歴史的な背景
イギリスの事情とチャレンジャーバンク
政府や関係当局に対してここまで熾烈なレポートを行うイギリスのお国柄も相当なものだと思いますが、注目すべきは競争を促進する施策へとつながっていったことです。
こうしたイギリスの状況の中で、既存の大銀行の寡占状態に対して挑戦する銀行として出てきたのが「チャレンジャーバンク」でした。最初はイギリス英語だった、と言ってもよいかもしれませんね。
(※1)『クルックシャンク・レポート』(2000年3月)当時のBrown財務相から諮問を受けたSir Donald Cruickshankを座長とする調査委員会によるレポート、公正取引庁『OFTレポート』(2010年11月)、『独立銀行委員会レポート』(2011年9月)などを参考
アメリカの事情とネオバンク
人口も多く多様性に富むアメリカでは、銀行口座が作れないUnbankedと呼ばれる人々や、銀行サービスがなかなか受けられないUnderbankedと呼ばれる層が、比較的ボリュームのあるターゲットとして存在します。
またシリコンバレーをはじめ、イノベーションのお国柄でもあります。こうした事情が結びついて、これまで銀行を活用できなかった人々にサービスを提供する新しい形の銀行が現れ、「ネオバンク」と呼ばれ始めるようになりました。
モバイルの変化
モバイルファーストといった考え方は、スマホの普及とほぼ時を同じくして進みました。手元ではシンプルで素早く、ネットの向こう側で複雑なサービスが処理される。スマホのヒットがなければ、クラウドがここまで進むことはなかったでしょう。
FinTechとの違い
金融業はどの国でもほぼ当局により厳しく規制された業態。資本要件などの厳しい基準を満たす必要があります。しかし、そうした免許を取っていなくとも、金融サービスを提供する主体として登場してきたがゆえに、そのサービスの利便性だけを見ると銀行と何ら違いがないというケースが多々あります。
そのため、銀行免許を持っていなくても、FinTechが銀行と紹介されることもあります。最初は銀行免許を持っていなくても、あとから取得するケースもあります。イギリスのチャレンジャーバンクの多くはこちらに属します。M&Aによって銀行を買収し、その結果として銀行免許を手に入れるケースもあります。
本業の一環として金融サービスを提供する事業者を指して銀行と呼ぶのは、私はちょっと言い過ぎのような気がするのですが、そういう論調のニュースもアメリカあたりではしばしば登場します。
いずれにしても、Fintechは銀行ではないけれど、銀行に比肩するようなサービスを提供しているのだと理解すればよく、預金保険がないじゃないか!と目くじらを立てなくてもよいでしょう。そのサービスに満足しているユーザもいるのですから。
「デジタルバンク」に感じる違和感のワケ
なぜなら、日本の金融サービスは諸外国に比べてはるかに進んでいたからです。まず現金を使うときに困ることがない。全国津々浦々にATMがあり、果てはコンビニにもATMがあり、ほぼいつでもどこでもお金をおろすことができ、そのATMが止まっていることは稀です。汚いお札を見ることもほとんどありません。
現金が困ることなく使える状況にあり、キャッシュレスが進んでいないなんて言われてしまうこともありますが、都市部ではSuicaに代表される電子マネーも、海外に比べていち早く普及していました。Suicaのサービス開始は2001年末。2004年頃には駅以外の場所でもかなり使えるようになり、少なくとも私は財布を忘れて出勤しても困ることはない状況だったことを覚えています。
ネットバブルはすぐにはじけてしまいましたが、その過程で生まれたネット銀行の利便性は相当程度実証されたと言っていいでしょう。その後も、住信SBIネット銀行やイオン銀行といった特色のある新しい形態の銀行の登場が続きました。auじぶん銀行は、その名前や母体からしてもモバイルバンクですよね。
デジタルを活用した金融取引は、日本ではもうだいぶ前から当たり前になっていました。これが、日本の金融業界の人が、海外のデジタルバンクのニュースや事例を聞いたときに、覚える違和感の正体です。
と、ここまでデジタルバンクという言葉が、免許を持つ銀行を指さない場合もあることや、国ごとの使われ方の違い、進んだ日本の状況からみると違和感があるという、デジタルバンクにまつわるモヤモヤを紐解いてきたところで紙面が尽きてしまいました。
次回は、「では果たして日本は今も進んでいると言えるのか?」「これからのデジタルバンクとはどんな期待をされ、どんな姿になっていくのか」について、最新の世の中の状況を見ながらお伝えしたいと思います。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。