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パーソナルデータを自分でコントロールする?情報銀行で変わる世界観とは

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もし、初めて行く旅館で、事前には伝えていないのに、夕食はアレルギー食材をきちんと除いて用意がされており、食後には一緒に行った家族の誕生日祝いのケーキまで出てきたらどうでしょうか。部屋にはぴったりのサイズの浴衣が用意されており、湯上りにキンキンに冷えた好きな銘柄のビールとおつまみが運ばれてきて、翌日予定していた観光地への送迎も既に手配されている、そんなおもてなしを受けることができたらどうでしょうか。
どこへ行っても、行ったことがない場所でも、私をまるで常連客のように理解して、私にぴったりのサービスや、商品を提案・提供してくれる、そんな世界観を作っていく仕組みが、「情報銀行」です。

「情報銀行」という言葉はテレビや新聞、ニュースサイトなどで目にしたことがあるかもしれません。一体どのようなもので、なぜ注目されているのでしょうか。そして、情報銀行によって、私たちの生活や、企業のマーケティング、データ活用ビジネスはどう変化していくのでしょうか。
この記事では、パーソナルデータの流通をめぐる未来の世界観を考え、その中での情報銀行の役割について紹介したいと思います。

パーソナルデータって何?

そもそも、パーソナルデータとは何でしょうか。パーソナルデータという用語は、法令で明確に定義されているものではありませんが、一般には、特定の個人を識別することができる個人情報よりも、さらに広範囲な情報を指しており、「(特定の個人が識別されるかを問わない)個人と関係性が見出される情報」として用いられています。
企業は取得したパーソナルデータを通じ、あなたのことを理解し、パーソナルデータを活用して最適な商品やサービスを届けようとしているのです。

パーソナルデータ活用に関する世の中の動き

インターネットサイトやSNSの広告枠に、最近検索していたワードに関連する商品の広告が出てきたり、明らかに性別を特定した美容関係等の広告が出てきたり、といった経験を、ほとんどの方がしたことがあるのではないでしょうか。従来、企業のマーケティングでは、CookieやDMP(※1)から個人に関する情報を集めてきて、企業が届けたい顧客層に広告を出すという手法がとられてきました。「この子供用イベント広告は、ベビー用品に関する検索履歴がある人に出そう」あるいは「この美容サプリの広告は、東京在住の20代女性に出そう」というように、ターゲットとする顧客層を設定して、その顧客層と推計される個人に対して、企業側からアプローチする手法です。

しかし推計なので、実際は、友人の子供のプレゼントのために検索していた人だったり、そもそも20代女性ではなかったり、既に購入した商品だったりということが起きます。この人はこれ欲しいでしょ、という推計で出された広告で、まさにこれが欲しかった!とは、なかなかならないですよね。

(※1)DMP:Data Management Platformの略。データを一元管理・分析し、広告等のアクションプランの最適化を実現するプラットフォーム。

一企業が持つ顧客に関する情報は、その人のごく一部に過ぎません。家の近くのコンビニも、顧客が自社のコンビニで何を買うかは知っていても、その個人がECサイトで何を買っているのか?他のコンビニも利用しているのか?どう使い分けているのか?までは知ることができません。そもそも、そのコンビニを利用していない人に関しては、ごく一部の情報ですら分かりません。そのため、ユーザ像を一生懸命推計して、アプローチを試みるのです。

しかし、これが、推計ではなく、個人から直接パーソナルデータを教えてもらえたらどうでしょうか。これはもう購入済み、とか、私はこうした家族構成や属性で、今これを探しています、といった、確かな情報もとにその人にアプローチができます。企業にとっても、不要な人への広告配信を避けられますし、個人にとってもより自分に合った提案を受けることができるのです。そこで、個人が自分の意思で、サービス提案・提供を望む企業に対してパーソナルデータを提供することで、企業とより良い関係を構築していくという発想が生まれてきました。

パーソナルデータの流通が変える未来の世界

個人が自らパーソナルデータを流通させることで、どのようなことができるようになるのでしょうか。
パーソナルデータを流通できるようになれば、家族や友人との関係性にも変化があるかもしれません。例えば、飲み会をセッティングしてくれるサービスに、参加するメンバーがそれぞれの食の好みやアレルギー、これまで行ったことがある飲食店等の情報を連携すれば、参加メンバーに最適な日時と飲食店、料理まで提案してくれるかもしれません。

