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あらためて地方創生にどう取り組む?第2回 あらたな潮流

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持続的に地域経済を活性化させるための取り組みは、時代の趨勢を受け、金融当局も積極的に推進しようとしています。そうはいってもなかなか難しい金融機関の本音に株式会社クニエの高橋誠司氏が鋭く切り込みご提案していく、あらためて地方創生にどう取り組む?連載第2回です。

日銀が地域公共交通について学ぶのはなぜか?

「日銀が地域公共交通について学ぶワークショップしていますよ!」
令和3年2月頃、次年度の営業テーマについて私がチームで会議をしている際に、こういう話題が出てきました。

令和3年度は、令和2年11月に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」を受けて、全国の自治体の多くが地域公共交通のマスタープラン(「地域公共交通計画」)を策定することになっていて、地方創生の重要なテーマである地域公共交通についてさまざまな調査をしていたのでした。

日本銀行金融高度化センターは、こうした地域経済活性化は避けては通れないテーマであるとして、今年(令和3年)2月に開催したワークショップのテーマを「地域公共交通の持続可能性向上に向けた取組み」にしたということでした。このワークショップは地域活性化ワークショップの名目で行われているものなので、主な対象は各地域の金融機関になると思われます。

地方銀行をはじめとした人たちが、地域公共交通の抱える課題である人口減少等に伴う路線バスをはじめとした地域の公共交通の利用者の減少、それによる交通事業者の経営状況の悪化等に伴う地域公共交通の厳しい状況等の理解や、その解決のため地域の交通資源を総動員して地域の公共交通環境の維持・強化をしていく方策等について学ぶ必要があるのでしょうか?「それって都市計画分野では? 金融機関とどう関係するの?」と疑問の声が聞こえてきそうです。

なお、遡って1月のテーマはSDGs/ESG金融、翌月となる3月のテーマは地域商社だったのですが、地域商社やSDGsについては、前回の第1回の寄稿でも話題にした「正に地方創生は時代の趨勢を踏まえてテーマを変えてきている」ことを物語っています。

最近の日本銀行金融高度化ワークショップの開催日と内容等

そう簡単ではない本音

日銀が実施した地域公共交通やSDGsなどについて学ぶワークショップについて触れましたが、地方銀行にとって他にも注視すべきことは、監督官庁である金融庁が地方創生に対する銀行の関りについてどのように示しているのかということです。

令和2年12月の金融審議会銀行制度等ワーキング・グループの報告書である「銀行制度等ワーキング・グループ報告」が公表されました。この中で高度化等会社の業務の拡充に関して「地方創生など持続可能な社会の構築に貢献することを幅広く可能とすべく、法律に規定された業務の外縁をさらに拡充すること」という記載が繰り返し見られます。

そしてこのワーキング・グループのオブザーバーでもある全国地方銀行協会は、そのホームページで地方創生事例集のページを作り、協会のメンバーである地方銀行が取り組む際に参考にしてほしいという意図が伝わる各種事例紹介を行っています。

他にも、地方創生を進める主要省庁でもある内閣官房では、運営する『地方創生カレッジ』内に地域金融機関および信用保証協会職員専用の事業者支援ノウハウ共有サイトを設置するなど人材育成に取り組んでいます。
このように、地方銀行等にとっての監督官庁や上部団体などにより地方創生への取り組みをさらに進めて行く指針が出されていますが、果たしてこれにより多くの地方銀行が積極的に取り組みを進めていくことが期待できるのでしょうか。

厚生労働省や文部科学省、国土交通省など、監督官庁からの指針や通達等が大きな影響を及ぼす省庁のなかでも金融庁は金融検査・監査の役割等があることもあり、影響力はとても大きいと認識しています。その一方で、今後益々取り組みが活発するのかというと、そう簡単ではないと地方銀行、全国地方銀行協会、そして金融庁の関係者の皆さんは思ってらっしゃるのではないでしょうか。

その理由はいろいろとありますが、筆者が思う理由は、昨今の地方銀行をはじめとした金融機関を取り巻く環境変化が激しく、今後の自行の経営の行く末も不安がある中、地方創生の取り組みの多くはどうしても地域貢献的な対応になってしまい、コスト高になってしまうということです。

