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金融が変われば、社会も変わる!

挑戦者と語る

合言葉は“ワクワク” みんなを巻き込む社会課題へのアプローチとは?

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2015年9月の国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。期限である2030年まで10年を切り、国連は2020年から2030年までを「行動の10年」として、SDGs達成のための行動と解決策を促進させることを呼びかけています。一方日本ではさまざまな産業と環境とを結びつける取り組みはまだ始まったばかり。そのような中で、ユニークなサービスを次々に展開しながら環境問題をはじめとした社会課題の解決に挑んでいるのが「株式会社UPDATER」さんです。今回はデジタル技術を活用しながら「みんな電力」などの取組みを推進するUPDATERの長島遼大さんと、NTTデータが運営する「SPLAB(スプラボ)」で社会課題解決と新しい金融サービスをつなぎ創造的な未来社会づくりをめざす高岡和矢さんが、社会課題へのアプローチをテーマに語り合いました。

1.社会課題を身近にする「みんな電力」

高岡さん 私はNTTデータが2020年8月に開設した「SPLAB(スプラボ)」でビジネスデザイナーとして活動しています。SPLABは金融領域を軸としながら、さまざまな社会課題を解決する新規ビジネスを考えるためにつくられた“共創の場”です。保険・証券・銀行といった金融機関だけでなく、時には異業種企業、スタートアップの方々なども巻き込みながら、業界横断的に活動しています。

もちろん、再生可能エネルギー(以降、再エネ)も大きなテーマの1つです。なかなか難しいテーマではありますが、UPDATERさんが展開されている「顔の見える電力」はとてもユニークな取り組みですね。

長島さん UPDATERは、見えないものをデジタルで見える化し、色々な社会課題を解決することをコンセプトにしている会社です。最初にスタートした事業が「みんな電力」というサービスです。「みんな電力」は太陽光や風力、水力、バイオマスといった再エネの電気を、発電所を運営する電気の“生産者さん”から直接仕入れ、電気を使う“消費者”に供給しています。

普通の電気販売事業者と違うのは、電気の生産者さんの顔、電気をつくっている場所などを見える化し、「顔の見える電力」にしているところです。私たちが間に入って哲学や再エネへのこだわりといった生産者さんの想いを届け、お客様が共感したり、応援したいと思ったりした発電所を選ぶと毎月の電気代から100円が生産者さんに支払われる仕組みとなっています。

高岡さん 毎日当たり前のように電気を使っていますが、生産者さんがいるということを意識したことはありませんでした。でも、「みんな電力」のWebサイトで実際に再エネにこだわりを持って電気をつくっている生産者さんの顔を見ると、急に再エネが身近に感じられるようになりました。電気のような無機質なエネルギーでも、こんな豊かな自然の中でつくられた電気なのだと分かった瞬間、そこにストーリーが生まれてくるのがすごく面白いですね。

長島さん 生産者さんには農家の方も多いので一年間発電所を応援すると発電設備の下で育てた野菜や、果物を使ったジュースがもらえるなど、消費者の方とふるさと納税のようなつながりをつくっている方もいます。我々が電気をつくる人と使う人の間に立って、懸け橋になっているような形ですね。顔が見えることで、楽しさやつながりみたいな付加価値も感じていただけるようになっています。

私には「顔が見える」ということをすごく意識するようになったきっかけがあります。それは学生時代に、原発の被害にあった福島の農家に泊まりながら農作業のお手伝いをしたときに出していただいた料理です。料理に使われていたのがまさにその農家の方が作った「顔の見える野菜」だったんです。食べたときにすごく美味しいなと感じて、自分が食べるものや使うものを誰がどんな想いでどんなふうにつくっているのかを知ることで、生活が豊かになるなと感じました。

一方で口に入るものと同じくらい身近な電気は誰がつくっているのか見えないですよね。そうしたエネルギーの世界でも生産者さんの顔を見えるようにして、価値を生み出せるのが「みんな電力」の魅力だと思っています。

※撮影時のみマスクを外しています

高岡さん いまは電力会社でも、発電の一部に水力発電や風力発電といった再エネを取り入れ始めるところが増えてきましたよね。でも、実際に自分の家で使っている電気が再エネによる発電分なのかどうかは分かりません。かといって自宅に太陽光発電を設置するというのも現実には難しい。その点「みんな電力」の仕組みはとても手軽ですし、地球環境の改善に貢献していることを実感できるだけでなく、野菜をもらったり楽しんだりしながら社会課題に貢献できるのが嬉しいですね。

長島さん 意識せずにいると、自分が毎月支払っている電気代は石油や石炭に使われてしまいます。あと、意外と知られていないのですが、実は再エネにも良い再エネと悪い再エネがあるんです。例えば、山の斜面を切り崩して太陽光パネルを設置することで景観を乱していたり、バイオマス発電でも海外で大量に伐採した木をわざわざ日本に運んできてそれを燃やして発電していたりと、再エネがむしろ環境破壊している事例もあり、それは決して良い再エネとは言えないと思います。

「みんな電力」では自然環境に大きな影響を与えていないか、地域住民に受け入れられているかなど、発電所と契約する際に、一定の調達基準を設けることで良い再エネだけを扱うようにしています。消費者の方からも「みんな電力」に切り替えた後は、「前よりも気持ちよく電気を使えるようになった」という声をいただくことが増えました。

再エネで発電する生産者さんの顔を見える化した「みんな電力」

2. デジタルが日常にストーリーをつくり出す

長島さん 法人では発電所を指定して電気を選んで使うことができます。例えばBEAMSさんの場合だと、福島の復興支援に力を入れているので福島の生産者さんの電気を使いたいとか、マルイさんの場合だと新宿の本館で使用している電気の半分は水力で、残りの半分を風力と太陽光というような仕組みです。

ただ、電気は電線に混ざってしまえば、どこでつくられたものなのかが全く分かりません。そこで、ブロックチェーンの技術を使って、生産者さんと消費者の方を結びつけるような仕掛けを考えました。例えば、今まさに青森の風力発電で50kW(キロワット)の電力をつくっていたとして、東京のある企業でそのうちの25kW(キロワット)を使っている、ということが客観的に証明できる仕組です。

最近の事例だと小田原の農家で自分の田んぼに太陽光パネルを設置して、稲作をしながら発電もする「ソーラーシェリング」をしている小山田さんという熱心な生産者さんがいるのですが、そこで生産した電気は小田原のスターバックスさんが使ってくれています。スターバックスさんは地域に貢献したいという想いを持たれていて、電気を買って小山田さんを支援してくれています。

高岡さん まさに電気の地産地消ですね。デジタルを活用して、本来は目では見ることができない電気を見える化することで、生産者さんの想いが電気を使う消費者の方にも伝わり、そこで新しい関係性や、一緒に社会課題の解決に取り組んでいるという意識が生まれているということですね。

長島さん お客様と一緒に生産者さんのところに行くツアーがあるのですが、それまで会ったこともない人同士がお互いにお礼を言い合っていたりして。すごく気持ちのいい空気感ができていて、その姿を見ているだけで嬉しくなります。まずはデジタルでつながって、リアルでもつながることで新しい絆が生まれていきます。

※撮影時のみマスクを外しています

高岡さん エネルギーって目には見えないものですよね。金融もその点ではすごく似ていて、お金も銀行口座に一度預けてしまうと、何の色が付いているか分からないという世界です。電気代の一部が石油や石炭を買うお金に使われているというお話がありましたけど、銀行に預けたお金も自分が知らないところで色々なところに融資されているわけです。

「みんな電力」でどの電気を使うかを選べるように、自分が預けたお金がどのように使われるのかを選べたら面白いですよね。ふるさと納税だと納めた税金を何に使うかを選べる自治体があるように、自分が銀行に預けたお金が地元の会社を支えたり、誰かの幸せにつながっていると実感できたりすると嬉しいし、そこにストーリーが生まれてくる。これまでは何も意識せず、ただ預けていただけのお金が、世の中の役に立っていることを実感できるものに変わります。

長島さん 私たちも「みんな電力」で始まった顔の見える化を他の領域に広げていこうとしています。すでに始まっている「みんなエアー」という事業は、「みんなの力で世界の空気をアップデート」をテーマに、空気の見える化を通じて、全国に安心して過ごせる場所を100万スポット創出するプロジェクトです。例えば、コーヒーの味だけではなく空気にもこだわっているカフェがあれば、多少コーヒーの値段が高くてもそのお店を選ぶ人がいるのではないでしょうか。そのような目に見えない空気へのこだわりを可視化することによって付加価値を生み出しています。

また、これはまだ構想段階ですが、土の見える化も面白いと思っています。土にも良い、悪いがあって、良い土は作物がよく育ちますし、実は土は、CO2の吸収量がすごく大きく、土の状態を改善すれば大気中のCO2の濃度を下げることができるため、地球環境の改善にもつながります。ソーラーシェアリングは日当たりの良い広大な土地を持つ農業とも相性が良いですから、土の再生、土の見える化をあわせて推進していくことで、農家さんの経営を支えることにもつながると考えています。

高岡さん 私はいま、資源を循環させ、廃棄物を出さないサーキュラーエコノミー(循環経済)にフォーカスして、金融サービスで培ったデジタル技術を使って新しいビジネスをつくれないかと考え、挑戦しているところです。デジタルはより便利に、より早く、より正確にというところを補ってくれるツールとしては必要不可欠な存在です。ですが、デジタルはあくまで手段でしかないので、技術ありきでスタートするのではなく、まずは実現したい未来像を描くことが大切ですよね。私が活動するSPLABでも、サービスを考える前に背景にある社会問題までを掘り下げることを強く意識しています。長島さんもまさにそうした発想で新しい価値を世の中に生み出しているのだと、お話をしていて感じました。

※撮影時のみマスクを外しています

3. 誰もが楽しく、社会課題に取り組める世界に

高岡さん 社会課題を解決するためにはその事業がビジネスとしても持続可能でないと長くは続きません。社会課題の解決とビジネスの両立というのはどのように考えていますか?

長島さん UPDATERには「面白くて儲かる仕事をしよう」というモットーがあります。「儲かる」が最初に来てはダメで「自分が面白い、あなたが面白い、社会が面白い、その上で儲かる」ということを大事にしています。この言葉を社員全員が強く意識してビジネスに取り組んでいます。ビジネスにも良い悪いがあると思っていて、良いビジネスというのはそれに関わっているすべての人が幸せを感じられて、結果的に社会課題の解決にもつながっている、そういうものかなと感じます。私は社会課題の解決も目的というよりは手段なのではないかと思っています。社会課題を解決した先に自分自身が豊かになるとか、楽しくいられるかが大切で、そのためにその課題を解決しないといけないという感覚です。

高岡さん 仕事と向き合っている中では、多くの人はその先に自分自身が楽しくいられるかという発想をなかなか持てなかったりしますよね。自分自身を改めて振り返る意味でも良い気付きをもらった気がします。SPLABでも「どの方向に行くか迷ってしまうから社会課題に取り組むときは自分軸を持って考える」ということを大切にしているのですが、今の長島さんの話とつながるところがあるなと思いました。

UPDATERの社内には実際にお酒が飲める遊び心あふれるスナックスペースも用意されています。

※撮影時のみマスクを外しています

長島さん あとは熱量も大事だと思います。ただ熱量にもいろいろな種類があります。例えば、自然破壊や理不尽な出来事に対する「怒り」が活動の根源だったりするケースもありますよね。私自身は「楽しさ」とか「ワクワク」を通じて多くの人を巻き込んでいくアプローチに興味があります。その輪の中に入ってみたら、自分自身が楽しんでいるうちに社会もよくなっていっている、そんな状態が持続可能につながるのかなと感じています。「希望」を持つことで生まれる熱量を大切にしています。

「みんな電力」はまさにそんな仕掛けです。社会課題は一人の力では解決できませんが、一人一人がちょっとだけ意識を持って、そしてワクワクしながら再エネでつくった電気を使うことで、環境に良い発電所が増えて社会がより良くなっていく。もっともっと「みんな電力」を広めていきたいと思っています。

高岡さん 興味を持ってくれる人はたくさんいるのではないでしょうか。UPDATERでもすでに色々な著名人や企業さんとコラボレーションされていますが、やはりそうした企業・業種を超えた取組みが重要なのかなと感じています。環境問題に関心が高いお客様がたくさんいる企業さんとコラボして広めていくのも面白そうですし、生産者さんとの良質なコミュニティもあるので、イベントなどでもさまざまな広がりがありそうです。

長島さん おっしゃる通りですね。環境問題がクローズアップされてきたとはいえ、日本ではまだまだ一般消費者が具体的にアクションを起こすという状態まで、個人のレベルでは浸透していないと思うんです。ですので、色々な人や会社を巻き込んで、世の中のムードを少しずつ変えていきたいなと思っています。

高岡さん 確かに再エネに対して「何だかよく分からない」「新しいものはなんとなく不安」と考える方もまだまだ多いのではないかと思います。例えば金融業界だと、地域の金融機関は地域社会の信頼がすごく高く、そうした漠然とした不安感を補うパートナーになりうるかもしれませんね。新しい発電所を作る設備投資の融資を受けたり、地域に住む人が発電所に投資できるような仕組みをつくったりすることもできるかもしれません。

業界の枠組みも超えて色々な人とディスカッションしてアイディアをいっぱい出して、また他の分野の人にぶつけていく。SPLABが目指しているのもまさにそこです。金融領域が軸ではありつつも、金融業界だけで考えても革新的なアイディアを生み出すのはなかなか難しい。多様な知識・経験を持ったメンバーが集まることで、これまで想像もしなったような新しい考え方やビジネスをつくり出す。そうした場を育てていけたらなと考えています。長島さんともぜひコラボレーションしてみたいですね(笑)。
〈プロフィール〉

長島 遼大 / Ryota Nagashima
株式会社UPDATER 事業本部 パーソナル事業部 個人営業チーム  
大学卒業後、環境問題を学ぶため13カ国を周り、5カ国でボランティア活動を行う。帰国後、2018年12月みんな電力株式会社(現・株式会社UPDATER)に入社。再生可能エネルギーの利用を普及させるため、生産者と消費者が直接会える“発電所ツアー”や、再エネ利用企業と社会貢献意欲の高い学生のマッチングを目指す就活イベント“電力就活”といった様々な企画を担当。休日は有機農家と共に立ち上げた“畑を中心とした新しいコミュニティ団体”の活動を通じて、地元横浜市で農業を行う。

高岡 和矢 / Kazuya Takaoka
株式会社NTTデータ SPLABビジネスデザイナー

2010年NTTデータに入社。エスアイヤーとして金融系のシステム開発に関わる。2016年からオープンイノベーションによるビジネスの創発と事業化を目指すOI創発室へ異動。地方創生や地域課題を解決する地方銀行向けの新規ビジネスを中心にビジネス創発に関わる。現在はSPLABで社会課題を起点とした事業の創発に従事し、サステナブルな社会の実現に向けたビジネス創発に注力。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。
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執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

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