、銀行APIのオープン化により、インターネットを経由してスマートフォンから銀行口座がより便利に使えるようになった現状と、より進化した決済システムの必然性や利便性を象徴し、その期待が表れている言葉だということが見えてきます。

A2A決済の現状

ここまでに見てきたように、A2A決済は、
銀行APIを活用した銀行口座から銀行口座への直接支払い
であり、
各国のリアルタイム決済システムを活用して即時に完了する
という特徴があります。
では、その決済件数や決済金額はどのくらいなのでしょうか?

ここでは参考までにいくつかのデータを紹介すると、世界のeコマース取引額におけるA2A決済のシェアは2022年時点で9%(5,250億米ドル)、その後2026年までにCAGR13%で成長すると推測されています。国単位で見てみると、ポーランド、オランダ、タイ、マレーシア、フィンランドの順にA2A決済シェアが高く、ブラジル、カナダ、インド、ペルー、タイの伸び率が高くなっています。
こうした利用拡大の理由を考えてみると、

A2A決済を提供するFinTech事業者が増加してきたことで身近な決済手段になった、

という単純な要素だけではなく、

A2A決済の安全性が売り手やエンドユーザーのメリットとなった、

という要素も挙げられるでしょう。
売り手にとっては、仲介する決済事業者を介さないため資金回収が早い、といったメリットが考えられます。
買い手にとっても、口座の増減がリアルタイムでわかりやすいといったメリットが考えられます。

A2A決済の急拡大?諸外国の現状

ここではA2A決済の諸外国における現状として、イギリス、インドを例に取り上げて見てみましょう。

イギリス

2008年にFaster Paymentを開始したリアルタイム決済システムの草分けであるイギリスでは、伝統的な口座間支払い方法に利用されてきたACHであるBACS(Bankers' Automated Clearing System)も同時に運営されています。

例えば伝統的な毎月の水道代はBACSを使い、止められてしまった電気をすぐに代金を払って再開したい場合にはスマホからFaster Paymentを使って支払うといった使い分けがされていますが、支払い方法を提供する銀行やFinTech企業の采配により、利用者は通常意識することがありません。
A2A決済の文脈では、Faster Paymentを利用する決済件数や金額が年々伸びていることが見て取れますが、BACSもなくなっているわけではなく、どちらも重要な役割を担っています。
金融を国家の戦略事業を位置付けているイギリスは、今現在も新しい仕組みを模索しており、A2A決済のフロントランナーとして、これからも注視していく必要があります。

インド

インドでは、UPI(Unified Payments Interface)という決済インフラが利用されています。
そもそもインドでキャッシュレスが推進された背景には、モディ政権の改革があります。

2014年5月に発足したモディ政権は、ビジネス環境改善のためにさまざまな改革を実施しました。
その中でも注目度の高かった改革の一つが、高額紙幣の廃止です。それまで現金が主流だったインドでは、この改革をきっかけにさまざまな決済手段が登場しました。

これらの決済手段がバラバラになっていては使いにくいため、まとめて統一してしまおうと作られたのが、最初に説明したUPIです。 その名の通り、銀行との接続インターフェースが統一され、銀行口座が活用しやすくなったことで、Google PayやWalmartに買収されたFlipkartに利用されるようになり、トランザクションを大幅に増加させることに成功しました。
後進国だった状況から、一足飛びに最新システムを構築して大きく発展した好事例であり、かつ銀行APIは標準化されないと使いにくいという本質的な課題を解決した国が、インドだといえるでしょう。

日本でも少しずつ進む国内の現状

日本のeコマース取引額におけるA2A決済のシェアは、2022年で7%と現時点で高いとは言えません。しかし、日本でもキャッシュレスの進展とともに、A2A決済といえる決済手段がいくつか登場しています。
その代表ともいえるのが、個人間小口送金システムの「ことら」です。ことらは、メガバンク5行の共同出資によって2022年から開始されました。エンドユーザー目線では、電話番号のみでリアルタイムに送金を行えるため簡単で、かつ現時点ではことらで使えるすべての金融機関が手数料無料です。
最近ではゆうちょ銀行もことらの取り扱いを開始し、利用の幅がさらに拡大していくことが期待されます。
また、近年開始されたデジタルバンクの中には、A2A決済にフォーカスすると明確に表明している銀行も現れています。それが、「みんなの銀行」です。
みんなの銀行はふくおかフィナンシャルグループ傘下のスマホ専業銀行で、口座振替APIを自社で開発しA2A決済スキームを提供するなど、B2B向けBaaS事業への取り組みを進めています。実際に三井住友海上プライマリー生命と連携し、APIを活用した生命保険商品の開発を行うなど、着実に事業拡大を続けています。

日本では普及が進まないのか?

実は、金融機関におけるキャッシュレス化の推進に関してこんな報告があります。

・2020年上半期(1月~6月)における、都市銀行等のキャッシュレスによる払い出し比率は53.7%と2019年上半期比増加

・2019年上半期と比較して2.8%比率が上昇。内訳をみると、2019年上半期と比較して、インターネットバンキングでの振り込みやクレジットカードなどの口座振替の比率が上昇
日本は過去からの金融業界のIT化の積み上げで、実際にキャッシュレスによる払い出し比率は50%を超えているのです。読者も多くの方が既に毎月の電気水道料金は銀行口座から自動引落しにしているのではないでしょうか?
つまり、今になってわざわざA2A決済を積極的に利用する理由があまりないという状況があるのかもしれません。
そうはいっても、まだ半分は現金が占めています。現金への支持は厚いようにも見えます。
でも、本当にそうなのか?と考えて、現金にまつわる不便を解消しようとして新しいサービスを展開しているのが、先ほど紹介したことらやみんなの銀行です。彼らは、この50%を開拓していくA2A決済の先駆者だと見られます。

A2A決済は進化した決済の姿、キャッシュレス化のチャレンジャー

A2A決済の定義や背景、諸外国と日本の現状について紹介しました。
A2A決済は全く新しい決済の仕組みのように見えますが、FinTech事業者が多くあらわれた、というオープンバンキングの潮流や、ACHなど既存決済システムのリアルタイム化といった背景から、決済の仕組みが進化した結果がA2A決済であるといえます。
政府の意図的な改革やもともとの文化に沿った自然な流れ等、A2A決済の広がりは各国さまざまです。日本での普及はフィフティフィフティで、ことらやみんなの銀行の取り組みに続き、まだまだチャレンジする領域は残っているといえるでしょう。

2023年NTTデータ新卒入社。
金融分野を横断するビジネスデザインやコンサルなどによりビジネス創出を担う、金融イノベーション本部に所属。
学生時代はITとも金融とも無縁であったため、知識習得に向けて日々奮闘中。
現在はコンサルタントとして金融機関を顧客に持ち、ビジネス戦略検討や決済関連・地域創生関連等の新規事業創出支援を行っている。

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