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挑戦者と語る

MUFGは情報系分析基盤をいかに浸透させたか? データ利活用促進のためのTableau導入の実際

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BIツールの浸透や対話型AIの登場など、金融機関を取り巻くデジタル化の波はかつてないほどのスピードと大きさで広がっています。メガバンクでは過去から情報系分析基盤があったものの、コスト面から量(履歴や多種類データの保存)の制約がありました。この制約を解消するためにMUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)では、新たな基盤構築プロジェクトを立ち上げています。この記事は情報系分析基盤構築プロジェクトの「中の人」である三菱UFJ銀行経営企画部経営基盤改革室の門田さんに寄稿いただいたものです。データは蓄積するだけでなく、分析者が適切に分析し、マネジメント層が意思決定に活用することが必要です。一方で旧来型の分析手法からの改革には大きな変化が伴います。MUFGではスキルパーソンの育成だけにとどまらず、組織全体としてどのような取り組みをし、マネジメント層の積極的な参画やリソース協力をとりつけてきたかを紹介いただきました。

こちらの記事は、NTTデータのWebサイトで事例として紹介されたMUFGでのデータ活用※の続編(Next Stage)にあたります。ぜひこちらの記事もご覧ください。
https://www.nttdata.com/jp/ja/case/2020/100100/

最初にBIツールを選定

Tableauと私の出会いは、MUFGビッグデータ基盤の標準BIツールを選定していた2018年です。我々のチームにBIツールの選定タスクがアサインされたことが始まりですが、このときのアサインが今でも幸運だったと思います。

この選定では既存の実績を全く意識せず、ユーザー自らがセルフサービスとして利用できるツールを基準にPoCを実施して選択しました。基盤管理者の管理しやすさの視点だけでなく、利用部署の意見を聞くことが重要と考え、既存のツールのログ実績から国内本部各部のヘビーユーザーを抽出し、新しいBIツール選定のPoCに参加してもらいました。

彼らとともに複数の製品を比較した結果、管理面から当部署ではTableauを推す声が優勢でした。さらにUI/UX部分は比較に参加した利用部署のヘビーユーザーのアンケートを重視し、結果としてはこちらもTableauの支持が圧倒的に多く、満場一致で選定に至りました。
その結果、2020年の10月よりMUFGビッグデータ基盤のBIツールとしてTableauを利用開始しました。

また、他のBIツールはスキルアップのために高額な研修に参加する必要がありましたが、Tableauでは数千円の日本語書籍が複数販売されており、この比較的安価な学習コストでスキルを身に着けることができる点は非常に魅力的でした。(余談ですが、2022年にはTableauの書籍を執筆している方に声をかけていただき、当行の事例が掲載されるほど、銀行内にTableauが浸透しました。)

またTableau社のウェブサイトにも多くの手順が掲載されていますが、グローバルで人気のあるBIツールということもあり、Google検索やYouTube動画も多数あります。自身での学習のチャンスには事欠きません。

協力者を見つけよう

リリース後、半年間はPoCに参加した国内本部のヘビーユーザーに利用を働きかけました。しかしながら、そもそもこうした人たちは経営状況のKPI管理担当者です。大量のデータを表計算ソフト等で集計処理を実施していましたが、日々多忙で、新しいツールをじっくりと使う暇もありません。

定型作業とはいえ、表計算ソフトで処理するのは数十万件が限界なので、複数回のデータ前処理が必要です。元データが数百万件あり、顧客別/支店別/商品別などの単位で集計しなければなりません。月次処理であれば情報系システムのデータ確定後にダウンロードし、2-3日かけて前処理実施。加えてグラフや集計表を作るのに1-2日かかります。これらの作業終了後、前回から大きな変化があった箇所のピックアップや分析、想定問答の作成など、かなりの工数が報告作業に必要です。新しいことを覚えるには、どうしても追加の学習時間が必要になるため、Tableauの利用はなかなか進みませんでした。

利用実績が思うように伸びないなか日数が経過し、システム開発案件起案時の効果が出ないため、一部のマネジメント層から基盤の重要性に疑問符がつき始め、暗雲が立ち込め始めました。

マネジメント層への報告は大事です

こうした状況のなか2021年6月より転機が訪れます。経営企画部から異動してきた新しい部長が以前の所属部署に対してトップセールスを開始しました。まずは困っている点をヒアリングし、一つの例として四半期決算の他行比較業務が課題としてあがりました。

延べ20時間のデータ前処理作業を決算発表後の1-2日で実施せねばならず、3か月に1回の大きな負担になっていました。これをTableau Prepの機能を使うことで、1時間に短縮できました。

さらに過去蓄積データを使ったインタラクティブなダッシュボードを構築し、今までになかったような分析の深化が実現できました。デジタル担当役員にも説明したところ、非常に良好な反応でした。(当役員の担当部門は、その後Tableauでのレポート作成が定着しました。)この勢いにのって、トップマネジメントを含めた会議でも発表の機会を得て、業務全体に使えそうだという意識を醸成していきました。

