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あらためて地方創生にどう取り組む? 第1回 なぜコロナ対応に地方創生?

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「地方創生」は常に注目されるキーワードのひとつです。新型コロナウイルス対策のニュースで耳にした人も多いことでしょう。多くの金融機関にとっても関わりの深いこのテーマについて、長年地方創生に携わってきた株式会社クニエの高橋誠司さんが3回にわたって紐解いていきます。第1回目は「なぜコロナ対応に地方創生?」みなさんの疑問に答えます。

コロナ対応に地方創生?

コロナ対応予算として地方創生交付金を準備した!

「全国の地方公共団体が行う新型コロナウイルス対応の予算として、地方創生の交付金を準備した!」
令和2年4月20日に閣議決定された新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(以下「地方創生臨時交付金」)は、令和1年度第1次~第3次補正予算を合わせると合計で4兆5,000億円に上りました。しかしここでは政府によるコロナ対応についての話ではなく、地方創生と銘打った交付金が配られたことに注目です。

そもそも地方創生が本格的にはじまった2015年時点では、コロナのコの字も無いわけで、「人口減少」と「地域経済」と言った地方都市の抱える重要課題をいかに解決して行くのか?ということで取り組まれてきました。
しかし、2020年度からはじまる第2期地方創生では、「しごとづくり」を始めとする4つの基本目標を踏まえつつも、「Society5.0の実現」、「SDGsを原動力」、「関係人口」などの言葉が目立つようになり、連携施策の位置づけで、「国家戦略特区制度」や「国土強靱化」などの言葉が出てきました。つまり都市や地域の課題解決に係る考え方や手段、制度などについても、地方創生を実現していくためには必要であるという流れになり、そのような時代の趨勢というべきそれぞれのキーワードと親和性がある言葉として地方創生が使われています。

図1 地方創生の基本方針の変化

そして今、都市や地域の抱えるいちばんの困りごとは新型コロナウイルス感染症への対応です。令和3年6月に国より出された「まち・ひと・しごと創生基本方針2021の考え方」では、基本的方向性の枕詞として「感染症の影響を踏まえた」を置いています。さらに地方創生の3つの視点として、1つ目にヒューマン、2つ目にデジタル、そして3つ目にはグリーンという、再度注目を集めている時代のキーワードを登場させています。

このように地方創生という言葉は、都市や地域に係る時代の持つキーワードと一緒になりながら、国や都市や地域の運営主体とも言うべき自治体、そして民間企業など、さまざまな主体がそれぞれの目的意識に応じて意味を持たせつつ利用されてきています。例えばSDGs、そして今は正に「コロナ」です。コロナについては、その頭にはウィズやアフターという言葉が隠れていて、今後、地方創生の新たな姿と関連づけられさまざまな形で表出してくることを予想しています。

そもそもの話

地方創生とは、まち・ひと・しごと創生法の第1条に「少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持すること」が目的であることが記されています。つまり「少子高齢化、人口減少の対応」と「地域経済の活性化」、「生活しやすい環境づくり」です。人口流出・少子化が進み、存続できなくなるおそれがある自治体を指す「消滅可能性都市」という言葉が使われ、このままでは多くの都市や地域は存在し続けられないとの危機意識から、2014年12月に国が策定した長期ビジョンと総合戦略に基づき、翌年からすべての都道府県と区市町村でまち・ひと・しごと創生人口ビジョンと総合戦略が作られさまざまな取り組みが行われました。この辺りの説明は内閣府の詳しいサイトを参考資料(※1)としてご覧ください。
2015年度から2019年度までの5年間を、地方創生の第一期と呼びますが、全国の自治体が行ったその取り組みは正にさまざまで、最後のチャンスと認識して関係者を巻き込んで大いに頑張ったところ、使いやすい交付金や補助金がもらえるならと可能な範囲でやっておこうと取り組みを行ったところなどがありました。もちろん新たに何かを取り組んで、5年程度で「少子高齢化、人口減少の解消」や「地域経済の活性化」などを実現するということは難しいです。多くの自治体では引き続き人口減少が進み、域内の産業が劇的に活気を取り戻し、しかもそれが続いているというような事例はほとんど聞きません。

地方創生にどう関わる金融機関?

このように、時代の趨勢を反映して意味合いを広げてきた地方創生について、地方銀行や信用金庫など、地域の金融機関はどのように関わってきたのでしょうか? 地方創生の変遷とともに各都市や地域の金融機関の関りについてみると、全体的な傾向は「様子見・準備」→「貢献・連携」→「多様な取り組みへ」のような変遷が見られます。

まずは様子見で関わりを始めた金融機関

国は地方創生に係り地域の金融機関へ協力のお願いをしました。具体的には「地方版総合戦略の策定への協力」、「地方版総合戦略の実施に向けた協力」そして「地域における金融機能の高度化に向けた取り組み」ですが、各自治体が地域の金融機関に特に期待したことは、金融機関が持つ知見等を活かして、事業を具体的に進めて行く際に上手く関わってもらうことでした。

果たして地域の金融機関ははじめから前のめりで地方創生に積極的に関わっていったのでしょうか?

2015年4月に、都市銀行を含む金融機関に対して国が行った「地方版総合戦略の策定等に向けた取組状況」についてのアンケートでは、地方版総合戦略の策定に向けて、全体の67.3%の金融機関が関りを持っていましたが、その多くは挨拶程度となっていました。しかし個別事業への関与については、ビジネスマッチング(42.2%)などと、以前より取り組んでいたものが多くなっていきました。その一方で、いくつかの金融機関では「地方創生プロジェクトチーム」などの名称の組織を立ち上げ、自治体との連携強化に取り組むといったことをしています。

実際に、北海道銀行による地域農業活性化に関わる支援、千葉銀行や伊予銀行などによる古民家や遊休施設等の利活用による観光振興など、さまざまな事例がそこかしこで紹介されています。しかしそうした素晴らしい事例の多くは、地域に貢献するような取り組みをしてほしいという地域の金融機関に対する地元からのニーズや期待に応えたものでもあるのではないでしょうか。なお、筆者は全国のさまざまな自治体の地方創生に関わらせていただいていますが、地元の金融機関が積極的に関わっているケースはまだ必ずしも多くないと感じています。なぜなら・・・

図2 ゲストハウスに生まれ変わった古民家

(愛媛県内子町)古民家を活用したゲストハウスの事業化支援《伊予銀行支援事例》

様子見から貢献・連携へ

地方創生が本格的に始まった2015年頃では、全体的に様子見かつ準備を進める金融機関が多い傾向でしたが、中にはこれまでにリレーションシップバンキング(※2)の取り組み等を通じて、地域とのさまざまな関りがある金融機関等も少なからずあり、先に例示したような取り組みが「地方創生としての実績」として評価されていることが多いです。次第に世の中の地方創生に対する注目度や話題性、国の予算の多さなどもあり、各金融機関が、その前提としてその地域の自治体がまち・ひと・しごと創生総合戦略の具現化に熱心な場合には、地方創生に向けて自治体と「連携協定や包括協定の締結」などの形で進めるケースが多くみられるようになりました。これによって金融機関と自治体や関係者等とが協力して取り組む体制や仕組みづくりが円滑になり、農業や漁業、観光などの地場産業や地域資源の利活用に係るものから、環境・エネルギーなどに至るまで、まずは地域貢献の色合いが濃い分野・領域での取り組みが各地で行われてきたのです。
(※2) リレーションシップバンキング 金融機関が顧客との間で長期にわたり親密な関係を継続して維持することで、信用情報などを入手し、貸し出し等の金融サービスに活かすのみならず、地域内外の企業や人材が紹介できるといった金融以外のサービスや、将来の事業再生支援がしやすくなるといった幅広いメリットがある。

そうして今日の多様な取り組みへ

地域とのさまざまな関りを通じて、また全国での取り組み事例についての情報収集などを行うことで経験値を重ね、多くの金融機関では地方創生に関わる融資制度の充実、創業支援、ビジネスマッチングの強化などは基本的な機能として持ち合わせるようになっています。但し、取り組みに対する熱量やそこから得られた成果については、各金融機関によりまちまちです。

地域の流通環境が厳しい地域で、金融機関が主体的に特産品の開発や流通の仕組み構築等を進めるため、地域商社を設立して取り組むような事例も少なからず聞かれるようになっていて、そうした地域発の取り組みに対して国からさまざまな支援が行われています。

これからどう取り組む地方創生?

今日の時代のキーワードの1つを上げるとしたらSDGsがその筆頭だと思われます。このSDGsについても地方創生との関りも強いことから、「地方創生SDGs」という言葉の冠となっています。そして国が主導して「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」が開設され、SDGsの観点から地方創生を具現化していくために、知恵や人材等のマッチング、各種情報提供などを意図して運営がなされています。

これまで見てきた通り、地方創生は時代を反映したさまざまなキーワードと親和性や関りが強くなるので、それを加味して取り組んで行くことが望ましいのです。

次回の寄稿では、筆者がさまざまな地域との関り等の中から認識している地方創生の効果的な進め方について、それらの主なことについて具体例をあげて述べたいと思います。
次回予告 「第2回.地方創生に向けた新たな潮流~なるほど参考事例とどうする金融機関!」
【この記事を書いた方】

高橋 誠司(たかはし せいじ)さん
株式会社クニエ
CS事業本部 地方創生/都市経営担当
ディレクター

マーケティング会社、シンクタンク等を経て、2018年から株式会社クニエへ。20年以上に渡り全国各地を回り各地の行政職員、企業、支援機関、金融機関等の方々と一緒になって地域特性・資源等を活かした地域活性化、まちおこし、そして地方創生等の業務に従事。最近は自治体のまち・ひと・しごと創生総合戦略の策定やスマートシティの推進に関わる業務などに注力している。

(株式会社クニエ)
https://www.qunie.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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執筆 オクトノット編集部

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