「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

挑戦者と語る

NTTドコモ dスマートバンクの仕掛人と語る Embedded Financeの最新動向

画像

昨今、さまざまな業種の企業が、自社のサービスと銀行の機能を組み合わせた新たなサービスの創出に挑戦しています。こうしたトレンドを象徴するキーワードが「Embedded Finance(組込型金融)」です。銀行による金融機能の提供をあらわす「BaaS」とともに盛り上がりを見ています。この分野には日本航空の「JAL NEOBANK」や、東日本旅客鉄道の「JRE BANK」など、大手企業からも続々と参入が相次いでいます。2022年12月に開始した「dスマートバンク」もそのひとつ。今回は「dスマートバンク」を立上げたNTTドコモの色川さんと、キャッシュレス界隈で活躍の幅を広げるNTTデータ経営研究所の大河原さんが、Embedded Financeの最新動向を語り合いました!

本記事はNTTデータが運営する「API gallery」プレゼンツで2023年2月20日に開催したウェビナー「API gallery Meet UP ~ Vol.14 “【特別対談】Embedded Finance/BaaSの最新動向”」の内容を記事化したものです。
API galleryでは随時ウェビナーを開催中です!過去の企画、および今後の開催予定については以下のリンクをご覧下さい!

金融が溶け込んだ新たなサービス

青柳さん Embedded Financeは、金融機関のサービスと金融機関以外が提供するサービスとを連携する、新たなサービス提供モデルとして注目されています。この新たなモデルの概要と、トレンドについてお聞かせください。

大河原さん これまで多くの金融サービスは、金融機関が直接エンドユーザーに提供していました。口座引落、クレジットカード決済などが代表例です。

昨今注目を集めるEmbedded Financeは、金融機能を自社のサービスと組み合わせるサービス形態で、これによって金融機関以外の事業会社もエンドユーザーに金融サービスを提供できるようになります。Embedded Financeは、日本語では組込型金融と呼ばれています。

2019年10月に全国の金融機関が加盟する日本電子決済推進機構が開始したスマホ決済サービスBank Payもこうしたモデルのひとつです。Bank Payには銀行口座決済を機能として提供する仕組みもあり、アパレル、小売りなどの金融機関以外の事業会社が自社のサービスに銀行決済機能を組込むことができるようになりました。

例えばUNIQLOは、Bank Payが持つ決済機能を利用し、UNIQLOアプリで決済できるUNIQLO Payを提供しています。

図1: 金融機能を自社のサービスと組み合わせるサービス形態のイメージ(NTTデータ経営研究所作成)

青柳さん ところで、Embedded Financeと一緒にBaaSというキーワードもよく使われますが、この2つの言葉の違いについてどのようにお考えでしょうか?

大河原さん Embedded FinanceもBaaSもその価値を体験するユーザーから見たら本質的な違いはないと思っています。“Embedded”は組込まれているという状態を示す受動態的な意味合いが少なからず入ってきます。

金融機関以外の事業会社からすると、メインで存在する自社サービスに金融機能を組込むため、金融機能がEmbedded(組み込まれている)という見え方になります。一方金融機関からすると、金融機能をサービスとして他社に提供しているため、BaaS(サービスとしてのバンキング機能)という見え方になるわけです。

青柳さん ありがとうございます。Embedded Financeには、どのような事例がありますか?

大河原さん エンドユーザー向けのサービスが、さまざまな形態やアライアンスの組み合わせで登場してきています(図2参照)。事業会社が自社のサービスに金融機能を溶け込ませるような形態もあれば、事業会社が表に立って新しい金融事業の形を作り出そうとするような形態もあります。

また、銀行と企業が1対1というケースもあれば、複数の銀行機能が結びついているケースもあります。例えば先述したBank Payの場合、事業会社はBank Payに参加している多数の銀行の決済機能を利用することができます。

図2: Embedded Financeと呼ばれる組込型金融のイメージ(NTTデータ経営研究所作成)

ビジネス規模は5年で10倍に!?

青柳さん Embedded Financeの国際的な動向についてはいかがでしょうか。

大河原さん 調査会社のリサーチ結果によると、米国ではEmbedded Financeビジネスの一層の拡大が予測されています。特に決済分野のビジネス規模は2020年の2.1億円から、2025年には23億円と10倍以上の数字です。まだまだのびしろがある状態だと言えます。

図3: Embedded Financeのビジネス規模の予測 (eMarketer「FORECAST:Embedded Finance Market Value」に基づきNTTデータ経営研究所が作成)

Embedded Financeビジネスを手掛ける代表的な金融機関としては、米国のgreendotbankという銀行があります。この金融機関は、Appleカードなどの発行主体として知られています。

Apple以外にも事例があります。例えばAmazon、Uber、Walmartは、いずれも大規模な事業会社ですが、金融事業のライセンスを自ら保持するという選択をせず、greendotbankの金融機能を利用しています。Embedded Financeの利用で最適なユーザー体験を提供しています。

図4:代表的なEmbedded Financeの米国greendotbankのサービスイメージ(NTTデータ経営研究所が作成)

青柳さん 米国以外ではどのような例があるでしょうか?

