「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

挑戦者と語る

古くてお堅いとは言わせない!元国営企業グループ2社が語る新規事業開発の“今”

画像

スタートアップのみならず、業歴の長い企業にも新規ビジネス創発が求められる時代。スタートアップ企業のアイデアや技術と、JR東日本グループの経営資源をつなぎ、圧倒的なスピードで新規事業開発を進めるJR東日本スタートアップ。エンドユーザーへの新たな価値提供をコンセプトに掲げ、社内の経営資源をフル活用しながら、大企業と手を取り合って新規事業開発に取り組むNTTデータ。大企業発の新規事業開発はどうあるべきなのか。JR東日本スタートアップの隈本伸一さんとNTTデータの堀田慎吾さんが、新規事業開発の“今”を語り合いました。

アプローチの違う2つの新規事業開発

堀田さん 私が所属する金融GITS事業部は、これまでクレジットカード会社の要求に従ってシステムを開発する、いわゆるシステムインテグレーション(SI)を中心にビジネスを展開していました。ただ、エンドユーザーのニーズも多様化する中、御用聞きだけでは世の中に価値あるサービスを届けることが難しくなっています。

SIビジネス依存から脱却して、顧客企業と一緒になってエンドユーザーの課題を解消していくことが、IT企業にも求められる時代になってきています。そこで私たちの組織では、プロアクティブにビジネス提案をしていく力をつけるべく「システムインテグレーターからビジネスインテグレーターになる」という方針を打ち出しました。

その方針のもと、クレジットカード会社の顧客である加盟店、その先のエンドユーザーに対しカード決済を通じて新しい価値を提供する『CxC(シーバイシー)プロジェクト』という活動を立ち上げ、今まさに走り出したところです。CxCとはCustomer eXperience across Clientsの頭文字を取ったものです。

隈本さんもJR東日本グループの一員として、鉄道という大きな既存事業を抱える企業に所属しながら新規事業開発に取り組んでいらっしゃいます。隈本さんが所属されているJR東日本スタートアップの事業について教えていただけますか。

隈本さん JR東日本スタートアップはJR東日本の100%子会社のCVC(※)として2018年に設立されました。私を含めて、この会社にいる社員は全員、JR東日本から出向しています。

(※)CVC:「Corporate Venture Capital」の頭文字を取った言葉。投資事業を本業としていない事業会社が社外のベンチャーに対して行う投資活動。VC(Venture Capital)が投資先企業の株式売却によるキャピタルゲインを目的とするのに対して、CVCは自社の事業とのシナジー強化による売り上げや事業領域の拡大を目的としている。

私はもともとJR東日本の鉄道部門ではなく、生活サービスと呼ばれる駅ナカや駅ビル開発の担当をしていました。そのため以前から新規事業に取り組んでいたのですが、自分たちだけで事業創発をすることに限界を感じることもありました。そんな折に、JR東日本がオープンイノベーションによる新規事業創出を掲げた経営ミッション「変革2027」を発表しました。そのタイミングがちょうどかみ合って、JR東日本スタートアップが生まれることになりました。

CVCを子会社化するというスタイルを選んだのは、スピード感を考えてのことです。スタートアップ企業との連携をメインに考えていたので、事業を加速させる上では当然、出資という話も出てきます。ただ、JR東日本の意思決定プロセスにのっとると、出資判断にも時間がかかってしまいます。スタートアップ企業から求められるスピード感に対応すべく、子会社とする選択肢を取りました。

JR東日本スタートアップはスタートアップ企業との共創を軸に、新たなビジネス・サービスを創出する


NTTデータのCxCプロジェクトは自社のアセットを軸に、顧客企業と共に生活者視点で新たな価値を創出する


堀田さん 『C×Cプロジェクト』の中にはさまざまなテーマの新規事業プロジェクトが走っているのですが、私はヘルスケア領域を担当しています。例えば、決済をきっかけとしてエンドユーザーの健康状態を可視化するようなサービスです。自身の健康状態に関する新しい気づきを得ていただきながら次の購買活動にもつなげていく、そういった企画を推進しています。

