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シリーズ「生成AI時代、金融機関は顧客とどこで出会うのか」~情報接点編第一弾

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 AI活用の論点は、社内業務の効率化やチャットボットの導入だけではありません。顧客が情報を探し、不安を整理し、実行に移るまでの道筋そのものが変わり始めています。
 本シリーズでは、生成AIの普及によって、金融機関と顧客の接点がどのように再設計されるのかを、全4回で考えます。
 第1・2回の「情報接点編」では、広告・検索・SNSへ広がってきた顧客接点が、生成AIの登場によって「検索される」から「AIに比較される」へ変わる意味を整理します。そのうえで、金利・手数料・還元率といった従来の軸で横並びにされるだけでなく、顧客の生活導線に入り込み、別の比較軸で選ばれる接点設計を考えます。
 第3・4回の「感情処理編」では、検索や比較の手前にある不安、迷い、ためらいを生成AIが言語化する変化に注目します。企業が用意するAI接点で不安を「閉じる・動かす・渡す」設計と、顧客が手元のAIで仮説を整理してから来る時代に必要な「検証・条件化・短い接続」を扱います。情報取得と感情処理の両面から、金融機関の役割が「説明」から「答え合わせと後押し」へ移る可能性を読み解きます。

情報接点は広告から検索・SNSへ広がったが、向き合う相手は「人」だった

 企業と顧客の出会い方は、時代ごとに変わってきました。マスメディアが中心だった時代には、テレビCMや新聞広告で幅広く認知を取り、店舗や問い合わせへつなげることが基本でした。顧客が商品やサービスを知る入口は限られており、企業は比較的コントロールしやすい接点を通じて、認知から購買までの流れを設計できていました。
 インターネットの普及後は、企業Webサイトや検索エンジンが重要な導線になりました。顧客は検索し、上位に表示されたページを開き、商品やサービスを比較します。企業側では、SEOやリスティング広告が顧客獲得の中心的な施策になりました。さらにスマートフォンの普及により、情報収集の場はSNS、地図アプリ、口コミ、インフルエンサー、ショート動画へと広がりました。企業は、自社サイトだけを整えていれば顧客に届く、という前提では戦いにくくなりました。

 金融サービスも例外ではありません。アプリ、口座、クレジットカード、ポイント経済圏のように日常的に使われるサービスもあれば、住宅ローン、保険、資産運用、法人融資のように検討時に比較されるサービスもあります。いずれの場合も、顧客が公式サイトを訪れる前から、SNS、口コミ、比較サイト、動画コンテンツを通じて、一定の印象や比較軸が形成されています。そのため金融機関は、SNSアカウントを運用し、動画を配信し、外部メディアや口コミ上の見え方を整えてきました。顧客が情報に触れる場所が増えるたびに、企業も新しい接点へ対応してきたと言えます。

図1. 情報接点は、「人」へ向けて、広告から検索、SNSへ広がってきた

 ただし、情報接点が増えても、これまで企業が向き合ってきた相手は一貫して「人」でした。テレビCMを見るのも、検索結果をクリックするのも、SNSの投稿や口コミを見て判断するのも、最終的には人です。だから企業は、人に見つけてもらい、人に理解してもらい、人に比較してもらい、人に選んでもらうために、世の中の変化に追随し続け、広告、SEO、SNS運用、動画発信を工夫してきました。しかし、生成AIの普及により、この前提が揺らぎ始めています。

企業と顧客の間に入り始める生成AI

 これまで、顧客が金融商品を比較・検討する際の主要な入口は検索でした。住宅ローンであれば、「住宅ローン 比較」「変動金利 固定金利 どっち」と検索し、複数の金融機関や比較サイトを見ながら候補を絞っていました。しかし、生成AIの普及により、この行動は変わり始めています。たとえば住宅ローンでは、顧客が「30代共働き、子ども1人、住宅購入予定。変動金利と固定金利のどちらがよいか」とAIに聞くようになります。AIは、顧客が入力した条件を整理し、候補を並べ、比較観点を提示します。顧客は検索結果を何ページも開く前に、AIが作った最初の整理を見て判断を始めます。

 重要なのは、「検索結果を読む」から「AIに答えを作らせる」へ、情報取得の行動様式が変わり始めている点です。このとき、企業が用意したページやアプリに顧客が直接訪れる前に、AIが情報を集め、比較し、要約します。つまり、企業と顧客の間にAIが入り、顧客の最初の理解や比較表を作るようになります。
 この変化は、金融機関にとって大きな意味を持ちます。金融サービスは、もともと条件比較されやすい領域です。特に住宅ローンや資産運用のように、金利、手数料、リスク、使いやすさが絡む商品では、顧客が複数サイトを読み比べ、自分に関係する情報を見極める必要がありました。生成AIは、この比較の手間を一気に圧縮します。金融機関は、検索で見つけられるだけでは不十分になります。これからは、顧客が直接訪れる前に、AIの回答候補に入り、AIが作る比較表の中でどのように扱われるかが問われます。

金融機関に生まれる三つのリスク

 生成AIが企業と顧客の間に入ることで、金融機関には大きく三つのリスクが生まれます。候補から漏れるリスク、誤って要約されるリスク、そして企業が設計した導線を通られなくなるリスクです。

 一つ目は、AIの回答候補から漏れるリスクです。従来の検索結果で上位に表示されていても、AIの回答に取り上げられなければ、顧客の初期検討から外れる可能性があります。顧客にとって、AIが提示した候補は最初の比較表になります。そこに表示されない金融機関は、実質的に検討対象として認識されにくくなります。
 二つ目は、AIに誤って、あるいは不十分に要約されるリスクです。金融商品は、単純なスペック比較だけでは判断しにくいものです。金利や還元率の背後には、手数料、適用条件、対象者、リスク、除外事項、キャンペーン上限などが存在します。還元率だけが強調され、対象店舗や上限条件が抜け落ちる。金利だけが比較され、団信や手数料の違いが十分に説明されない。こうした要約が行われれば、顧客の誤解につながる可能性があります。
 三つ目は、企業が設計した導線を通られなくなるリスクです。これまで企業は、Webサイトやアプリの中で、商品概要、メリット、条件説明、シミュレーション、申し込みという流れを設計してきました。しかし、AIが顧客の条件に合わせて比較表や手続き手順を作るようになれば、企業が意図した順番で情報を伝えることは難しくなります。顧客はAIが整理した答えを読み、必要なリンクだけを開き、最短距離で判断するようになります。

AEO・GEOは重要だが、それだけでは足りない

 こうした変化に対応するため、AEOやGEOという考え方が注目されています。AEOはAnswer Engine Optimizationの略であり、AIや検索エンジンの回答に取り上げられやすくするための情報設計を指します。GEOはGenerative Engine Optimizationの略であり、生成AIが参照・要約しやすい形で情報を整える考え方です。
 金融機関にとって、AEOやGEOへの対応は重要です。商品情報を分かりやすく構造化し、条件、対象者、リスク、手数料、比較すべき観点を明確にすることで、AIに誤解されにくく、回答にも取り上げられやすくなります。ただし、AEOやGEOだけでは、戦いの場所は「比較表の中」にとどまります。AIに候補として表示される。AIに正確に要約される。AIの回答内で不利に扱われない。これらは必要条件ですが、顧客が比較を始めた後の戦いにすぎません。
 金融機関が考えるべきなのは、比較表の中で勝つことだけではありません。AIによる無慈悲な比較が始まる前から、顧客の生活や仕事の中で自然に使われている状態をつくることです。

比較される前に、すでに使われている状態をつくる

図2. 「AI」攻略という新たな方向と「人」との接点の新たな攻略法の二軸

 生成AIの普及により、金融サービスはこれまで以上に比較されやすくなります。金利、手数料、還元率、審査スピード、アプリ評価は、AIによって短時間で整理されます。この流れを止めることはできません。
 だからこそ、金融機関は「商品を売る瞬間」の接点だけでなく、顧客の生活や仕事の中に続く導線を設計する必要があります。たとえば住宅ローンであれば、顧客がローンを探し始めた瞬間に広告で接点を持つのでは遅いかもしれません。住宅購入を考える前から、家計、貯蓄目標、将来支出を支援していれば、顧客はローン比較の前に、その金融機関を生活設計の一部として認識します。

 これまでの金融機関は、住宅ローンを借りる、口座を開く、カードを申し込む、投資を始めるといった明確な検討タイミングで顧客と接点を持つことが多くありました。しかし生成AI時代には、そのタイミングに到達した時点で、すでにAIによる比較が始まっている可能性があります。顧客が「どの金融機関がよいか」とAIに聞いた瞬間、金融機関は横並びの候補として評価されます。
 その前に必要なのは、顧客の日常の中で自然に使われる接点です。家計を見直すとき、将来の支出を考えるとき、目標に向けて少しずつお金を動かすとき。こうした日常の行動に金融機関が入り込めていれば、顧客は商品比較の瞬間だけで金融機関を見るのではなく、自分の生活や仕事を支えてくれる存在として認識するようになります。
 AIに正しく見つけられる工夫は必要です。しかし、それだけではAIの比較表の中で選ばれる戦いにとどまります。金融機関が目指すべきは、比較される前から顧客の生活や仕事の中で使われている状態です。そのためには、顧客接点を「点」ではなく「導線」として設計し直す必要があります。

 前編では、生成AIによって金融機関が「AIに比較される存在」へ変わることを見てきました。後編では、Nike Run Club、Coke ON、Oliveのような先行事例を手がかりに、「生活導線に入り込む」とは何を意味するのかを具体化します。金融機関が比較軸を変え、顧客に自然に戻ってきてもらう導線をどのように設計できるのかを考えます。

2021年にNTTデータ新卒入社。
初期配属ではサービスデザイン支援チーム、その後、銀行アプリのUI/UX改善開発担当に配属され、既存サービスのユーザビリティ改善を経験。現在は、金融業界のトレンドや新規テクノロジーのリサーチを行い、社内外への発信活動・支援を担当している。

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