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サブスクリプションとバンキング

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銀行を取り巻くビジネス環境は年々厳しくなっています。
1990年代後半から続く低金利による影響で、銀行の貸出収入は減少しました。利ザヤが縮小し、純利益は減少傾向にあります。銀行法改正や資金決済法の改正により、異業種の参入も増えました。
こうした状況の中で、新たな収益源の確保は銀行にとって大きな課題となっています。
今回は米Greenlight社の事例をご紹介しつつ、銀行の新たなビジネスモデルの可能性を探ります。

なぜ今サブスクなのか

銀行の新たな収益源、と言われて真っ先に思いつくのは手数料でしょう。日本でも休眠口座の維持手数料や通帳発行手数料といった、海外で前例のある手数料の設定が始まりました。毎月の口座維持手数料などは海外では当たり前のものです。そうした新たな手数料が設定される日もそう遠くはないのかもしれません。

とはいえ、海外でもフィービジネスが好意的に受け入れられているわけではありません。米国で金融機関専門の比較サービスを運営するMyBankTrackerが実施した「お金の悩み」に関するアンケートでは、40%もの人が「Hidden charges※」が最も腹立たしいと回答しています。
明細を見てみたら、想定外の手数料が加算されていて驚いた、というのは誰しも経験のあるところではないでしょうか。サービス提供側からすれば当然の料金ではあるのですが、利用者には同意していないお金を払わされた、という不満が残ります。
※隠れた料金。利用者が認識していなかった料金。

送金手数料くらいならまだしも、月▲回以上は有料、▲円以上は有料、平日の特定時間帯以外は有料、◎◎銀行では無料だが■■銀行では有料……その複雑さは改めて述べるまでもありません。わかりにくいサービスへの不満は海外でも同じです。

また、料金設定の妥当性の問題もあります。日本で通帳発行手数料が発表された時、インターネットは「紙の通帳を発行するのにどうしてこんなにお金がかかるのか?」という声であふれかえりました。銀行目線で妥当な設定であっても、利用者が納得する説明をするのは難しいでしょう。なぜかというと、利用者が得られる利益と直接的に結びついた料金ではないからです。納得感の薄い不透明な料金設定は、サービス提供者への不信につながります。

先述のような不満や不信感は顧客体験価値を損ないます。モノ消費からコト消費と言われて久しいですが、昨今はトキ消費やエモ消費といった言葉も生まれています。顧客体験重視が当たり前の世の中なのは、皆様も日々実感されていることと思います。大人でもそうなのです。デジタルネイティブであり、エモ、すなわち感情を満足させてくれるサービスに囲まれて育ったZ世代であればなおさらでしょう。普通の機能しか使えないのに面倒だな、不快だな、と感じられるものが今後も支持されるでしょうか?

そんな中で、顧客体験価値により重きを置いた銀行が出始めています。彼らが収益を得る手段として採用しているのがサブスクリプションモデル(以下サブスク)というわけです。

利用者は価値にお金を払いたい

本題に入る前に、サブスクについて軽くおさらいしたいと思います。サブスクは料金を支払うことで、一定期間のサービスが受けられるビジネスモデルです。
大別すると下記の2種類あります。

・全サービスが有料
 例:Netflix
・基本的なサービスは無料、高付加価値のサービスは有料
 例:Youtube

サブスクの銀行はおおむね前者です。預金など基本的な機能に加え、より付加価値の高いサービスをセットにして有料で提供しています。こうしたサブスクの銀行は「No hidden fees」を強くアピールしています。基本的には月額で支払っている料金以上のお金を請求されることはありません。物理カードの再発行など一部例外はありますが、シンプルなデザインのFAQにわかりやすく列記するといった工夫しています。金融サービスにつきまとう複雑さを克服しているといって差し支えないでしょう。サブスクの銀行は、利用者自身がお金を払う価値があると納得したサービスに安心してお金を払うことができます。

金融でサブスクはなかったわけではありません。例えばマネーフォワード MEは、基本は無料、月額500円でプレミアムな家計簿・資産運用サービスを提供するツールです。しかし銀行で、というのは非常にディスラプティブな戦略と言えます。

それでは、高付加価値の銀行サービスとはどのようなものでしょうか。
実際のサブスク銀行の事例をみてみましょう。

金融教育×サブスク銀行

米Greenlight社は子供が保護者の監督のもと、金融教育を受けられる口座を提供しており、すでに300万世帯の顧客を獲得しています。料金は月額$4.99のGreenlightプラン、$7.98のGreenlight+Invest、$9.88のGreenlight Maxの3種類から選ぶことができ、料金が高くなるにつれ、利用できるサービスが増えていきます。
最も安いGreenlightプランでも、預金や送金など基本的なサービスに加え、保護者が子供のお金の使い方を管理する機能などを使用することができます。

<Greenlightプランで使える機能>
・預金、送金など基本的な銀行機能
・家事のタスクを子どもにアプリ内で割当て、それに対しての報酬金額を設定。タスクを達成したら子供の口座にお金を自動で送金
・毎月のお小遣い額を設定しておくと、子供の口座に自動で送金
・子供がお金を使ったらリアルタイムで通知
・子供の口座に1%の利息
・子供がデビッドカードで買い物しても良いお店を保護者があらかじめ設定可能。禁止されているお店で買い物をすると通知
・全ての取引履歴をアプリ上で閲覧
・おつりを自動で貯金
・保護者が子供の口座に対して任意の金利を設定し、利息を支払う
・アプリ内で貯蓄目標を設定し、進捗状況をモニタリング
・子供が使用可能なATMや引き出し限度額を設定
・保護者がアプリから子供のカードの差し止め

このように、非常に豊富なサービスが提供されていることが見て取れます。また、Greenlight+Investのプランでは、保護者名義の証券口座を子供がつけるようにすることで、$1から株式を購入できるようになります。取引手数料はかかりません。取引には保護者の承認が必要で、子供は保護者の管理下のもと、安全に資産運用を学ぶことができます。

最も高額なプランでは、投資の機能に加え、買い物をするたびに1%のキャッシュバックがつくようになったり、スマホ保険が付帯したりとより様々なサービスを受けられるようになります。とはいえ、ほとんどの場合はGreenlightプランで困ることはないでしょう

おわりに

今回は米Greenlight社の事例についてご紹介しました。Greenlightの事例で着目しなければならないのはZ世代にターゲットを定めている点です。2016年前後に設立したネオバンクは32~35歳のミレニアル世代が主要な客層で、Monzoのような有名なサービスでさえ、18歳未満利用者は2%未満に留まります。Z世代の支持を得るため、欧米では多くのFintech企業がしのぎを削っています。よりZ世代に好まれる、エモいサービスを創出できるかが今後重要になっていくでしょう。2021年10月時点、ほとんどの事例は子供が金融教育を受けられる機能を備えた銀行アプリです。今後は購入した商品のカーボンフットプリントが確認できるなど、アイディア次第でより多様な付加価値の提供がされていくかもしれません。

なお、日本でも既存の金融サービスを応用する形でサブスクリプションモデルの銀行サービスを提供する事例が登場してきています。
日本でも、これまでの銀行のイメージをディスラプトするようなサービスが登場する日も近いかもしれません。
新たな収益源を検討するにあたって、本記事がアイディア創発の助けになれば幸いです。
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執筆 オクトノット編集部

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