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都市農業から見える、日本の農業の可能性

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ここ数年、日本でもSDGsが非常に注目されているように、社会問題を本気で解決しようという動きが全世界的に活発になってきています。SDGsの中には「食」に関連することがいくつも含まれています。つまり持続可能な世界の実現には、「食」を生み出す農業は、非常に重要なファクターであるのです。
農業金融はJAや政府系金融機関が多くを担っていますが、こうした背景もあってか、民間金融機関の取り扱いも徐々に拡大しつつあるため、今回は農業について取り上げてみたいと思います。中でも、我々生活者の身近な農業といえる「都市農業の課題」について調べてみました。すると、都市農業だけでなく、日本の農業全体の姿や、ビジネスとしての農業、サステナビリティの難しさ、みたいなものが、調査とインタビューを通して見えてきたので、ご紹介したいと思います。(インタビューは、実際に都市農業を営まれている方、スマート農業に知見のある方、農業系財団法人など、様々な方からお話を伺いました。)(実は筆者自身の実家も養鶏場を経営しておりまして、今回の調査もお仕事半分、自分自身の将来の可能性探索半分、といった心境だったのは、会社には内緒です。)

都市農業とは

一口に都市農業というと、高層ビルの屋上でコメを作る、住宅地の中に突然畑が出てくる、週末に家族で土いじりをする、など、皆さんイメージはいろいろだと思いますが、実際の定義もいろいろあるようです。ここでは農林水産省が示す「『市街地及びその周辺の地域において行われる農業』(都市農業振興基本法第2条)であり、消費地に近いという利点を生かした新鮮な農産物の供給や農業体験の場の提供、災害に備えたオープンスペースの確保、やすらぎや潤いといった緑地空間の提供など、多様な役割をもち、都市住民の身近にある、生活と密接に関連している農業のこと。」※ とご理解ください。

農林水産省ホームページ『都市農業の振興・市民農園について』を参考に著者記載

都市農業の維持

農林水産省としては、都市農業を農産物の供給だけでなく、災害対策や緑地確保といった意味でも重要な産業として捉えており、都市農業を維持継続することは重要な課題となっています。そして、その対策として法整備を行っています。農地を貸しやすくしたり、狭い土地でも農地と認定したり、直売所やレストラン等の設置も可能としたり、相続税を緩和したり。しかし、皆さんのご想像通り農家さんの高齢化はどんどん進んでおり、またこうした対策も現実的には難しい面もあるようで、長い目で見ると、都市農業そのものが減っていく将来が見えてきました。

例えば、農地の貸借です。自身の高齢化によって今まで通りの農業経営は難しいが、ご先祖様から受け継いだ農地を手放したくない。そうしたニーズに応えるべく、法改正により農地を貸しやすくはなりましたが、全くの他人に自分の庭先を貸すのに近い行為への心理的な障壁があったり、貸す場合も地元の有力農家で構成される農業委員会の許可が必要だったりと、それなりのハードルがあるようです。

農林水産省『都市農業をめぐる情勢について』

そして税の問題。国としても、税負担が原因で農業経営が難しくなり農家が減るのは避けたいので、農家さんへは様々な課税猶予措置がなされていますが、その措置も期間限定だったりします。特に難しいのが相続税です。農家さんは一般的には家業が多いので、将来的には相続という事態は必ず発生します。その際、仮に猶予措置の対象外となった場合、多くの農家さんは土地の一部を手放し相続税を支払うことになるでしょう。都市近郊はまだ地価が高いので、それなりの額で売却できるかもしれませんが、人口減や空き家増加などの現状からすると今後地価が下がる可能性もあり、そうなると農業経営そのものが難しくなるケースも出てくるでしょう。

都市農業、実はあまり困っていない?

では、都市農業として今々の農業経営はどうなのかですが、これが実はあまり大きな課題は見えてきませんでした。
※調査する側としては、実はここを深ぼりたかったのですが、ちょっと拍子抜けしたのは、ここだけの話。

というのも、都市農業で生産した農作物は、消費者にとても売れるのです。
農作物の美味しさを左右する一番の要因は、鮮度です。産地や品種も美味しさの要因でしょうが、一番は鮮度です。都市農業は都市近郊で生産し、そのまま直売という形で売られることが多い。そうなると必然的に鮮度が良いわけで、多少値段が高くても、やはり売れるのです。(JA、卸売市場、スーパー、という一般的な流通経路と比較すると、その鮮度の違いは想像できますね。)

都市近郊であるがゆえに広い土地で耕作できない(つまり出荷量自体は少なく、高い売上にはならない)のですが、都市近郊であるがゆえに「安定した売り上げ」は期待できるわけです。
加えて、昨今の新型コロナの影響で内食需要が高い傾向はしばらく続くでしょうし、密回避の流れからか自然が見直され、農業体験や貸し農園といった新たなビジネスの可能性も高まっているようです。
また、都市農家さんは兼業農家が多いのです。もともと土地持ちなので、不動産経営など農業以外の商売もやっており、農業がサブ収入的な位置づけとなっているケースが多いのも、農業経営として困っていない要因といえます。

ITとビジネススキル

また、弊社はITの会社なので、都市農業へのIT活用といった目線での調査も行いました。その結果として感じたのは、IT活用は規模によって向き不向きがある、ということ。やはりITの得意とするところは、いかに少ない人的要力で多くの作業をこなせるようになるかであって、そもそも土地の狭い都市農業では事業規模は小さくなるため、投資対効果として見合わないケースが多いように思いました。ITは初期投資がかかるので、IoTでビッグデータを取り安定品質に活かすも、ロボットで収穫を自動化するも、それなりの事業規模がないと投資対効果が得られなく、例え補助金などである程度投資額をカバーできたとしても、本質的な改善にはつながらない可能性があるのです。

逆に考えるとITは、都市農業ではなく、地域でそれなりの規模で経営している農業で活かすべきであると言え、もっというと、ITにより地域の農業をいかに規模拡大できるか、という視点で捉えたほうが良さそうです。今回の調査でインタビューした中で、日本の土地面積で考えると農家の数が多すぎる、とおっしゃっている有識者の方もいました。今までの国の方針は、農家を守り農地を維持する、という強い意思が働いているように感じますが、これからの日本の農業全体をサステナブルという意味で考えた場合、こういう方針から見直す必要があるのかもしれません。その場合にITの活用は不可欠ですし、またITをひとつのツールとして捉えられるビジネススキルも必要であるため、農家さん自体にもそういった観点が求められていくでしょう。高齢化に伴う農家自体の減少は課題でしょうが、単に農業従事者の人数を維持するのではなく、ITやマーケティングなどのビジネススキルを備えることも必要になっていく。そして弊社のようなIT企業も、そういったニーズに応えられるよう、テクノロジーやサービスを準備しておくべきと強く感じました。

安全の価値とサステナビリティ

そしてこれは都市に限らず日本全般に言える話ですが、今回の調査で、実は日本人は安心安全にお金を払わない、ということが見えてきたのが個人的にはかなり衝撃でした。農作物に使われている農薬量を販売時に示すと買わなくなる一方、農薬はあまり使っていないが値段が倍する野菜も高すぎるので買わない、という現実です。
その理由は、日本は基本の安全レベルの水準が高く、それが当たり前のものとして刷り込まれているから、と推測できます。中国人旅行者が日本の食べ物を評価するのは、自国の食べ物に対して彼らが不安を感じているのが一因ですし、アメリカでは健康保険が国民皆保険ではないので富裕層ほど自分の体は自分でお金を出して守る傾向にあります。それらに比べ、日本は基本的に安全であり、安全にお金を払う必要がないのです。

今後もっと広がっていくグローバル社会やサステナビリティを考えると、この今までの当たり前の考え方は是正していく必要があるように感じました。当然、安全にはコストがかかっているはずですし、その価値を正しく捉えないと、市場として成り立たなくなっていき、最終的にはその市場がなくなります。安全な農作物を買いたくても買えなくなるのです。

またこの価値を正しく捉える、ということは、SDGs的視点でも重要といえます。農業では生産過程上で廃棄する農作物が一定量発生するのは一般的なことですが、それをもったいないとしてビジネス利用できないかというアイデアがよくあります。一見理に適っているように思いますが、しかし農家さんからすれば、廃棄物を安くもしくはタダで使われるより、正規ルートで買って欲しいと考えるのは当たり前の話で、実はこういったビジネスを継続するのは簡単ではないそうです。農家さんにとっての価値とサステナビリティの価値、その両者のバランスを取らないと、持続可能なビジネスは難しいわけです。

農業の可能性と我々のすべきこと

ここまで、都市農業の課題の調査とそこから見えてきた日本の農業について感じたことを述べてきました。そして、個人的には、日本の農業の可能性を強く感じました。
冒頭の通り、持続可能な世界を実現するために農業は非常に重要なファクターでありますが、一方で、ITや安全やビジネス観点など、まだまだ改善の余地がたくさんある産業です。これは決してマイナスではなく、今後の伸びしろとして捉えるべきで、日本全体としてのビジネスチャンスであると感じました。
一企業としても、農業という産業をそのような大きな目線で捉え、また一生活者としても、自分自身の「食」として、自分の住まう地域として、地球としての目線でSDGs的に農業を捉えてみる。この記事が、そうしたきっかけに少しでもなれば幸いです。
最後に、養鶏場の息子としては、鶏卵は美味しいたまごと普通のたまごとの味の差が明確なので、いつもと違うものを食べて比べてみるのにお勧めです。コロナ禍で家族での外食も難しいなか、週末のごちそうとして是非お試しいただき、小さいタマゴから大きなチキュウへ想いを馳せましょう。

※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

NTTデータに入社後、Eコマースのフルフィルメント事業のベンチャーに参画、その後大手金融機関向けの新規ビジネス企画提案や、BeSTA Fintech Labの立ち上げ、情報銀行ビジネスなどに取り組む。現在はSPLABにて社会問題を起点としての新規ビジネス/サービス創発・支援に従事。SPLABにて運営しているコ・デザイン・コミュニティ「DX LOUNGE」では社会課題の要因の深化探索ワークを企画・実施し、社会問題解決となるビジネスアイデアの創発に取り組んでいる。3児の父であり、最近は末っ子次男からの在来線爆弾(プラレールによる殴打)に悩んでいる。私はシン・ゴジラではない。

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