サステナブルファイナンスとは
“サステナブルファイナンス”を一言でいいますと、ちょっと乱暴かもしれませんがSDGs達成に向けた資金調達、つまりゴールに向かうための取り組みに必要なお金を集めてくることになります。先に述べたようにSDGsはさまざまな分野においてゴールが設定されており、サステナブルファイナンスも同様にさまざまな資金調達・資金提供の形態を包含することになります。
【図1】サステナブルファイナンスに含まれるさまざまな金融手法
ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(統治・ガバナンス)の頭文字をとったものです。この3要素を充分に加味しつつ優れた経営を行っている会社に投資をする手法がESG投資と呼ばれています。例えば、Environmentであればビジネスにおける環境負荷の軽減への取り組みや自然エネルギーの活用、Socialであれば労働環境の向上やダイバーシティ推進への取り組み、Governanceであれば積極的情報開示の実践などがあげられます。
ESG投資はESG投資の普及を図る国際団体(Global Sustainable Investment Alliance:GSIA)によると7つのタイプに分類されます。
【図2】GSIAによるESG投資の7つの分類
【図3】インパクト投資の特徴と位置づけ
GSG国内諮問委員会『インパクト投資拡大に向けた提言書2019』
また、民間金融機関が大規模なプロジェクトに融資を実施する際に、そのプロジェクトが自然環境や地域社会に与える影響に十分配慮されていることを確認するための基準として赤道原則(THE EQUATOR PRINCIPLES※)が設けられており、世界で100を超える金融機関が署名しています。グリーン・ローンや、サステナビリティ・リンク・ローン(借り手のESG戦略と整合した取組目標を設定し、その達成状況に応じて、借入人にインセンティブやディスインセンティブが発生するローン)も存在しています。
※赤道原則はプロジェクトファイナンスにおいて開発による環境負荷を回避・軽減するために環境社会影響のリスクを評価し管理するためのガイドライン。金融機関が集まり独自に2003年6月に制定したガイドライン。検討段階の会議がロンドン近郊で行われていたことからグリニッジ原則と名付けられていたが、南北半球を問わずグローバルに適用する原則として赤道原則と名前が改められた。
SDGs債は、環境・社会へのポジティブなインパクトを有し、一般的にスタンダードとして認められている諸原則に沿った債券や、事業全体がSDGsに貢献すると考えられる機関が発行する債券を指し、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンドなどが含まれます。市場の拡大に伴い、国際資本市場協会(International Capital Market Association:ICMA)より、グリーンボンド原則(Green Bond Principles:GBP)、ソーシャルボンド原則(Social Bond Principles: SBP)、サステナビリティボンドガイドライン(Sustainability Bond Guidelines: SBG)といった、債券を発行するためのガイドラインが示されています。
その他としては、官と民の資金やリスク許容度が異なる資金を組み合わせつつ資金を提供するブレンデッドファイナンスや、SDGsに貢献するクラウドファンディングを含める考え方もあります。
一方で、企業側だけでなく投資家の側にも投資の意志決定プロセスや株式の保有方針の決定にESG要素を加味することが求められており、責任投資原則(Principle for Responsible Investment:PRI)が国連から公表されています(2006年)。PRIへの署名機関は、2021年4月時点で、世界では3900、日本では90機関に達しています。
政府の方針と各省庁の取り組み
政府の方針
さらに、4月の気候変動サミットでは、温暖化ガスの排出量を2030年度までに2013年度比で46%削減すると表明しています。世界各国が温暖化ガスの排出量削減の目標を表明したことで、企業もカーボンニュートラルに取り組むことが今まで以上に強く求められることとなっています。それと同時に、多くの資金が必要となるSDGsの達成に向け、その資金獲得をめぐる駆け引きが始まったと言えます。
各省庁の取り組み
まずGreen Financeは、環境問題にコミットした金融を意味し、例えば再生可能エネルギーによる発電設備の構築や電気自動車の開発、森林再生などに特化した事業による資金調達(提供)を指します。Innovation Financeは、一般的にはFinTechへの投資がイメージされますが、環境問題に関してはClimate Innovation Financeと言い、環境問題の解決を可能にする事業や技術に対する投融資を指します。また、日本が技術的に世界をリードするCircular Economy分野に資金が投入されることへの期待も大きいです。
