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挑戦者と語る

障がい者活躍を推進する”だいち”と“エコカレッジ”が地方で育むミライ

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栃木県の那須にある廃校舎で出会ったNTTデータだいちと有限会社エコカレッジは、障がい者が活躍する古本販売という新規ビジネスを生み育てています。そこには都市と地方を結んで新規ビジネスを起こすノウハウや、人財を活かし事業を通じて社会課題解決に貢献するミライを先取りした思想や知恵がありました。「NPO法人 知のアトリエ」の理事長でもあり、島根県に拠点を持つ「有限会社エコカレッジ」の代表である尾野寛明さんと、障がい者活躍に取り組むNTTデータだいちの菅家裕さんに聞きました。

地方を拠点とした「古書ビジネス」

──オクトノットがお二人のことを知ったのは、NTTデータの本社玄関で行われていた古本の寄付イベント。これを紹介した社内記事がきっかけでした。5日間で集まった1,500冊以上の古本は、コンテナで那須の「知のアトリエ」に運ばれ、そこからAmazon等のネットで出品されて、全国に販売されます。
こうした地方を拠点とした「古書ビジネス」という事業に目を付けたのはなぜでしょうか?
尾野さん 最初は2001年の大学入学時、教科書のリサイクル試験販売を行っていたところから始まりました。
5,000冊を回収して約半分を売りさばきましたが、残りをどうしようかと思っていたときに当時まだ一般的ではなかった中古商品のフリマサイトに出品してみました。

教科書というより一般専門書として全国に売れることが分かり、中古専門書を中心とした通販特化型ビジネスとして会社を設立することにしました。

東京都文京区の雑居ビルの狭い地下を格安で借りて学生5人でのスタートでした。5年ほど東京でやっていましたが限界も感じていたところ、大学で地域産業研究のゼミに所属しており地方を拠点とするビジネスの可能性に気づき始めていました。

大学院に進学し、当時研究室が島根県の産業創出の取り組みについてフィールド調査をしており毎月通う日々だったこと、父親も島根県出身であったことから縁を感じ、そのまま本社まるごと島根県に移転させることにしました。

東京に比べて家賃は100分の1。回転率の悪い専門書は倉庫代が悩みのタネでしたが過疎地のデメリットを逆手に取る発想で事業は拡大していきました。
─島根県を拠点としているのは、そんなご縁があったのですね。古本事業の他にもいろいろな取り組みをされています。
尾野さん もう一つの事業の柱として、地域の次世代の担い手発掘育成に取り組んでいます。

島根の現場に身をおいているうちに地域の「担い手」不足の深刻さに気づくようになりました。40~50代の数少ない若手に自治会、見守り、地域の共同作業などさまざまな役が集中してしまっている。
かたや地域を見回してみると自身の趣味や特技でなにかしてみたい、人の役に立ちたいと思っている人が多くいることに気づきました。

ただ、自身の空き時間を活用して実践したいが、地域の既存の活動の枠組みでは難しいと感じている。
多くは子育て中の方や、普段は仕事をしていて週末に時間のある人、そしてシニア層です。なにかしてみたいけれど、何から初めたらいいかわからない。

そんな人達を勝手に「週末ヒーロー」と呼ぶことにしまして、簡単な企画書づくりやプレゼンづくりではじめの一歩を後押しする取り組みを始めました。

約半年間にわたり、月1回の連続講座方式を採り、2011年に島根県で始めて今では全国28ヶ所に広がりました。週末は全国のどこかにいる生活をしています。
─島根から全国に広がったのですね
尾野さん おかげで古書事業も新たな拠点ができました。
慢性的な赤字にある千葉県の三セク鉄道会社「いすみ鉄道」の新たな収益源として、古書の寄付で鉄道を応援できるプロジェクト「い鉄ブックス」がスタートし、2020年のスタートから既に4万冊の寄付を集めるまでになっています。

