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最新の決済トレンドはこれだ!~Singapore FinTech Festivalレポート

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日本でもキャッシュレス決済が普及したと言われていますが、世界では次世代決済システムへの挑戦がすでに始まっています。今回は、2023年11月に開催された「Singapore FinTech Festival」について、キャッシュレス決済がご専門のNTTデータ経営研究所 大河原さんによる現地レポートをご紹介します。最新のキャッシュレス決済トレンドと次世代決済の展望が分かります!

本記事はNTTデータが運営する「API gallery」プレゼンツで2023年12月21日に開催したウェビナー「API gallery™ MeetUP ~Vol.22“金融Foresight~Singapore Fintech Festival2023より“」の内容を記事化したものです。
API galleryでは随時ウェビナーを開催中です!過去の企画、および今後の開催予定は以下のリンクをご覧ください!

Singapore FinTech Festivalの様子

大河原さん ​私の参加したSingapore FinTech Festival(以下、SFF)は、シンガポール政府のMonetary Authority of Singapore( 以下、MAS:内国歳入庁)の主催による金融テクノロジーの最先端を紹介する世界有数のイベントです。開催期間中、小国のシンガポールに世界150か国から66,000人を超える人々が参加し、スピーカーは970人以上にも及びました。またスポンサーは700社以上が名を連ねています。各ブースでは世界中の方が活発な議論が繰り広げられ、熱気にあふれていたのが大変印象的でした。

SFFでは、金融ビジネスのみならず、環境や社会にも貢献をしていく金融関連企業が「テクノロジー」、「レギュレーション」、「タレント」、「ESG」、「ファウンダー」の5つのテーマを設けセッション等を行いました。

図1:SFF2023の主要テーマ

今年は、特にテクノロジー分野の生成AIが注目されました。生成AIをどのように利用するのか、ガバナンスをどうするのか等、様々な議論がありました。また、レギュレーション分野では、生成AIをどう規制するか、クロスボーダーでのレギュレーションの形成、アセットトークンの流通も活発に議論されました。

<事例1>Master Card

​メイン会場とは別に、Labcrawlという会場が設けられ、世界の大手機関やFintech企業19社が最新のテクノロジーを紹介していました。私はその一つのMasterCardのイベントに参加しました。

図2:Labcrawl 2023 Partners

MasterCardが描く“The Future of Payment(決済の未来)” では、9つの要素に注目していました。従来の物理的なカード決済から電子決済へ、さらには生体認証を使った決済へと移り変わってきています。加えて、実世界のエコな活動が資産となり、“トークン”という形で具体化され、決済の価値(payment value)に変化することで決済に活用できること。これがマスターカードの新たな世界観の要素だと説明されていました。

近年、ウォレットによる価値(value)の管理が注目されており、日本でもこれからの金融サービスは総合的な形へと変化していくと言われています。アプリを主軸に据え、さまざまな価値を一元的にウォレットで管理する方向に進むと思います。

MasterCardでは、環境を意識したソーラークレジットを具体的な取り組みとして挙げています。こうしたクレジットそのものを個人が直接管理し、決済に活用できるようになるでしょう。

さらに、不動産やNFTのような実物資産もアセットトークン化され、決済のための価値(value)に変換し、適切に管理することが必要となります。預金口座だけでなく、仮想通貨や資産、クレジットといった自分の支払能力をまとめて把握し、これらのさまざまな価値を管理していく世界になると考えられます。

図3:ウォレットで管理するバリューの姿

<事例2>JPモルガン(銀行)とCircle(ステーブルコイン発行業者)のディベート

JPモルガンとCircleの金融包摂についてのディベート形式のセッションに参加しました。

ステーブルコイン発行者側代表のCircleは、ナイジェリアからマレーシアに1ドルを送金するときに、高額な手数料を払って米国の銀行を経由しなければならないのが本当に適切なのかを問いかけ、ウクライナ難民が私たちの当たり前だと思っている「銀行や決済へのアクセス」を容易に利用できない状況に置かれていることを背景に、ステーブルコインの必要性を訴求しました。

一方、銀行側代表のJPモルガンは、世界の金融包摂の観点から、銀行預金のように規制に対応した安全な資金決済が行える社会インフラが重要だと考えています。トークン化された預金でもステーブルコインでも、銀行がKYCを行う等して担保する安心・安全な資金でなければならないと主張しました。

例示したようなアフリカやウクライナなど金融アクセスへの難しい地域の人々にとって、ステーブルコインは新たな資金決済手段となり得る可能性が見えてきました。そして、JPモルガンはそのような問題解決に積極的に取り組む姿勢を見せています。

<事例3>EV(Electric Vihicle)×AIのリテールマーケティング

Master Cardは、電気自動車(EV)を「大型のスマートフォン」として見立て、移動中に得られる位置情報や車載カメラの画像情報を生成AIで分析し、それを元に同乗者にパーソナライズされた情報を提供します。さらに、移動情報と決済処理を連動した新たなビジネスモデルのデモを行っていました。

