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BlackRockによるトークン化ファンド“BUIDL”とは?
パブリックブロックチェーンが切り開く新たな資産運用の形

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近年、新しい資金調達や投資の形として、セキュリティトークン(ST)が注目されています。
セキュリティトークンは、有価証券/証券性のある資産などをトークン化したデジタル証券です。
日本でも、2020年5月の改正金融商品取引法の施行後、一般投資家を対象としたセキュリティトークンの発行事例が増えてきています。
他方、日本よりもセキュリティトークン市場が先行/拡大している米国では、資産運用会社大手のBlackRockが、セキュリティトークンの発行・ライフサイクル管理プラットフォームを提供するSecuritize社と提携し、パブリックブロックチェーン上の専用ファンドの設立を2024年3月に発表しました。
本記事では、BlackRockとSecuritize社のこの取り組みがなぜ革新的なのか、このような動きが広がっていくとどのような未来が待っているのか、将来への影響や今後の可能性について考察します。

米国事例~BlackRockがパブリックブロックチェーン上の専用ファンドを設立~

2024年3月20日に、米国資産運用会社大手のBlackRockが、セキュリティトークン/デジタル証券の発行・ライフサイクル管理プラットフォームを提供するSecuritize社との提携を発表しました。

この提携により、BlackRockはSecuritize社のプラットフォームを利用し、トークン化専用ファンド「BlackRock・米ドル機関投資家向けデジタル流動性ファンド(BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund:BUIDL)」を設立し、非常に大きな注目を集めました。
このファンド「BUIDL」はパブリックブロックチェーンであるEthereum(※1)上で組成され、開始わずか1か月あまりである2024年4月30日時点で、すでに375mUSD(※2)の資金を調達し、記録的な速さで世界最大のセキュリティトークンファンドとなりました。

※1 Ethereum(イーサリアム):スマートコントラクト機能(予め設定しておくと自動的に実行される機能)を備えた分散型アプリケーションプラットフォーム。
※2 1ドル155円 (2024/5/8時点のレート参照) で換算すると、約580億円

https://www.axios.com/business/2024/05/01

このセクションでは、BlackRockのBUIDLファンドが具体的にどのような特徴を持つのか、そしてそれがどのような意味を持つのかについて解説します。

まずはBUIDLファンドの基本情報を見ていきます。
-    米国債などを運用するBlackRockのファンドを表象
-    1BUIDL=1米ドルの安定した価値提供を実現(1 BUIDLは1米ドルに償還可能)
-    毎日配当が発生し、月次で投資家に分配を実施
-    認定投資家向けの販売であり、最低投資価格は500万ドル

ここまで見ると、従来のような機関投資家向けの金融商品がブロックチェーンを使ったような印象を持つかもしれません。
BUIDLファンドの最も注目すべき特徴は、その透明性と効率性です。Ethereum上に完全にトークン化されているため、ファンドの発行総額、保有ウォレット、および取引履歴はすべて公開されており、誰でもリアルタイムでこれらのデータを確認/検証することができます。これにより、伝統的な金融商品では達成が難しいレベルの透明性が確保されています。

BUIDLが発行されているEthereum上のデータは、Etherscan(※3)を使うことで誰でも閲覧が可能です。Etherscanの検索ボックスに「BUIDL」と入力することで、BUIDLの発行総額や取引履歴を確認することができます。

※3 Etherscan(イーサスキャン):Ethereum上のブロックチェーンの状態や各トランザクションの詳細など情報を閲覧できるツール。

Etherscan上のBUIDLのデータ

https://etherscan.io/token/0x7712c34205737192402172409a8f7ccef8aa2aec

MAX TOTAL SUPPLYが発行総額です。この数値は、発行や償還が実行される度にリアルタイムに変化します。1BUIDLは1ドル相当のため、この時点で375mUSDが流通していることが容易にわかります。