Transition Financeは一般にはあまり馴染みがありませんが、いま日本政府が力を入れている分野です。脱炭素を推進するためといっても、いきなり従来型の発電所や製鉄所の操業を停めたり、飛行機の運行をやめたりすることは現実的ではありません。これらのインフラ産業の温室効果ガス削減に向けた取り組みを後押しするための金融がTransition Financeであり、日本政府が強く推進し、その必要性について国際的な発信を強めています。
経産省に環境省と金融庁を加えた3省庁は連名で、「クライメート・トランジション・ファイアナンスに関する基本指針」を公表しています。その基本方針では、資金調達者と提供者の間で充分な情報を基礎とした対話が必要であるとし、Transition Financeに期待される事項をあらかじめ整理しておくことの重要性をうたっています。
金融庁は、「経済と環境の好循環」を作り出すことを可能にする技術力や潜在力をもつ企業において国内外の資金が活用されるために、金融機関や市場が適切にその機能を発揮することが必要だとしています。そのための課題や対策を検討する場として、1月からサステナブルファイナンス有識者会議を開催しました。前述のようにサステナブルファイナンスは非常に広い概念と対象を含みますが、金融庁ではESG課題全体に配慮をするとしつつも、最重要ターゲットとしてカーボンニュートラルの実現をあげています。
この有識者会議では、施策の方向性に関する提言や、社会全般に向けたメッセージを報告書として取りまとめるとしていますが、すぐに何らかの法改正に結びつくかは明確になっていません。しかし、金融庁では以前より金融市場の活性化に取り組んでおり、その一環としてコーポレートガバナンスコードの整備と普及、並行して機関投資家にはスチュワードシップコードに基づく行動を促しています。 (金融庁の池田賢志チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサーは、コーポレートガバナンスコードとスチュワードシップコードを車の両輪に例えています。)
今後、サステナブルファイナンスの推進にむけコーポレートガバナンスコードの改革を進めるとしていて、サステナビリティへの考慮、情報提供の充実、スチュワードシップ活動の後押しなどをポイントとしてあげています。加えて、気候変動分野における非財務情報の重要性についての認識を示しています。
【図4】金融庁の考えるサステナブルファイナンスという金融メカニズム
金融庁『サステナブルファイナンス有識者会議(第6回)事務局説明資料』
【図5】サステナブルファイナンスを取り巻く代表的な制度
SDGsはビジネスになるのか
ゲームルールの変更
※ジェレミー・リフキンはアメリカの経済・社会理論家。世界的な経済危機、エネルギー安全保障、気候変動という3つの課題に対処するための長期的な経済持続性計画「第三次産業革命」の主唱者である。
この世代が主役になるころには、SDGs(もしくは、それに続く活動)はごく身近で、当たり前のものになっていることが考えられます。いまや世界的にゲームのルールが変わりつつあり、旧来型の“儲かれば良い”という考えが許容されなくなってきています。ゲームのルール変更にアジャストできない企業はレピュテーション低下や活動範囲の縮小による収益減を招き、さらには資金の獲得も困難になり、退場を余儀なくされても仕方がないということになります。
企業にとっては、SDGsに積極的に取り組み社会課題を解決していく中で新しい事業機会が生まれ、さらに資金を集めることができるようになることが期待されます。そして、投資家がSDGsに取り組む企業に投資をすることでリターンを得る、という流れが生まれてくることが理想です。そこに欠かせないのが、正確な情報開示です。
情報開示の手引きとしては、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)のガイダンスの活用が注目されています。情報開示にはお金が掛かるのは事実ですが、TCFDのガイダンスを用いた情報開示は世界の共通言語になりつつあり、企業の戦略や将来価値を示すツールにもなると期待されています。企業はTCFDのガイダンスを活用して価値創造のストーリーを示し、市場や投資家との対話を深めていくことで投資資金を獲得し、さらにSDGsへの取り組みを推進させることにもつながります。
その他の情報開示のためのガイダンスとしては、IFRS財団によるサステナビリティ報告基準などがありますが、統一的なガイダンスの必要性も提唱されていて、今後の行方が注目されています。
金融業界の役割
