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挑戦者と語る

Spirete中島徹さんと語る スタートアップに多様性をもたらす新たな挑戦

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欧米諸国に比べ、遅れている感のあった日本のスタートアップ市場。しかしここ数年で状況が変わりつつあり、その数も徐々に増えてきています。金融業界でも、新技術の登場や社会の変化などを背景に、新たな価値を生み出すスタートアップの存在感はますます高まっています。日本のスタートアップはなぜ増え、今後どう変化していくのか?そして金融業界はスタートアップとともにどう進化していくのか?ベンチャーキャピタリストであり、スタートアップスタジオSpirete(スピリート)の代表取締役でもある中島徹さんに、「オクトノット」編集長が最新事情を聞きました。そこには、欧米とは異なる日本流のスタートアップの姿や、大企業がスタートアップと向き合うヒントが浮かび上がってきました。

1.成長を続ける日本のスタートアップ市場

宮本:私が編集長を務めている「オクトノット」は、金融×ITの分野で新規事業や新サービスの創発を考えている方々をサポートしたいという想いで立ち上げたメディアです。そういう意味では「オクトノット」にとってスタートアップはぜひとも取り上げたいテーマでした。今日本のスタートアップ市場はどうなっているのか。そして今後どうなっていくのかを日本のスタートアップ事情に詳しい、Spireteの中島さんに教えていただきたいと思います。早速ですが、日本のスタートアップ企業は欧米諸国と比べるとまだまだ少ないイメージがあります。実際のところはどうなのでしょうか?

中島:現在、日本のスタートアップは非常に増えてきています。ベンチャーキャピタルやベンチャーキャピタルへ資金を出して来た方々の数十年の努力に、更に国からの支援が後押しとなって成果が現れて来ていると認識しています。私が以前働いていた産業革新機構 (現、株式会社INCJ)、これは2009年に設立された官民出資の投資ファンドですが、この産業革新機構による活動の効果も含めて、2013年くらいから徐々に波が起こり始め、ここ数年で一気に広がっていったというイメージです。

宮本:私は金融分野に長く携わっていますけど、確かに最近はスタートアップを起業された方とお話をさせてもらう機会がものすごく増えました。金融業界では「フィンテック」という言葉ができて、そのフィンテックの盛り上がりから一気にスタートアップが増えました。これほど急に増えた理由はどこにあると思いますか。

中島:やはりスタートアップにお金が流れるようになったのが大きいと思います。失われた30年と言われていますけど、1990年代にバブルが崩壊し、日本の経済力は落ち込みます。それでも2000年くらいまでは日本の企業はまだまだ強かったと思うんです。それが2008年のリーマン・ショック以降かなり傷んでしまった。そこで国としても企業のサポートをしっかりとやっていかないといけないと考えるようになりました。産業革新機構もその一環ですが、国の政策もあって、以前より資金が流れるようになりました。

今はちょっとしたブームと言ってもいいかもしれません。とはいえ欧米と比べるとまだまだ少ないし、日本のGDPは世界第3位ですが、GDPの割合で比べてみると圧倒的に低い。その原因の1つは日本が本来持っている高い技術力を活かした分野でスタートアップがなかなか出てこないことにあると思います。というのも技術開発には優秀な技術者が必要ですが、日本の場合そういう人財は大企業にいるのでスタートアップには流れてこないんです。

宮本:なるほど、資金が入ってくるようになっても、今度は人財の壁があるわけですね。

2. 日本のスタートアップが抱える課題とは

宮本:もともと中島さんも東芝で技術者をされていたそうですね。それが今は投資家としてベンチャーキャピタルやスタートアップ起業をサポートするスタートアップスタジオを運営されています。どうして東芝を辞めてスタートアップと関わるようになったのですか?

