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金融が変われば、社会も変わる!

コラム

生成AI あなたは操縦士か? 乗客か?
FIN/SUM2024 レポート

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2024年3月5日から3月8日までの4日間、東京都千代田区の丸ビルでFIN/SUM2024:Fintech Summitが開催されました。主催は日本経済新聞社、金融庁です。「“幸福”な成長をもたらす金融」をテーマに開催されたこのイベント、1日目はAIに関連したセッションが数多く開催されました。その模様をお伝えいたします。

金融庁対談: 欧州当局のデジタル戦略 ~デジタル資産やAIへの対応~

欧州証券市場監督機構(ESMA)長官 ベレーナ・ロス氏と金融庁の国際統括官 三好敏之氏の対談は、デジタル資産やAIなどで変化する投資市場に対しての、イノベーションと規制のバランスについてのものでした。みなさまのなかにも証券取引用のアプリなどを使いスマートフォンで株式や信託商品などの売買をなさっている方も多くいるかと思います。このような投資環境のデジタル化は、欧州はもちろん、日本でも同様に進んでいます。

デジタル化により個人投資家と投資市場との間には多くのインタラクションが生じており、数多くのリスクが発生していることが話題でした。多くの人が使うのでオペレーショナルなリスクもあります。このほかに高齢者にデジタルの投資環境の利用が困難であるのも問題とされています。暗号資産についても、EU、日本とも既存の投資商品と同等のリスクがあると認識されており、EU、日本それぞれの方法で投資家の保護や規制を準備しているそうです。

この対談のほぼ1週間後の3月13日に、EUの立法機関である欧州議会は世界初となるAIの包括的な規制法案を可決しています。対談中では、ESMA長官からEUのAI規制法についての見解もありました。この規正法は金融だけではなく、多くのAIを使った活動に影響するものであり、ESMAでは現在このAI規制法を理解しようとしている状態 であるという発言もありました。EUでは加盟27ヶ国がこのAI法規制について、ハイクラスなレギュレーションの実装の準備をしているそうです。EU全体でみると対応状況も国により異なり、各国でガイドラインと許認可を整備しAI規制法に対応する方針とのことでした。

投資市場でのAIの利用には、データやツールなどの多くが一部のプレイヤーに支配されること、同じAIを使い同じアウトプットが出るため市場の動きが偏ることなどが問題とされています。日本でもAIのリスクを特定し、リスクの克服を成長の機会としてとらえたいという金融庁の国際統括官の発言もありました。

Generative AIが変える金融機関の未来

2020年にOpenAIのGPT-3のライセンスを取得するなど、早い時期から生成AIの可能性に着目していたマイクロソフトのセッションがありました。マイクロソフトの生成AIはあくまでCopilot(副操縦士)、Pilot(操縦士)はあなたという強いメッセージが伝えられたセッションでした。

OpenAIへの出資やMetaとの提携など、Microsoft Azure上に生成AIの利用環境を提供するマイクロソフトは金融事業においてもさまざまなユースケースを検討しています。具体的なユースケースとして、ファンド等の運用報告書の解説、企業のAnnual Reportの解説、Chatによる顧客指定株の価格確認と売買の勧奨、ローン商品の特性や投資に関する注意喚起、Speech2Textを使ったコールセンターの効率化、マネーロンダリング対策の一環としての多言語ドキュメントチェック、戸籍謄本からの家系図起こし、メールコミュニケーションのコンプライアンスチェック、上司から部下へのハラスメントチェックなどがありました。

なかでも、Chatによる資産運用の案内は資産運用自体の敷居を下げると考えているとのことでした。金融のユースケースではないと前置きがありましたが、リアルに表現された実際の人間のように動作するショッピングアバターの効果が大きく、接客される側の印象にとてもよく作用するという意見がマイクロソフト内でも多数あり、Chatとリアルなアバターを組み合わせた新たな顧客接点が期待されているようです。

このセッションのなかで、一般社団法人 金融データ活用推進協会(FDUA)から、金融業から業界初の生成AIガイドライン が2024年4月に公表されるとの発表がありました。マイクロソフトも2024年4月に生成AIリファレンスアーキテクチャを無償で公開する予定とのことです。生成AIを企業が使いこなすには、個人のリテラシー醸成、研究者、技術者の育成、利用ルールの明確化が必要であるとまとめられ、生成AIという新たな技術を定着させる営みの重要性が感じられました。

パネル : EY Japan、NEC、マイクロソフト3社による「生成AI & 生体認証による金融ビジネス革命

こちらのパネルディスカッションは、EY ストラテジー・アンド・コンサルティングの小川 恵子 パートナー、NECの岩井 孝夫  NEC Corporate SVP 兼 金融ソリューション事業部門長、マイクロソフトの金子 暁 業務執行役員 金融サービス事業本部 銀行・証券営業本部長が登壇し行われました。