具体的には、ドライブ中にドライバーの好みのお店やイベント情報など提供してくれます。EVのバッテリー残量が少なくなると、最寄りのEV充電スタンドへ案内します。充電後はEVに設定済みのクレジットカードで自動的に決済します。このように、自動車の中から直接決済できるような技術検討が始まっています。

図4:EV×AIでのリテールマーケティング

また、Master Cardは、電気自動車を移動するデータソースと捉え、EVメーカーと連携して取得したデータを解析することで、ドライバーや同乗者の好みを分析し、その人に合ったリコメンド情報を提供するという革新的なアイディアでアプローチしています。これは、生成AIをマーケティングの観点からうまく活用するという一例です。単なる決済だけでなく、総合的なサービス提供を行い、ドライバーの利便性や体験向上を図る取り組みを行っているのです。

<事例4>AIコンシェルジュサービス(デジタルID×エコシステム×決済)

個人のデータの利用が増えるにつれ、データの個人主権が重要になってきます。データ流通基盤としてのDigital IDは、この問題を解決する鍵になると思います。

今回のイベントで、私は現実世界でもデジタル空間でも利用できるDigital ID作成を体験しました。名前、顔のアバター、指紋や手の形、声紋、虹彩などの生体情報を登録しました。このDigital IDの利点は、決済やバンキング、メタバース空間でも利用できます。

さらに、私はパスポートをトークン化し、デジタルパスポートとして登録するデモにも触れました。スマートフォンにインストールした「AIコンシェルジェ」を使って、航空券の予約から旅先のホテルやレンタカー、レストランに至るまで、個人のニーズにマッチしたサービスを受けることができるのです。このように、パートナー企業が個人で登録したデータに基づいて、最適なレコメンドを返してくれます。

図5:デジタルID×エコシステム×決済(AIコンシュルジュサービス)

Digital IDは、氏名、生年月日、住所、インターネット上の行動・購買履歴といった様々な個人情報をデジタル化したものです。デジタル世界において本人認証や承認のための証明書として機能します。そのため、Digital IDは安心・安全に情報を流通させ、適切な活用のためのインフラと位置付けられます。具体的な実現はもう少し先ですが、生成AIを活用して個々に合ったレコメンドを提供してくれるような、新たな可能性を発見することができました。

<事例5>A2A(Account to Accont:銀行口座間)クロスボーダー決済

2018年にMASが導入した統一QRコード決済「SGQR(Singapore Quick Response Code)」は、標準化された単一QRコードで複数の決済に対応できます。それまで各業者が個別に提供していたQRコード決済を統一したもので、店舗は電子決済毎のQRコードを準備する必要がなくなりました。現在ではシンガポールの9割を超える事業者に利用されています。

【図6:A2Aクロスボーダー決済・送金 「QRコード決済 “SGQR+”」】

2023年11月に開始した新規格「SGQR+」では、複数アクワイアラー(Acquirer:加盟店契約会社)が必要だったSGQRの発展として、単一のアクワイアラーを可能とした国際規格を実現しています。同じQRコードを利用して複数の精算が処理できるため、個別の金融機関、決済サービス会社との提携が不要となり、店舗にとってはよりシームレスな精算プロセスになりました。SGQR+はこれまでのシンガポール国内での決済に加え、Alipay+(中国、香港など)、ITMX(タイ)、PayNet(マレーシア)など国際決済ネットワークにも接続できます。さらに、即時の送金ネットワークとして接続することするなどマルチラテラル型のクロスボーダー決済(※1)が行えます。特にASEAN地域では相互利用可能な金融インフラのスキームが構築されています。

シンガポールは、「NEXUS」というBIS(Bank for International Settlements:国際決済銀行)が推進するマルチラテラル型のクロスボーダー送金プロジェクトに参加をしています。このプロジェクトは、各国の既存の決済システムを利用して、国家間、さらには銀行口座間の即時送金の実現を目指しています。今回のSFFでは、NUXUSプロジェクトでのASEAN5ヵ国のパートナーシップが発表されました。

(※1) マルチラテラル型クロスボーダー決済: 単一のネットワークシステムを通じて、複数の国家間での国際決済を実現したもの。リアルタイム性が高く、送金コストが安い。

図7:A2Aクロスボーダー決済・送金「NEXUSプロジェクト」

このイベントを総括すると、スマートフォンを活用したAIによる個人データを使ったマーケティングやユーザー体験の強化がトレンドとして報告されていました。現実世界の様々な資産を日用品の購入に使えるようなアセットトークンの利用拡大も予想されます。また、ASEAN地域では、リアルタイムでのクロスボーダー送金・決済ネットワークが既につながっています。今後、日本での展開にも注目していきたいと思います。

日本のキャッシュレス決済 未来予想

青柳さん ありがとうございました。
日本のQRコード決済などは、海外が先行していて、そのトレンドが日本に入ってくることが多いと思います。

大河原さん QRコード決済で先に動いていたのがASEANです。QRコード決済をどのように活用するのか、加盟店拡大はどうするのか。シンガポールでは、いち早く統一QRコード「SGQR」を作って、2018年頃から国として推進していました。サービスレベルもインフラレベルも、日本は学ぶことが多いと思います。

