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挑戦者と語る

金融機関が広告事業を行う強みとは? 金融×広告ビジネスの可能性

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2021年5月の銀行法改正により、銀行が広告やマーケティング業務を手掛けやすくなりました。背景には、金融機関の保持するデータの活用を通じて、銀行が地域経済の発展をリードすることへの期待の高まりもあると見られています。銀行における広告事業には、どのような可能性があるのか。今回は金融×広告のビジネスに多数かかわられた博報堂の飯塚さんに、金融機関の強みを活かした広告ビジネスについて、企画から立ち上げ、発展の方向についてお話しいただいています。

本記事はNTTデータが運営する「API gallery」プレゼンツで2023年3月23日に開催したウェビナー「API gallery Meet UP ~ Vol.15 “金融×広告ビジネスの可能性”」の内容を記事化したものです。
API galleryでは随時ウェビナーを開催中です!過去の企画、および今後の開催予定については以下のリンクをご覧下さい!

金融機関が広告事業を行ううえでの強みとは

青柳さん 今回ご出演いただいた飯塚さんのいらっしゃる博報堂とNTTデータは、5年ほど前から、金融機関に対してデジタルマーケティングや広告のビジネスのコンサルティングや立ち上げのコラボレーションを行っています。

博報堂で活躍なさる飯塚さんとデジタルマーケティングのかかわりについてお聞きします。飯塚さんはコンサルティングファームから銀行を経て、ベンチャー企業、広告会社というキャリアパスをお持ちですが、デジタルマーケティングにはいつから携わられていますか?
飯塚さん コンサルティングファームでは、デジタルマーケティングではなく、金融業界のBPRなど基幹業務の効率化を行っていました。銀行では法人向け決済サービスの商品企画をしていました。ここまではデジタルマーケティングではなく、金融機関の実務を主に経験しています。ベンチャー企業への転職を契機にデジタルマーケティングのコンサルティングに携わるようになり、現在は博報堂で活動しています。
青柳さん 金融機関の実務と、デジタルマーケティングを実践なさっている経験のある飯塚さんから見て、銀行が広告ビジネスに参入する強みとはなんでしょうか。
飯塚さん 本人確認された確実に存在している個人のデータを持っていることがまず大きな強みです。cookieやアクセス元のIPアドレス等から推測された個人像であったり、IDは特定できてもどこの誰かがわからないような匿名個人のデータはない点が強みとなります。さらに、金融機関の預金者や取引先といったある程度まとまった個人、法人の顧客基盤を持っていること、その顧客の金融取引のデータを持っていることも他の事業会社とは異なる強みです。
青柳さん 金融機関がどのような広告をやっていくかという点で、近年顧客接点としての役割が大きくなっているバンキングアプリがあります。バンキングアプリを広告メディアとして活用することを強みとしてみてよいでしょうか。
飯塚さん 広告のメディアとしてバンキングアプリをとらえるのであれば、どのようにスケールしていくかが大事だと思います。金融機関が独自に持っている強みは、繰り返しになりますが、顧客基盤、本人確認された確実に存在する個人の情報、金融取引のデータです。この強みを活かす前提で金融機関がバンキングアプリをメディアとして利用することが有効です。

FacebookなどのSNSやGoogleへの広告の出稿は、広告を出したい事業会社がそのまま出稿することもできますし、広告会社を通じて出稿することもできます。バンキングアプリへの広告出稿を募るのであれば、その意義をしっかりと成立させることが大事です。特に地方の金融機関では、広告という手段を通じて地域の企業にどのような価値を提供するのか役割を意識することが重要です。

金融機関の広告事業のターゲットと成功のカギ

青柳さん 法人であっても広告に触れるのは個人です。そういう意味では、取引先の法人顧客を対象にした広告もありえるかもしれませんね。バンキングアプリを例にとると、どのような層をターゲットに有効に広告展開ができるでしょうか。
飯塚さん バンキングアプリを広告メディアとすると、一般的な傾向としてユーザー年代として若め、特に働き手の世代がメインのユーザー層であることが多いと想定されます。法人の顧客に対しても、広告を通じて届けたいメッセージ次第で、バンキングアプリという広告メディアは有効に活用できると思います。

このほかに、バンキングアプリのメインユーザー層を考えると事業会社の採用のための広告を出すことも有効ではないでしょうか。また、バンキングアプリを通じて得られた情報をもとに、金融機関の顧客である法人のマーケティング支援や、金融機関自身のマーケティングで本業の金融事業を成長させることにも活用できるでしょう。
青柳さん 広告事業というのは、飯塚さんがプレゼンテーションで説明してくださったように、メディアの育成、広告ビジネスの育成という2軸の成長を意識する必要があります。金融機関ではこれに加え金融事業の本業を成長させる必要があります。金融機関がこの3軸をうまく育てていくためのコツはありますか。

