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コラム

AIは不公平!? 金融業界における活用の今とこれから

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現在のAIを支えるソフト、ハードの技術は、2010年代に入り活発化しました。そしてスマートフォンの普及やセンサーが市中で利用されるようになり多種多様なデータが収集されるようになってきています。このような背景から、金融においても、融資や保険、投資などの多くの分野で事象の分析や予測が広範囲にされるようになってきています。今回は金融におけるこれまでのAIの利用の動向と、その課題、今後の展望について紹介します。説明可能なAIや金融包摂、オルタナティブデータ(従来の業務では使われておらず、その業務の分析等に有用な新たなデータ)についても紹介します。

金融におけるAIの利用の現状

2010年代半ばから多くの産業でAIが利用され始めています。現在では、米国の新型コロナウイルス対策法による医療機関に対する救済資金提供の評価などもAIでされています。AIの利用は一部の産業だけでなく、公的な制度の設計や評価に利用されるほど一般的になっています。
金融におけるAIの導入率は全産業のなかでも比較的早くから高い状態にありました。代表的なものに、銀行での融資審査や融資需要予測のへの適用があります。具体的には渉外担当が経験則で行っていた財務諸表や口座の動きなどをもとにした取引先の評価の一部をAIが行うようになっています。入出金履歴のデータや取引先との対話の日報などのデータをAIで分析することで、一定の水準で多くの取引先を評価できます。さらに人手を減らしてこれまで発見できなかった取引先のリスクや融資機会を発見することができます。
また保険においても多種多様なデータをAIで分析しています。動産保険の例では放牧している牛にセンサー付きの首輪をつけて、牛の位置、歩行、接触、反芻などの行動を推定する実証実験がされています。これは、融資に必要となる個体数の確認や個体ごとの状況把握に時間やコストがかかるという課題を解決し効率的な動産担保融資の有効性を検証することを狙いとした取り組みです。
AIは顧客や資産の状況に対する評価を行うため、場合によっては顧客の評価結果の説明責任を求められることもあります。そこで、AIが数あるデータのどの部分をもとにこうした評価結果を出したのかを明らかにする“説明可能なAI”が利用されるようになっています。融資需要予測を例に取ると、入出金履歴などの口座情報から算出される決算月の残高などが、融資需要有りと予測した評価の根拠となったデータ項目として示されるイメージです。
しかしこの“説明可能なAI”も万能ではありません。なぜなら、提示されたデータ項目の使い方は人間が決定しなければならないからです。例えば融資審査なら、融資否認の案件の判定根拠を知るために使うだけでなく、融資実行後に返済不能となった案件の傾向分析を行うために使うことなども考えられます。
業務上の定義はAIには頼れずあくまで人間が決定しなければならないのです。このように人間がAIの利用のループにうまく入り込むことをヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop)と呼び、近年のAIの利用では重要なテーマとなっています。

AIの利用により生まれた課題

AIの利用では分析や予測の対象とする業務の過去データを大量に利用して、AIモデルを構築します。そのため過去データに偏りがあるとAIモデルもそのデータに従い偏りを持った判定をすることが課題となっています。企業の採用にAIを導入したところ、過去に多く採用した実績のある特定の性別などの属性の応募者を選びやすい傾向があることがわかり、AIの利用をやめた例もあるようです。金融でのAI利用での課題について2つ例を上げて説明します。

課題① AIの公平性

金融においては、ローンの審査などで利用されるAIに課題があります。AIモデルの構築に過去のローン審査で承認された人のデータを利用しているため、データには偏りがあります。ローンを提供する金融機関は、過去の返済状況も含めたローン審査に通過した人のデータをAIに学習させます。

過去のローン承認者はローン非承認者と比べ、高学歴、高収入、これまでローンの返済を滞りなくしているなどの傾向があります。よって、AIを使った審査結果には、意図しない過去の審査データが影響し、過去にローン審査で承認されていない人は、融資が承認されにくくなるなど公平性に対する課題が生じる場合があります。

課題② 学習データの少なさ

個人や法人などの債務不履行、金融機関サービスへの不正アクセスや不正送金などをAIで検知する試みもありますが、AIが学習するデータが少ないことも課題となっています。融資案件のなかの債務不履行の割合はとても少なく、債務不履行の学習をさせたくても十分なデータがない場合が多いです。

このため精度の高いAIモデルができないこともあります。また不正アクセスや不正利用もAIによる検出が期待されますが、こちらも実際の取引のデータに占める不正の割合はとても少ない状態です。学習に十分なデータがあるとは必ずしも言えません。こうした課題に対応するため、AIの技術は進展しいくつかの対応策もできています。

今後のAIの進展

前項で、現在のAIの課題を2つ紹介しました。これらの課題の解決を含め今後の金融におけるAIの進展が期待されます。

① AIの公平性に対するAIの進展

ローン審査で承認されたデータには偏りがあり、年齢、学歴、収入額、借入履歴などのデータ(従来型データ)に一定の傾向があります。その傾向と合致しない申込については、非承認となる可能性が高くなることが予見されます。一方でSDGsの目標である「貧困をなくそう」、「人や国の不平等をなくそう」に貢献する取り組みとして金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)が注目されています。これまでローン審査の通過が難しかった人に金融サービスへのアクセスを提供する試みがされてきています。
金融包摂を実現するために、従来型データ以外のデータである“オルタナティブデータ”を利用する実証実験もされています。この実証実験では、オルタナティブデータとしてオンラインショッピングの履歴、携帯電話の利用状況や位置情報などのモバイル履歴、ソーシャルメディアの履歴などを利用しています。

オルタナティブデータの利用により、これまで金融機関がアクセスできなかった方たちに金融サービスを提供できる可能性が広がります。またオルタナティブデータが借手の返済行動を予測できるなど、従来のローンの業務についても有効なデータとなることが示唆されています。

② 学習データの少なさに対するAIの進展

債務不履行や不正アクセス、不正送金などの、AIが学習するデータが十分でない場合に対する技術も考案されています。プライバシー強化技術を用いることで、複数の金融機関のデータを、機密性を保持しながら共有し、AIモデルを構築することができます。データを提供した金融機関は、複数の金融機関のデータにより構築されたAIモデルを利用し、精度の高い予測や検知ができる可能性があります。債務不履行や不正以外でも、高額の融資の需要予測など単独の金融機関で学習データが十分にない場合であってもこうした技術は利用できます。
このように、金融包摂や不正送金の検出などは、具体的な対策が研究から実用レベルへの移行が模索されている状態です。
また、ここにあげた以外でもAIを利用した顔認証のなりすましなど、現時点では金融の業務では顕在化していない課題も存在します。金融以外の産業においてもAIの利用がされており、製造業、小売業、公共などで利用されるAIの技術が金融での潜在的な課題の解決に利用できることが期待されます。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

企業の研究開発部門で、ナレッジマネジメント、Web系アプリケーションの研究開発に従事。事業部門で、業務プロセスの分析と業務設計を行い、事務の集中化やヘルプデスクの安定運用のための機械学習の適用などを経験。現在は金融分野における機械学習の応用を目的とし、自然言語処理、説明可能性、AIの公平性、異常検知などの調査、ユースケースの検討に従事。

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