シンガポールではほとんどの店舗でタッチ決済が利用できるインフラが整っています。私はApplePayにビザカードを登録しているため、財布からクレジットカードを出すことはなく、スマホ決済で完結しました。
2023年9月には、カナダ トロントのSibosにも参加したのですが、鉄道やお店でタッチ決済が利用できました。唯一利用できなかったのは、ホテルのチップです。どちらの国もコード決済インフラが整っている印象でした。

青柳さん クレジットカードのタッチ決済、QRコード決済、他の決済と様々な決済手段が考えられますが、今後日本はどのような決済が主流になっていくと思われますか。

大河原さん タッチ決済とQRコード決済が併用されるシンガポール型が進んでいくと思います。外国からのインバウンド観光客が多い地方の観光地などでは、交通系のFelica以外のタッチ決済が主流になっていくと考えています。

青柳さん スマートフォンを使ったタッチ決済では、トークン化の技術が利用されていることはあまり知られていません。ApplePayやGooglePayに登録されているクレジットカード情報は、実際にはスマートフォン上でトークン化され、安全に決済できる仕組みが確立しています。

大河原さん SFFでは、生成AIとトークン化が重要なテーマでした。トークン情報のメリットは、紛失しても問題にならないことです。パスポート、運転免許証、健康保険証など私たちの大切な情報を安心・安全にやり取りをする基本的な考え方を理解し、広めていくことも大切なのだと思います。

青柳さん シンガポールのSGQRに該当するJPQRが日本にもありますが、こちらは今後どのようになっていくでしょうか。

大河原さん 日本特有の事情があるため、一本化の流れにはならないと思います。
シンガポールではアクワイアラー(Acquirer:加盟店契約会社)が個々に存在していますが、政府は統一するようなインフラを作りました。しかし日本でこの議論が起こった際、QRコード決済をやりたい事業者が乱立していたため、開拓した加盟店が他のアクワイアラーに自由に利用されてしまうのではと疑心暗鬼になりました。そのため、今後も統一QRコードという流れにはならないと思います。

各国に適合した送金ネットワークを広げて、クロスボーダー決済が広がってきていると思います。日本に身近なコード決済を中心にして、送金する人が外国で稼いだお金を使えるようにするという動きが出てきているのは良い点です。

今後、日本でも外国籍の労働者が増えていくことを見据え、自国へ送金するためのクロスボーダー決済は注目されるようになると思います。人の往来に結果的に送金が付いてくるのです。

青柳さん SFFでは、CBDC(中央銀行デジタル通貨)の普及と、ステーブルコインの普及についての議論はあったでしょうか。

大河原さん CBDCのテーマにも触れられていましたが、生成AIに比べて大きく扱われてはいませんでした。一部有識者が、CBDCは日常的な買い物や送金に利用するところに至らないのではないかと疑問を投げかけていました。CBDCのユースケースとしては、リテールではなく、各国の中央銀行間がクロスボーダーで資金決済を行うユースケースが考えられます。

青柳さん 2024年、生成AIはどのように利用されていくとお考えでしょうか。

大河原さん 金融機関としては、生成AIが事務処理やシステム開発の効率化に活用できるかが課題だと思います。

注目される例として、ANTグループ(中国のアリババグループの金融会社)が生成AIを使った金融アプリをリリースしていることが挙げられます。金融総合アプリのシミュレーション機能にも活用できるようになると期待します。しかし、解決すべき課題は、金融機関の信用です。日本では金融機関が間違えないことが要求されますが、生成AIは間違った内容をあたかも正確な情報のように表示することがあります。そのため、生成AI利用では、リスク管理やガバナンスの観点で、サービスを適用するための策について議論が必要だと思います。

青柳さん 最後に、2024年に向けて意気込みお願いします。

大河原さん 生成AI話に注目しています。これは金融分野だけでなく、決済分野において生成AIのユースケースを研究できればと思っています。

大河原 久和さん
NTTデータ経営研究所 クロスインダストリーファイナンスコンサルティングユニット アソシエイトパートナー
グローバルでのペイメント(決済)制度やネットワークの研究、政府や団体のキャッシュレス推進にかかる事業企画、 調査、委員会運営の支援、及び事業会社における決済関連の事業企画や 決済ネットワークに関するコンサルティングに取組んでいる。2018年経済産業省公表の「キャッシュレス・ビジョン」策定、2019年(一社)キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ビジョン2019」プロジェクトにてリーダーを務める。

青柳 雄一さん
NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人財戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。

3人の子育てをしながら15年にわたり品質・生産性データや外注データの分析に従事。2018年よりブロックチェーンチームで広報を担当し、2020年に運営を開始したTradeWaltzの立ち上げ時の広報対応を行う。趣味の旅行では、その土地ならではの美味しいもの見つけたり、ローカル電車に乗ることを楽しんでいる。鉄道好きなので、オクトノットのテーマに取り上げたいと画策中。

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