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デジタルバンクってなに?(2021年初決定版)~前編~

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世の中には、しばしば流行りの言葉が出てきます。当たり前のように使われているけれど、ん?これってなんなの?という言葉がたくさんありますよね。金融業界で最近よく耳にする「デジタルバンク」もその一つ。それどころか、チャレンジャーバンク、ネオバンク、バーチャルバンクなどなど、色々な言葉が出てきて、え?何がどう違うの?今までと何がちがうの?と戸惑うこともしばしば。ネットで辞書サイトを検索してもほとんどヒットしません。
なぜなら、これらの言葉には決まった定義がないからです。近年各国で使われるようになった言葉がその定義もあいまいなまま、日本語カタカナワードとして使われるようになったというのが実態です。
しかし、それぞれの言葉には出てきた背景があります。ニュースを書く人は背景を踏まえて、意図を込めて言葉を使っていることが多いため、その背景を理解すれば、上司や部下に聞かれても、自信をもって答えられるようになります。ここでは、これらの言葉がずばり何を意味しているのか、辞書サイトにも載っていない情報をお伝えします。

歴史的な背景

デジタルバンクの背景を紐解くには2008年までさかのぼる必要があります。そう、リーマンショックが起こった年です。この世界危機は一般の人々の間に金融業界への深い不信感を残しました。

イギリスの事情とチャレンジャーバンク

国策として金融業に取り組んでいるイギリスでは、リーマンショック後の改革の過程において、財務相の諮問を受けた調査委員会による金融業界の産業構造の分析が行われ、大手行の寡占による銀行間の競争不足を要因として「個人向けの銀行サービスは劣悪な環境にある」とまで踏み込んだ報告がなされていました。(※1)
政府や関係当局に対してここまで熾烈なレポートを行うイギリスのお国柄も相当なものだと思いますが、注目すべきは競争を促進する施策へとつながっていったことです。

こうしたイギリスの状況の中で、既存の大銀行の寡占状態に対して挑戦する銀行として出てきたのが「チャレンジャーバンク」でした。最初はイギリス英語だった、と言ってもよいかもしれませんね。

(※1)『クルックシャンク・レポート』(2000年3月)当時のBrown財務相から諮問を受けたSir Donald Cruickshankを座長とする調査委員会によるレポート、公正取引庁『OFTレポート』(2010年11月)、『独立銀行委員会レポート』(2011年9月)などを参考

アメリカの事情とネオバンク

では、同じ英語圏のアメリカではどうだったか?実はアメリカでは、新たに登場してきた銀行はチャレンジャーバンクではなく「ネオバンク」と言われていました。既存の大銀行へ挑戦するというよりはむしろ、アンチテーゼとして出てきた性格が強かったからです。

人口も多く多様性に富むアメリカでは、銀行口座が作れないUnbankedと呼ばれる人々や、銀行サービスがなかなか受けられないUnderbankedと呼ばれる層が、比較的ボリュームのあるターゲットとして存在します。
またシリコンバレーをはじめ、イノベーションのお国柄でもあります。こうした事情が結びついて、これまで銀行を活用できなかった人々にサービスを提供する新しい形の銀行が現れ、「ネオバンク」と呼ばれ始めるようになりました。

モバイルの変化

リーマンショックと時を同じくして、実はもう一つ大きな変化がありました。今では当たり前のように使われているスマホですが、初代iPhoneは思い返すとリーマンショックの前年、2007年に発売されました。

いつでもどこでも手のひらからアクセスできる性質により、PCの普及よりも遥かに速いスピードで世界的に普及しました。人々の生活に溶け込んだスマホは世界中のサービス提供者を魅了し、金融業界もその例外ではなかったということです。
モバイルファーストといった考え方は、スマホの普及とほぼ時を同じくして進みました。手元ではシンプルで素早く、ネットの向こう側で複雑なサービスが処理される。スマホのヒットがなければ、クラウドがここまで進むことはなかったでしょう。

FinTechとの違い

もう一つ、皆さんの違和感を払拭するために説明しておかないといけないのは、FinTechと銀行の違い。FinTechは先に述べたようなモバイルなどの進んだ技術を前提として、金融サービスを提供することを示す言葉。銀行と言わないのは免許があるかないかくらいの違いでしょう。
金融業はどの国でもほぼ当局により厳しく規制された業態。資本要件などの厳しい基準を満たす必要があります。しかし、そうした免許を取っていなくとも、金融サービスを提供する主体として登場してきたがゆえに、そのサービスの利便性だけを見ると銀行と何ら違いがないというケースが多々あります。