大河原さん シンガポールのDBS銀行という金融機関は、顧客のカスタマージャーニーに「銀行を埋め込む」顧客中心デザインを導入しています。それによって狙うのはインテリジェント・バンキングのサービスの展開を通じたユーザー体験の向上です。資産運用の自己診断、電気料金の節約、自動車や住宅購入のマッチングなどですね。

例えば、AIが顧客Aさんの行動を予測分析し、起床時に保有資産のチェックする習慣に合わせて「保有株の株価が1年間で最安値です」というメッセージをインテリジェント・バンキングが出します。それを見たAさんはスマホを数回タップして保有株を損切りする。そのような新しいユーザー体験を作り出しています。

DBS銀行は顧客の行動を後押しするような情報提供を、約330万人の利用者に対して毎月3千万件ほど行っていると言います。専門のデータ分析チームが顧客の取引を分析して、個々の顧客に対して、パーソナライズした情報を提供しているそうです。

図5: DBS銀行が取り組む、顧客のカスタマージャーニーに「銀行を埋め込む」顧客中心デザイン(NTTデータ経営研究所が作成)

青柳さん 今後、日本でも米国のように規模が拡大していくのでしょうか?

大河原さん 日本でもユーザー体験の向上を狙いとしている金融機関、事業会社が増えてきています。金融サービスは「総合生活アプリ」を軸として銀行口座やウォレットなどの機能を組込む形でユーザー体験を追求し、提供する時代に入ると考えています。

銀行口座へのアクセス性、金融サービス利用時の利便性、あるいは利得性の向上などが、ユーザー体験向上のキーポイントです。こうした要素を支える総合生活アプリが、ビジネスの拡大に寄与するでしょう。

図6:「総合生活アプリ」を軸にしたユーザー体験提供の方向性 (NTTデータ経営研究所が作成)

青柳さん 日本でも先進的な事例などは出てきているのでしょうか?

大河原さん ひとつにはPayPayがあります。コード決済アプリの印象が強いと思いますが、あと払い(融資)、保険、資産運用など、金融機能の幅を拡大しています。

また、JR東日本は、非鉄道ビジネスへの足掛かりとして2024年春に「JRE BANK」を開始する予定です。駅にあるATM利用料の優遇や、鉄道のグリーン車券のプレゼント、レンタカー利用料の割引など、鉄道および周辺サービスに関するユーザー体験の向上を狙っています。

Embedded Financeは少し固い言葉に聞こえるかもしれません。でも、機能提供という難しい捉え方ではなく、本質はユーザー体験を起点とした新しい金融サービスの創発にあると理解しています。

ユーザーが日々体験するできごとで発生するトランザクションが多くの有用なデータを生み出しています。企業側としてはデータを蓄積、分析して継続的に新しいサービスを提供していくことが重要です。いよいよ金融と非金融の連動が見えてきたところです。

図7:組込型金融の発展ステップ (NTTデータ経営研究所が作成)

dスマートバンクの挑戦

青柳さん NTTドコモの色川さんが企画されたdスマートバンクも、Embedded Financeの仕掛けを使って登場したサービスのひとつですよね。

色川さん dスマートバンクは、NTTドコモが2022年12月に開始したサービスです。三菱UFJ銀行様とNTTドコモが業務提携し、その柱となる事業として、三菱UFJ銀行のお客様の銀行口座を活用しながら、金融機能をドコモのサービスに組込んでいます。

青柳さん dスマートバンクはNTTドコモが通信事業者として金融機能を利用しエンドユーザーにメリットを与えるサービスですね。どのあたりに独自性が発揮されているのでしょうか?

色川さん 特長的なのはdアカウントとの連携です。dアカウントは、NTTドコモが提供するすべてのサービスに共通して使えるアカウントです。dスマートバンクでは、dアカウントと銀行口座を紐づけ、口座開設からサービス利用まで、すべてスマホアプリで体験できる仕組みになっています。

図8:dスマートバンクのサービス提供イメージ(NTTドコモ作成)

青柳さん dアカウントとの連携によって、ユーザーにはどのような価値が生まれるのでしょうか?

