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金融が変われば、社会も変わる!

コラム

「問い方」を変えなければ何も変えられない 偽善的な組織にならないための「質問力」

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なぜこの商品が必要なのか?どうしてこのサービスに意味があるのか?企画を考える人は常にこうした問いかけから始めます。あなたは自分の書いた企画書が多くの人に叩かれて、自信を無くしているかもしれません。でもこれさえあればきっと大丈夫。このコラムは常に根源的な問いから考える企画者であるあなたへの、清水沙矢香さんからのエールです。

苦手な食べ物がある人に対して、「貧しくてじゅうぶんに食べられない人のことを考えて」という言葉で解決をはかろうとする人がいます。
また、心の病で生きづらさを感じている人に、「生きたくても生きられなかった人のことを考えて」という言葉をかける人もいます。

さて、これらのやりとりは問題解決に向かうでしょうか?
筆者はそうではないと考えます。

組織の問題解決にも同様のことが言えるのではないでしょうか。

母親たちは日々「問い」を立てている

毎年25,000人を指導するリーダーシップ論の権威であり、世界一のメンターとも呼ばれるジョン・C・マクスウェル氏の著書「人を動かす人の『質問力』」には、冒頭からこのように綴られています*1。

「人生では『投げかけた質問』の答えしか返ってこない」。

筆者は冷蔵庫の残り物をどう料理しようかと考えたとき、よくネットでレシピを探すことがあります。
その中でよく見かけるのが、
「これなら野菜嫌いの子どももパクパク食べてくれました!」
という母親たちのコメントです。

母親たちは、苦手な食べ物がある人(子ども)に対して、「じゅうぶんに食べられない人の事を考えなさい」と言葉を投げて終わらせることを選んでいません。
「どうやったら食べられるようになるか」という「問い」を立てているのです。

これは、生きづらい人に「生きたくても生きられなかった人」の話を持ち出して説教することが意味を持たないのと同様です。別人の苦しみは別人のものでしかありません。

この場合、野菜嫌いの子どもについて「どうやったら食べられるようになるか」と母親たちが考えるように、生きづらい人に対しては「どうやったらこの人は生きる希望を持てるだろうか」という問いこそが必要なのです。

苦しみの尺度は人によって違います。それを他人と同じ物差しの上にのせて、ひとつの言葉だけで話を終わらせてしまうのはあまりにも乱暴なことでしょう。

「ESG報告書」に潜む大きな欠陥

さて、「問い方」を考えるべき事例のひとつとして、地球温暖化や環境問題の解決に向けた企業の取り組みを報告する「ESG報告書」があります。自社が活動の中でどこまで地球温暖化防止や社会問題の解決に留意したかを公表するものです。

その中に、温室効果ガス排出量の報告の国際的な物差しとして「GHG(Green House Gas)プロトコル」というのがあります。
企業活動における下の3つの過程におけるGHG排出量を測定するための国際的な指針でもあります(図1)。
自社だけで生じるGHGだけでなく、その上流、下流で生じるGHG排出量も計算すべきという概念です。
アメリカでもフォーチュン500の大半の企業がGHGスコープを採用し、温暖化対策への取り組みとして公表しています。

しかし、オックスフォード大学のKathik Ramanna教授らは、この「スコープ3」についてこう記しています。
スコープ3排出量はGHGの報告における決定的な欠陥である。
(中略)
たとえば、スコープ1の排出量の低い企業との間で製品を売買し、さらにそのサプライヤーや企業と協力すれば、関連するバリューチェーン全体でGHG排出量を削減できるかもしれない。ところが、多層的なバリューチェーン全体にわたる複数のサプライヤーと顧客からの排出量を追跡することは難しいため、一つの企業がスコープ3排出量を正しく推定することは事実上不可能なのだ。
via 「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年4月号 p16
そのうえで、Ramanna教授らはESG報告を行う多くの企業がスコープ3の測定を完全に無視していることを指摘しています*2。

GHGプロトコルは「どうすればGHG排出を削減できるか」という本質的な問いに対する答えにはなっていない、というわけです。
よって多くの企業にとってGHG削減量の報告は、欠陥のあるルールに基づいた数字ゲームに成り下がっていることもあるというわけです。

根源的な問いから始めるということ

「どうすれば途上国の栄養失調を解決できるのか」。
その問いから生まれ、成長している企業があります。

「ミドリムシ」でお馴染みのユーグレナです。

ユーグレナ起業のきっかけは、出雲充社長が大学生のときにバングラデシュへ赴き、そこで栄養失調で苦しむ子どもたちを目の当たりにしたことです*3。
そこで途上国の栄養失調に対し、解決策を探ろうとしたのがことの始まりです。

そこで発見したのが栄養豊富な藻類であるミドリムシ(ユーグレナ)だったというわけです。

そして現在は健康食品だけでなく、バイオ燃料にも事業を拡大しています。
組織の存在そのものがESGあるいはSDGsである、とも言えるでしょう。

「問い」から生まれた「コロッケスポンサー」

また、奈良県にあるトンカツ店の、有名な話があります。

この店では、様々な事情で代金を払えない貧困家庭や子供に、無償で食事を提供する取り組みを続けています。
張り紙こそしていますが、実際には、希望する人には細かい事情を聞かずに「コソッと」無料にしているケースもあるといいます。
中には、事前に電話で事情を伝えてから来店する人もいるといいます。

経営者はそこから、新たなシステムを生み出しました。

「コロッケスポンサー」というもので、必要な人にはコロッケを半額で提供するというものです。
必要になるお金を地元企業の有志から募るのです。そして店内に「今日のコロッケスポンサーはこの会社」と掲示することで、お金を出した企業も貢献者として参加できる、というものです。

なにも「世界」や「環境」といった大きなことを謳っているわけではありません。「どうすれば目の前の人の困りごとを解決できるか」という目の前の問題に向き合ったのです。
このスタンスに賛同した客が多く訪れ、店は次々に支店を出すまでに成長しました。

必要とされているものを与えるための質問力

前出のマクスウェル氏は、このようにも述べています。
「底の浅い質問しかできない人」は「底の浅い答え」しか得られず、自信も欠如している。意思決定はお粗末で、優先順位も曖昧、未熟な対応しかできない。
一方、「深い質問」ができる人は、「奥深い答え」が得られ、人生に自信が持てる。賢い意思決定で最優先事項に集中でき、大人の対応ができる。
via ジョン・C・マクスウェル「人を動かす人の『質問力』p23
前述した苦手な食べ物がある子どもや心が辛い人への対応は、深い質問から生まれなければ解決には結びつきません。

そして、もし今あなたがリーダーの立場にあるならば、マクスウェル氏のこの言葉も参考になることでしょう。
人はいろいろな理由からリーダーになる。権力が欲しい人、富が欲しい人、そして強い信念や「世の中を変えたい」という欲求に突き動かされる人も多い。
しかし、私はリーダーとして立つための「動機」として意義があるのは、一つだけだと考えている。それは「奉仕に徹する」ことである。
「人々の先頭に立つ気持ちはあるが、人のために何かする気はない」という人は、自分の動機を見直すべきだろう。人に奉仕することを厭わない人は、より良いリーダーになれるだけではなく、チームを助け、世の中を変えていくだろう。
via ジョン・C・マクスウェル「人を動かす人の『質問力』p110-111
主語を「組織」に置き換えることもできるでしょう。

「企業は社会の公器」。オムロン創業者の立石一真氏の言葉です。とても深い言葉です。

本当のESGを考えるとき、それは数字ゲームに踊ることではありません。
一方で問題と正面から向き合い、子どもへの「奉仕」を考えているのが毎日献立に悩む母親であり、途上国への奉仕を考えているのがユーグレナという企業であり、地域の問題と向き合って生まれたのがコロッケスポンサーという斬新なアイデアなのです。

「奉仕」をベースに、深い問いから生まれた発想こそクリエイティブであり、持続可能なものとも言えます。
ここでご紹介した事例が、真の問題と向き合うことの重要性について考えるきっかけになればと思います。

*1
ジョン・C・マクスウェル「人を動かす人の『質問力』」三笠書房 p23
*2
「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年4月号 p17
*3
「社長メッセージ」株式会社ユーグレナ
https://www.euglena.jp/companyinfo/message/


<清水 沙矢香>

<清水 沙矢香>

福岡県出身。2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や統計分析を元に多数メディアに寄稿。

※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
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執筆 オクトノット編集部

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