お手並み拝見されるPJ・小さな成功体験の積み重ね

これらの成功体験をもとにプロジェクトを立ち上げました。各部が表計算ソフト等で作成しているレポートをTableau化する、名付けて「デジタルレポートプロジェクト」です。メールやファイルサーバを介して元データをリレーし、レポート作成者に渡す流れを「データのバケツリレー」と定義し、フローおよび利用データを解明し、Tableau化することを目指しました。

プロジェクト開始前に、部長を含めた組織全体で何度もディスカッションしました。新しいプロジェクトチームの構築、各部とのコミュニケーション、ライン担当者との協議、技術に明るいメンバーとのフィージビリティ確認。これらの議論により、以下の取り決めをしました。「①複雑な分析が必須であるため、メンバー数から考えても対象は本部20部署が上限になる。②データソースは必ずしもシステムデータを直接使わなくともよい。例えばレポート化に一番近い元データソースの表計算ソフトのファイルやテキストファイルを使うこともよし。③VBマクロ解析が必要なため、データ前処理のTableau化に時間がかかることはやむなし。」

さらに体制面では、インフラを管理するシステム管理担当者や、ヘルプデスクなどのバックエンド機能担当者もライン立ち上げとともにメンバーをアサインし、プロジェクト開始となりました。

プロジェクト期間も決めて、週次報告も開始しました。手探りでのプロジェクト推進のなか、さまざまな課題があがり、ときには遅延も発生しました。遅延原因を深掘りした結果、部長決裁が必要な課題も出てきました。

我々は幸運にもよい上司に恵まれました。「課題を明らかにしてくれれば、自分がリスクを取って決裁する」と宣言した部長。このコメントにどれだけ勇気づけられたか。またこれにより「困ったことは積極的にオープンにしよう」という雰囲気が生まれました。

部長は他部署のマネジメント層とのコミュニケーションも積極的に実施しました。各部門と月次または隔月のマネジメントミーティングをセッティングし、さまざまなトピックのなかで「デジタルレポートプロジェクト」は議論の中心になりました。

部門長や部長との間で、このような進捗の見える化を行うことで、プロジェクトに対する安心感を醸成していきました。またときにはダッシュボードをインタラクティブに動かすことで、会議の雰囲気をよりよいものにしました。

そうなってくるとマネジメント層から追加のレポート要望や自部署メンバーのスキルアップへの協力依頼が出てくるようになり、忙しくなると同時に、プロジェクトメンバー全体が前に進んでいることを実感できるようになりました。

図1:デジタルレポートプロジェクト推進体制

積み上げた実績のマネジメント層への情報共有

20部署を対象とし、複数レポートをかけ合わせると相当数のレポートが成果として積み上がります。半年に1回、マネジメント層への説明機会があり、案件ごとに効果を定量評価しました。

他部署のマネジメント層には月次のミーティングで報告していることもあり、一体感のあるなかで、効果的なレポートを提供し続ける成功プロジェクトとして認知されるようになりました。そうなると次々と要望が出てきます。レポート作成依頼はもとより、ユーザー教育・新しい追加ライセンスの発行依頼等々プロジェクトが好循環するなかで、やはり担い手のヒトの問題が出てきました。

セルフサービス化するためには我が事化

マネジメント層からの依頼以外にも各部の担当者のスキルアップは継続的な課題です。これに対応するためプロジェクトのなかで「留学制度」と名付けた制度を開始しました。Tableauに付属のトレーニング用のデータでなく、自部署のデータを持ち寄ってもらい、半日から数日がかりでダッシュボード作りを学びます。

そのころになると我々の部署のメンバーも毎日のように触れていたTableauの機能を、他部署のメンバーに教えることができるレベルになっていました。

留学制度がきっかけでいわゆる「アハ体験」をした他部署のKPI管理担当者は、もはやTableauについて新しいツールに対する苦手意識や、学習機会を後回しにすることはなくなり、「もっと学びたい!」という強い気持ちが湧きあがります。
(アハ体験をすると、驚くほど集中的な神経細胞の活動が生じる上、「記憶力」や「やる気の増強」に影響する神経伝達物質・ドーパミンが分泌されるそうです。)

大きく施策を展開する

本部KPI管理のレイヤでの成功体験の次は営業現場への展開になります。2022年度には、国内営業店に対して「営業店ダッシュボード」を展開すべく、営業部門を統括する部署とのコラボレーションプロジェクトを開始しました。

本部から各営業店へ配信する月次レポートは、表計算ソフトで作成した表を添付する形で展開していましたが、これをTableauレポート化することを進めました。大規模なユーザー数で広範囲に使うため、ダッシュボードデザインだけでなく、さまざまなシステム開発を実施しました。

