「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

挑戦者と語る

気になるキャッシュレスの今後は?注目のことら川越社長と専門家大河原さんと語りました

画像

変化が目まぐるしい決済・キャッシュレスの世界で、今何がおこっているのか?日本は?世界では?2022年10月には、新たな送金サービス「ことら」がリリースされ、簡単でお得に個人間送金ができるようになったと大きな注目を集めています。今回はスペシャルゲストに、「ことら」の運営会社である株式会社ことら・川越社長をお招きしました!さらに、経済産業省における「キャッシュレス・ビジョン」策定や「キャッシュレス推進協議会」立ち上げにも関わったNTTデータ経営研究所・大河原さんもお迎えして、「ことら」の最新状況や諸外国の状況も含めたキャッシュレスの最新トレンドや、日本のキャッシュレスの近未来について、熱く語っていただきました!

本記事はNTTデータが運営する「API gallery」プレゼンツで2023年1月30日に開催したウェビナー「API gallery Meet UP ~Vol.13 “ことら×キャッシュレスの近未来”~」のトークセッションの内容を記事化したものです。
API galleryでは随時ウェビナーを開催中です!過去の企画、および今後の開催予定は以下のリンクをご覧下さい!

第一人者に聞いた!海外と日本のキャッシュレス進展状況

青柳さん 欧米やシンガポールでは、2015年頃から小口送金のサービスが出てきましたが、当時、日本でも小口送金の領域は競争というより協調する領域であって金融機関が協力して進めていくべき、というお話しを大河原さんとしていた記憶があります。最近になって日本でも取り組みが進んできたという印象ですが、まずは諸外国のトレンドについて教えてください。

大河原さん 諸外国では色々な小口送金サービスが流行しています。それらは、政府や中央銀行の主導によるサービス、市中銀行によるサービス、ノンバンクによるサービスと大きく三つに区分けできます。中央銀行や市中銀行が関与した小口送金サービスでいうと、例えば、シンガポールのPayNowや、スウェーデンのSwishなどが有名です。特にSwishは7割~8割の国民が使用しているとも言われています。

青柳さん そんな中、日本においても、2022年10月に個人間送金サービス「ことら」がリリースされ、大きな注目を集めています。すでにたくさんの金融機関が参加していると聞きました。

川越さん 「ことら」は10万円以下の個人間送金サービスを簡単かつ安価に提供できるようにするインフラです。現時点では31金融機関が参加していますが、今後すでに参加が決まっている銀行を含めると合計60金融機関以上に上ります。また、信用金庫が業態として加盟準備を進めていて、全国各地の信用金庫でも利用できるようになる予定です。

青柳さん 「ことら」はいわゆる銀行系の送金サービスですよね。日本でも見られますが、海外ではノンバンク系の送金サービスもとても流行していると聞きました。

大河原さん ノンバンク発のサービスとしては、例えば、米国のVenmoという送金サービスや、Appleの送金サービスがありますが、インドでは、ウォルマート傘下のFlipkartが小口決済サービスPhonPeを展開しています。インドでは、顧客フロントアプリと銀行口座を接続するUPI(Unified Payment Interface)というインフラがあり、PhonPeはこのインフラを活用しています。取扱件数・金額ともに大きく拡大しており、事業者や一般消費者に広く普及しています。

大河原さん また、海外では、決済・送金を起点とした「金融総合アプリ化」を目指す動きが見られます。送金のみならず、保険の購入や資産運用、さらには各種請求書の支払いなどができるアプリが出てきています。例えば前述したPhonPeは色々な金融サービスを搭載しており、まさに金融総合アプリの代表例と言えます。また米国でも、Blockが運営するCash appという金融総合アプリが登場しています。

青柳さん そうなのですね。日本のキャッシュレスが進んでいない、という主張をよく聞きますが、その辺り大河原さんのご感覚はいかがでしょうか。

大河原さん 先進諸国はキャッシュレス決済比率40%~60%程度なのに、日本はキャッシュレス決済比率が20%~30%程度のため遅れている、日本はキャッシュレス後進国だ、という主張される方もいらっしゃいます。しかしながら、この数値には銀行口座間の資金移動や支払いが含まれていません。日本では銀行口座を用いた資金移動が昔から広く普及しているため、この点を踏まえたうえで理解する必要があります。

