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挑戦者と語る

APIで創る金融の近未来!業界屈指のプロたちが語る最新トレンドや将来像!

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近年の金融業界においてAPIは、Embedded FinanceやBaaSを支える手段として大変注目を集めています。銀行口座の残高照会や、入出金明細の情報公開、各種システムとの連携などが顕著な例ですね。一方でAPIの活用に関するアイデアについて悩んでいる方も多いのではないでしょうか。今回はそんな悩みへのヒントを得るべく、銀行APIで業界をリードするGMOあおぞらネット銀行の矢上さん、アスタリストの池上さん、マネーフォワードの佐藤さんをお招きし、API活用の最新トレンドやポイントについて語り合いました!

本記事はNTTデータが運営する「API gallery」プレゼンツで2022年4月20日に開催したウェビナー「API gallery Meet UP ~ Vol.5 “APIで創る金融の近未来”」の内容を記事化したものです。
API galleryでは随時ウェビナーを開催中です!過去の企画、および今後の開催予定については以下のリンクをご覧下さい!

API活用による金融の最新トレンド!これまでの潮流との違いは?

青柳さん 昨今、金融領域でもさまざまなサービスでAPIの活用が進められていますね。APIは異なる複数のアプリケーションをつなぎ、開発やデータのやり取りをするための仕組みですが、金融分野におけるイノベーションの多くにAPIが絡んでおり、まさに新たな取組みにおけるコアの役割を果たしています。まず、API活用による金融の最新トレンドなどについて教えてください。

矢上さん APIという観点では、組込型金融(Embedded Finance)の台頭が目立ちます。海外に目を向けると、米国グリーンドット社のサービスでは、テイクアウトの宅配ドライバーへの即日報酬支払いに対応していますし、モバイル投資プラットフォームに金融サービスを組み込むことでシームレスな投資を可能とするサービスなどもあります。日本でも、スコアリング型の融資や、給与前払いサービスが出てきていますね。

矢上さん 組込型金融では、「ブランド」・「ライセンスホルダー」・「イネイブラー」の3種類のプレーヤーがそれぞれ連携し、さまざまなサービスを提供しています。「ブランド」はお客様向けのサービスを提供する事業者、「ライセンスホルダー」は銀行・証券会社・保険会社などのライセンスを保有し、金融機能そのものを提供しています。この両者を結び付けるのが「イネイブラー」であり、組込型金融の世界では重要な役割を担っており、近年この事業者が増加してきています。
佐藤さん BaaS(Banking as s Service)や組込型金融が進展している背景としては、金融コングロマリット推進などの動きがありますね。多くの企業・金融機関において、金融持株会社のもとにさまざまな金融機能などを集約してシナジー効果を生み出すといった取組みがされています。この潮流は、金融当局の意向もあり、さらに加速していくと思われます。

また、都道府県を跨いだ企業同士が連携するといったアライアンスの高度化の事例も増えています。金融機関のみならず他の事業会社も金融サービスを提供する世界が広がっていくことが想定されますね。
青柳さん 新たな金融サービスの出現や、企業における金融機能の集約などの動きはこれまでもあったと認識しています。昨今の流れは、これまでとはどのような違いがあるのですか。
矢上さん 現在の組込型金融の潮流は、従来とは異なり、銀行APIの活用などにより、サービスがお客様により近づいていることに加えて、知らないうちにサービスやアプリの中に金融機能が組み込まれている点がポイントですね。昔は、銀行の窓口にお客様が足を運ぶのが常識でしたし、インターネットバンキングが普及してからも、銀行の存在というものが全面に出ていました。
青柳さん おっしゃる通り、それらの点は特徴的ですね。また、API活用の文脈では、業務を自動化する方法として、iPaaS(※)というキーワードを聞くことが最近増えてきました。具体的なイメージを教えてください。
(※)iPaaS:“Integration Platform as a Service“の略で、複数のクラウド環境上に分散している業務システムを統合するためのクラウドサービスのことを指す。
池上さん iPaaSという言葉が認知されてきたのは今年くらいからだったように感じます。複数のSaaSに分散したバラバラなシステムを統合するハブのようなものというイメージであり、日本ではあまり馴染みのないワードですが、海外では非常に浸透していて、SaaSと同時にiPaaSがないと業務が回らないとも言われています。

API活用の最前線におけるサービスの重視・注力ポイントは?

