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【銀行のビジネスチャンス】オープンバンキングとは?メリットや事例について

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銀行と外部事業者の連携により、新たなサービス創出の可能性が生まれる「オープンバンキング」。

例えば、スペインの銀行「BBVA」は、米・配車サービスのウーバー・テクノロジーズ(以下、ウーバー)社と連携。オープンバンキングを活用して、資金繰りの厳しいドライバーへ、支払い料金をリアルタイムで入金しています。このリアルタイム入金機能の提供により、BBVAとしてはウーバーから定期的に手数料収入が入ります。さらに、乗客としてはアプリで支払いが可能に。このようにウーバーは利便性の高いサービスを提供できる、まさに「三方良し」を実現しているのです。

今回はこのように人々の生活を豊かにする可能性に満ちたオープンバンキングについて、銀行が活用するメリットや日本および世界の現状を解説します。

「Now in vogue」は、ちょっと気になる世の中のトレンドや、話題の流行語などについて、少しライトな内容でお届けする企画です。

オープンバンキング(オープンAPI)とは

オープンバンキングとは、Fintech企業や会計ソフトの開発企業などの外部事業者へ、銀行が保有する各種データや機能を開放・連携することで、新たなサービスを生み出す取り組みを指します。

例えば、freee株式会社が提供するクラウド会計ソフト「会計freee」には、銀行口座と同期させることで、経費を自動で仕訳する機能があります。これも銀行がfreee株式会社へ、銀行データを連携させているからこそ実現したサービスです。「会計freee」利用者は経理の手間が省け、本業に割く時間をより多く創出できますが、その裏にはオープンバンキングがあるわけですね。

このようにオープンバンキングの本質は、「銀行と外部事業者が連携し、価値ある新サービスを提供することで、世の中をより良くする」ことにあります。なお、オープンバンキングでは、「オープンAPI」という、銀行と企業の間でデータのやり取りができる仕組みが使われています。
<BaaS(バース)やEmbedded Finance(エンベデッド・ファイナンス)との違い>
基本的にオープンバンキングとBaaS(Banking as a Service)およびEmbedded Finance(エンベデッド・ファイナンス、埋込型金融やプラグイン金融といった日本語訳がされている)は同じ。オープンバンキングを銀行視点から捉えたものを「BaaS」と呼び、外部事業者視点で捉えたものを「Embedded Finance」と呼んでいます。
GMOあおぞらネット銀行や株式会社マネーフォワード、アスタリスト株式会社の事例も以下の記事でご確認ください。

オープンバンキングの仕組みとは

オープンバンキングには、次のステークスホルダがいます。
  • 銀行
  • 利用者(エンドユーザー)
  • 外部事業者(電子決済代行事業者)
オープンバンキングを利用する流れとしては、以下のとおりです。
  1. 外部事業者(電子決済代行事業者)が、銀行の各種データや機能を取得および利用するサービス(以下、サービス「A」)を企画し、その旨を銀行へ申請する。(金融庁は銀行に、この申請に対応するように体制整備を求め、その結果は公表されています。)
  2. 外部事業者と銀行は契約を結んでから、サービス「A」をスタートさせることができる。
  3. サービス「A」が開始されると、利用者(エンドユーザー)は、外部事業者に自身の銀行のデータを取り込むように要請を行う。実際にはアプリ等の操作で行われる。
  4. 外部事業者はその要請を銀行に中継する
  5. 利用者は中継された銀行のサイトで手続きを行い、サービス「A」の利用を始めることができる。
なお、「銀行の各種データや機能を利用するサービス(上記でいうサービス「A」)」は、一定の頻度で外部事業者が利用者に代わって、銀行にデータを取得します。
<連携する情報により「参照系API」と「更新系API」が使われる>
APIとは、異なるシステムやWebサービス間でデータ連携をする際に使われる仕組み。オープンバンキングで金融機関が連携する情報の種類により、使われるAPIは、「参照系API」と「更新系API」に分けて紹介されます。

参照系API:「残高」や「取引履歴」などのデータを参照するためだけに使うAPI。口座残高は変動しない。
更新系API:「支払い」や「振込」など、銀行口座にある資金の移動を依頼するために使うAPI

ただし、便利なAPIを開発しようとすると、参照系と更新系を組み合わせたりすることになるため、様々なAPIが登場している現在は上記の分類はあまり意味がありません。一方で、オープンバンキングについて調べると、参照系APIと更新系APIという単語はよく出るため、整理のために両者の意味は押さえておくといいでしょう。

日本におけるオープンバンキングの現状

日本におけるオープンバンキングの現状は、どのようになっているのでしょうか。オープンバンキングが注目され出した、2018年頃から現在に至るまでの状況を見ていきましょう。

オープンバンキングは禁止されていなかった!