まずはドラッグストアさんとのアライアンスを進めているのですが、ゆくゆくはクレジットカード会社のアプリに組み込んでもらうことで、サービスをどんどんスケールさせようと構想を描いています。『C×Cプロジェクト』はまだ立ち上げて間もなく、走りながらいろいろな事業にチャレンジしている段階ですが、JR東日本スタートアップさんではどんな事業がローンチしていますか。

隈本さん 代表的な例で言うと、JRの高輪ゲートウェイ駅にある日本初の無人コンビニは、JRグループから初めてカーブアウト(※)した『TOUCH TO GO』という会社が運営しています。もともとは、商品を手に取るだけで決済ができる技術を持ったスタートアップ企業と連携したジョイントベンチャーなのですが、今はファミリーマートさんなどの外部資本も入りスケールアップしています。

(※)カーブアウト:企業が事業の一部を切り出して、新しい会社として独立させること。既存事業と異なる領域に進出する際に、事業の自由度を高めたり、意思決定スピードを高めたりする目的から戦略的に用いられることがある。

もう一つは、駅の「そば屋さん」に導入されている駅そばロボット。駅そばの人手不足を解消するために、コネクテッドロボティクスさんという飲食店向けのロボット技術を持っている会社と、駅そばを運営する事業部がそばを茹でるロボットを開発し、すでに5店舗で導入されています。

変わり種としては、無人駅の活用にも取り組んでいます。遊休地を活用して非日常体験を提供する事業を展開しているヴィレッジインクさんと共創し、群馬県にある土合駅にグランピング施設を建てました。無人駅を活性化したことで、そこを起点に地元の人や移住者を含めた新たなコミュニティが生まれるといった、地域活性化につながるような効果もあらわれています。

大企業の“新規事業あるある”を乗り越えて

隈本さん メディアに取り上げられる機会が多かったので、経営層に「面白いことをやっている」とは感じてもらっています。やりながら、収益性のところはもっと精度を高めていかないとならない、と思っております。

堀田さん 私たちも同じで、既存のビジネスであるSIは一つ案件を受注すれば、億単位の売り上げが立つことも珍しくありません。どちらにリソースをかけるべきなのかというときに、目先の売り上げだけを考えれば当然既存ビジネスになります。でも、そもそも既存ビジネスへの依存から脱却するために新規事業開発を進めているわけで……。どこに基準を置くかをしっかりと決める必要があるのですが、実際はそれほど簡単ではありません。

JR東日本スタートアップさんはこれまでに5年間で実証実験108件、事業化51件とすごい成果を上げていらっしゃいますよね。新規事業開発はトライアンドエラーを繰り返して自分たちのノウハウに落とし込み、チャレンジの質を上げることが重要だと考えているのですが、隈本さんはどのように新規事業開発にノウハウを還元しているのでしょうか。

隈本さん 私たちの新規事業開発は、スタートアップ企業とJR東日本のリソースのコラボレーションという形をとっています。そのため、私たち自身が独自技術などをノウハウ化しようということはあまり考えていません。一方で、スタートアップ企業と伝統的企業の間をつなぐVCという立ち位置から、両者をどのように連携させればいいのかという部分については、だいぶノウハウを蓄積できています。

私たちが考える理想の形は、スタートアップ企業とJR東日本の事業部やグループ会社、そしてJR東日本スタートアップが三位一体になって新規事業開発を進めるという姿です。その関係性を良好に維持するためにどうすればいいのか――。例えば、細かいテクニックの話になりますが「こういう資料構成で技術提案するとJR東日本の担当者には響くかもしれない」といった助言を行うなど、関係者をうまく結びつけることも私たちの重要な役割です。

スタートアップ企業と共創する上で心がけているのは、スタートアップファーストで考えることです。私自身にも大企業のやり方が染み付いているので、ともすると無意識のうちにスタートアップ企業の方々に「下請け的に使われている」という印象を与えてしまうことがあるかもしれません。そこはすごく気をつけていて、マインドは完全にスタートアップ企業側にセットしておくようにしています。