飯塚さん 一般的な金融機関には、広告、メディア育成の専門性を持った人はいないので、外部のリソースの利用が必要になります。金融機関が自社のメディアであるバンキングアプリで広告事業を行うには、広告配信業務、メディアグロース、クリエイティブ企画・制作などの組織が必要ですが、こうした組織はほとんどの金融機関にはありません。

こうした部分を補うのが、広告会社をはじめとした、外部の専門的な知見を持つパートナーです。広告事業に必要な組織のうち、金融機関がすでに持っている可能性があるのは、営業とデータエンジニアリング・分析を行う組織です。所有している金融取引データの分析を行うデータサイエンティストを組織化している金融機関もあります。

すでに金融機関のなかにある組織と、新しく作られる広告事業を行う組織とが、うまく連携していくことが重要です。また、金融機関がこれまでなかった広告事業を育てていくためには、すべてを外部リソースに頼るだけでなく、戦略的に活用して知見を獲得し、内製化していくという発想も必要だと思います。

自社メディアでの広告事業育成に必要となる取り組み

青柳さん 金融機関のデータエンジニアリングは、一段階目としてリスク対応のAML(アンチマネーロンダリング)に使われることから始まることも多いです。その次に、二段階目として金融商品を販売するためのレコメンド、イベントドリブンのデータ分析が行われています。広告はその次の三段階目の活用の場面になるのではないかと思います。とはいえ、広告では、データエンジニアリングのやり方は大きく変わりそうな気もしますが、どうお考えでしょうか。
飯塚さん 二段階目の金融商品を販売するためのレコメンドは、イベント・ベースド・マーケティングと言っていいかと思いますが、このデータエンジニアリングは広告と相性が良いです。口座のデータ、金融取引のデータ、顧客特性データの軸で、金融商品の販売対象を抽出しています。この金融機関固有のデータエンジニアリングのノウハウを広告に活用することはたいへん意義があります。

金融機関の広告事業の定着化

青柳さん 金融機関固有の問題として、人材がローテーションで変わってしまうこともあります。人事異動のたびに広告事業の人材を新しく育成することが想定されますが、人材育成もプログラムとしては意識していますか。
飯塚さん 広告事業の業務の型を博報堂で作り、金融機関が広告事業を内製化することを想定したプログラムになっています。
青柳さん 型を定着させ自律的に広告事業を行い、デジタルマーケティングが可能になるのには、どれくらいの期間を要すると思えばいいでしょうか。
飯塚さん 業務としてワンサイクルを博報堂と回していただくことが必要だと思います。4半期、半期、1年などの業務のサイクルはありますが、年間を通じてのイベントもあります。1年くらい回していただくことで無理なく、型を定着させていくことができるかと思います。

自社メディアサービスの確立に必要な5つの領域

青柳さん 金融機関の広告事業において、企画などの上流工程は博報堂が支援する形になっていますが、広告事業が走り出したあと、博報堂は金融機関をどのようにサポートするのでしょうか。
飯塚さん 1~2年は伴走することが多いです。金融機関に広告事業の業務を定着化させることを念頭に置いて支援に臨むわけですが、想定通りに回らないこともあります。ですから、一定期間の伴走は有効です。
青柳さん 金融機関が広告事業を行う際に、メディア、広告関連のKPIとして何を意識するべきでしょうか。バンキングアプリのMAU(Monthly Active User)、ダウンロード数、クリック数、コンバージョンなどがあるなかで、特に意識すべきなのはなんでしょうか。
飯塚さん バンキングアプリを対象にするなら、特にアプリの会員数をきっちり伸ばすことが大事です。ただし、単純に会員数を増やすことだけを目指すのではなく、バンキングアプリを使ってもらうことで顧客の望む価値をしっかり届けるUXの担保が非常に重要で、その結果としてデータを取得できれば、利用の拡大とマーケティングのあいだでの好循環を生み出すことができます。

取得したデータを掛け合わせれば、広告と同様に、金融商品などの本業を伸ばすレコメンドについても、適切なユーザーに、適切なタイミングで、効果的に届けることができます。

視聴者からの質問

青柳さん ありがとうございます。視聴者の方からの質問もいくつか来ています。
金融機関のバンキングアプリは、Facebookなどに比べ利用者が少ないので広告の出稿対象として十分効果が見込めるのでしょうか。ユーザーが良質だから広告ビジネスは成り立つという理解でよいのでしょうか。
飯塚さん 広告事業ではユーザー数により広告の出稿可能数(在庫)が決まります。自社のメディアであるバンキングアプリで広告事業を展開するならば、ユーザー数をしっかりとスケールさせて、収益化を狙う事業計画を立てることが必要です。
自社メディアのユーザー数が十分でない状態であれば、自社以外の有力なメディアと提携するなど、広告主のニーズを満たすためのやり方を工夫していくことも必要です。
青柳さん バンキングアプリによる広告のデジタル化により、地域でのミニコミ誌などの広告もデジタルに置き換わる流れはあるのでしょうか。
飯塚さん ミニコミ誌などの紙媒体の広告はデジタルに置き換わることも考えられます。一方で地域金融機関は、地元の企業、個人だけを顧客として捉えているだけでは、人口減でユーザー数、ビジネスのマーケットが先細ることも危惧されます。長期的にこれまでの営業地域と違ったところでマネタイズしていくことも考慮する必要があるかもしれません。

青柳さん 長期的に違った地域でマネタイズするとは具体的にどういうことですか。
飯塚さん 例えば金融機関が展開するバンキングアプリを通じて、これまでの営業地域以外でユーザーを増やすことが考えられます。銀行のバンキングアプリの想定するユーザー層を仮に、「家計のやりくりをしっかりやりたい主婦層」や「地域で活動する中小企業の経営者個人」だと設定します。これらのユーザー層のニーズの中には、必ずしも地域に限定されないニーズがあると思います。

このように特定の地域に限定されないニーズを満たすことを通じてユーザー層を拡大するイメージでアプリのさらなる展開をすれば、他の地域のユーザーを増やしマネタイズの幅を広げることもできるのではないでしょうか。これ以外にも、周辺地域の金融機関や自治体と連携するなどして、地域をまたいだユーザーの行動の循環を広げていくことも考えられます。
青柳さん 引き続き視聴者の方からの質問です。金融機関にとって広告事業に対する期待感はどの程度のものでしょうか。本業に比べて多大な利益を上げるものでもないですし、やはり取引の活性化や本業を支援するものと理解したほうがいいでしょうか。
飯塚さん そうですね。マーケティングや広告を通じて、金融機関の取引先を成長させ、そこから融資機会を増やしていくなど、本業を支援するための手段として活用することの意義は大きいと思います。
青柳さん 引き続き視聴者の方からの質問です。金融機関の持つ情報と非金融事業者の持つ情報を組み合わせ、広告、マーケティングの効果を高めるということは可能でしょうか。
飯塚さん 非金融事業者と連携して、金融に関するデータと非金融のデータを使って広告、マーケティングを展開していくというアプローチは、それぞれの顧客基盤における個人のIDの重なる部分が大きい場合にはとても効果的な取り組みができるのではないでしょうか。
青柳さん 顧客基盤があまり大きくない金融機関で広告事業はどう進めたらよいでしょうか。
飯塚さん 地方金融機関など、大手に比べてバンキングアプリのユーザー数が少ないような場合、非金融事業者と組んだとしても双方の個人のIDが重なる量が少ないことも考えられます。広告事業を成り立たせるためには地域、周辺地域と連携したり、自社の顧客基盤を拡充したりしていくことも、合わせて取り組んでいくことが望ましいと思います。
青柳さん 最後になりますが、金融×広告のビジネス展開について意気込みをお願いします。
飯塚さん 金融機関での広告ビジネスの取り組みは、本業である融資や金融商品の販売などに大きく貢献する可能性を持っています。博報堂では広告はもちろん、地元企業や自治体などと連携した非金融ビジネスの検討など、デジタルに閉じない範囲で幅広くご支援にあたらせていただきますので、ぜひお声かけください。

<プロフィール>
飯塚 考浩 さん
株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 イノベーションプラニングディレクター
コンサルティングファーム、金融機関等を経て、2015年に博報堂に入社。
クライアント企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を、マーケティングDXとメディアDXの両輪で統合的に推進する博報堂と博報堂DYメディアパートナーズ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の3社横断の戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」および企業・事業活動の変革を支援する総合コンサルティングサービス「HAKUHODO X CONSULTING」のメンバーとして、プロデューサー兼プロジェクトマネジャーの立場でDXプロジェクトの上流から下流までを一気通貫で支援。
HAKUHODO DX_UNITED https://hakuhodo-dxu.com/
HAKUHODO X CONSULTING https://www.hakuhodo.co.jp/hxc/
青柳 雄一 さん
株式会社NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取り組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人材戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※本文および図中に登場する商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じたうえで取材を行っています。

<参考>

企業の研究開発部門で、ナレッジマネジメント、Web系アプリケーションの研究開発に従事。事業部門で、業務プロセスの分析と業務設計を行い、事務の集中化やヘルプデスクの安定運用のための機械学習の適用などを経験。現在は金融分野における機械学習の応用を目的とし、自然言語処理、説明可能性、AIの公平性、異常検知などの調査、ユースケースの検討に従事。

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