中島:東芝の研究開発センターで無線LAN国際規格の標準化と半導体チップの開発を進めていました。当時のライバルはアメリカのシリコンバレーにある半導体企業でした。スタンフォード大学教授が研究室のメンバーを連れて作ったスタートアップ企業です。私達の研究は世界の最先端を進んでいましたし、技術の部分では彼らと互角に戦っている自負がありました。でもビジネスとして成功しているかというと、そのスタートアップ企業のほうが遙かに成功しているわけです。技術的には変わらないのに、一方は経済的に成功している。なんとかこの差をなくして日本でも技術者が報われるようにしたいと、東芝を辞めて2009年に産業革新機構に入りました。

その後に孫泰蔵さんの創業されたMistletoe(ミスルトゥ)にて国内外を問わず、さまざまな企業に投資をしていく中で、日本が遅れている部分をいろいろと感じるようになりました。やはり日本の場合、優秀な人材がスタートアップに流れてこないことが一番の問題ですね。

宮本:新卒で入社してずっと同じ会社にいる私が言うのも変な話ですが(笑)、確かに日本の場合は会社を辞めて起業するのはハードルが高いですよね。

中島:日本のスタートアップは欲しい技術を持っている技術者がいるのに雇えないケースがとても多いですね。一方アメリカは全く逆で、どんどん優秀な人が雇えるし、むしろスタートアップにいる人のほうがアップルなどの大企業に務めている人より優秀だったりします。アップルやグーグル出身の人がスタートアップに来て会社を大きくしたと思ったら元の会社に買収されて、さらにそこから独立するということが日常的に行われています。人財がすごく動いている。日本の場合は、国民性なのか、雇用の仕組みなのか…。雇用の流動性がとても低い構造になっています

宮本:本当にその通りですね。制度とか仕組みの問題もあると思いますが、私はもうちょっと根深いところ、日本人ならではの考え方にもあるような気がします。長く同じ会社に勤めることが良しとされ、新入社員で入社して定年まで勤め上げることが美徳になっている。ここをなんとか打破しないと、優秀な人財は外に出て行かないと思います。

中島:私も東芝を辞めるときは家族中が大反対。妻には泣いて止められました(笑)

宮本:それは大変でしたね(笑)。優秀な人であればあるほど、そうなりますよね。会社としても引き留めるでしょうし、家族にとってはせっかく大企業にいるのに、なぜそこを辞めてまで…と、なってしまう。ただ最近は徐々に潮目が変わってきて、昔よりは転職が増えてきました。これまでは大企業にいることで、優秀な人ほど自分がやりたいことができないジレンマに陥っているケースもあったと思うんです。そういった方々が会社を飛び出して伸び伸びとやりたい仕事をやり、成功をしている。そんなケースを目の当たりにして、大企業にいる人達も考えが変わってきたように感じます。

中島:たしかに、大起業からの転職も増えてはいます。でも、まだ少ないです。

宮本:平均寿命が長くなり75歳くらいまで働くようになると、半世紀も1つの会社にいることになります。果たして会社が保つのかという問題もありますし、自分の興味や能力を考えても、ちょっと疑問を持ちますよね。これからは1回、2回転職するのがもっと当たり前になるのかもしれません。そうなると優秀な人財がスタートアップ企業に流れて行きやすくなるかもしれない。

中島:そうなんです。ただ、そうなるにはまだ時間がかかります。そこで、今の状況の中でも大企業にいる優秀な人財がスタートアップに関われるようにしていきたい。それを実現したのがスタートアップスタジオのSpireteです。

3.スタートアップの選択肢を広げる試み

宮本:スタートアップスタジオはどんなことをする会社ですか?

中島:アイディアを思いついて起業したいと考えても、それを実現する専門知識やスキル、そして技術やリソースなどが自分にはないという人もたくさんいます。そこで起業に必要な専門知識やスキルを持ったスタッフがチームとして加わり、起業家と一緒になって事業化するのがスタートアップスタジオの役割です。私は大企業で働いている優秀な人にもスタートアップをつくって欲しいと思っていますが、さきほどお話したように日本には会社を辞めてまで起業する人がまだ少ない。そこで考えたのが「ミドルリスク・ミドルリターン」といえばいいでしょうか、Spireteでは企業に籍を残したまま、スタートアップに参加することができるようにしています。それなら会社を辞めるリスクを取ることなく起業できるし、スタートアップも優秀な人財を集めることができます。

宮本:それはすごくいいシステムですね。具体的にはどう進めていくのでしょうか?