隈本さん 堀田さんが参画されている『C×Cプロジェクト』はまだ走り始めたばかりだとは思いますが、大企業内で新規事業開発を進めるのは相当大変ですよね。何か気をつけているところはありますか。

堀田さん さまざまな組織とコラボレーションしますので、お互いのミッションが異なることによるゴールのGAPや取り組むスピード感が合わないと感じることはあります。そういうときは「相手のミッションに寄り添ってこのビジネスをやることでどんなメリットがあるのか、なぜ重要なのか」をしっかり伝えていくことを大事にして、パートナーとして伴走してもらえるように働きかけています。

隈本さん 基本的なところですが、関係する事業部門をいかに本気にさせるかは重要ですよね。私たちが特に意識しているのは、組織のトップではなくて実際に現場で担当するミドル層です。トップダウンで進めようとしても、「検討した結果無理でした」と体よく断わられてしまうことは少なくありません。

みなさん自分の仕事で手一杯なので、新規事業には手を出したくないと考えるのは当たり前です。そういうマインドを変えるために、新規事業への取り組みによってミドル層である担当者の社内評価が上がるように働きかけていくことを意識しています。

私はよく信用貯金という言葉で表現していますが、例えばとあるプロジェクトでは、昔一緒に仕事をしたことがある仲間に、かつて貯めておいた信用を使って説得して、参加してもらいました。そして成功したら私たちの手柄ではなく、グループ会社や事業部門の手柄、成果にして信用を貯めていく。その貯金を使って参加してくれるミドル層を増やし、新たな事業開発を進めるイメージです。

堀田さん 私自身は意識の違いも気になっています。スタートアップ企業の経営者は、常に危機感を持ちながらビジネスをやっています。伝統的企業にいる社員であっても、スタートアップ企業のような覚悟を持っていないと新規事業開発はなかなかうまくいかないと感じています。もちろん、自分自身も含めてです。

伝統的企業の新規事業開発は「0→1」か「1→100」のどちらかを選択することになります。自分たちのアセットを使って新しいサービスを生み出す「0→1」、既存のビジネスを成長させる「1→100」。リソースが豊富な伝統的企業は「0→1」ではなくて、スタートアップ企業と協業したり、M&Aでどんどんスケールさせたりする「1→100」のほうがやりやすいことは確かです。

それでも「0→1」を選ぶのであれば、失敗したら後がないという覚悟を持てるかどうか、自分たちの給料を削ってでもやり遂げる。私個人としてはトップも含め全員がそういうマインドを持って挑むべきだと思っています。

覚悟と情熱 - 沈まないからこそ挑み続ける

隈本さん スタートアップ企業の経営者は「今月売り上げが立たなかったら来月は危ない」という、ギリギリの綱渡りを強いられる可能性もありますよね。そういう過酷な状況さえも楽しみながら、ある人は成功をつかみとるために、ある人は社会課題を解決するためにと、夢に向かって情熱を注いでいる。そういう経営者の方々と直に話をするとすごく刺激を受けます。

一方で私も含めて既存事業を抱える企業のサラリーマンは、一般的にはどれだけ成果を上げようが給料が倍になるわけではないし、逆に失敗したら給料がゼロになるわけでもない。スタートアップの経営者とは、そもそも立っている土台が違います。

当然、スタートアップにはスタートアップの、大企業には大企業のスタイルがあります。大きな既存事業を抱えているということは言ってみれば、失敗しても簡単には沈まない船に乗っているようなものです。どんどんチャレンジして、その中で「これだ!」というものを見つけたらそこに集中してリソースを投下する。覚悟を持ちながら、沈まない船で挑戦できる人がいたら次々と新しいものが生まれると思います。

先ほど社員のマインドの話がありましたけど、制度を作ることでも少しずつ変えていくことができるかもしれませんね。失敗しても許してもらえるけど、成功するとそれなりの成果がもらえる「ミドルリスク、ミドルリターン」のような制度を導入すればモチベーションも変わってくるはずです。大企業が持っているメリットを生かせば可能性はまだまだ広がっていくのではないでしょうか。