本部だけであれば手作業で実施できていたID登録も、全社員にIDを付与するとなると、人事情報と連携し自動登録する機能の開発が必要でした。加えて、必要な人だけが情報にアクセスできるよう、Need To Knowの原則に基づいて、人事異動すると付与したIDの所属グループを変更するなど、アクセス制御をコントロールする必要もありました。

人事データとの連携については、兼務や出向、業務委託で利用するビジネスパートナーのID管理など、通常の行員以外にも多くのバリエーションがあり、これらを洗い出しID付与の仕組みを構築していきました。

インフラの増強も実施しました。サーバの台数を増やすことももちろんですが、複数のユーザーが同時に操作し、負荷が集中したとしても、間違いなくダッシュボードが表示されなければなりません。本番開始前のかなりギリギリのタイミングまで同時アクセスの検証をし、ここでは常駐しているNTTデータのメンバーに多くのサポートをしてもらいました。

結果、本番運用開始前に、キャパシティ検証が実現できました。他社のプロジェクトでも大規模なTableau利用の経験のあるメンバーだったため、多くの点で助けられました。営業店利用も無事展開でき、大型プロジェクトも一息つきました。

より一層のスキルアップ

2022年度後半からは「留学制度」の限られた時間だけでなく、各部マネジメント層や人事部との調整の結果、現場のTableau利用者が所属する部署と経営基盤改革室の「兼務」を開始しました。各部より合計60名の担当者に兼務発令を行い、週1日は必ず、当室に出勤してTableauを使った課題対応に取り組んでもらう施策です。

自部署の既存レポートの課題はその部署の人が最もよく知っているので、当室のメンバーがメンターを務めて解決に導きます。

3か月から半年後には、Tableauのインタラクティブなダッシュボードにより部内報告ができるようになりました。多くのKPI担当者はデータ前処理に工数がかかっていたため、Tableau Prepの利用により、基準データを差し替えするだけで、後続フローを大幅に効率化することができました。また、各人のスキルを定期的に評価し、スキルアップの実感を得られるようにしています。

全社共通インフラとしてなすべきこと(資格認定とデジタル研修のコラボ)

Tableauを全社共通のデータ分析ソフトと位置づけ、行員のスキルアップを進めています。デジタル化を進めるには知見のある外部人材を採用する方法もありますが、銀行業務の経験がない場合は、その経験を積む必要があります。銀行にはその業種として課せられたさまざまな内部管理ルールがあり、また企業文化もIT企業のような社風とは異なる部分が多いです。デジタル化を推進する人材は日本全体でも不足しており、今の社員のリスキルの重要性が認知されています。

これらの背景からTableauの資格を人事部の認定資格の一つとして追加しました。また、さまざまなデジタル研修で、統計学や機械学習とともにTableau操作をコンテンツに加え、2023年度には入行したばかりの新入行員にも、Tableauを使ったデータ分析プログラムを実施しました。

データドリブンな意思決定組織を作るために各レイヤが実施すべきこと

データドリブンな意思決定組織を作るためには、現場メンバーだけでなく、マネジメント層も積極的にデータを参照し、意思決定をする必要があります。また変化の激しい時代では月次報告では遅いときもあります。

もちろん補正処理などの月次報告ならではの特別な対応もありますが、それらを除いた日次や週次データを利用することで傾向をつかみ、次の意思決定を進める必要があります。MUFGビッグデータ基盤とTableauの導入前には実現できなかったスピード感での対応も可能になると思っています。今後、銀行全体の意思決定を速やかにするための不断の努力が社員全体で求められていくでしょう。

最後に

最後になりましたが、私の所属する経営基盤改革室のメンバーの不断の努力と、それを支えるシステム部門の開発の方々、新しい挑戦を積極的に支援するマネジメント層、本部や営業店の関係者の全員の力により、この銀行全体がデータドリブンな組織に変化しつつあります。

下の図はTableauのアクティブユーザー数の推移です。データを可視化し改善につなげる行動が急速に浸透しています。さらに次のステージに向けて全員一丸でプロジェクトを推進していきたいと思います。

図2:MUFGのTableauのアクティブユーザー数の推移

【この記事を書いた人】
門田 芳典 / Yoshinori Monden

門田 芳典 / Yoshinori Monden

三菱UFJ銀行 経営企画部 経営基盤改革室 基盤改革推進グループ
1992年、三和(現三菱UFJ)銀行入行、1993年 同システム部配属、
2006年 現auじぶん銀行出向、2012年より現職。
ITシステムの業務アプリ開発を経て、現部署にてデータエンジニアリング領域の要件定義中心で経験を積み上げ、経営情報システム管理者として、各部署にニーズヒアリングし、その後のシステム開発の要件定義を実施する役割を中心に業務を行う。新しいデータ基盤のBIツールの選定のプロセスでTableauと出会い、データサイエンス領域についても継続して知見を積み上げ中。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は執筆当時のものです。
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執筆 オクトノット編集部

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