中島:Spireteには9社の会員企業様がいます。その会員企業様からスタートアップを立ち上げたいという要望を受けて、サポートをしていきます。さまざまなケースがありますが、分かりやすいのは会社の中で進めているプロジェクトをそのままスタートアップとして起業するパターンです。これまでの社内ベンチャーとどこが違うかというと、私やこれまで数多くのスタートアップを見てきたSpireteのメンバーも一緒に入ってプランニングすることで、成功の可能性を高めることができるという点です。どの企業にはどんな人財がいて、どんな技術があるのかを把握しているので、今のアイディアにこの技術を組み合わせたら面白いよねとか、足りない部分を補うために必要なスキルをもった他社の社員さんや、起業家としてスタートアップ業界にいる人財を、会社の垣根を超えてチームに加えることができるのが強みです。

他には、自社ではまだスタートアップとして立ち上げられるようなものがないけれども、他社の企画に参加したいといったケースもあります。また、実現したいアイディアはあるけれどどうしたらいいか分からない場合は、ゼロベースで一から一緒に考え作り上げていくケースもあります。

宮本:これまでは社内ベンチャーとして、自社の社員を集めて進めるのが一般的でしたけど、スタートアップと長く関わってきた経験豊かな外部の人に参加してもらったほうが、明らかに成功する確率が高くなりますね。社内ベンチャーだと登記を分けて会社を作ったりしますが、起業した人がその会社の株を持っているケースはほとんどなくて、大抵の場合、所属元の企業がすべての株を所有して、子会社やグループ会社として活動しています。Spireteさんで起業した場合はどうなりますか?

中島:当然、資金を出している企業さんが株を持ちますが、起業した社員さんにも持ってもらうようにしています。スタートアップに関わるみなさんが貢献に応じたリターンをもらって欲しいので、そこはフェアにしたいと思っています。普通に起業すると自分が100%株を持ちますよね。ただ、Spireteで起業した場合はいろいろなサポートがある分、本人が100%とはなれないわけですけど、リスクも少ない。一方、企業としても資本関係があるからこそ、独立したスタートアップが大きくなれば元の会社にもリターンが生まれます。お互いにWin-Winの関係を作ることができます。

自社の株を持つことができるかは、自分がやりたいことを実現できるかという問題と密接に絡んでくるのでとても大切です。アイディアや技術があって資金も揃っている人は自分の力でスタートアップを立ち上げればいいし、技術はあるけれども資金やどう事業化するべきか分からないという人はSpireteのサポートを受ければいい。スタートアップの立ち上げを考えている人の選択肢が増えるのは、多様性の面でもとても意義のあることだと思います。

4.多様性こそがビジネスチャンスを広げる

宮本:私も今年の3月に「オクトノット」を立ち上げました。新しいものを生み出すのはチャレンジと同義だと思っているので、他の人がやっていないことや違うバリューを出すためにはどうしたらいいのかを必死に考えました。真っ白なキャンパスに自分がやりたいことや世の中のニーズを思い浮かべて描いていく作業は面白いし、やり甲斐を感じられました。やっぱりスタートアップを起業する人は新しいことを始めたいという情熱を持った方が多いですか?

中島:そうですね、これを作りたいとか、新しいサービスを広めたいという熱い想いを持っている方が多いですね。でも、やはり起業には、経験とそれに紐付くネットワークが大切で、この2つを持っていたほうが失敗するリスクを下げられると思います。将来スタートアップを立ち上げたいと思っている人には、今やっている仕事を大事にして、その中で何ができるのかを考えていって欲しいですし、それが一番の近道だと思います。何年、何十年と働いてきたその分野のプロだからこそ、穴があるポイントを知っている。そこにそれまでに培ったネットワークを使うことで新しいサービスを立ち上げられるかもしれない。そういう視点で考えて欲しいです。

宮本:人に負けない専門分野を持っている人のほうが強いということですね。私の場合、20年くらいずっと金融業界に携わっているので、自分のバックグラウンドは「金融×IT」になると思います。中島さんがこれから金融でスタートアップを立ち上げるとしたらどんなことが考えられますか?