私は過去に、一緒に行く友人の苦手な食材ばかりのフルコースを予約してしまったことがありましたが、そんな悲惨なことはもう起きなくなるでしょう。あるいは、相手の趣味嗜好や購入履歴からプレゼントを提案してくれるようなサービスがあれば、友人が自分の誕生日にちょうど欲しいと思っていたものをくれる、なんてこともあるかもしれません。

また、個人としては、パーソナルデータの流通を自らコントロールできるなら、より自分が好きなブランドや、魅力的なサービスを提供している企業に自分のパーソナルデータを提供して、そういった企業に、自分のための、自分にあったサービスを提供してほしい、と思うのではないでしょうか。

私は、暗闇フィットネスと呼ばれる、暗めの空間の中で音楽を聴きながら運動をするジムにはまっており、もう数年通っているのですが、その運営企業からアンケートのお願いがくると、対価はなくても必ず答えるようにしています。今後も通う意思があるので、要望やフィードバックを伝えたい、と思うからです。もし、そのジムから「あなたに最適なプログラムを作るから、音楽の好みや、ヘルスケアデータ、食事のデータを取らせてくれ」と言われれば、是非!となると思います。好きなブランドや企業が、自分のための商品やサービスを提供してくれるとしたら、わくわくしませんか?

自分のデータをコントロールできる?

一方で、個人にとって便利で豊かな生活が待っているから、これからは自分でパーソナルデータをコントロールしてくださいね、と言われて、すぐに始められるでしょうか。生活の中で接するたくさんの企業と、個別にやりとりしていたら、とても手間がかかるし、大変ですよね。そこで必要となるのが、個人と企業の間で、個人の意思に基づいてパーソナルデータをコントロールしてくれる存在です。これが「情報銀行」であり、個人の負担を軽減しつつ、便利で豊かな生活を実現する仕組みです。

「情報銀行」は、銀行が運営するもの?というイメージがあるかもしれませんが、銀行に限られた事業ではありません。お金を預けて自分のために運用してくれる銀行のように、情報を預けて自分のために運用してくれる存在として、「情報銀行」と言われていますが、様々な業界の企業が参入を検討しています。

「情報銀行」は、個人と企業の間に入ってくれる存在であると説明しましたが、この事業はデータの活用と安心・安全との両立のために政府で検討されてきたもので、実は日本独自のモデルなのです。
具体的な定義としては、「個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業」とされています。(データ流通環境整備検討会 AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ 中間とりまとめ(2017)より)
このような事業者が介在することで、企業も、本当に望んでいる人に対して最適なサービスを届けることができ、自社に限らず、他社に存在するパーソナルデータを容易に活用できるようになります。他社データの活用によって、これまでとは異なる、新たなサービスが創出されていくことが期待されています。

これから起こることは?

総務省・経済産業省が情報銀行の社会実装を推進していることもあり、今後、より多くの情報銀行が立ちあがってくるのではないでしょうか。個人においては、ヘルスケア分野ではこの情報銀行、金融系ならこの情報銀行、といった使い分けをしたり、情報銀行間でパーソナルデータをやりとりしたりしながら、自分にとって最も便利な使い方をすべく取捨選択していくでしょう。将来的には、自分のデータがどんどん情報銀行に集まることで、自分の代わりにいろんなことを済ませておいてくれる、分身のような存在になるかもしれません。私たちNTTデータでは、そんな情報銀行後の世界観を実現するための支援をしています。

今、パーソナルデータを扱っている企業の方あるいはマーケティングやデータ活用ビジネスに携わられている方は、情報銀行が社会実装された後の世界観において、企業がすべきことがどのように変わっていくのか、気になるところかと思います。そのあたりは、また次回以降でお話ししましょう。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
<参考>
パーソナルデータ流通や情報銀行への理解をより深めたい方は、NTTデータでパーソナルデータ利活用分野を牽引する花谷昌弘さんのインタビュー記事もぜひご参考ください。
※株式会社サイカが運営するメディアの記事に遷移します。

2013年にNTTデータに入社。入社以来、通信キャリアにおける顧客基盤の再構築や、与信基盤構築案件のビジネス検討・開発に従事。個別企業によるパーソナルデータ活用への限界と情報銀行モデルがそれを変革する可能性を感じたことで、2019年に異動の上、企業横断型のパーソナルデータ活用や、情報銀行に係る新規ビジネスの創発を主導、現在に至る。直近では、個人情報取得時における同意管理サービスの創出や、情報銀行が伸展した後の世界観を見据えた実証実験「MesInfos Japan™」に取り組んでいる。

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