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「信用」こそ最大の強み。“顧客起点の発想”が金融の未来を変える

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【本記事は2021年3月にNewsPicksに掲載したものです】キャッシュレス決済やブロックチェーンなど、新たなサービスや技術が次々と登場し、異業種からの参入も相次ぐなど、金融業界に大きな変化の波が打ち寄せている。
新たなサービスや事業を創出し、変革をリードできるプレイヤーになるには、DXの推進が不可欠だ。人々の生活を支えるインフラである金融業界は、デジタルを武器にいかに変化すべきか。
『銀行はこれからどうなるのか』の著者で、テクノロジーアナリストの泉田良輔氏とNTTデータで金融DXを推進する山本英生氏が、金融の未来について語り合った。

着目すべきは「インフラの変化」

──泉田さんはテクノロジーアナリストとして、これからのビジネスの変化をどのように読み解いていますか?

泉田 私が産業構造の変化を分析する際は、まず「インフラの変化」に着目します。

次に、そのインフラを活用して、どのようなアプリケーションやサービスが登場するかを考える。

今インフラとして着目すべきは、やはり「5G」です。

以前から技術的なロードマップが引かれ、これから本格的な普及が進むのは既定路線。ただ今回のコロナ禍で、インフラの使い方そのものが大きく変わりそうです。

元々私はコロナ前から、「これからは人が移動しない時代になる」と予測していました。

世間では自動運転技術が話題ですが、インターネットが普及しスマホがあれば外出しなくても必要なモノやサービスは手元に届くのだから、そもそも人は車に乗らなくなる。

そして人々は大半の時間を家の中で過ごすようになるだろうと。

──コロナ禍で、前倒しで現実になりました。

泉田 そうなんです。人々のアクティビティが低下し、他人との接触も控えなければいけない中、あらゆる場面でデジタル化の必要性が急速に高まっています。

DXという言葉は以前からありましたが、予想外のコロナ禍がそれを推進するトリガーになった。5Gというインフラの上でどのようにテクノロジーを使うか、それが新しいサービスを生み出すカギになるはずです。

山本 おっしゃる通り、コロナ禍をきっかけとするDX推進の気運を後押ししているのは、5Gをはじめとするネットワーク技術の高度化です。

既にあらゆる事業者が、インフラの変化を前提としたビジネスの再設計に迫られています。

私の部署は金融事業者に対してデジタル戦略を提案する組織として3年ほど前に立ち上げられたのですが、当時のお客様からの問い合わせは「AIやブロックチェーンを使ってみたいが、どのような活用が可能か」といった内容が中心でした。

でも本来なら、技術は何らかの目的を達成するための手段であり、実現したいビジョンやビジネスがないまま、「とりあえず最新技術を使いたい」と考えるのは本末転倒です。

とはいえ私たちも、DXの本質とは何かをお客様に理解していただくのがなかなか難しいという課題を抱えていました。

それがコロナ禍により、お客様も「自分たちのビジネス変革にはデジタル化が必達である」と一気に理解が進み、私たちへのご相談も地に足のついたものに変わっています。

銀行にしても、以前から非対面サービスの必要性を認識はしていたものの、なかなか本腰が入らなかった。しかし今はどの金融機関も非接触型チャネルの設計に迫られています。

「土管化」する銀行、台頭する商流プレイヤー

──金融業の中でも、私たちの生活に身近な銀行のビジネスはどのように変化していくのでしょうか。

泉田 銀行については、「土管化」が進むのは必至です。ここでいう土管化とは、サービスを提供せず、インフラである情報(金融)の流通機能だけを提供する立場になるということです。

これからは使いにくい銀行預金は敬遠される。例えば地方の若者がスマホ決済を使いたいのに、自分の口座がある地銀が対応していなければ、別の金融機関に預金を移さざるを得ない。

ICTに積極投資できるかどうかで、銀行間で大きく差がつきます。

それでなくても超低金利な上に、大手都銀まで口座維持手数料の徴収に踏み切る時代ですから、消費者はますますシビアに預金先を選ぶようになる。

その際に何が基準になるかといえば、サービスとの接点の多さです。

よく利用するサービスと自分の口座が紐付いていて、スマホで簡単に決済できる。そんな銀行が消費者から高く評価されます。

土管化するからこそ、強いサービス提供者と手を組むことが銀行の存在価値を高めるカギになる。銀行側がアンテナを張り、新たな消費者ニーズが生まれそうなサービスがあれば迅速に動くことが必要です。

山本 銀行側も時代の変化は避けられないと見て、「Banking as a Service(サービスとしての銀行)」の取り組みに力を入れ始めています。

一方で、既に小売業やECを手掛けるIT企業などが銀行業に参入し、存在感を増している。商流を持つ異業種プレイヤーのプレゼンスは、相対的に上がっていきます。

では、逆に銀行が商流を取りに行く可能性はないのか。こうした方向感も注視する必要があります。

何のために「データ」を集めるか?