そのため、銀行免許を持っていなくても、FinTechが銀行と紹介されることもあります。最初は銀行免許を持っていなくても、あとから取得するケースもあります。イギリスのチャレンジャーバンクの多くはこちらに属します。M&Aによって銀行を買収し、その結果として銀行免許を手に入れるケースもあります。
本業の一環として金融サービスを提供する事業者を指して銀行と呼ぶのは、私はちょっと言い過ぎのような気がするのですが、そういう論調のニュースもアメリカあたりではしばしば登場します。

いずれにしても、Fintechは銀行ではないけれど、銀行に比肩するようなサービスを提供しているのだと理解すればよく、預金保険がないじゃないか!と目くじらを立てなくてもよいでしょう。そのサービスに満足しているユーザもいるのですから。

「デジタルバンク」に感じる違和感のワケ

こうした海外の事情を我々日本人が聞いても、何が新しいのだろう?と理解に苦しむ人が多いのではないでしょうか?
なぜなら、日本の金融サービスは諸外国に比べてはるかに進んでいたからです。まず現金を使うときに困ることがない。全国津々浦々にATMがあり、果てはコンビニにもATMがあり、ほぼいつでもどこでもお金をおろすことができ、そのATMが止まっていることは稀です。汚いお札を見ることもほとんどありません。
現金が困ることなく使える状況にあり、キャッシュレスが進んでいないなんて言われてしまうこともありますが、都市部ではSuicaに代表される電子マネーも、海外に比べていち早く普及していました。Suicaのサービス開始は2001年末。2004年頃には駅以外の場所でもかなり使えるようになり、少なくとも私は財布を忘れて出勤しても困ることはない状況だったことを覚えています。

スマホの登場以前、ガラケー時代でも日本では携帯電話からいろいろなサービスにアクセスすることに不自由はありませんでした。1999年のiモードのサービス開始の当初から携帯電話で銀行振込ができたのを覚えているでしょうか?

いわゆる店舗を持たないネットバンクも2000年前後には当たり前になっていました。ジャパンネットバンクは2000年、イーバンク(現楽天銀行)の開業は2001年でした。いずれも当時始まっていたインターネットでの取引を便利にする目的をもっていました。
ネットバブルはすぐにはじけてしまいましたが、その過程で生まれたネット銀行の利便性は相当程度実証されたと言っていいでしょう。その後も、住信SBIネット銀行やイオン銀行といった特色のある新しい形態の銀行の登場が続きました。auじぶん銀行は、その名前や母体からしてもモバイルバンクですよね。
デジタルを活用した金融取引は、日本ではもうだいぶ前から当たり前になっていました。これが、日本の金融業界の人が、海外のデジタルバンクのニュースや事例を聞いたときに、覚える違和感の正体です。

と、ここまでデジタルバンクという言葉が、免許を持つ銀行を指さない場合もあることや、国ごとの使われ方の違い、進んだ日本の状況からみると違和感があるという、デジタルバンクにまつわるモヤモヤを紐解いてきたところで紙面が尽きてしまいました。
次回は、「では果たして日本は今も進んでいると言えるのか?」「これからのデジタルバンクとはどんな期待をされ、どんな姿になっていくのか」について、最新の世の中の状況を見ながらお伝えしたいと思います。


※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。

1994年株式会社NTTデータ入社以来、インターネット黎明期のEC構築、初期の携帯電話へのPayment機能搭載、海外への着メロ壁紙配信からブロードバンド黎明期の動画コンテンツ配信の実証実験等、数多くの新しい分野への取り組み検討に携わる。いつの間にか15年以上のキャリアになった金融分野でも変わらず、先物システムへの新しい通信方式導入、銀行基幹システムのオープン化、その海外への展開、スマホペイメントの検討など、ひとところに落ち着くことがない。現在は金融×デジタルの最新情報を追いながら、今度は早すぎないよね?と時代とにらめっこしつつ新しい可能性を探っている。最近は車にはまっている。

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