色川さん 大きく分けて二つあります。まず預金口座サービスに付随する価値です。例えば携帯電話の通話料などを毎月dスマートバンク登録済み口座から引落しするとdポイントをプレゼントする特典があります。ほかにも、銀行口座で給与や年金を受け取ることでポイントが加算されたり、所定の条件を満たすことでコンビニATM手数料が一定回数無料になったりします。

もうひとつはアプリが提供する価値です。dスマートバンクではアプリを使って日々の資金管理をすることができるのですが、ユーザーの貯蓄や資産運用を助ける機能を備えています。

例えば目的別に貯金箱を作ることで貯蓄をサポートします。海外旅行の資金を貯めるなら「海外旅行に行くための貯金箱」を作る、といったイメージですね。また、貯蓄感覚で簡単に資産運用にチャレンジできる「はたらく貯金箱」という機能もあります。これを利用すれば、プロとAI におまかせで、少額から気軽に資産運用を始めることができます(図9参照)。

図9:dスマートバンクの資金管理、資産運用サービスの画面イメージ (NTTドコモ作成)

貯蓄や投資以外でも、決済や融資、保険など様々な自社の金融サービスとのスムーズな連携を予定しています(図10参照)。また、給与振込などの取引やお勧めのキャンペーンがあった際にdスマートバンクのアプリ内のメッセージで通知するなど、利便性も意識しています。

図10:dスマートバンクの金融サービスの展開 (NTTドコモ作成)

青柳さん dスマートバンクの世界観を理解できました。少し突っ込んだ質問になりますが、金融サービスを提供するにあたって、自ら銀行を手掛けるという選択肢はなかったのでしょうか?

色川さん 最初から選択肢を排除したわけではありません。実際、ほかの通信事業者には自ら銀行を手掛けている企業もあります。ただ、私たちの目的は通信と金融のサービスを融合して、NTTドコモのお客様に新しい価値をお届けしたい、というところにありました。

そうしたときに、自ら銀行を手掛ける場合の設備投資などを考えると、非常に長い時間軸での話になってしまいます。それよりも、いち早くお客様に新しい価値を感じてもらいたい。そうした思いから、既存の金融機関と提携して金融サービスを提供するEmbedded Financeのモデルを選択しました。

青柳さん dスマートバンクは、既存銀行の機能を活用しているわけですが、提供元の銀行とビジネスが競合する領域はないのでしょうか?

色川さん 競合というより、銀行が狙っている領域に対して効率的にアプローチするためのパートナーとして、通信キャリアであるNTTドコモを選んでもらった、というふうに考えています。具体的には若年層がその領域になります。口座を開設する機会は一生を通じてそれほど多くなく、銀行は入学、転居、就職などの機会でのこうした層へのアプローチに関心を持っています。では、こうした層と日常的に濃い接点があるものは何か、と考えたときに、スマホだ、となるわけです。

dスマートバンクのユーザーの方には、長いお付き合いをするなかでひとりひとりに合った投資や融資などの周辺サービスもご提案していけるようになりたいと考えています。そうした提案の中心にある基地のような存在となっていくことが、dスマートバンクとしての意義なのかなと思います。

青柳さん 最後になりますが、Embedded Financeの今後についてお聞かせください。

大河原さん Embedded Financeはまだ過渡期の状態です。これまでは金融機関が利用者に対して直接的に金融サービスを提供してきました。そこに新たに間接的にという選択肢が出てきたわけです。当然ながら、利用者の目的は金融サービスを使うことでなく、生活や事業を良くしていくことにあります。非金融の事業者が利用者の体験をより良くしようと努力をしていくなかで、増えることはあっても減ることはない。今後もますます広がっていくと思います。

色川さん dスマートバンクはEmbedded Financeとして、まだスタートに立ったところです。さらに踏み込んで、ユーザーの日常的な行動を金融サービスとマッチさせていくような次なる展開も構想しています。決済、投資、保険、融資などさまざまな金融サービスとの有機的な連携を作り、サービスを洗練させていきます。ぜひdスマートバンクにご期待ください。
<プロフィール>

色川 州平 さん
NTTドコモ ウォレットサービス部 バンクサービス担当部長
NTTドコモ入社以来、他企業アライアンスによるモバイルサービスの企画や、資本提携業務に従事。2019年 マーケティング部でahamoの立ち上げなどを担当。2022年7月より現職にて、2022年12月にBaaSを活用したdスマートバンクを立ち上げ。
dスマートバンク (https://dsmartbank.docomo.ne.jp/)

大河原 久和 さん
NTTデータ経営研究所 クロスインダストリーファイナンスコンサルティングユニット アソシエイトパートナー
グローバルでのペイメント(決済)制度やネットワークの研究、政府や団体のキャッシュレス推進にかかる事業企画、 調査、委員会運営の支援、及び事業会社における決済関連の事業企画や 決済ネットワークに関するコンサルティングに取組んでいる。2018年経済産業省公表の「キャッシュレス・ビジョン」策定、2019年(一社)キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ビジョン2019」プロジェクトにてリーダーを務める。

青柳 雄一 さん
NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人財戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。

企業の研究開発部門で、ナレッジマネジメント、Web系アプリケーションの研究開発に従事。事業部門で、業務プロセスの分析と業務設計を行い、事務の集中化やヘルプデスクの安定運用のための機械学習の適用などを経験。現在は金融分野における機械学習の応用を目的とし、自然言語処理、説明可能性、AIの公平性、異常検知などの調査、ユースケースの検討に従事。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン