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コラム

未来の決済が見えてきた!FIN/SUM2024最新情報

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金融業界の著名人が登壇し、最新の金融テクノロジーが披露されるFIN/SUN2024は、新しいテクノロジーだけでなく、実務に携わる銀行関係者ならでの経験や、国内外の関係諸機関の知見に触れられる数少ない機会でもあります。そこからは近い将来の新しい決済の姿が見えてきました。
2016年の初開催以来、特に決済の観点から見続けている筆者が取材しました。

FIN/SUMとは

FIN/SUMは金融庁と日本経済新聞社が主催する金融イベントで、毎年金融機関やIT企業のみならず、専門家、学識者、国内外の政府機関、中央銀行の有識者が登壇する場としても注目されています。今年は日本のFinTechの魅力を海外に発信するJapan FinTech Weekの中核イベントとして開催されました。
FIN/SUMが開始された2016年といえば、“FinTech”という言葉が日本で特に認知された頃でしたが、それ以来一貫してFIN/SUMでは金融とテクノロジーが創出するさまざまなイノベーションの紹介や議論がされてきました。
今年は果たしてどんな内容だったのでしょうか?
オクトノットではすでに一日目の内容から特に「AI」に注目した記事をお届けしています。
本稿では二日目に開催された内容から、新しい決済やそのプラットフォームに注目してお伝えします。

日本のブロックチェーンは実証実験から商用へ

ビットコインの登場以来、ブロックチェーン技術は、もっとも注目された2017年頃に比べるとニュースになることも減ってきた印象がありますが、その背景には暗号資産取引所の破綻や流出事件といった不安要素や、一般の人にはよくわからない要素が多いことは否めません。
その背後では関係者による法制度の整備や商用化への準備が着々と進められてきました。

この分野における法制度整備は、実は日本は世界のトップランナーです。暗号資産という法令用語の整備に始まり、世界でもいち早くステーブルコインを法制度化しました。こうした安心や安全につながる話題は、普段なかなか触れることも少なく、金融庁幹部から語られる言葉を直接聞けることで、新たな気付きにもつながると感じられました。
日本のブロックチェーンプラットフォームのDCJPYの商用開始アナウンスがあったことも印象的でした。数年前に有識者や実務経験者が多く参加した、「デジタル通貨フォーラム」の名前の方が知られているかもしれません。このデジタル通貨フォーラムでの検討や実証実験を経て、DCJPYというデジタル技術を活用したプラットフォームが、2024年7月から商用開始されようとしています。
ディーカレットホールディングスの代表取締役社長、村林氏の講演「デジタル通貨DCJPYネットワークの商用スタートと今後の展開」によれば、DCJPYの特徴は、法定通貨である銀行預金を裏付けとしてトークン化し発行されたデジタル通貨(「トークン化預金」と呼ばれ、本稿の後半でも出てきます。)と、企業や個人間で取引されるデジタル資産を別々ネットワークで扱う二段階構造にしたところにあり、現実世界のモノとカネの取引を柔軟に可能とする構造をとったことです。具体的にはどんなユースケースに商用化されるのでしょうか?
DCJPYを運営するディーカレット社の親会社IIJは日本のデータセンター事業の草分け的な存在で、最新のカーボンニュートラルデータセンターを運営しています。このデータセンターを使う脱炭素に積極的な利用者のために、非化石燃料で電力を調達しているという証明書、「非化石証書」が発行され、この非化石証書を、DCJPYネットワークでデジタルアセット(モノ)として、デジタル通貨(カネ)との取引を可能としています。
ブロックチェーン技術を活用したトークン化については、証券などの他の分野でも注目されていますが、このような銀行預金のトークン化、ステーブルコイン化については、FIN/SUMに登壇されていた他の有識者からもたびたび言及があり、この業界で特に注目されていることが伺えます。特に法人分野での活用における利点の説明があったのが、次で紹介するセッションでした。