青柳さん 現在、皆様はどのようなことを重視してサービスやビジネスを展開されているのですか。
矢上さん 当社では、APIに加えてAPIを補完する他のツール・機能も提供していますが、あくまで銀行は、事業者様のサービスとその利用者エンドユーザーの利便性向上を裏で支える「黒子」の存在であることを重視しています。組込型金融サービスにおいては、銀行は目立たずに、サービスを提供する事業者の世界観を壊さないことが大事だと考えているからです。
佐藤さん ユーザー情報の収集・集約もポイントだと考えています。多くの消費者は複数の銀行口座・証券口座や電子マネーを利用していて、複数のサービスに金融データが分散している状況です。付加価値のあるサービスを作るためには、これらデータを集約・分析することが大事です。それには、グループ会社や協業・提携企業のデータを1つの基盤に蓄積していくことも有効です。自社以外の保有データをいかに集約するのかは難しい論点ですが、データを蓄積できれば、さまざまなサービスに繋げることができます。
池上さん 当社は、使いやすさ・簡便さに加えて内部統制を重視しており、企業統制を図りつつ業務を自動化・効率化することをコンセプトとしています。当社のサービスでは、ワークフローをパッケージ化して用意しているため、専門知識がなくてもすぐに利用できます。規模の大きなお客様の場合、個別要件を入れたいというケースも多いですが、当社のような企業が間に入ることで、円滑な連携を実現しています。

青柳さん 内部統制が1つのコンセプトとのことですが、そのような観点での活用方法もあるのですね。
佐藤さん そうですね、当社はユーザーにとって面白いと思ってもらえるサービスやワクワクする金融体験を体現するサービスを作りたいというモチベーションが基本的にはあります。他方で、アカウント・アグリゲーションの技術をエンタープライズ顧客の内部統制やコンプライアンス遵守の観点で活用いただける可能性もあると考えております。
例えば、監査法人においては、職員が私有する株式等の有価証券について法人側に申告しなければならないルールがあります。監査対象の企業や関連会社の株を保有していると、利益相反行為に該当してしまう場合があるからです。基本的には書面申告になっているのですが、そこをAPIを活用して従業員の有価証券の購入履歴などをチェックできる様にデジタル化し、従業員側も法人側も事務にかかる手間を削減するといった使い方も可能です。こういった事例以外にも、企業活動のリスク低減に繋がる内部統制に関わるデジタルサービスは、まだまだ事例は数少ないながらも、今後は必要性が顕在化してくる領域のひとつではないでしょうか。

最新ユースケース!送金・入金業務の効率化やデータ活用など

青柳さん トレンドとともに皆様の注力ポイントを分かりやすく教えてもらいました。具体的にはどのようなユースケースで活用されているのですか。
矢上さん 特徴的なものとして、高齢化社会に特化した人材派遣会社キャリア様の事例があり、派遣スタッフさんの給与振込にAPIを活用されています。同社は給与前払いの対応を以前から行っており、毎月1万件以上の給与振込をほぼ手作業で対応されていたそうです。もともと当社の振込手数料が安いというところから当社にお話をいただいたのですが、事務業務を伺ったところ、それらを効率化したほうが圧倒的なコストダウンにつながるとAPIをご提案させていただきました。
勤怠管理システムとも連動させた独自のアプリを開発され、そこにAPIを連携することで、派遣スタッフの方が働いた分の給与をアプリから申請すると、給与支払いが自動で行われることを実現されました。これまで数十人で行っていた事務業務がほぼ0になったとのことで、まさに組込型金融が実現したDXと言えると思います。

池上さん 当社では請求書関連の事例があり、仕分けデータの取得から連携、送金までの業務フローを自動化しました。業務効率化のほか、手作業の排除による内部統制の強化も目的でした。また、受領した請求書の支払い承認から請求書情報のテキスト化や仕分け連携に加え、送金まで一気通貫で自動化する仕組みも実現しました。