──金融機関は膨大な「顧客データ」を持ちますが、その活用は進んでいるのですか。

山本 実はリテール(個人向け)に関していうと、今は個人顧客のデータが取りにくくなっています。

以前は電話代や水道光熱費、新聞購読料など生活のあらゆる支払いは銀行口座からの引き落としが中心だったので、銀行側は明細を見れば誰が何にお金を使っているか、どのサービスを利用しているかを把握できました。

ところが今はこれらをまとめてクレジットカード払いにする人が増え、明細を見ても内訳がわからない。キャッシュレス決済にチャージした場合も同じです。

最近は銀行自らスマホ決済やデジタルコインに進出する動きが目立ちますが、これは顧客データをもう一度取り戻す狙いもあると見ています。

泉田 問題は、握ったデータで銀行が何をしたいかですよね。

銀行が決済で儲けるのは難しいし、融資しても金利は低い。顧客データを活用してグループ内の証券会社や保険会社にお金を誘導し、資産運用の手数料を稼ぐくらいしか今のところ思いつかない。

山本 「何のためにデータを集めるのか」は、実際に私たちのお客様も悩んでいるテーマです。データが重要であることは認識している。でも、何に使うのかを決められない。

「コスト削減にデータを使いたい」という話はよく出ます。もちろん継続的に利益を出すには、コスト管理も大事です。ただ本当にそれだけでいいのか。

トップライン(売上)を上げるためにデータを活用しなければ、その先の成長はありません。

──何か有効な打ち手は考えられますか。

山本 私が2年ほど前から提案しているのが、「センシングファイナンス」というキーワードです。

これは金融機関が今まで利用してこなかったデータを取り込むことで、新しいサービスを生み出したり、既存サービスを高度化したりすることを指すNTTデータの造語です。

センシングファイナンスを分類すると、以下の2点に大別できます。

例えば衛星写真やモビリティなど他業界のデータやIoTで取得したデータを外部センサーとして活用し、企業の経営状態や信用力をより精緻に分析できれば、これまで融資できなかった企業にも貸し出しができて売上増を狙えます。

泉田 かつての銀行は競争相手が少なく、自分たちの「目利き力」だけで、お金を誰にいくら貸すかを決められた。

しかし今は情報優位性のあるプレイヤーが異業種から参入し、データを活用して銀行を上回る審査力や提案力を発揮しています。

特に強いのが、やはり「商流を持つ事業者」です。

何をどこから仕入れて、どれくらい売れているのか。世の中のモノとお金の流れをデータで把握できるので、融資先の与信も管理しやすく、相手企業の経営やビジネスの現状に即した提案ができる。

Amazonやイオン、楽天などに代表されるように、これからは情報に強みを持つ者が金融を引っ張っていくことになるのかなと。

将来的には自動車メーカーの本格参入もあり得ます。人が移動しなくなれば自家用車の生産台数は限りなく減り、車の製造販売そのものでは稼げなくなる。

ただし商用車は残るので、モノの移動や売り買いの物流データを押さえれば、かなり強いプレイヤーになるはずです。

山本 ただ銀行もこの流れを黙って見ているわけではありません。

SMBCグループとコマツが共同で新会社を設立し、コマツが持つ建設現場のIoTデータを活用して中小事業者へ金融サービスを提供するなど、情報優位性のあるプレイヤーと手を組む動きも一部に出てきています。

金融機関の本音

──既存の金融機関は、異業種から参入する新規プレイヤーを本音ではどう見ているのでしょう。

泉田 「お金を動かすサービス業」ですね。それに対し、特に銀行などはあくまで「インフラ」であり、自分たちがサービス提供者だという意識はほかの消費者向けサービス業に比べれば希薄だと思います。