青柳さん そうですよね。銀行口座間の資金移動が昔から広く普及・浸透しているのは日本の特徴だと思っています。

大河原さん さらに日本では、「ことら」も当てはまりますが、決済を取り巻く大規模な環境変化が続いています。個人間だけでなく、電子インボイスや中小企業のデジタル化等の進展などに伴い、企業とのやり取りにも今後キャッシュレスが広がっていくのではないでしょうか。さらに税納付や社会保障といった政府や行政が絡んだ支払いのキャッシュレス化の動きもあります。

なお、日本のキャッシュレス決済比率については、足元2021年では32.5%に到達していると公表されています。クレジットカード決済が81兆円程度と比率が大きいですが、他にも、デビッドカードや電子マネー、さらにはQRコード決済等も含めて、官民一体となってキャッシュレス化が推進されています。

社長に聞いてみた!「ことら」の特徴やユースケースなど

青柳さん 利用が広がりつつある「ことら」ですが、どのような特徴があるのでしょうか。

川越さん 専用アプリではなく、様々な金融サービスアプリに「ことら送金」という新たな機能を追加してユーザーの選択肢を広げることがコンセプトです。主な特徴は三つあります。携帯電話番号だけで簡単に送金できること、メッセージ機能も含めて便利かつ安価に利用できること、相手のアプリを気にせず利用できるといった点があります。誤解されがちですが、口座番号を利用した送金であれば、受け取り側はアプリを導入する必要はありません。

青柳さん それは便利ですよね。どのような利用シーンが多いのでしょうか。

川越さん 例えば、自分が持つ異なる銀行の口座間の資金移動、家族や友人など身近な方とのお金のやり取りが多いようです。夫婦間や親子だけでなく、離れて暮らす兄弟、一緒に旅行に行く友人、合唱団などのサークルや趣味などの集まり、職場の同僚など、少しの立替え払いや定期的なお金のやり取りにおいて、これまでは現金が使われることが多かったと思います。

この辺りの少額で頻度の高い現金のやり取りを「ことら送金」がデジタルに変えていっている印象です。既存の銀行振込やQRコードを含めたキャッシュレス決済手段などがカバーしきれていない領域を補完できているのではないでしょうか。

青柳さん なるほど、そうですよね。給料日にはATMに行列ができていたりしますよね。給与口座から生活用の口座や、それぞれの用途別の口座に移す際に、振込手数料分を節約するためにATMを使っている人も多いのだと思います。「ことら」の検討時には、そのような利用が多くなるという予想はされていたのでしょうか。

川越さん ATMに並んでいる方が「ことら送金」を使ってくれるだろうという期待感はありました。実際にATMまで行くのは、利用者にとって不便ですし、他方で銀行から見ると現金を扱うコストがかかっています。インターネットバンキングを使わない理由として振込手数料がよく挙がりますが、現在サービスを提供している事業者の「ことら送金」は無料です。

青柳さん 便利かつ振込手数料もかからないとなると、利用者目線では、銀行側にどんなメリットがあるのだろう、と考える方もいらっしゃると思います。

川越さん 日本における現金管理コストは年間1兆円や2兆円と言われています。このうち金融機関が負担している部分は大きいので、コスト削減という要素は凄く大きいです。また、「ことら送金」のおかげで、デジタルチャネルのユーザーが増えたという声も聞きます。銀行業務の非対面化がますます進んでいく中で、デジタルチャネルの接点がさらに重要になっていくことが想定されますが、そのきっかけとなっているのではないでしょうか。

キャッシュレスがもっと身近に?「ことら」の今後やキャッシュレスの将来展望

青柳さん 昨今国内外でCBDCの議論が活発になってきています。そういう意味では、日本のキャッシュレスのインフラも今後大きく変わっていくかもしれません。多くの方が気にしているのが、将来的にもしCBDCが世に出てきたときに、どのような影響を与えるのかということだと思いますが、どのようにお考えでしょうか。

大河原さん 今後キャッシュレス化や金融サービスのデジタル化がますます推進されていくかと思いますが、将来を見据えると、CBDCによる相互運用性・インターオペラビリティが実現できれば大変有効だと思っています。決済事業者のサービス間の連携や決済インフラとの接続という重要なポイントにおいて、CBDCが有効な打開策になる可能性があります。

川越さん CBDCの議論では、リテール型以外にもホールセール型などの議論もされており、現時点では明確な姿が決まっていないため、アンテナを張って注目しています。また、既存のインフラやプレイヤーとの共存の仕方も検討されていると聞いています。同時に、海外での検討や議論の状況等についてもよく見ていく必要があると思いますね。