佐藤さん ユーザーのデータ活用が挙げられますね。ごく単純な例えですと、クレジットカードによるショッピングで、ベビー用品を購入している方がいれば、出産や育児のフェーズだとわかるので、そのようなお客様には、教育ローンや子供向けのサービスを推奨することができます。投資信託や保険、カードローンとか投資信託といった金融サービスが有効と思われるユーザーを抽出するロジックを活用してユーザーへのアプローチをしている企業もあります。

なぜ進まない?更新系APIの活用におけるハードルや課題など

青柳さん 色々なユースケースがあるのですね。改正銀行法の施行後には更新系APIが話題になったものの、期待されていたほどその活用は進んでいない印象を持っています。これはなぜでしょうか。
佐藤さん それぞれの金融機関におけるAPIの仕様がバラバラであることも一因ではないでしょうか。利便性を向上させるためには、仕様をまとめていく動きが必要だと感じています。

矢上さん 日本では、英国のオープンバンキングの動きと比較すると、そこまで標準化が進んでいません。その中で現実的かつ効果的なのは、全ての業務に手を広げるのではなく、目的に合わせて使い分けることだと思います。例えば、被仕向側(入金される側)は、アグリゲーションサービス(さまざまな金融機関のサービスを1つのウェブサイトで利用できるサービス)を活用したり、仕向側(送金する側)は、少数の銀行に絞ることで業務をコントロールするのも一案だと思います。
青柳さん 更新系APIについては、実装レベルでの仕様統一が鍵になりそうですね。
佐藤さん そのほか、リスク管理も論点になると思います。 電子決済等代行業者が更新系APIを活用するとなると、本人確認(eKYC)の利便性とリスクの兼ね合いであったり、不正送金に対する対策やリスクの洗い出しなど、さまざまな観点の洗い出しと対策はハードルとなるかと思います。
矢上さん 電子決済等代行業者はユーザーの意思にもとづく送金指図を銀行に伝達していますが、他社や消費者の口座における資金移動に関わるため、ある意味でチャレンジングな業務ですよね。
池上さん 運用上の手当として、iPaaSでは二重送金や送金失敗時の利用者への通知、リトライする仕組みなどの実装例があります。銀行間の送金においても、被仕向側への着金状況が明確に分かるような情報取得ができるAPIが提供されると、利便性が向上すると思います。
佐藤さん あとは、何を実現したいのかというサービス企画も大事ですよね。ユーザーのインサイトを捉えて、どのような機能があれば使われるのかといった観点が必要だと思います。
青柳さん 新しいアイデアを試行錯誤する人もまだ少ない印象ですね。
池上さん 更新系APIにより送金の自動化などが実現できること自体があまり知られておらず、認知度の問題もあるのでしょうね。知らないがゆえに興味も抱けない。色々なユースケースの紹介を通して、簡易に使用できるということを広めていけると良いですね。

UI/UXの重要性!エンドユーザーや事業者に選ばれるためには

青柳さん 銀行業は規制業種であるがゆえ、金融機能はあまり色がなく、他行との差別化が難しいとも言われます。そのような中で、他の事業者にAPIを使ってもらえる銀行になるためにはどんなことがポイントになるのでしょうか。

矢上さん 利便性の高さやUXの良さは大きなポイントです。見た目のデザインなども重要ですが、企業向けには、更新処理やトランザクション処理などを安全に利用できる機能があるかどうかも重要です。複数連携したシステム内での取引処理なので、タイムアウトなど何らかのトラブルが発生することを考慮する必要があります。事業者側で再処理の仕組みを用意してもらう考え方もあるかもしれませんが、金融機関側から、そのような仕組みを補完する機能を提供することも重要です。
佐藤さん 昨今、世の中のUI/UXへの期待値がもの凄く高まっており、少しでもストレスを感じるとユーザーは離れてしまいます。したがって、ユーザーを分析して、サービスを設計していくことがこれまで以上に大事になるのではないかなと思います。
池上さん 顧客体験のあり方は重要ですよね。例えば、どの銀行を利用するかを決めるに当たり、口座開設の手続きの簡単さや、各種手数料の低さなどがユーザーに評価されているケースも多く、小さなことの積み重ねが優位性を生むのだと思います。