日本では間接金融の割合が高いことから、金融機関が担う役割は大きいとされ、SDGsの理念に基づいた投融資の実施だけでなく、企業や地域のSDGsの推進役になることも期待されています。つまり、金融機関自身が積極的にSDGsに取り組む一方で、顧客である企業が適切にSDGsに取り組めるよう後押しをしたり、導いたりすることも求められています。具体的には、(企業が)ESG投資の資金を呼び込むためにTCFDのガイダンスに沿った情報開示の支援を行うことや、SDGsへの取り組みにむけたコンサルティングを行うことも期待されているのです。
また、地方創生に関しても、(地方創生は)一過性のものではなく持続可能なまちづくりと地域活性化が重要であるとされ、SDGsの理念に沿った各種の取り組みが地方創生の原動力になると関係づけられています。
もちろん、金融機関だけでなく、すべてのプレーヤーがSDGsに積極的に取り組んでいくことが重要です。先にも触れたように、ゲームルールの変更についていけないと、誰であっても退場を迫られてしまいます。企業は、SDGsへの取り組みの成果を可視化し、ステークホルダーに示していく必要があります。取り組みの成果を測定するためには、さまざまなデータを集め、加工することが必要になります。
また、それらのデータが正しいデータであることや、正しく扱われることも重要になってきます。一方で、一企業だけでこれらを成し遂げるのは、必ずしも簡単なこととはいえません。そこで、IT企業も含めた多くのプレーヤーとの連携が欠かせません。センシング技術やブロックチェーン技術の活用による客観性や非改竄性の担保、XBRLを利用したレポートづくりの効率化なども考える必要があると思います。
金融機関やFintech、IT企業などが一丸となってSDGsに取り組むことで、社会課題の解決にチャレンジする中で新しい事業機会が生まれ、ひいては日本の経済を活性化することにもつながっていくのではないでしょうか。そのためには、プレーヤーみんなが正しい情報を開示し、共有していくことがキーになってくると思います。
<参考>
JAPAN SDGs Action Platform(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html#head
すべての企業が持続的に発展するために- 持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド -(環境省)
https://www.env.go.jp/policy/SDGsguide-honpen.rev.pdf
環境省【第3回ESG金融懇談会】『持続可能な社会の形成に向けたお金の流れ』
https://www.env.go.jp/council/44esg-kinyu/y440-03/mat05.pdf
Sustainable Japan 世界と日本のESG投資
https://sustainablejapan.jp/2017/03/29/gsia-review-2016/26221
インパクト投資拡大に向けた提言書2019(GSG国内諮問委員会)
https://impactinvestment.jp/news/research/20200420.html
https://impactinvestment.jp/user/media/resources-pdf/impact_investment_report_2019.pdf
~特集~ 世界に広がるサステナブルファイナンスの潮流(環境情報誌SAFE 〔Vol.130 2020年3月〕三井住友フィナンシャルグループ)
https://www.smfg.co.jp/sustainability/report/magazine/pdf/safe130.pdf
SDGs債について(証券業界のSDGs 日本証券業協会)
https://www.jsda.or.jp/sdgs/sdgbonds.html
ESG 情報の開示基準は統一へ向かうのか(大和総研)
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20210205_022077.pdf
TCFDとは(TCFDコンソーシアム)
https://tcfd-consortium.jp/about
クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針(金融庁 他)
https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210507_2/03.pdf
サステナブルファイナンス有識者会議資料(金融庁)
https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/index.html
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。