電子帳簿保存法の改正への対応は進んでいない
そもそも電子帳簿保存法とは?
(※)出典:国税庁HP
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf
なぜ改正されるのか?
2022年1月1日に予定されている改正は企業に与えるインパクトが特に大きいと予想されています。しかしながら、株式会社LayerXが2021年10月に企業の経理・財務担当者に実施したアンケート調査によると、法改正に向けた対応に着手していない企業が40.4%、対応済みはわずか1.5%に留まっているという結果が示されています。インパクトに反して改正が急であったと言われ、企業の対応が間に合っていない状況にあると見られています。
法改正で何が変わるの?
紙で受け取った書類の電子保存(スキャナ保存)
中でも、スキャナ保存における改正の大きなポイントの1つが「タイムスタンプ」です。従前から電子保存におけるシステム要件で定められていた項目ですが、2022年の改正ではこれを不要とすることができるとされています(廃止されたわけではない)。
背景には、中小企業における電子化要件準拠のための対応負荷があると言われています。帳票処理にSaaS型サービスを使用している中小企業も多いと思われますが、クラウドサーバーを第三者が管理していてユーザー側で訂正・削除ができない仕様になっていれば、サーバー側の時刻情報設定が実質的にタイムスタンプと同等の効果があるとみなされました。この要件緩和は、中小企業における電子化促進の後押し材料の1つとなることが期待されています。
電子データで受け取った書類の電子保存
これまで、電帳法の規定に従った対応ができない企業は、受け取った電子取引データを紙に出力して紙で一元的に保存をしていました。ですが、これが法改正後はデータで保存することが必須になるという、ということです。当然ながら、対応企業の業務フローにも大きな影響を与えるものと思われます。
ただ、これについては、2021年12月10日に政府与党が公表した『令和4年度税制改正大綱』において、2年間の猶予期間を設ける方針が示されました。改正が急ピッチで進められたこともあり、企業側の対応が間に合っていない実態を勘案した経過措置であると考えられています。
インボイス制度との関係
(※)インボイス制度:正式名称は適格請求書等保存方式。売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えるための適格請求書(インボイス)の記載方法や交付、保存に係るルールを定めるもの。
インボイス制度は電帳法とセットで語られることが多いですが、その関係性を理解する1つのポイントが「適格請求発行事業者の登録番号」です。制度内容についてはまた別の記事で取り上げたいと思いますが、インボイス制度では、適格請求書を交付するための事業者登録が行われることとなり、その登録番号が請求書の記載事項として追加されます。
適格請求書を受け取った企業は、記載されている登録番号が正しいのか、存在するのかを一つ一つ確認しなければなりません。紙を前提とすると、この作業はかなり大変です。しかし、請求書を電子的に受け取って保存すれば、確認作業にかかる負担も軽減されます。その場合、電子データで発行される帳票が電子取引に該当することとなるため、電帳法の要件に従った保存をする必要性が今後ますます高まってくるものと考えられます。
なお、請求書などは電子データと紙の両方が発行されるケースもありますが、国税庁の見解としては、同じ内容のものを発行している場合は、受け取った企業側で正本を決め、税務調査において取引事実が確認できる書類を整備できていればよいものとしているようです。
企業はこれからどう対応していけばよいのか?
一方で、今回の法改正への対応に悩みを抱えている企業が多いことも事実です。とりわけ、電子取引データを紙で保存することができなくなったという改正点の影響は大きく、電帳法の要件を満たすことが難しい企業の中には、あえて紙で請求書を発行してもらうことを取引先に要請するなど、本来の電帳法の趣旨と逆行する動きもあると言われています。
このように改正対応にあたっては混乱が続く状況にはありますが、LayerXの代表取締役CEO福島さんはセミナーの中で「大前提として、今回の電庁法改正は本来的には多くの企業にとってポジティブ」だと話します。従来よりも電子保存をしやすくし、企業のデジタル化を促すための好機であるためです。
現在、すでに多くのSaaS型サービス提供事業者から、電帳法改正に対応したソリューションが展開されています。
提供事業者 | サービス名 |
---|---|
株式会社NTTデータビジネスブレインズ | ClimberCloud |
株式会社LayerX | バクラク電子帳簿保存・バクラク請求書 |
株式会社マネーフォワード | マネーフォワードクラウドBox |
株式会社オービックビジネスコンサルタント | 奉行Edge証憑保管クラウド |
株式会社Deepwork | Invox電子帳簿保存 |
株式会社ラクス | 楽楽精算 |
『令和4年度税制改正大綱』においても、帳簿などの税務関係書類の電子化の推進に触れて「申告納税制度の下における適正・公平な課税の実現のみならず、経営状態の可視化による経営力の強化、バックオフィスの生産性の向上のためにも重要であることに鑑み(以下略)」と、その取り組みの目的が掲げられています。
中小企業の持続的な成長は、地域経済の活性化のためにも非常に大切なテーマです。法改正の機会を前向きに捉え、企業自身のみならず、企業を支えるさまざまなステークホルダーが一体となってデジタル化を推し進めていくことが、今後ますます求められてくるのではないでしょうか。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。