マイクロソフトからコールセンターの生成AIデモがありました。音声での対応も生成AIが担うことができ、英語で話せば英語で、ドイツ語で話せばドイツ語で答えるなど、生成AIの多言語での可用性をアピールするデモでした。生成AIが会話の相手となり、身近な困りごとを日常的な会話から収集し 教育ローンなどのニーズを発見できるということです。実際の人間であるフィナンシャルアドバイザーや銀行員よりも生成AIの方が相談しやすいということもありそうです。

NECからは、高い日本語性能を有する軽量なNEC開発のLLM(大規模言語モデル) 「cotomi」についての説明がありました。130億のパラメーター数を持ち、省電力で動作し、オンプレミス環境でも動作するLLMです。良質な日本語データで学習されたLLMで、書籍1冊分程度のデータ入力が可能とのことです。また、NECは生体認証技術にも注力しており、顔認証、虹彩認証、指紋認証、いずれもNo.1の性能を持っています。こうした複数の生体認証を組み合わせるマルチモーダル認証は、身体に何らかのハンディキャップを持つ人の認証に有効で、ダイバーシティに対応できます。NECの生体認証技術はインドの国民IDシステム「Aadhaar(アドハー)」に採用されています。

こうした生成AIの活用に対して、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの小川パートナーから、まだまだ日本の企業が生成AIの利用に踏み切れていない面もあるのではとの質問がありました。

マイクロソフトの金子執行役員は、AIが誤った回答 をするハルシネーションや生成AIの学習データの諸元の問題を指摘したうえで、生成AI普及の過程について言及しました。インターネットの普及から商用サービスが実現するまでに10年、スマートフォンが普及しそこにインターネットバンキングの環境が整うまでに5年くらいの期間があることを考慮すると、2025-26年くらいには生成AIが埋め込まれた世界が普通になるとの見通しでした。金融機関が生成AIの利用に踏み切ることができなかったとしても、他の業界で生成AIの利用が実現し、社会全体に生成AIが広まっていくことになるだろうとのことでした。

NECの岩井Corporate SVPからは、表計算ソフトやプレゼンテーションソフトに慣れるように生成AIに慣れるようになるとの見通しが語られました。また、就職の採用面談で応募者が企業に対して「リモートワークはできますか?」と聞くように「業務に生成AIを使えますか?」と聞くようになることが一般的になりそうですとおっしゃっていました。

また、マイクロソフトの金子執行役員は、生成AIにどのような指示が出せるのか、という能力が人間に求められるようになると発言していました。少し前に検索のキーワードをうまく並べることで仕事の生産性が高まったように、いいプロンプトを入力できることがひとつのスキルとなるとのことです。NECの岩井Corporate SVPは、NECの生成AIのフレームワークには、ユーザーが入力したプロンプトを最適化するレイヤーが備わり、生成AIの系としてユーザーの最適な利用をサポートしていることにふれていました。

このほか、生成AIとウェルスマネジメントの文脈で、熟練の投資家と資産運用の初心者とでレベルに合わせて生成AIをパーソナライズする必要性や、富裕層だけではなく準富裕層や資産形成層などの多くの人々が生成AIを利用する生成AIの民主化などについての議論がされました。

オクトノット編集部の所感

「“幸福”な成長をもたらす金融」をテーマに開催されたFIN/SUM2024では、投資環境が多くの人に使われるようになったデジタル化の流れと、この投資環境や金融の業務で活用される生成AIの最新の動向について活発な議論がされていました。生成AIは私たちの日常業務の多くを代替してくれる側面があります。実際 にオクトノット編集部でも、ワークショップの課題の作成に利用したり、出てきたアイディアの整理軸を何通りか考えたりするのに利用しています。

今回のイベントに参加し、生成AIはCopilot(副操縦士)でPilot(操縦士)は生成AIを使って活動する「あなた」というメッセージを強く感じました。状況によって今ひとつ生成AIの活用に踏み切れない方もいらっしゃるかと思います。私自身もそう感じることは時々あります。こういうときは、「自分がパイロットではなくPassenger(乗客)になろうとしているのかもしれない」と意識すると、Pilotとして生成AIとコンビを組んで課題に対峙できるのかもしれません。
※本記事は、イベントを取材し、執筆者が記事にしたものです。
※本記事の内容は、執筆者およびイベントの登壇者、協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

企業の研究開発部門で、ナレッジマネジメント、Web系アプリケーションの研究開発に従事。事業部門で、業務プロセスの分析と業務設計を行い、事務の集中化やヘルプデスクの安定運用のための機械学習の適用などを経験。現在は金融分野における機械学習の応用を目的とし、自然言語処理、説明可能性、AIの公平性、異常検知などの調査、ユースケースの検討に従事。

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