堀田さん その通りですね。私も「大企業ならではの新規事業のスタイル」はまだまだ模索中です。

私自身はまずはニッチな領域でもいいので、誰かが必要としてくれる新しいサービスを自らの手で確立させて、それを成功体験に変えたいです。たとえ一人でもユーザーが使い続けてくれるものを完成させれば、なぜ使ってくれるのか、その心理や行動を分析して、他のターゲットにも使ってもらえるように汎用化していくこともできます。そのためにもまずは「0→1」を生み出したいと思っています。

それとは別にもう一つ社会人として大きな夢があります。それは世界を圧倒するような、日本ならではの新しいプロダクトを作ることです。例えば日本の食品は味もいいですし、質も高いですよね。健康への効果が確認されている「機能性表示食品」も普通にお店に並んでいますが、こんなにヘルスケアが日常生活に浸透しているような国は世界にはないと思うんです。

日本が長寿国と言われているゆえんは、日本には健康に生きていける環境があるからで、それを支えるものづくりの力は日本の強みだと思っています。海外には貧困や健康寿命といったヘルスケアを取り巻く社会課題がまだまだたくさんあります。日本の優れた商品を海外に提供することを通じて、世界に誇れる日本のサービスをいつか作り出したいです。私にとって『C×Cプロジェクト』は、まさにその第一歩です。

隈本さん いいパッションですね! 世界に広げるとなると規模的にスタートアップ単独ではなかなか難しく、まさにこういったものが大企業だからこそできる事業ですよね。私もJR東日本というドメスティックな企業にいるくらい、日本が好きですし地域が好きです。

東京だけではなく地方でもスタートアップ企業がどんどん生まれたり、スモールビジネスが広がったりすることで、地域を元気にしたいと考えています。スタートアップと大企業との共創を通じて、そうした世界を実現していきたいですね。

堀田さん 今日はいろいろとお話を伺えて、とても勉強になりました。本当にありがとうございました。
〈プロフィール〉

隈本 伸一さん
JR東日本スタートアップ株式会社 Senior Manager
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に入社。駅ナカや駅ビルなどを展開する生活サービス事業部門に所属。飲料ビジネス会社(JR東日本ウォータービジネス)の新規立ち上げや、地域活性化プロジェクトの推進を行う。JRE POINTのグループ内共通ポイントプログラムの立ち上げ推進などの事業再編や新規事業のプロジェクトに従事する。2018年2月より、オープンイノベーションによる共創活動をするJR東日本スタートアップ株式会社の立ち上げを行うと共に出向し、スタートアップ企業との協業や出資などによる支援を推進している。
https://jrestartup.co.jp/

堀田 慎吾さん
株式会社NTTデータ 第一金融事業本部 金融GITS事業部 主任
2017年4月に新卒として凸版印刷に入社。群馬営業所に配属され、金融機関、地方自治体、食品メーカーなどの営業担当に従事する。2019年、東京の事業部に異動。メガバンクの営業担当として業務効率化の新規事業立ち上げや新規領域ビジネスの開拓に従事。2022年、NTTデータに中途採用として入社。カード会社の情報系システムの営業、新規事業開発プロジェクトを担当する。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています 。

新卒で都市銀行に入行し、個人向けコンサルティング業務に従事したのち、ネット専業銀行に転職。決済ビジネスを中心に、新規サービス企画や他企業との提携拡大、プロモーションなどを幅広く経験。その後、消費者嗜好や規制緩和などの環境変化を体感する中で、業界を超えたオープンな金融の仕組み作りに関心を抱き、NTTデータへ。
現在は金融業界のさらなるTransformationへ貢献すべく「金融を通じて世の中をより良くする」を志に、金融×デジタルを切り口としたトレンド調査や情報発信などに取り組む。CFP®・1級ファイナンシャルプランニング技能士として金融教育にも興味あり。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン