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金融機関と中小企業のデジタルビジネス革新

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人口減少が進む日本では、現状維持では経済縮小は免れないと言われています。こういった中、日本企業の大部分を占める中小企業のさらなる成長と地域貢献は喫緊の課題となっています。金融機関においても、社会的使命を持ち、中小企業そのものの成長と新規事業の創造への支援を行っていくことが求められていますが、中小企業とともにデジタルで地域、世界を変えていくにはどういったアプローチが考えられるでしょうか。2021年1月に開催したNTTデータのカンファレンス「NTT DATA Innovation Conference 2021」にて好評をいただいた「デジタル時代における金融機関の中小企業ビジネス革新~自律分散型社会の実現にむけて~」よりご紹介します。

中小企業にとって、金融機関は大切な相談相手。でもデジタルは…。

中小企業の生産性の低さが中小企業庁の「中小企業白書(※1)」などで指摘されています。日本の生産性向上には、日本企業の99.7%を占める中小企業の生産性を上げることが不可欠です。さまざまな企業の経営課題解決と事業成長に対して、金融機関は大きな役割を担っています。根幹となる融資業務をはじめ、最近では事業承継支援、ビジネスマッチング仲介なども珍しい取組ではなくなりました(図表1)。金融関連改正法案が5月に成立し、金融以外の新事業参入や事業会社への出資要件が大幅に緩和される中、こうした新たな取組は今後も増えると予想されます。

こういった動きの一方、足りないとされているのが「デジタル」の要素です。同じく「中小企業白書」を見ると、生産性の高い中小企業は情報処理・通信費に同規模企業の倍の予算を割いており、デジタル化への積極性が少なからず生産性向上につながっています。しかし、中小企業庁の別の調査で「デジタル化対応・ITツール導入について最も信頼できる相談相手」として金融機関を挙げた中小企業は全体の僅か2.4%でした(図表2)。金融機関は経営の相談相手ではあるものの、デジタル化に関する相談相手として見られていない、という厳しい現実が窺えます。

(※1)中小企業庁『中小企業白書』

【図表1】企業活動の根幹を支える金融機関

出典情報を基に編集部にて作成 - 【出典】日本経済新聞(2020年12月5日付)、日経MJ(2020年11月25付)、ニッキン(2020年05月29日付)、日本経済新聞(2020年09月29日付)

【図表2】中小企業はデジタルに関する相談を誰にする?

出典情報を基に編集部にて作成 - 【出典】中小企業庁『中小企業のITツール等導入プロセスにおけるナッジ活用の可能性に関する調査』(2020年3月)

初めの一歩は金融機関自身のデジタル化

今後もデジタル化の動きが不可逆である中、中小企業のデジタル化支援を行うには、金融機関自身のデジタルスキルを強化することが不可欠です。一部の金融機関では既にデジタル人財の育成に着手しており、例えば海外の事例を見ると、米ゴールドマン・サックスは従業員の約25%がテクノロジー関連の仕事に従事し、2020年には自ら開発した米法人向けのオンラインサービスをリリースしています。

こうしたモデルは難しそう、と受け止められがちである一方、心強いファクトもあります。まず1つ目に、現時点においても、金融機関のデジタルスキルのポテンシャルは他業界と比べて決して低いものではないということです。業界別にみると、DX取組率は2番目に高いことがIPAの「IT人財白書2020(※2)」で記されています。データセンターを自営していることも珍しくなく、多くの優秀な人財を持つIT部門が既に存在しています。

2点目に、Gartnerが2020年のテクノロジー・トレンドで挙げている通り、現在テクノロジーの民主化が進んでいることが挙げられます(※3)。安価なデバイスやオープンソース、ノー/ローコード開発などにより挑戦への環境は以前よりも格段に整っています。また、民主化の対象はテクノロジーだけではありません。自治体などの公共データの二次利用を可能とするオープンデータの普及や大量データを捌くインフラ技術の向上、法緩和で可能となったデータ活用ビジネスなど、デジタルデータについても共有と活用が進んでいます。

私たちは長年さまざまな金融機関に金融×デジタルのトレンドや動向をお伝えしておりますが、最近の大きなトレンドとして、テクノロジーそのものをどう捉えるか、ではなく、テクノロジーのトレンドを捉えつつどのようなユースケースを発掘するか、という部分に力点が移っていることがあります。テクノロジーの民主化が進む中、あくまで手段であるテクノロジーをどう活かすのかが問われています。

(※2)独立行政法人情報処理推進機構『IT人財白書2020』
(※3)ガートナージャパン株式会社HP

目指すは金融機関と中小企業がともに成長する姿

金融機関が今すべきことは、こうした動きを追い風にしつつ、中小企業のパートナーとして、生産性向上に直接寄与するデジタル化の支援を行うことです。既存業務の効率化施策からトップラインを上げる施策にピボットし、地域のITディレクター=顧客に伴走してデジタルビジネス/サービスを検討・実現していく人財になることが求められています。顧客をデジタル化することは、金融機関自らの事業機会を創出することとイコールです。

また、顧客データの見える化により情報の非対称性をなくすことにもつながるため、本業である融資業務への効果も期待できます。先行しての取組事例として、シンガポールのDBS銀行、山口フィナンシャルグループ、名古屋銀行の例をご紹介します(図表3)。これらの銀行はCOVID-19が中小企業に大きな打撃を与えた状況下において、IT人財紹介やオンラインサービス構築支援など、融資にとどまらないデジタル化支援に積極的に取り組んでいます。

こうした地域のITディレクター化を目指すには、単純に人財モデルを割り振るだけではなく、社内IT人財のリスキルや、効率化・堅確化を目指すトラディショナル部門と変革を目指すデジタル部門を連携する役割を設定するなど、組織丸ごとの改革が不可欠となります。実際、DBS銀行は、多くの大手企業に見られがちなフロントエンドに対する表面的なデジタル化にとどまらず、インフラやマインドセット、企業文化を見直すことで抜本的な変革を実行しています。

【図表3】金融機関によるデジタル化支援の事例

出典情報を基に編集部にて作成 - 【出典】Finextra、日本経済新聞(2020年8月20日付、同10月14日付)

自律分散型社会を見据えて

COVID-19により、テレワーク/シェアオフィスのような場所を限定されない働き方や、地域主義の加速といった「自律分散型社会」の概念が今改めて注目されています。「自律分散型社会」という言葉は聞きなれない方もいるかもしれませんが、簡単に言うと、分散する個が自律的に社会を構成する社会であり、中央集権やメガプレーヤーの寡占と対を為す考え方です。例えば、都市という単位で産業横断的なデータ連携基盤を整備し、地域社会を実現するスーパーシティ構想も、こうした自律分散型社会のモデルのひとつと言えるでしょう。

個々の会社や産業の枠を超えて、多種多様・玉石混交のデータが行き交うこうしたモデルにおいて、地域との密接なリレーションを持つ金融機関が自ら進んでデジタル化に取り組み、データマネジメントを行うことで、新たな社会課題の発見・解決につなげていける可能性があります。例えば、支店網と遊休車両を活用して金融機関の移動支店と移動スーパーを併設した施設を作り、交通弱者をサポートしつつ地元の商店を盛り上げる仕組みを作るなど、目の前にはさまざまな地域連携の形につながる白地がまだ残っています(図表4)。

こうした近未来を捉える&実現する上でも、まずは金融機関が地域の中心としての気概を持ち、デジタル化の第一歩を踏み出すことが重要です。私たちNTTデータも「自律分散型社会」モデルの創造に向けて挑戦していきます。

【図表4】自律分散型社会の地域プラットフォーム

※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。

NTTデータ入社後、大手金融機関向けシステム開発、公共/金融向けコンサルティングを経て、2016年より金融×デジタルの情報発信「金融版NTT DATA Technology Foresight」を立ち上げ&運営。社内外のさまざまなスペシャリストをつなげ、新たな価値観/トレンドの発信と事業創造支援に関わり、NTTデータ初のデジタルキュレーターに認定されている。プライベートセミナをはじめ、多数講演実績あり。プライベートでは1児の母。金融×デジタル×教育にも興味あり。

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