中島:金融は今ブロックチェーンなどの新技術の活用を始め、大きな変革の中にある分野なので、宮本さんはすごくいいバックグラウンドを持っていると思います。金融業界は規制された世界なので、この規制された中で何をするかという考え方が必要だと思います。でも、ただデジタルを組み合わせるだけでは普通なので、そこに流通を絡めるとか、金融とかけ離れた異業種と組み合わせるといった視点も面白いと思います。

宮本:新型コロナウィルスという外的要因で世の中が大きく変わり、金融業界も今、変革を迫られています。その中でどうやって新しいものを生みだすのか、そのヒントを与えるのが「オクトノット」のミッションでもあるので私も日々考えていますが、これまで金融業界はこうやりなさいという画一的な道があって、そこから出ることがなかなかできませんでした。規制された世界ではあるけれども、これからの金融の世界では多様性が必要になってくると思っています。中島さんはその点はどうお考えですか?

中島:私も宮本さんと同じで金融業界はもっと多様性があるべきだと思います。例えば日本は個人の投資先が少ないので、ある程度お金を持っていても株や投資信託、不動産を買うだけになってしまっていますよね。そのお金をスタートアップへの投資に回すことができれば、さらにスタートアップが増えていくのではないでしょうか。国としてもその方向性を考えていて、その1つがベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行うエンジェル税制なのかもしれないですけど、もっと手軽に一般の人が投資をできるようになっていけば良いと感じています。

今は規制がものすごく厳しいですが、規制が厳しいということはその分リスクがあるということなので、もちろん金融教育も必要になります。しっかりと学んだその先に、もっと手軽に投資ができるような仕組みを作りたいと思っています。規制を緩和した上でどうしたらみんながハッピーになれるか、そこに必要なのがテクノロジーの力かもしれないし、別の方法があるのかもしれないですけど、ネット証券とは別のまた新たな方法で何か実現できればと思います。

宮本:それは面白いですね。いろいろな人がいろいろな選択肢を持って、いろいろなことができるようになる金融の世界に変えていきたいですね。「オクトノット」は金融の未来を作っていくメディアに育てていくことが目標です。その実現のためには金融機関とスタートアップ、業界を超えたさまざまな企業の方達を結ぶハブ的な役割を果たしていけるようなメディアになりたいと考えています。中島さんの今後の夢はなんですか?

中島:この仕事をやっていて楽しいのは、人の成長を実感したときなんです。過去に投資していたスタートアップの社長さんで何年もお付き合いしている方がいるんですけど、すごく人間的に大きくなって、それと共に事業も拡大していく。その瞬間が一番嬉しいです。その中からアップルのように世界にインパクトを与えるような会社が出て欲しいというのが1つの夢です。

宮本:今の金融業界は異業種とのコラボレーションみたいなことがまだまだあまり進んでいないので、Spireteがいろいろな業界を繋いでいるように、「オクトノット」もそういった活動を広く進めていきたいと思っています。今後ともいろいろな共創ができれば嬉しいです。今日はありがとうございました。
〈プロフィール〉

中島 徹 / Tetsu Nakajima
Spirete株式会社 Co-founder & 代表取締役
東芝の研究開発センターにて8年間、無線通信の研究・無線LANの国際規格の標準化・半導体チップ開発業務に従事し、数十件の特許を取得。2009年から産業革新機構に参画し、日米でロボティクス、IT、ソフトウエア系の投資を手掛ける。2016年にMistletoeに参画、2017年よりChief Investment Officerとして14ヵ国での投資活動を統括する。日本や米国シリコンバレー、欧州の有力な投資家・起業家とのネットワークを持つ。

宮本 拓也 / Takuya Miyamoto
オクトノット編集長

2000年にNTTデータに入社。金融機関の営業店系システム開発と展開、業界ポータルサイト立ち上げに携わった後、出向を経てグローバル部隊へ。国内外のマーケットを視野に入れた金融における企画やアライアンス検討に従事。その後はデータ活用に焦点を当てたビジネス企画やソリューション立ち上げを行う。2021年3月、「金融を通じて世の中をより良くする」を志に、金融×デジタルを軸にしたメディア「オクトノット」を創設。編集長に就任する。

※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

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