青柳さん ありがとうございます。CBDCについては今後も議論をフォローしていくことが必要ですね。

今後「ことら」がさらにキャッシュレスのインフラとなって広がっていくためにはどんなポイントがあるのでしょうか。

大河原さん 決済は生活習慣であり商習慣だと思っています。そういう意味では、いかに生活に密着した仕組みができるかが重要だと思っています。我々はPayment as a Serviceと言っていますが、組み込み型決済のようなかたちで消費者の日常的な接点に「ことら」の機能が組み込まれていくことが大事だと思います。

「ことら」が提供する送金機能が消費者の生活や加盟店の事業に上手く組み込まれれば、商店などの顧客フロントと銀行口座を繋ぐことができ、キャッシュレス新時代を後押しできると考えています。

青柳さん そうですよね。私も色々なアプリの構築に関わってきましたが、顧客体験が非常に重要だと思っています。また、QRコード決済が普及してきたり、個人間送金サービスがいくつか出てきたりしている現状は、「ことら」が流行する下地ができてきているとも言えますね。

さらに、個人間送金だけでなく、行政への支払いや、企業への支払いも「ことら」でできたらいいなと考える人もいると思いますが、いかがでしょうか。

川越さん 今は個人間送金に限ったサービスとなっていますが、実は本年4月からは一部の税金の支払いサービスも開始する準備を進めています。例えば自動車税などを払う際に納付書を金融機関やコンビニに持っていく必要がなくなり、スマホを使って簡単に納付が完了するような仕組みを準備しています。

消費者がフリクションを感じているような場面は他にもあると思います。将来的にどんなサービスを追加していくかは今後の検討ですが、消費者が抱えている課題の解消に「ことら」が貢献できると嬉しいです。

青柳さん なるほど。そのようなサービスが始まれば消費者の生活もますます便利になっていきますね。

最後に、今後の展望などについて一言いただきたいと思います。

大河原さん 2019年当時の「キャッシュレス・ロードマップ2019」の中では、10年後を目途にどこでも誰でもキャッシュレスという世界を描いていました。そういう意味ではまだ道半ばです。これから先は、現金がなくなっていくこと自体を目的とするのではなく、世の中が便利になっていく過程でキャッシュレス化が進展していくのが望ましい姿だと思っているので、今後もそのような世界の実現に向けて引き続き活動していきます。

川越さん これからも「ことら」の加盟事業者はどんどん増えていく予定です。いわゆるオールバンクの取り組みになっていくことで、利用者や金融機関、また資金移動業者も含めて、皆様にとって望ましいかたちにしていければと思います。

加えて、まだまだ「ことら」が一般消費者に十分に知られていないことは、課題と認識しています。現状、リリース後の3ヶ月程度で当社のホームページへのアクセス数は約50万人程度ですが、これを何倍にも増やしていって、皆様に「ことら」の存在を認知してもらえるように、広報・プロモーション活動にも取り組んでいきます。
<プロフィール>

川越 洋さん
ことら 代表取締役社長
1986年、三井住友銀行(旧:三井銀行)に入行。20年以上にわたって決済分野(資金証券決済・SWIFTなど)での企画業務などに従事する。「多頻度小口決済インフラ構築」構想を推進し、2021年7月により大手行の出資により設立した株式会社ことらの社長を務める。
『ことら送金』サービス紹介サイト(https://www.cotra.ne.jp/p2pservice/

大河原 久和 さん
NTTデータ経営研究所 クロスインダストリーファイナンスコンサルティングユニット アソシエイトパートナー
グローバルでのペイメント(決済)制度やネットワークの研究、政府や団体のキャッシュレス推進にかかる事業企画、 調査、委員会運営の支援、及び事業会社における決済関連の事業企画や 決済ネットワークに関するコンサルティングに取組んでいる。2018年経済産業省公表の「キャッシュレス・ビジョン」策定、2019年(一社)キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ビジョン2019」プロジェクトにてリーダーを務める。

青柳 雄一 さん
NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人財戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。

新卒で銀行の業界団体に入職。金融機関や他業界団体等との折衝・調整に携わり、具体的には資金決済インフラや為替取引の制度運営に関する業務に従事した後、金利指標改革や市場規制の案件に関する業務等を幅広く経験。
その過程で、金融分野におけるNTTデータの影響力の大きさを実感したこと、社会を支える重要インフラを提供している点に魅力を感じたこと等をきっかけに、NTTデータへ中途入社。
現在は、金融業界のトレンドを、IT技術やビジネス、社会課題といった様々な切り口で調査・整理し発信する「金融版NTT DATA Technology Foresight」の取組み等に携わる。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン