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挑戦者と語る

情報銀行の現在地~データ活用の観点より API gallery MeetUP ~Vol.30

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日々の暮らしのなかで、広告などを通じての個人のデータ活用が広がっています。このパーソナルデータを管理する仕組みのひとつとして、情報銀行があります。今回は、情報銀行の第一人者であるNTTデータの花谷さんをお迎えして、パーソナルデータビジネスの国内外の現状と課題、最新トレンドについて詳しくお伺いしました。

日々の暮らしにつながるパーソナルデータとその活用

青柳さん  情報銀行の現在のデータ活用について、ソーシャルデザイン推進室の花谷さんにお話を伺います。花谷さんは日本におけるパーソナルデータ、情報銀行の先駆者でいらっしゃいます。パーソナルデータの最新状況や情報銀行の現在、さらにデータスペースに移り変わっていくトレンドや活用ユースケースについてお話しいただきます。よろしくお願いします。

まずパーソナルデータとは、個人の属性情報のことで、基本情報には氏名、住所、性別、年代などが含まれます。その中で個人を特定できるものが「個人情報」、体系的に整理されたものが「個人データ」と呼ばれます。それ以外にも利用情報として位置情報や医療・健康情報などもこれに含まれます。

青柳さん  NTTドコモの事例を見てみましょう。パーソナルデータの利用目的は主に4つに分けられます。

まず、サービス・商品の提供、お客様とのやり取り、お知らせのための利用です。
次に、サービス・商品の提案、マーケティングへの利用です。
3つ目はサービス・商品の確実・安定的な提供に必要な保全、不正対策です。マクロに統計化された人流データを使って通信の状況をよくするという話もあります。
4つ目の利用目的は、サービス・商品などの企画開発改善、データを使った新商品の開発です。お客様が提供したパーソナルデータをドコモがデータベースとして活用し、新しいサービスやマーケティングに生かすという使い方です。
この事例では、数千万規模のパーソナルデータをAIが学習してお客様を予測し、趣味嗜好に基づいてサービスをおすすめするという方法がとられています。

青柳さん  パーソナルデータの活用は変化し続けています。個人情報の活用方法とも密接に繋がっています。わかりやすい例としてCookie規制がありますので、Cookie規制とは何かについて話をします。
まず、個人情報保護法の改正により、今までは提供元のA社からB社へ個人情報を提供できたものが、現在は本人の同意が必要になりました。これがCookie規制の基礎になっています。Cookieは利用者にとっては何度もログインする手間を省くといった便利な側面もあります。一方、サイトの運営者にとっては、ユーザーコードをトラッキングして利用者の行動を分析できる利点があります。

ユーザーが訪問したサイト以外の他社が取得したサードパーティCookieだけが規制の対象です。その結果、例えばA社のホームページを見ているときに表示されたA社の広告が、別のサイトを見ているときにまた表示されることが難しくなっています。
Cookie規制を回避する技術も登場しており、その一つがコンバージョンAPIです。これは、広告主のサーバーに情報を渡して同じドメインの中で処理することで、サードパーティCookieを使わない方法です。

パーソナルデータ同士を掛け合わせて生活を便利にする取り組みは、ヨーロッパでも新しいトレンドが始まっています。
イントロダクションとして、パーソナルデータとは何か、それを使うとどういう利点があるのか、そして、それを支えるテクノロジーについて簡単にご説明しました。この後、花谷さんにパーソナルデータの流通や、海外を含む最新トレンドについてお話していただきたいと思います。

パーソナルデータビジネスの今とこれから

花谷さん  パーソナルデータビジネスの最新の状況について、情報銀行の現状やパーソナルデータ流通の今後の展望についてお話ししたいと思います。

現在、広告などさまざまな場面で個人情報を活用してパーソナライズする動きが進んでいます。なぜパーソナライズが必要なのかというと、少子高齢化社会が進行する中、人口が減っていくと住宅の供給が過剰になります。食料品などの供給においても、個人情報や個人の活動状況をもとに、需要予測により効率的な社会運営を行うことが重要になってきます。

花谷さん  そうすると、その個人情報をどのように集めてどこに保管するのかが重要になってきます。
一つの方法として、ヨーロッパで提唱されている「パーソナルデータストア」という仕組みがあります。これは、企業が持っている個人情報を一か所へ集め、そのデータを利用する他のユーザーや企業にデータを提供して活用してもらう仕組みです。しかしこの場合、預け先が情報漏えいをしてしまった場合のリスクは自己責任ということになります。
一方、情報銀行はデータを預けるときに個人情報を安全に活用するためのサポートを行い、データ提供先の妥当性を審査します。パーソナルデータストアにデータを貯めておき、そのデータを他の企業に流通するときには、流通基盤でデータの安全管理を行います。また、個人情報の活用方法がわからない人に提案したり、データを匿名加工して流通させたりする役割を情報銀行が担っています。しかし、現時点ではこの仕組みはあまり機能しているとは言えません。

しかし、海外に目を向けると日本の情報銀行は非常に期待されています。
ヨーロッパではGDPR(※1)というルールにより、企業が持っている個人情報を個人に返還した結果、お金と同じくタンス預金のようになってしまい、あまり流通されなくなりました。アメリカや中国では、巨大プラットフォーマーがデータを独占し、そのプラットフォームの中では快適に暮らせるものの、そこから外れると大変なことになってしまいます。
これらの課題を改善したのが日本の情報銀行であり、海外においてある程度の評価を受けています。

(※1) General Data Protection Regulation:一般データ保護規則

次に今後の展望についてですが、特にヘルスケアの分野において、パーソナルデータの活用ニーズは非常に高いと思っています。高齢化社会の中で、病院にかからずに健康を維持するために、自治体が住民に向けてパーソナルデータの活用をアナウンスしているところです。
蓄積したデータを活用し、AIを使ったサービスも出てくるでしょう。スマホの中に私達の個人情報があれば、そのデータを使ってAIが自動的に必要なサービスを見つけて、行動をアドバイスしてくれるようになるかもしれません。
そのためには、さまざまな分野でデータが蓄積され、流通している必要があります。分野ごとにデータを流通させるという考え方が「データスペース」です。最近では、パーソナルデータをこのデータスペースでどのように活用するのかが鍵となっています。
また、資格やスキル、職歴、学歴といった証明書を発行して流通させることで、転職、学校への入学がしやすくなるといったこともヨーロッパでは実現されています。これにより、日本でも皆さんの働き方が変わるかもしれません。

花谷さん  地域においてのデータ活用も重要です。
住民の皆さんがどこに住んでいるのか、どういうものを買っているのかというデータが集まっていると、分析がしやすいというお話がありました。中小企業がそれらすべてを賄うのは難しいので、地域ごとのデータスペースを作ることでその地域の中小企業のDXや、データを活用したビジネスを進めることができるのではないかと思います。
そうすると、分野ごと、地域ごとのデータスペースを繋いでいく必要があるので、将来的にはプラットフォームの仕組みの中でデータが分野をまたがって使われるようになることも考えています。

以上、情報銀行の振り返りと今後のトレンドについてお話しました。

情報銀行からデータスペースへ 生活はどう変わるのか

青柳さん  情報銀行と呼ばれていたビジネスは、最近では欧州でデータスペースという言い方に変わってきていて、さまざまな取り組みが行われています。一方で、日本は欧州に比べて進展が遅れていると感じます。その理由は何でしょうか。

花谷さん  ヨーロッパはもともと国ごとに異なるルールで動いていたため、連携が難しい状況でした。そのため、データスペースで国をまたがる仕組みを作る必要がありました。この背景には、特に中国やアメリカにヨーロッパ市民のデータが持っていかれてしまうという危機感が強く、自分たちでデータを活用してビジネスを推進しようという流れがあることも一因です。

青柳さん  パーソナルデータを提供するユーザーにとって、情報提供のメリットは何でしょうか。

花谷さん  例えばヘルスケアの分野では、ウェアラブルデバイスのデータを提供すると、次に病院に行ったときに、そのデータを元に先生が診断をしてくれるようなサービスが考えられます。この場合だと、データ提供のメリットがわかりやすくなっていますね。

青柳さん  そうすると、日本でもこのデータスペースがさまざまなところに広がる可能性がありますね。

花谷さん  そう思います。特にヘルスケア分野では、協会が立ち上がり、データの流通を標準化しようと動いています。日本でも同じような動きが進むと考えています。

青柳さん  もう一つ、DID/VC(※2)という認証や証明に関する話ですが、こちらもわかりやすく説明していただけますか。

(※2)  Decentralized Identity:分散型アイデンティティ
     Verifiable Credentials:デジタル上の信頼できる証明書

花谷さん  例えば、お店で会員登録するときに運転免許証を見せたりすると思いますが、デジタルでそれをやる場合、改ざんされていない正当な発行者が発行したものだということを証明する必要があります。このようなデジタル証明書の発行方法がルールで決められています。これにより、就職するときに卒業証明書を大学から紙で送ってもらう必要がなくなるなど、デジタルで証明書をカジュアルに使うための仕組みが整備されています。

青柳さん  マイナンバーカードに近い気もするのですが、マイナンバーカードの認証の仕組みと、この仕組みは併存するのでしょうか。それとも統合されていくのでしょうか?

花谷さん  マイナンバーカードは、あくまでも本人確認がメインですが、デジタル証明書は個人の資格や経歴を証明するものなので、役割が違います。国が発行する証明書には、マイナンバーカードに組み込んでもいいですし、発行元や目的によってマイナンバーカードと一緒になるのか、別の仕組みになるのかが変わると思います。

青柳さん  地域情報銀行プラットフォームについて、これは行政のデータ連携基盤の取り組みに近いと思いますが、花谷さんはどう思われていますか。

花谷さん  日本の行政システムは、県や市を超えての連携が少ない傾向です。東北、北陸、中国、四国など、地域の経済圏ごとにまとまっていたほうが、利用者側にはメリットがあります。例えば、東京が中心となって、関東の都道府県が集まってプラットフォームを作ることも可能ではないかと思います。

青柳さん  大事なのは情報を地場企業に還元して、それを地域住民がどのように享受するかという点ですね。この点が進まないと、ただ情報を集めただけになってしまいます。

花谷さん  例えば、集めたデータをスーパーの配送ルートの最適化に活用するなど、地域住民にとってよい状況を作る必要があります。地域の企業でも大企業と同じようにデータを活用したビジネスができるようになれば、地域のデータ活用は、より盛んになるでしょう。

青柳さん  私たちが地域のDXをお手伝いするなかでも、公共交通機関に関する引き合いが多いです。地方では公共交通機関の維持が難しくなったところにデータを掛け合わせると、人の流れがわかります。そうすると、バスルートをも効率化することができます。そういったところにもデータ活用が期待できますね。

青柳さん  最後に、データ流通やデータスペースを含めた今後の展望について一言お願いします。

花谷さん  安心安全にパーソナルデータを使うためには、共通のガイドラインの整備が必要だと思います。特にデータ活用に対する同意の部分やデータスペースのガイドラインが整備されれば、より安全にデータが使えるようになると思いますので、皆さんも関心を持って行動していただければと思います。

青柳さん  あっという間の時間でしたね。本日は興味深いお話をありがとうございました。

青柳 雄一 さん
株式会社NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取り組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人材戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery (https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※本文および図中に登場する商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
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執筆 オクトノット編集部

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