挑戦者と語る
2023.04.19 Wed.
クラウド活用のSMBCグループの要 CloudCoEの取り組みと今後の展望
ビジネス環境が大きく変化し、金融機関でのクラウドサービスの活用が進んでいます。クラウドの利用は、今後も活用する企業や適応範囲が大きく広がっていくことが見込まれています。また新しいビジネスへの対応が活発になるなかでクラウドを導入し活用する際は、既存システムとクラウドサービスのメリットや活用方法を比較検討しそれぞれの良いところを組み合わせることが重要になってきます。クラウド活用における課題に対する先進的な取り組みにより、両者のベストミックスな活用を図るSMBCグループでは、CCoE(Cloud Center of Excellence)を中心とした継続的な活動を日本総合研究所(以下、JRI)とNTTデータをはじめ複数のパートナー各社、各クラウド事業者のみなさまと協力して推進しています。今回はSMBCグループでのクラウド活用推進にあたって重要な役割を担いCCoEの立ち上げより参画しているJRIの大津さん、NTTデータの柏原さんのお二方にクラウド推進の背景や工夫した点、苦労した点、今後の展望などを取り組んでいる内容をお話しいただきました。
はじめに
── まず、お二人の現在の活動内容を簡単に聞かせてください。
大津さん 2019年にクラウドを担当する部署に異動し、クラウドを活用したシステム開発プロジェクトを複数担当させていただきました。2021年からSMBCグループCCoEの立ち上げに従事し、SMBCグループ各社のクラウドの利活用を支援しています。
柏原さん 私も2019年からSMBCグループの案件に携わるようになり、クラウドを使ったシステム開発やクラウドの活用推進のサポートを、JRIに出向してお客様の立場となって行っていました。現在は帰任し、NTTデータの社員としてSMBCグループへの活用推進の支援をしています。
SMBCグループ(金融機関)でのクラウド活用の取り組み
── まずはSMBCグループの全体像について教えてください。
大津さん SMBCグループは銀行、リース、証券、クレジットカード、コンシューマファイナンス等、幅広い事業を展開する複合金融グループになります。そのなかでJRIはシンクタンク・コンサル・ITソリューションの3つの機能を有する総合情報サービス企業であり、SMBCグループをITで牽引するテックカンパニーとして、300以上の金融サービスに対して、システムの観点から開発・保守を実施しております。
── SMBCグループを横断してクラウド活用をしていくにあたってどのように推進していったのですか。
大津さん CCoEという組織を立ち上げて推進しています。CCoEはCloud Center of Excellenceの略で、パブリッククラウド戦略を遂行する為に必要な人材や知見、リソースなどを集約した全グループ断型という特徴を持つ、企業内のクラウド活用推進組織のことです。
SMBCグループでは2019年度に各社のクラウド有識者によるバーチャルCCoE組織として立ち上がりました。クラウド利用のニーズが高まり、導入検討が爆発的に増加したことや専門性を持った人員の集約とノウハウ蓄積の為、2021年4月より専任組織としてJRI社内に立ち上がりました。
── SMBCグループにおいてのCCoEのミッションや目標について教えてください。
大津さん SMBCグループのIT全体の管理統制を担う部署と密に連携し、クラウド活用に関わる施策を検討し実現することが主なミッションになります。またクラウド活用の方針として、クラウドサービスと既存データセンター環境のそれぞれのメリットを活用する「ベストミックスなハイブリッドクラウド活用」を掲げています。
世のなかの変化や新しいビジネスへの対応が求められるなかで、すべてを既存のリソース内で完結させるのが難しくなってきました。クラウドのメリットを享受しやすい領域では積極的な活用を進めております。
我々は、すべてのシステムをクラウドに移行すべきとは考えておりません。業務特性に応じてクラウドを活用し、重要性の高い障害コントロールが必要なシステム等は自社のデータセンターを利用するようにしています。
AWS、Azure、GCP、SFDC、オラクルクラウドなどそれぞれの特徴を持つ多くのクラウド事業者のサービスを利用し、「オンプレミス×クラウド」といったハイブリッド構成案を検討することもあります。
クラウド活用をするなかでメリット(コスト、アジリティなど)を享受する為にはリテラシー・スキル向上、ナレッジ蓄積・還元、共通インフラが必要になります。従ってCCoEではミッションとして
①クラウドセキュリティ、コンプライアンスに関わる情報共有や技術的支援(クラウド利用相談)
②クラウド事業者選定に関わる情報やインシデント事例を共有(情報発信)
③クラウドの選定、評価、インシデント、障害対応に関わる利用者側の判断支援(ガイドライン整備)
④クラウドサービス利用のシステム開発に関わるスキルアップ支援(人材育成)
⑤SMBCグループにてクラウド利用する為の共通機能(標準化)の提供(共通機能の実装)
を掲げて活動しております。
── NTTデータとしてはどのように協力したのでしょうか。
柏原さん 私はバーチャル組織のCCoEの一員としてクラウド活用推進活動に従事していました。そこから見えていた課題や、既にCCoEを設立している企業の事例といったNTTデータのノウハウを参考として提供させていただき、専任組織の体制や役割の検討に寄与しました。
また専任体制の初期メンバーとしてJRIに出向し、CCoE組織の立ち上げと運営のサポートを実施しています。特に各グループ会社からのクラウド活用に関する相談が近年増加傾向にある為、バーチャル組織での経験とノウハウを生かし、クラウドを利用したいユーザがスムーズに活用推進できるように、利用相談体制を構築しました。これによりユーザのクラウド利用開始までのリードタイム短縮に寄与しています。
クラウド活用での工夫・苦労点
── 具体的にクラウド活用に対して工夫なさった点はありますか。
大津さん 工夫した点は大きく5つあります。
① クラウドで1からオンプレミスシステムと同様な運用機能をすべて作るのはコストがかかるので既存のオンプレミスシステムのリソースを活用したシステムインフラを整備しています。
② オンプレミスだと機器調達に時間がかかりますがクラウドを使うことで納期短縮を実現させています。
③ IaaS中心の場合、開発や維持管理のコストが膨らむ可能性があるのでマネージドサービスの利用やSaaSの選択を薦めています。
④ ガイドライン(設計ガイド、設計ポリシー、設定値の管理統制)を作成し、設計工程の短縮や一定水準の品質確保を行っています。
⑤ クラウド開発における認証・認可・監査の仕組みを共通化し、セキュアなID管理を実現しています。
柏原さん 工夫した点は大きく2つあります。
① クラウドはセキュリティガバナンスを担保したうえで活用することがポイントになる為、NTTデータのサービスを活用し、セキュアかつ効率的なシステム開発が可能な仕組みを提供しています。
② 上記製品の深い理解を生かしたクラウドシステムの提案~開発、維持運用まで一貫して提供するという形でご支援しています。
大津さん CCoE立ち上げ時に情報発信・情報連携の仕組みを早期に確立できたことです。グループ各社のクラウド案件に関わる窓口担当者を設置いただき、定期的にノウハウを還元する場を設けました。
また各社のマネジメント層を集めた会議を開催し、指針や方向性に大きなブレがないか確認と共有を実施しました。経営層、現場が一体となって推進できたのが大きかったと考えております。
── いろいろ工夫された点がありますね。逆に苦労された点はありますか。
大津さん ベストミックスなハイブリッドクラウド活用を実現する為には、規則・ルールに逸脱しないアーキテクチャの検討が必要でした。クラウドだけでなく、オンプレミス側の知識も必要な為、幅広い知識・経験が求められる為、人材育成は積極的に行っております。
育成施策としてクラウド事業者とコラボし、「問題解決型クラウド学習」と題して「企画・提案型」のクラウド活用トレーニングを実施したりもしてますね。
柏原さん 大津さんがおっしゃったとおり人材育成はロードマップを作成したうえで計画的に進めていくことが重要だと感じていますね。
── ほかにはどのような苦労された点がありますか。
大津さん 共通のインフラ整備を担当しておりますが、システム環境は多種多様ですのでいきなり全体最適を求めても収拾がつかず、うまくいきません。スモールスタートでよいので、少しずつ出来ることの幅を広げた方が良いと思いましたね。CCoE側でベースとなる方針を検討し、個別最適を提案していくことが大事ですね。
後はクラウドサービスの日々のアップデートへの追従が難しいです。1回のアップデートで1000ほどの変更もあったりしますからね。日々進化するクラウドサービスをすべて追いかけるのは非常に困難です。それを解決する為にスコープ(自分たちがどこに注力するか)を絞り対応をしています。
柏原さん 私も出向していたのでよく理解できます。例えばクラウド利用相談についても大津さんのおっしゃる通りシステムや案件毎に環境や条件は多種多様ですので、それらの違いを踏まえた対応をしていました。
今後の展望
── SMBCグループのクラウド活用のビジョンと計画について教えてください。
大津さん 2023年4月で専任組織組成から、3年目に突入します。1年目、2年目で掲げていたミッションを中心に基本的な土台の整備はできたと考えています。これからは出来上がった土台の幅を広げるというところで共通機能のグループ各社への展開や新しい取り組み(マネージドサービスの共通化、標準化)を進めていきたいですね。
柏原さん NTTデータとしてどう寄与していくか、課題である人材育成においては出向による支援やクラウド活用についての勉強会の実施などで引き続きご支援してきたいです。
また、クラウドサービスのアップデートを個社で追従するのは限界があります。そこで当社が日々のサービスアップデートを点検し、安全に使用できる形で環境を提供し、お客様はビジネス領域に注力できるようなサービスを提供し続けていきたいですね。クラウドの利用相談から開発領域まで、トータルでご支援することが当社でできることだと考えています。
── 本日の対談内容なども踏まえまして、今後の夢や目指したい姿をお聞かせください。
大津さん CCoEはクラウド活用推進から立ち上がった組織でありますが、専任組織があるということは、システム開発現場にはクラウド活用方法が定着していないという捉え方もできますよね。直ぐには難しいですが、数年後を見据えたときには、CCoEのノウハウを現場に浸透させ、自ら行動できる、最終的にはCCoEという組織がなくても成り立つことが理想だと思っております。
クラウド活用は手段であって目的ではありません。新しいビジネスを展開する1つの手段としてクラウドがある、ということを意識して活用していきたいですね。
柏原さん 私もクラウド活用をする目的とは何か、を考えることが大切だと考えています。VUCAな時代でお客様のニーズの変化も著しいなかでビジネスアジリティが重要視されており、その点においてクラウドは有用だと考えています。一方で極めて機密性の高い領域など必ずしもクラウド活用にシフトしなくてもよい領域も存在すると考えており、適材適所のクラウド利活用推進をサポートしていきたいですね。
SMBCグループでは従来の金融業から変化しクラウド活用をしたビジネスの拡大されているので、人材育成や技術支援など様々な切り口でご支援をしていきたいと考えています。
── 最後にほかの金融機関が導入を考えるヒントはありますか。
大津さん SMBCグループでは経営層を巻き込んで推進しているとお伝えしましたが、クラウド活用のみならず、新しいビジネスを推進する際は経営層の理解が必要だと考えます。
柏原さん まずはクラウドについて知る必要があります。次にクラウドがどう効果的に使えるのかを理解する。最後に自社のビジネスにどう効果的に活用できるかを考える。この3つが大切なのではないかと考えています。
ここまで考えるとクラウドの利便性や活用メリットが理解できるので使ってみようという状況になると思います。ただし文化や環境、ルールなどのハードルはありますので、それを乗り越える方法としてCCoEのような推進できる要素が必要だと考えます。
外部からのインプットも現状を変えるきっかけになると思います。一般的な情報のみならず競合情報やトレンドを有してサービスやツールを提供しているベンダーからお話を聞くことも効果が大きいと思います。導入を検討するうえで環境や設備などの壁をどう乗り越えるか、一緒に考えながら推進することも効果的かと思います。
日本総合研究所に入社後、金融システムの基盤系、業務系プロジェクトを多数担当。2019年からクラウド導入プロジェクトを担当後、21年4月に数十名規模のCCoE専任組織を立ち上げ。現在、CCoEクラウド共通機能チームのリーダーとして、クラウド共通機能の検討・導入を通じてSMBCグループ各社のクラウド利活用を支援。