APIを活用した金融の将来像!さまざまなプレーヤーが連携する金融エコシステム

青柳さん 差別化が難しいと言われてきた業界ですが、テクノロジーやUXへの注力によって金融機関におけるAPIにも徐々に差異が生まれつつあると感じます。皆さんは今後、事業を通じてどのような世界の実現を目指されていますか。
佐藤さん 当社のアカウント・アグリゲーション基盤を活用して、お客様がより効果的に参照系APIを利用できるようにしていきたいですね。事業者と銀行との間に当社が入って、事業者に対して銀行の更新系APIも組み込んだかたちでサービスを提供できるような仕組みも作って行けたらと考えています。
将来的には、マネーフォワードのサービスを利用すれば、全銀行のAPIを活用できる仕組みを構築していきたいですね。この領域の可能性は無限大だと思うので、今後もさまざまな企業・金融機関と協業して新しいサービスをどんどん作っていきたいです。

池上さん テクノロジーに注力している銀行は、今後ますます便利になっていくと思います。当社も今年度からウェブサイトで、銀行APIの活用事例やSaaS間連携事例のユースケースの紹介や情報発信をしています。ユーザー企業、SaaS事業者およびFintech事業者が繋がるAPIエコシステムの実現のため、ユーザー企業と、SaaS事業者・Fintech事業者の間の橋渡しという役割を担っていければと考えています。
矢上さん 今後ますます組込型金融が浸透し、エンジニアだけでなく、さまざまなプレーヤーがコラボレーションをしながらエコシステムを創りあげていく世界が当たり前になってくると思います。当社も、これまで以上に本気で、組込型金融のエコシステムの構築に向けての取組みを加速していきます。
<プロフィール>

矢上 聡洋 さん

GMOあおぞらネット銀行株式会社 CTO
外資系ITベンダー入社後、カード・信販系のお客様を担当するエンジニア、SE、アーキテクトとして従事。その後、金融系チーフアーキテクト部門責任者として、金融全般のお客様におけるエンタープライズアーキテクチャ、インフラアーキテクチャ設計を推進。2019年7月よりGMOあおぞらネット銀行にジョインし、現在「sunabar-GMOあおぞらネット銀行API実験場-」の企画・開発等をリード。
GMOあおぞらネット銀行(https://gmo-aozora.com/

池上 大介 さん
アスタリスト株式会社 代表取締役 CEO
インフラエンジニアとしてBtoB SaaSの新規事業立ち上げを複数経験。2013年11月にアスタリスト株式会社を創業。SaaSの導入コンサルティング事業を中心に展開。2019年よりクラウド上でSaaSやFinTechのデータ連携を行う「ActRecipe」というプラットフォームサービスを開始。アライアンスを中心にビジネス全般を統括。
アスタリスト(https://www.asterist.com/

佐藤 匠 さん

株式会社マネーフォワード マネーフォワードエックスカンパニー Money Forward X本部 コンサルティング部長
新卒でSIerに⼊社しIT事業に従事後、リクルートグループにてIT業界を中⼼とした⼈材採⽤コンサルティングを担当。2009年、エムティーアイにて、ケータイコンテンツサービスのBtoCモバイル事業の企画を担当し、スマートフォン到来時、ヘルスケア事業の⽴ち上げに関わる。その後、BtoB事業へ異動し、全国の⾦融期間様にスマホ対応ソリューションの展開を担当。2018年、マネーフォワードに⼊社し、金融機関向けコンサルタントとして全国の金融機関〜事業会社金融事業とのアライアンス業務の責任者を務める。
マネーフォワードX(https://corp.mf-x.jp/

青柳 雄一 さん
株式会社NTTデータ バンキング統括本部 OSA推進室 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取り組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人財戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。

新卒で銀行の業界団体に入職。金融機関や他業界団体等との折衝・調整に携わり、具体的には資金決済インフラや為替取引の制度運営に関する業務に従事した後、金利指標改革や市場規制の案件に関する業務等を幅広く経験。
その過程で、金融分野におけるNTTデータの影響力の大きさを実感したこと、社会を支える重要インフラを提供している点に魅力を感じたこと等をきっかけに、NTTデータへ中途入社。
現在は、金融業界のトレンドを、IT技術やビジネス、社会課題といった様々な切り口で調査・整理し発信する「金融版NTT DATA Technology Foresight」の取組み等に携わる。

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