活用が特に期待されるホールセール決済

二日目のFIN/SUMでもっとも注目されたのは、「ホールセール決済の将来像 powered by 日本銀行」のセッションでしょう。ホールセール決済に関する過去から現在への状況の整理から、本格化する最新のCBDCへの取り組みの紹介に始まり、法人や銀行の最前線の実務担当者の現在の実務と課題について語られ、最後は未来を展望する、2時間以上にわたる熱の入った議論が展開されました。
ホールセール決済
一般的には個人や小口(少額)の支払いをお札や銀行預金を使って行う「リテール決済」の対義語として、主に企業が行う比較的大口(巨額)の支払いが「ホールセール決済」と呼ばれています。数百万円から億を超えるお金のやり取りには、事前に十分な資金を預金口座に準備したり、多くの小口の取引が行われた結果生じた貸借を清算したりするために、銀行間の取り決めや仕組みがあり、決済システムとして整備されているからです。
また、金融業界ではこのように特に銀行間で行われる大口の決済は、最終的には中央銀行にある銀行の当座預金を通じて行われるため、特にこの銀行間取引を指してホールセール決済と呼びます。
貿易業務の分野ではトレードワルツの染谷氏から最新の事例が紹介され、JPMorganの田貝氏からはクロスボーダー取引における決済の課題とその具体的な実務について非常にわかりやすい説明がされました。
これまで国際的にさまざまな関係者が取り組んできましたが、貿易業務には多くのステークスホルダが関るだけに、ITプラットフォームの実現化に特に難しい分野でした。ブロックチェーン技術の持つ特性はこの解決に適していました。しかしその一方ではクロスボーダー決済の課題がまだまだ残っています。
クロスボーダー決済で、送金ができなかった事例を追って調査すると、口座番号や送金相手名称の記載ミスといった、IT化が進んだ現代でも起こる問題点が浮き彫りになってきたことや、最後はその間違いを人手で確認するコルレス銀行間の努力と信用に基づいて成り立っていることが紹介されました。決済に携わる銀行が、テロや反社会的組織の踏み台になってはならない、という説明には場内の多くの聴講者もうなずいていました。
IT化が進んだ現代でも、多くのITシステムや関係者が複雑に絡んだ、法人企業の実務の現場では、いまだ解決すべき課題も多く存在するからこそ、新しい技術に対する期待も大きいと思われます。
こうした法人におけるホールセール決済について、日本銀行決済機構局決済システム課長の須合氏は最近の三つの興味深い実例を示しました。
1. RLN、Regulated Liability Networkは既存の米ドル決済の効率化等を目的として、365日24時間での決済を実現する決済インフラの構築・運営の取り組みで、RLNが提供するプラットフォーム上では、トークン化預金等の民間マネーとCBDCが共存し、相互に交換可能な仕組みが想定されています。
2. ドイツ銀行業委員会は、分散台帳や、その特徴であるスマートコントラクトを活用し、Industory4.0として知られる社会におけるデジタルトランスフォーメーションの進展やマイクロペイメントに対応した、新たな「商業銀行マネートークン(Commercial Bank Money Token)を提唱し、トークン化預金の検討を進めています。
3. ユーロ圏20か国の金融政策を担う欧州中央銀行ECBは、2023年から、新たな技術を活用した中銀マネーによるホールセール決済に関する調査を開始し、ドイツ連邦銀行、フランス中央銀行、イタリア中央銀行の三つの中央銀行がそれぞれ別の方式で2024年に実験を行う予定です。

また、須合氏は銀行ならではの特長として、トークン化された銀行預金なら信用創造による機動的な貸付が可能になることを指摘されました。トークン化には必ず裏付けとなる現物、あるいは現金の資産が必要になりますが、法人の取引では比較的大きな金額が必要となり、その流動性を用意するためには銀行の信用創造が欠かせません。
こうした法人企業の分野や、国をまたがる関係官庁の監督を超える分野では、相互運用性(インターオペラビリティ)が次の課題になってきます。この解決策としては、各国のローカル事情を超えて採用と活用が進む金融メッセージの標準化が、国際標準化の分野で活躍する田貝氏からありました。
企業やシステムをまたがる取り交わされるメッセージは、人手を介する限り、間違いを100%防ぐことはできないでしょう。国際的に合意の取れた標準仕様でメッセージを作成することで、ITシステムによる自動的な読み取りが可能になります。
日本銀行からは、各国の中央銀行の取り組みの近年の動向として、国際決済銀行(Bank for International Settlements、BIS)が提唱するUnified Ledgerが紹介され、注目を集めていました。
デジタルトークン化されたプラットフォームがそれぞれのユースケースにおける有用性を実証しつつある一方で、それぞれに閉じた形で、いわばサイロ化されている現状があります。その多くは古いタイプの、しかしだからこそ安全性が実証され、信頼されている銀行預金からは直接アクセスできません。その課題を統合台帳(Unified Ledger)によってシームレスな相互運用性を実現させようという構想です。

見えてきた近未来の決済

こうして2024年のFIN/SUMを見てくると、これまでに登場してきた新しい技術の決済分野への応用は、関係者の慎重な議論や検証を経て、いよいよ社会実装が近いと感じられ、期待がより高まります。
特に銀行預金のトークン化、ステーブルコイン化が期待されているのは、多くの検討や実証実験、失敗事例の検証を経て、法人企業へ提供できる銀行ならではの利便性が、関係者の間で認識され、共有されつつあるからではないでしょうか?
ブロックチェーンの持つスマートコントラクトという特性を生かし、信用を担保しながら、自動的に契約された行為を実行することで何が解決できるのか、といった議論がより重要であると認識され、ステーブルコインが競うように発行が行われた時代からは一歩進んだ印象を受けます。分散台帳技術(Distributed Ledger Technology)をUnified Ledgerに統一してしまおう、という文字上からは一見矛盾したようにも見える構想には、決済業務に特有の課題を解決するためには、どうしたら良いのか?という知恵と議論がうかがえます。
FinTechに代表される新しい金融テクノロジーは、新しい技術だから使う、という初期の段階から、新しい技術が持つ特性を応用して、解決が難しかった課題や新しく出てきた課題をいかに解決するか、という段階に成熟してきたように思われます。
奇しくもFIN/SUM終了後の2024年4月には、Unified Ledgerを提唱しているBISがプロジェクト・アゴラを発表しました。これは日本、米国、欧州など7つの中央銀行が参加し、デジタル通貨を使って国境を越える決済システムの実験を始める、というものです。
CBDCを始めとした新しい決済が実現される日も、そう遠い未来ではないのかもしれません。

1994年株式会社NTTデータ入社以来、インターネット黎明期のEC構築、初期の携帯電話へのPayment機能搭載、海外への着メロ壁紙配信からブロードバンド黎明期の動画コンテンツ配信の実証実験等、数多くの新しい分野への取り組み検討に携わる。いつの間にか15年以上のキャリアになった金融分野でも変わらず、先物システムへの新しい通信方式導入、銀行基幹システムのオープン化、その海外への展開、スマホペイメントの検討など、ひとところに落ち着くことがない。現在は金融×デジタルの最新情報を追いながら、今度は早すぎないよね?と時代とにらめっこしつつ新しい可能性を探っている。最近は車にはまっている。

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