実は日本において、「銀行は外部事業者に自社のデータを連携させて、オープンバンキングをしてはいけません」という規制はありませんでした。つまり、やろうと思えばいつでもオープンバンキングを進めることができたのです。しかし、諸外国に比べると、日本ではオープンバンキングを活用する銀行はなかなか現れませんでした。

こうした状況を打破するためにオープンバンキングの発展を目的として施行されたのが、2018年6月に改正銀行法です。これにより、銀行には2020年5月までに、オープンバンキングに必要なオープンAPIの体制整備が求められました。

この銀行法改正による環境整備の後押しもあり、現在は銀行も徐々にオープンバンキングへの知見が深まり、実際にオープンバンキングを活用した新サービスが出始めている状況になります。

従来手法「スクレイピング」と「オープンAPI」

実は2018年6月施行の改正銀行法以前も、外部事業者は銀行データを活用したサービスを提供していました。このとき銀行とのデータ連携のために使われていた手法が「スクレイピング」です。
スクレイピングとは、外部事業者が銀行のID・パスワードを預かり、利用者に代わって銀行にアクセス。データを取得する手法のことをいいます。
スクレイピングは、確かに便利な手法ではありました。しかし、銀行サービスに限らず通常のサービスは、ID・パスワードを利用者自身が管理することを、サービスの利用細則にて規定しています。一方、スクレイピングでは利用者が第三者へ自身のID・パスワードを渡してしまうので、問題が発生した時に規約違反をした利用者だけが悪いことになってしまいます。スクレイピングの利用者は法的な保護を受けることが通常はできない、という問題がありました。

こうした問題を改善するために、改正銀行法が施行され、スクレイピングは移行期間を経て現在は禁止となります。また同法ではスクレイピングの代わりに、銀行へオープンAPIを使用できるような体制を求めました。

世界のオープンバンキング事例

徐々にオープンバンキングが広がりを見せている日本に対して、世界の現状はどうなのでしょうか。ここではとくにオープンバンキング先進国のアメリカとイギリスのオープンバンキング事情を紹介します。

【アメリカ】草の根的に広がるオープンバンキング

アメリカは、世界のなかでもオープンバンキングの活用がかなり進んでいる国と言われています。
アメリカには欧州 や日本と異なり、オープンAPIを規定する法律がないにもかかわらず、複数の大手銀行が「月間1億件以上のAPIを活用したトランザクションが行われている」とアナウンスしています。

背景にはアメリカは「ベンチャー企業が盛んな国である」という事情があります。ベンチャー企業が盛んなアメリカでは外部事業者であるFinTech事業者もその例にもれず、例えば、お釣り投資の「Acorns」、クレジットカードが作れなくても後払いできる「Affirm」などのFinTech事業者が人気を集めました。これらのサービスに数百万単位のユーザーがつくようになると、「ユーザーの資金移動」や「FinTechサービスを利用できない銀行が、ユーザーから敬遠される」といった事態が起こり始めました。すると、銀行はこれらの人気FinTechサービスへこぞってAPIを開放するようになったのです。

このようにアメリカでは外部事業者であるFinTech企業がオープンバンキングを活用した新サービスを次々に開発・提供し始めたことで、オープンバンキングがどんどん広がりました。

【イギリス】国策として推し進めるオープンバンキング

イギリスもオープンバンキング先進国です。「国民の銀行に対する不満」や「“国際的な金融大国として、EU離脱後も金融産業を盛り立てなくてはならない”という切実な国の方針」を背景に、イギリスは早くから国を挙げてオープンバンキングを推進しました。

具体的には、法制度の変更によって強制することで、利用者にとってよりよいサービスが生まれやすい環境を整え、オープンバンキングを発展させていきました。いくつもの新しい金融サービス事業者や、新しい銀行(チャレンジャーバンクと呼ばれました。)が生まれています。
<イギリスのオープンバンキングから生まれたサービス例>
Wise(旧TransferWise)は、少額の手数料でオンライン海外送金ができるサービスです。52通貨に対応しており、65ヵ国への海外送金が可能です。ちなみに、Wiseは日本でも利用することができます。
なお、チャレンジャーバンクについては以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもご覧ください。