弊社のネット通販在庫も5万冊ほど移動し、地元のパートさん7名を雇用する体制ができました。

全国への発送を待つ通販在庫

まちづくりとの融合

─投げ売りせずに、次に必要とする人に繋ぐエコカレッジの古書ビジネスモデルは、そんな地域との繋がりを大事にしているからできるのですね。
尾野さん 古本というのは地域の場作りにはとても向いていると思っています。空き店舗や遊休施設の活用を考えたときにまずはきれいに本を並べておくだけでその場の見た目もがらりと変わる。
大きくは儲からないけれどそこに小さな仕事が作り出せる。そうやってまずは人の流れを作り出してみて、ある程度やってみてから、じゃあ本格的にその場の活用方法を考えてみようか、となればいいんじゃないかと思っています。
─利益を上げるのが難しいと言われることも多いですが、向きあいかた次第ということでしょうか?
尾野さん 新規事業の種を考えたときに「あれが儲かる・これが儲かる」ではやっていけない時代なのかなと思っています。

人々の価値観が多様化する中で深刻な社会課題も数多く顕在化している世の中です。このような課題に目を向け解決の糸口を探っていくことで画期的なソーシャルビジネスが数多く生まれています。
そんな中に次世代のビジネスの種は多く埋まっていると思います。そうやってサステナビリティというものに向き合っていくこと自体が大事なのかなと考えています。
菅家さん 古書事業、と聞いて、最初は採算が成り立つのだろうか?と思いました。都市型のライバル企業もありますしメルカリのような個人売買もありますから。

でも、島根県での実績やいすみ鉄道連携など、Amazonプラットフォームを活用した“繋ぐ力”の威力、英国でも古書事業で町おこしに成功した例があることも知りました。

書棚で眠っていた本が活性化して、障がい者活躍と地域創生をもたらす、素晴らしい取組だと今は思っています。
尾野さん そんな「古本とまちづくり」の拠点づくりが全国へ広がっています。
古書事業とまちづくりの事業は弊社でも別物として扱っていたのですが、創業20年以上、地方へ移転してからも15年以上が経ちまして、両者が融合しつつあります。

那須で出会った古書ビジネスと障がい者活躍

─そんな古書事業が那須にやってきました。那須にもそうしたご縁があったのですか?
尾野さん 栃木県那須町にあった全寮制中高一貫校「那須高原海城学園」は東日本大震災の影響で閉校となりました。

私自身が東京の海城学園出身だったということもあり、2017年頃から那須海城学園の跡地活用検討委員会のメンバーとして加えていただいていました。学園理事長の「跡地を現代の知のアトリエとして再生したい」との願いをくみとり、アイディアを議論していきました。

まさか自身が主力メンバーになるとは思っていませんでしたが、地域の担い手育成モデル、そして古書寄付モデルに興味を持ってもらったこともあり、まずは跡地に動きを作ろうということになり、2022年9月に「NPO法人 知のアトリエ」が設立となり理事長の職を拝命しました。

那須町周辺そして都市部在住の人々に新しい学びに触れる機会を創出し、自身の能力や余暇を活かした研究・創作活動の場を提供することで、現代の新たな「知のアトリエ」を那須町に創出する活動を進めていきたいと考えています。
─那須には2009年からNTTデータだいちの事業所がありました。
菅家さん 那須事業所の牧場業務に従事する社員たちは付近にあった海城学園那須校の生徒たちと仲良しでした。
廃校となりましたが、知のアトリエとして再出発を決めた時、現地の施設管理と古書の登録・出入荷を引き受けることになったのは自然な流れだったと思います。
当事業所にとって牧場業務以外の幅出しを狙う意味もありました。
尾野さん 障がい者雇用と古本は非常に相性がよく、出品作業や在庫管理、売れた商品の発送作業などさまざまな仕事を作り出すことができます。対面のプレッシャーもなく、全国的に導入が進んでいるといえます。

今回は首都圏のNTTデータグループで働く皆さんが寄付した本が那須で障がいを持つ人々に仕事の機会を生み出しました。
菅家さん 那須事業所では知のアトリエの建物周囲の夏草を刈ったり落葉をかたづけたり、届いた古書の査定・ネット登録と書庫整理、購入注文が入れば出荷に当たることになりました。
─そんな場として廃校から生まれ変わった知のアトリエの今後が楽しみですね
尾野さん 2022年10月には那須海城学園キャンパス跡地にてフレイル(健康な状態から要介護へ移行する中間の状態のこと)予防のための健康体操教室を実施しました。