地域商社の設立など新たな取り組みは進められていますが、経営に大きくプラスになるような状況でないことがほとんどなので、前述の地域公共交通やSDGsなどの新たなテーマを与えられたところで、すぐに明るい未来は描けない状況であることが本音と思われます。

金融機関が積極的に取り組んでいくために期待される「組み立て」

地方銀行が地元の地域活性化に向けて地方創生に貢献していくことについて、これまでと同様、またはそれ以上に地元の自治体、産業などから期待されると思われます。

それではより積極的に取り組んでいくために必要なことは何なのかということになります。それについて、筆者が九州の自治体で地方創生の具現化の支援を行っている際に、地方銀行にご担当者に申し上げた言葉は「組み立て」でした。

まち・ひと・しごと創生総合戦略はすべての自治体が策定しているものですが、自治体ごとに抱える課題に応じて戦略の重点は違ってきます。筆者が関わらせていただいたある自治体では、地域特性を活かしたしごとづくりが最重要課題の1つでした。なおほとんどの自治体でも「しごとづくり」は最優先課題です。

そこで戦略に位置づけられている地域資源を活用した地域おこしプロジェクト協議会を設置し市内外の関連企業や研究機関、金融機関等への参加呼びかけをしたところ、地元のすべての金融機関が参加することになりました。ここでも「金融機関の横並び」があり、それは会合への参加および関り方のいずれもそうでした。

そこである協議会活動の後の懇親会の場で、金融機関の方とお話する機会があり、もっと積極的に関わっていただくためには何がハードルになっているのかについてお尋ねしたことがありました。第1回でも述べた通り、まずは情報収集がてらの様子見でした。次の会合の際に、同じ方と再度お話する機会に恵まれました。
会話の中で
「何らかやらなければならないと認識しており、担当をつくり対応しはじめたところだけど、正直どのようにしたら良いのか分からない」
というお話が聞けました。

話せば話すほど、その担当者は地域の企業のことをよくご存じでした。融資に伴い当該企業のことは、強みや技術、事業方針なども熟知されているわけです。

「先ほどお伺いした企業さんは、市が積極的に活用しようとしている△△を、〇〇の工程で活用したら上手く行くかもしれませんね。さらに進めば■■社とのつながりもできて、貴行の新たな融資先にもなるかもしれません!」
と申し上げたところ、

「なるほどそう言われればそうかもですね。確かにこれまでにこういう場にもあまり参加したことが無かったし考え方は硬直的だったかもしれません」

「せっかくご参加いただいているので、いまのような組み立てをしながら、協力して着実に望ましい成果に繋げていきたいですね」。

地方銀行の方々は、このようにまじめで勉強熱心、実直に仕事をする方が多いと思っています。

地方創生に関わる業務に関わる時には、相談のあった企業の事業計画をこれまでの審査基準等でチェックしていくということだけでなく、地方創生に関わるトレンドや国が作成する「まち・ひと・しごと創生基本方針」、そして経済財政諮問会議をはじめとした国の重要な会議で議論を踏まえた事業のテーマ性評価の分析、そして事業ターゲットのニーズ構造などを踏まえた価値の分析、例えばプロセスエコノミーの可能性などについて考えて分析評価することが望まれます。

そして事業主体についても、有する技術や強み、特徴等についての分析と複数企業による構成の可能性など総合的な観点から検討し、迅速に「組み立て」を行っていく力が不可欠だと思います。こうした組み立てを関係者とともに進めていく中で、地方銀行が培った地元企業についての知見、そして事業に対する評価眼などは形を変えつつ必ずや活かされていくと思っています。
次回の寄稿では、総合的な観点から関係者と一緒になって組み立てていくことについて具体例をあげて述べさせていただきます。
【この記事を書いた方】

高橋 誠司(たかはし せいじ)さん
株式会社クニエ
CS事業本部 地方創生/都市経営担当
ディレクター


マーケティング会社、シンクタンク等を経て、2018年から株式会社クニエへ。20年以上に渡り全国各地を回り各地の行政職員、企業、支援機関、金融機関等の方々と一緒になって地域特性・資源等を活かした地域活性化、まちおこし、そして地方創生等の業務に従事。最近は自治体のまち・ひと・しごと創生総合戦略の策定やスマートシティの推進に関わる業務などに注力している。

(株式会社クニエ)
https://www.qunie.com/
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執筆 オクトノット編集部

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