確かに社会を支える基盤を持つことは、金融機関の大きな優位性です。でもサービス業の発想が加われば、その強みをさらに発揮できるはず。

「どうすれば預金者が喜んでくれるか」「どうすれば融資先に貢献できるか」といった、顧客起点の発想があれば、ただインフラを保有するだけでなく、それを活用して社会にどのような価値を提供できるかをデザインできる。

「APIを開放しますから、あとはご自由にどうぞ」ではなく、インフラの使い方まで提案すれば、既存の銀行や証券会社と組んでみたいと考えるプレイヤーも増えるでしょう。

山本 APIが開放されて喜んだのは、現状ではフィンテックのスタートアップくらいです。彼らはやりたいことが明確でユースケースを持っているので、インフラに接続さえできれば自力でビジネスを展開できる。でもそれができるのはごく一部です。

確かに銀行が「インフラをこう使えば、あなたのビジネスは儲かります」と示すことができれば、外部と協業してイノベーションを起こす可能性は広がるはずです。

革新は保守からしか生まれない

──金融業の変革に挑む新規サービス開発やDX推進の担当者が、イノベーションを創出するために今からできることはありますか。

泉田 ユーザーの立場になって「これができたら嬉しい」「これがあると便利だな」と思えるものを探すことですね。先ほど言ったように「サービス業の発想」が重要ですから。

山本 「異業種」の方たちと話す機会を増やすことも大事です。

私も最近は、商社や物流など「金融と直接接点はないが、金融と近そうな領域」でビジネスをしている人たちと対話することが多くなりました。

私たちとは別の観点から金融ビジネスを捉えている人たちと情報交換することで、非常に多くの気づきが得られます。

一方で私たちから提供できるノウハウもある。例えば決済や融資に関する規則やリスク管理については、金融に関わる者なら当たり前に知っていることでも、他業界にいると知る機会がありません。

金融業界は規制が多く特殊だからこそ、長年の実践から得た知見には価値があると感じます。

泉田 金融業界は保守的と言われますが、実はそれはものすごい強みですよ。なぜなら、「革新は保守からしか生まれない」と私は考えているからです。

AppleもPCを長年作り続けてきたから、革新的なiPhoneを生み出せた。

まだスマホが登場する前、アナリストの間では「携帯がPCになるのか、PCが携帯になるのか」と議論したものですが、結果はPCメーカーがスマホという新しい携帯を生み出しました。

これはAppleがPC開発の知見を携帯に応用できたからこそ、成し得たイノベーションです。

同様に、金融のプロだから生み出せる革新があります。例えば、VISAカードは元々はバンク・オブ・アメリカが生み出したサービスです。

「利用者が不便に感じていることを金融機関が解決する」という顧客起点の発想さえあれば、何十年に一度の大変革も起こせるはずです。

──保守としての実績が、実は革新を生み出す源泉になると?

山本 電子マネーやスマホ決済にしても、前提として金融インフラが高い精度で保守運用され、口座間の振替や振込が間違いなく実行されるからこそ成り立つサービスです。日本の金融システムの品質と信用の高さは、世界トップクラス。

海外ではATMからお金が出てこないといった話をよく聞きますが、日本でそんな体験をすることはほぼない。その裏側には強固なITの仕組みと、それを提供するベンダーの努力と経験の積み重ねがあります。

つまり日本の金融サービスにおいては「ミスがないのが当たり前」であり、“信用”こそが他業界では真似できない圧倒的な強みになっています。

泉田 絶対に間違えないことを当たり前にしてきたからこそ、金融機関に対する世間の信用はとてつもなく高い。

その信用から「一緒にやりましょう」と声をかけられたら、異業種の人たちも話を聞いてみたいと思うはず。

しかもそこにデジタルとインフラに精通し、実際に手を動かしてシステムを開発できるNTTデータがパートナーとして同行すれば、より現実的になるのでは。

アイデアはあるものの実行段階で試行錯誤している異業種なら、少なくとも興味は持つはずです。もしアイデア段階で止まっているなら、ワークショップなどを通じて金融・NTTデータからも積極的に情報発信することが必要でしょう。

山本 実はNTTデータは新たにオウンドメディアを立ち上げ、金融領域におけるデジタル活用について本質的な情報を広く届ける取り組みも始めます。

「金融×デジタル」の知見を持つ立場から、金融業界の変革を推進していく。それが私たちのミッションですから。
(制作:NewsPicks Brand Design)
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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執筆 オクトノット編集部

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