2023年春には都市部からの大学生8名を対象として、キャンパス跡地の活用方法を考える2泊3日のアイディアツアーを開催予定です。

企業の先進的な試験研究の場としても活用を進めており、グラウンドでは近所の牧場さんによる「牛がつくる地域循環プロジェクト」と題して、グラウンド牧草地化に向けたチャレンジが進んでいます。

また、造園業の事業承継を支援する一般社団法人が設立準備中となっており、さまざまな方がこの場所で新たな動きを模索してくれています。
─牧草地化、というお話がありましたが、那須事業所では牧場業務を営んでいます。
菅家さん 農福連携という言葉があります。
農業と福祉の連携ですが、知的障がいや精神障がいの人々が働く場として自然を相手にする農業は注目されています。

当社は6次酪農を営む森林ノ牧場株式会社のパートナーとして牛の世話から乳製品製造まで広く同社の業務に携わっています。
牧場に隣接する高齢者住宅の清掃、廃校になった小学校を地域拠点として再生した那須まちづくり広場の清掃にも当たっています。

那須地域で当社は森林ノ牧場、那須まちづくり広場、知のアトリエ、焼き菓子を製造委託する菓子工房くるみの森など共生の仲間がいます。

ここには日本の社会課題に取り組む縮図があります。人財・組織力の最大化やサステナビリティ経営に取り組むさまざまなチームに訪れてもらい、お客様を含めたチームビルディングの場に活用してもらえたらと、ご案内を準備しています。

─古書も牧場も、障がい者が大活躍していますね。
菅家さん NTTデータとともに標語を障がい者「雇用」から「活躍」に変えました。義務だからというだけではなく、バリアをなくし多様な人財を活かす、DEI(Diversity, Equity and Inclusion)やサステナビリティ経営という戦略方針に沿った見直しです。
─我々も会社のある豊洲に行くと、いつも元気に挨拶してくれるだいちの方々によく会います。
菅家さん はい、声をかけていただくことは社員にとって働く喜びです。オフィス内の軽作業やマッサージ業務に当たる社員はグループのみなさんと接点が多いですが、那須事業所の酪農や札幌事業所の集約事務に当たる社員は交流機会が限られます。在宅でWEB関連業務に従事する完全フルリモートワーク社員は160人を超えましたが、こちらもお客様との接触機会は限られています。



菅家さん
 NTTデータが業務のDX化を進める中で、オンサイトとオフサイトの両面で障がい者の職域を増やしたい、そのため彼らのワークやライフを知ってもらう発信と交流を強化しています。制度やツールやジョブコーチが彼らの「働く」を支援してきましたが、協働の職場をさらに広げる上で、理解者を増やすことが大事だからです。



菅家さん
 視察やチームビルディング目的で那須にお越しになる皆様に、障がいに関する基礎知識や体験を提供することで、理解の浸透と行動変容のきっかけが生まれれば、と考えています。
─働いているひとりひとりをとても大切にされていることがお話しから伝わってきます
菅家さん NTTデータは公式WEBサイトで“DEIをグローバル競争に勝ち抜くための重要な経営戦略のひとつとして捉え、「多様な人財活躍」と「働き方変革」の2軸で新たな企業価値の創出を目指す”と表明しています。

“Diversity, Equity and Inclusion”すなわち“多様な個を公平に受容”ですが、公平(Equity)とは何でしょう? 平等(Equality)は近代社会が確立した重要な理念ですが、個人の社会参加は事情に応じ公平に支援されるべき、それが“お互いさま”で支えあう共生社会、ということだろうと思います。

金融の世界でEquityといえば資本。担保に優先順位があるDebt(負債)と違い資本はリスクを「公平」に引受けます。 法律の場合は、コモンローの法体系を持つ英国で、杓子定規の判決とならないようエクイティローが「公平」を保つと聞きました。

DEIは人権をベースに置きつつ、変化を乗り越え豊かで調和のとれた社会実現への道で、企業が果たす役割もそこにあるとされます。

つまりDEIを促す公平の仕掛けをツールやシステムとして創造するのが企業であり、さまざまな障がい=バリアを乗り越え社会経済活動への参加者が増えることで、SDGs・持続的経済成長が実現するという考え方なのだと思います。

