オルタナティブデータとは何か
オルタナティブデータとは、金融機関等が投融資に活用してきた伝統的な経済指標(財務諸表の数値や経済統計など)に含まれないデータの総称です。
レジを通った瞬間に生まれるPOSやクレジットカードの記録、スマートフォンが捕捉する人の位置情報、工場や店舗のセンサーが吐き出す稼働ログ、衛星が切り取る上空の映像、SNSで語られた口コミ情報――経済活動に関するもの であれば、どのようなものであってもオルタナティブデータとなりえます。定
性情報や将来情報、非構造化データや時系列データなど、形式や取得方法も問いません。まず、こうした多様なデータ=オルタナティブデータは、金融機関にとって価値があるかについて考えてみましょう。
レジを通った瞬間に生まれるPOSやクレジットカードの記録、スマートフォンが捕捉する人の位置情報、工場や店舗のセンサーが吐き出す稼働ログ、衛星が切り取る上空の映像、SNSで語られた口コミ情報――経済活動に関するもの であれば、どのようなものであってもオルタナティブデータとなりえます。定
性情報や将来情報、非構造化データや時系列データなど、形式や取得方法も問いません。まず、こうした多様なデータ=オルタナティブデータは、金融機関にとって価値があるかについて考えてみましょう。
なぜ金融機関にとって価値があるのか
オルタナティブデータが金融機関にとって価値がある理由は、これまで定量化が難しかった「経営のリアル」や「行動の変化」を可視化できる点にあります。
かつて銀行員は、取引先企業を訪問し、経営者の表情やオフィスの整理状況など、目に見える“空気感”をもとに、貸倒リスクを直感的に判断していました。こうした経験則に基づく観察は、金融の現場における重要なノウハウでしたが、属人的で再現性に乏しいという課題もありました。
そこで、こうした“肌感覚”を補完する手段として、デジタルデータの活用が有効であると考えられるようになりました。たとえば、企業の従業員の勤務状況や、店舗の来客数、SNS上での評判など、企業の経営状況に影響する行動や反応に関するデータを収集・分析することで、経営の健全性や変化の兆しを客観的に捉えることが可能になってきました。
さらに、AIの進化により、未整理の膨大なデータからパターンや異常値を抽出し、従来は見過ごされていた課題や仮説を導き出すこともできるようになっています。これにより、企業の経営状況の変化に対する先行指標の発見や、従来とは異なる視点での与信スコアの構築など、金融に関する意思決定に新たな可能性が広がっています。
つまり、オルタナティブデータは、単なる補完情報ではなく、変化を先読みして先手を打つ金融を実現するための有用なツールとして、ますます重要性を増しているのです。
さらに、この流れに制度面の追い風が重なっています。2026年5月に控える企業価値担保権の法制度化により、金融の融資業務においては、不動産や経営者保証に過度に依存せず、事業の将来性・継続力を見立てる実務が一段と重要になります。つまり、財務諸表だけではとらえにくい「現場の変化」を連続的に観測し、与信・期中モニタリング・成長支援 へとつなぐ仕組みがこれまで以上に求められるようになるのです。
この要請に応える基盤としても、オルタナティブデータの予測的活用が注目されています。
かつて銀行員は、取引先企業を訪問し、経営者の表情やオフィスの整理状況など、目に見える“空気感”をもとに、貸倒リスクを直感的に判断していました。こうした経験則に基づく観察は、金融の現場における重要なノウハウでしたが、属人的で再現性に乏しいという課題もありました。
そこで、こうした“肌感覚”を補完する手段として、デジタルデータの活用が有効であると考えられるようになりました。たとえば、企業の従業員の勤務状況や、店舗の来客数、SNS上での評判など、企業の経営状況に影響する行動や反応に関するデータを収集・分析することで、経営の健全性や変化の兆しを客観的に捉えることが可能になってきました。
さらに、AIの進化により、未整理の膨大なデータからパターンや異常値を抽出し、従来は見過ごされていた課題や仮説を導き出すこともできるようになっています。これにより、企業の経営状況の変化に対する先行指標の発見や、従来とは異なる視点での与信スコアの構築など、金融に関する意思決定に新たな可能性が広がっています。
つまり、オルタナティブデータは、単なる補完情報ではなく、変化を先読みして先手を打つ金融を実現するための有用なツールとして、ますます重要性を増しているのです。
さらに、この流れに制度面の追い風が重なっています。2026年5月に控える企業価値担保権の法制度化により、金融の融資業務においては、不動産や経営者保証に過度に依存せず、事業の将来性・継続力を見立てる実務が一段と重要になります。つまり、財務諸表だけではとらえにくい「現場の変化」を連続的に観測し、与信・期中モニタリング・成長支援 へとつなぐ仕組みがこれまで以上に求められるようになるのです。
この要請に応える基盤としても、オルタナティブデータの予測的活用が注目されています。

金融業界における活用事例とは
実際に、金融業界では、従来の財務データに加え、購買・支払履歴、衛星画像、SNS、スマートデバイス情報などのオルタナティブデータ活用が進んでいます。多様な外部データを組み合わせることで、より高度な意思決定とリスク管理が可能とになりつつあります。

表1:金融業態ごとのオルタナティブデータの利用例
表1は、銀行、証券・投資、保険、クレジットカード/決済でのオルタナティブデータの利用例です。銀行では信用スコアの補完にオルタナティブデータが利用できます。例えば、十分な取引履歴がない小規模な企業や個人への融資判断を行う際には、融資対象の同意を得たうえで、電気、ガス、水道料金や携帯電話の代金の支払状況を利用することができます。また、マネーロンダリングにつながるような不正と思われる送金の検知には、普段利用されていないデバイスからのログインなどからアラートの条件を生成することができます。
証券・投資では、衛星画像やPOSデータ、SNS投稿などのオルタナティブデータを活用し、企業業績や市場動向を先読みします。これにより、決算予測の精度を高め、投資家心理の分析やイベント反応の把握を通じて、より的確で迅速な投資判断を行うことができます。
保険では、車載テレマティクスやウェアラブルデータを活用して、走行状況や健康状態に応じた個別リスク評価を行います。また、スマートホームや気象データを用いて災害や事故を早期に検知し、予防型保険サービスを提供します。保険料の最適化と損害の低減を図ることができます
クレジットカード・決済では、取引履歴や行動・位置データを分析し、不正利用をリアルタイムで検知・防止します。さらに、匿名化された決済情報を基に、業界別・地域別の消費傾向を明らかにし、経済動向の把握やマーケティング戦略の立案に役立てることができます。
証券・投資では、衛星画像やPOSデータ、SNS投稿などのオルタナティブデータを活用し、企業業績や市場動向を先読みします。これにより、決算予測の精度を高め、投資家心理の分析やイベント反応の把握を通じて、より的確で迅速な投資判断を行うことができます。
保険では、車載テレマティクスやウェアラブルデータを活用して、走行状況や健康状態に応じた個別リスク評価を行います。また、スマートホームや気象データを用いて災害や事故を早期に検知し、予防型保険サービスを提供します。保険料の最適化と損害の低減を図ることができます
クレジットカード・決済では、取引履歴や行動・位置データを分析し、不正利用をリアルタイムで検知・防止します。さらに、匿名化された決済情報を基に、業界別・地域別の消費傾向を明らかにし、経済動向の把握やマーケティング戦略の立案に役立てることができます。
具体的な活用事例の紹介
ここでは、先ほどのオルタナティブデータ活用事例の一覧表より、いくつか実運用化された具体的な事例をご紹介いたします。
クレジットカード・決済
JCB×ナウキャスト
クレジットカード決済データを活用した消費指数で、日次ベースの消費動向を提供。
JCBとナウキャストは、JCBグループ会員の中からランダム抽出した約1,000万会員の属性や決済情報を、個人が特定できない状態の情報へ加工し、統計処理後の数値を消費指数として、「JCB消費NOW」サイトで公開しています。
ナウキャスト/JCB|JCB消費NOW
クレジットカード決済データを活用した消費指数で、日次ベースの消費動向を提供。
JCBとナウキャストは、JCBグループ会員の中からランダム抽出した約1,000万会員の属性や決済情報を、個人が特定できない状態の情報へ加工し、統計処理後の数値を消費指数として、「JCB消費NOW」サイトで公開しています。
ナウキャスト/JCB|JCB消費NOW
保険
SOMPOホールディングス
SOMPO Drive
運転行動をリアルに評価し、安全運転のドライバーに対して保険料割引やインセンティブを導入
個人向けスマートフォン用無料運転診断アプリ『SOMPO Drive』(2023年4月~提供)では、自動車保険におけるテレマティクスデータ(走行距離・速度・GPS軌跡・ブレーキ操作頻度など)を用いて、運転中の挙動ログをリアルタイムに取得し、安全運転評価を定量化していますする。これにより、安全運転スコアに応じて「安全運転割引」の適用を受ける事ができます。
損保ジャパン|無料運転診断アプリ「SOMPO Drive」
SOMPO Drive
運転行動をリアルに評価し、安全運転のドライバーに対して保険料割引やインセンティブを導入
個人向けスマートフォン用無料運転診断アプリ『SOMPO Drive』(2023年4月~提供)では、自動車保険におけるテレマティクスデータ(走行距離・速度・GPS軌跡・ブレーキ操作頻度など)を用いて、運転中の挙動ログをリアルタイムに取得し、安全運転評価を定量化していますする。これにより、安全運転スコアに応じて「安全運転割引」の適用を受ける事ができます。
損保ジャパン|無料運転診断アプリ「SOMPO Drive」
投資・リスク管理
JPX(日本取引所グループ)
売買内訳データ提供サービス
東京証券取引所等の注文・約定データ、システムログ、信用・空売り情報などを有償提供
東証上場銘柄の売買代金・売買高を、注文時フラグ(信用/制度・一般、空売り有無等)で細分化し有償提供しています。需給の偏りやレバレッジ蓄積を把握でき、投資判断だけでなく、証券会社の与信管理や貸株レート検討などリスク管理に活用することができます。
売買内訳データ提供サービス | 有料情報(オルタナティブデータサービス) | 日本取引所グループ
売買内訳データ提供サービス
東京証券取引所等の注文・約定データ、システムログ、信用・空売り情報などを有償提供
東証上場銘柄の売買代金・売買高を、注文時フラグ(信用/制度・一般、空売り有無等)で細分化し有償提供しています。需給の偏りやレバレッジ蓄積を把握でき、投資判断だけでなく、証券会社の与信管理や貸株レート検討などリスク管理に活用することができます。
売買内訳データ提供サービス | 有料情報(オルタナティブデータサービス) | 日本取引所グループ
資産運用
BlackRock(ブラックロック/米国・資産運用会社)
Geospatial Data(地理空間データ)の活用
衛星・災害データで地域の気候リスクを可視化し、投資判断に活用しています。 森林火災や洪水の影響を衛星画像で早期把握し、企業の工場・倉庫等の位置情報と重ねて露出度を算出、結果をポートフォリオ配分やヘッジ、エンゲージメントに反映し、財務指標では捉えにくい現場の変化を補完することができます。
Climate change’s uneven impact in California l Blackrock
Geospatial Data(地理空間データ)の活用
衛星・災害データで地域の気候リスクを可視化し、投資判断に活用しています。 森林火災や洪水の影響を衛星画像で早期把握し、企業の工場・倉庫等の位置情報と重ねて露出度を算出、結果をポートフォリオ配分やヘッジ、エンゲージメントに反映し、財務指標では捉えにくい現場の変化を補完することができます。
Climate change’s uneven impact in California l Blackrock

オルタナティブデータが描く次世代の金融
オルタナティブデータは、単なる新しい情報源ではなく、金融の意思決定を根本から変える力を秘めています。制度面においても、企業価値を担保とする仕組みなど新たな評価枠組みが整いつつあり、こうした動きが多面的なデータ活用を後押ししています。一方で、その収集・分析にあたっては、個人情報や企業の機密情報などの取り扱いに十分な注意が求められます。法令を遵守し、匿名化や集計化などの適切な方法で安全に管理することが不可欠です。そのうえで重要なのは、データの「意味」をどう読み解くかという点です。多様なデータのつながりから本質を見抜く力こそ、今後の金融機関に求められる新たな競争力といえるでしょう。オルタナティブデータの活用は、まさに“変化を先読みする金融”への第一歩です。


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