オープンバンキング化による銀行のメリット

銀行がオープンバンキングを活用するメリットは、3つあります。分かりやすいようにスペインの銀行「BBVA」がウーバーと連携し、資金繰りの厳しいタクシー運転手へリアルタイムで入金する機能を提供している例と対応させて、整理しました。
メリット 銀行「BBVA」の例
自行のデータ・機能を提供するだけで外部事業者より手数料(利用料)が入る 銀行機能を使用しているウーバーから定期的に手数料を得られる
自行のターゲット層以外の顧客を獲得できる 銀行のターゲット層ではなかった、経済力に乏しいウーバードライバーも間接的に顧客にできた
外部事業者と連携することで、自行だけでは思いつかなかったビジネスを展開できる ウーバーとの連携により、ウーバードライバーへのリアルタイム入金機能を提供できた
オープンバンキングの法制度や環境が整備された今では、こうした外部の事業者ともっと積極的に新しいサービスを検討してみていはいかがでしょうか?外部の事業者が思いもつかなかったようなアイデアをご提案してくれるかもしれません。

オープンバンキング化の課題は「セキュリティ」

銀行には、高いセキュリティが求められます。背景にはお金に関してとりわけ高いセキュリティを求める日本人の国民性もあるでしょう。しかし、そのハードルはベンチャー企業も多いFinTech事業者など外部事業者には相当に高いことは間違いありません。

つまり、現状は世界にも類を見ない高品質を求める日本人の国民性と、その国民性に鍛えられた銀行ならではの知見を活かして、外部事業者と手を携えながら、オープンバンキングに対応できるセキュリティ環境の整備が求められている、といえるでしょう。

一方で、セキュリティを重視するあまり、利用者の利便性を著しく損なうことは得策とはいえません。そのため、例えば生体認証や指紋認証といった利用者にとって負担が少なく、かつセキュリティの高い技術を組み合わせることが大切です。
<セキュリティを高める多要素認証(MFA)について>
複数の要素を組み合わせて本人確認をする仕組みを「多要素認証(MFA)」といいます。具体的には、次のような技術が多要素認証に該当します。

・IDやパスワードを覚えていなくとも、スマホで顔や指紋といった生体情報でできる本人確認
・利用者本人にしか届かない電話番号を使って確認をするSMS認証

【未来に向かって①】 日本のオープンバンキングの今後

日本のオープンバンキングは、徐々に進展しています。2018年の改正銀行法が施行された当初は、たしかに銀行側も「オープンバンキングとはそもそも何だ」「オープンバンキングで何ができるのか」と戸惑うところが多くありました。ただ、徐々にオープンバンキングへの理解が深まるにつれ、「BaaS」や「Embedded Finance」など、より具体的な名称やサービス事例が登場し始めました。

BBVAがウーバーと連携した事例からもわかるように、銀行が様々な企業と協業することで、従来モデルの考え方では想像できないような取り組みが行われています。
このように今後はより多様なプレイヤーがオープンバンキングに関わることで、金融業界を変える新たなサービスが生まれてくるでしょう

【未来に向かって②】 銀行が生き残るためには

長期の低金利が続く一方で金利上昇も見据えた利ザヤの設定、規制緩和による競争の激化などを背景にビジネスモデルの変革を迫られるているのが現在の銀行業界の状態です。生成AIを利用した業務変革などテクノロジーを起点とした新たな局面にもなっています。銀行は市場、技術などさまざまな要素を加味した戦略を、迅速に現場に展開することで今後の活路を見出す必要があります。

オープンバンキングは銀行にとってビジネスチャンスを生む

日本のオープンバンキングは、確実に進展しています。進展具合は、ホップ・ステップ・ジャンプでいうところの、「ステップ」に位置するイメージですね。また今後も私たちの生活をより便利にするオープンバンキングを活用したサービスがたくさん出てくることでしょう。この流れは銀行としても大きなビジネスチャンスをつかむ契機になるはずです。

オープンバンキングは「新たなサービスを立ち上げたい」「世の中を少しでも良くしたい」という思いを具体化する強力な手段です。ぜひオープンバンキングを活用したサービスを、FinTech事業者など外部事業者と協力して立ち上げてみてはいかがでしょうか
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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執筆 オクトノット編集部

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