少し長くなりましたが、NTTデータグループがお客様と共にそうした働きを進める企業集団に進化する、その気づきに役に立ちたい。先に述べた当社の障がい者活躍への取り組みの狙いもそこにあります。

多くの人々に支えられる当社だからこそ、事業を通じた社会課題解決に取り組むNTTデータグループに気付きの場を提供して“人々を支えるだいち”をめざす、これが当社のビジョンです。

地域で新規ビジネスを実践するということ

─尾野さんは総務省の地域力創造アドバイザーでもいらっしゃいます。せっかくですからオクトノット読者にもアドバイスいただけないでしょうか?
尾野さん 私自身が東京から島根に拠点を移して良かったなと思うのが、「その日から主役になれる」という点です。

都会では三軍、田舎では即一軍。都市部にいると多くの優秀な人に埋もれてしまいがちですが、田舎は若い人が少ない。偉い方にもすぐに会えるし、そうした中で自身の経験値を高めていけたと思っています。

反面、地方はもともとパイが限られていることもあり、よくビジネスモデルを考えないと都市部以上に苛烈な競争となってしまうことがあります。

優れたアイディアで地元企業や行政から仕事を獲得できたとしても、何年か先には誰かがさらに上を行くアイディアを編み出しているかもしれない。そして、その相手もお互いに知った顔であることがほとんどです。そういう環境が苦手な人には難しいかもしれませんね。
─新規事業への取り組みという観点ではいかがでしょう?
尾野さん これまで都市農村交流事業や地方版ビジネスコンテストの立ち上げ、担い手育成事業、障がい者就労支援事業、中間支援NPOの立ち上げなどさまざまな事業に携わってきました。

あったらいいなと地元の人々は思っているけれどもみんな忙しくてなかなかやる余裕がない、そんなところに私がふらりと現れて、あなたはここを協力してくれ、あなたはこういうところを見ておいてくれと人と人をつないで今までなかったものを組み上げていくのが一つの仕事だと思っています。

すぐにお金にならないことも多く、雇用創出効果や関連するイベント等での経済効果、事業が実現することで流出を防止できる社会損失効果などを粘り強く説明していく姿勢が求められます。

そして、実現してみんなが喜んでいる頃には私は既に必要とされなくなっていてとても寂しい(笑)、でもそういうのすら楽しめる人は向いているかもしれませんね。
─寂しいけれど、必要とされなくなるということは、地域に必要な仕組みが出来上がっているわけですね。

そんなミライを目指して新規事業を楽しみながら育てているお二人に、今日はたくさんのヒントをいただきました。オクトノット読者のみなさんの参考になれば幸いです。


<プロフィール>
尾野 寛明(おの ひろあき)さん

尾野 寛明(おの ひろあき)さん

有限会社エコカレッジ 代表取締役
学生時代にエコカレッジを創業し、現在は島根県仁多郡奥出雲町三沢の本社から全国を駆け回る社会企業家。NPO法人 知のアトリエ理事長の他にも各地で歴任。総務省 地域力創造アドバイザー
一橋大学大学院商学研究科日本企業研究センター研究員等を経て、現島根県中山間地域研究センター客員研究員
埼玉県生まれだが、父は島根県出身
菅家 裕(かんけ ひろし)さん

菅家 裕(かんけ ひろし)さん

菅家 裕(かんけ ひろし)さん
株式会社NTTデータだいち 代表取締役社長
NTTデータ創設から銀行営業や財務・経営管理部門を経験し、
NTTデータ四国、NTTデータマネジメントサービスを経て現職
福島県出身

1994年株式会社NTTデータ入社以来、インターネット黎明期のEC構築、初期の携帯電話へのPayment機能搭載、海外への着メロ壁紙配信からブロードバンド黎明期の動画コンテンツ配信の実証実験等、数多くの新しい分野への取り組み検討に携わる。いつの間にか15年以上のキャリアになった金融分野でも変わらず、先物システムへの新しい通信方式導入、銀行基幹システムのオープン化、その海外への展開、スマホペイメントの検討など、ひとところに落ち着くことがない。現在は金融×デジタルの最新情報を追いながら、今度は早すぎないよね?と時代とにらめっこしつつ新しい可能性を探っている。最近は車にはまっている。

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