また、トランザクション履歴を確認することで、どのウォレットにいつどれだけの数量が発行されたのか、どのウォレットから償還がされたのか、全て履歴として確認できます。BUIDLトークンはプライマリで購入する場合、翌営業日にウォレットに配布されるため、毎日の販売量を全て確認できる状態になっています。
トランザクション履歴から詳細のデータにアクセスすることで、そのトランザクションで実行された取引の内容を確認することもできます。

配当の様子を見てみましょう。実際のトランザクションの詳細データを見ることでその様子が確認できます。

3月分の配当のトランザクション

https://etherscan.io/tx/0xf24ba599488ea4d38cc8f049beaab7c0f136554bdfeaaac7c20fc63489bc7bd8

このトランザクションは、3月の運用益を投資家に分配している様子です。どのウォレットにいくらのBUIDLが支払われたのかが全て見える状態となっています。配当はワントランザクションで非常に効率的に実行されていることがわかります。

続いて、BUIDLをUSDC(米ドルステーブルコイン)に交換しているトランザクションです。

250,000BUIDLがワントランザクションで250,000USDCに交換されています。
伝統的金融の世界では換金に数日要することもある商品が、ワントランザクションで瞬間的に、なおかつ24時間365日で交換できる状態になっていて、その様子を誰でも確認できます。
さらに、投資家は、事前に承認された他の投資家にトークンを譲渡可能となっており、その様子も同様に確認できます。

このように、トランザクション履歴を確認することで、毎日のように発行や償還が実行されていることがわかります。
これがオンチェーン(ブロックチェーン上に記録される取引)上で確認・検証可能という意味の一部になります。従来の金融取引においては、本事例における透明性には拒否感があるかもしれません。これがオンチェーン上の世界であり、革新的な一面です。

<参考>セキュリティトークンについては、以下記事もご覧ください。
https://8knot.nttdata.com/trend/1293610
https://ndigi.tech/all_post/14118
https://ndigi.tech/all_post/14244

<参考>ステーブルコインについては、以下記事もご覧ください。
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2023/1027/
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2023/1109/

BUIDLトークンの革新性1~オンチェーンのポートフォリオマネジメントの革命~

BlackRockは、日本のGDPの約2倍の運用資産を抱える、世界最大の資産運用会社です。
このような伝統的な企業が、前述したような透明性の高い、パブリックブロックチェーン上でファンドを展開すること自体に革新性を感じます。

最近、ビットコインETFという、ブロックチェーン上(オンチェーン)の資産が、伝統的金融の世界で取引される事例が出てきました。ETFであれば既存の株式のように証券口座を通じてビットコインを売買することができるようになります。これは、直接的にオンチェーンへアクセスすることが難しい、伝統的金融の世界の投資家にとって、ビットコインを投資ポートフォリオに組み入れることができる、よい機会になりました。さらに、自身でビットコインを管理する手間やリスクも避けたい投資家にとっても、ビットコインETFは魅力的な選択肢となるはずです。このように、オンチェーンの資産であるビットコインを伝統的金融の世界で取引可能とするニーズが高まっていると考えられます。

反対に、伝統的な金融商品をオンチェーンで管理するニーズも確かに存在します。我々の多くは従来の金融システムの世界で生きています。その一方で、資産のほとんどをブロックチェーン上で管理している、オンチェーンをメインに活動している人や企業、プロジェクトも一定数存在します。例えば、暗号資産長者や暗号資産交換業、DeFi運営の企業などがそれに当たります。今はまだ少数派かもしれませんが、今後その数は増える可能性があります。

そういった投資家は、さまざまな暗号資産やステーブルコインをオンチェーンで運用/管理しています。オンチェーンのポートフォリオ管理をする上で、法定通貨に対して価値が安定的なステーブルコインを保有していることが一般的です。しかし、ステーブルコインはウォレットに保有しているだけでは利回りは得られません。だからといって、大量のステーブルコインをDeFiで運用する方法もありますが、かなりリスクが高いと言えます。

最近では金利上昇も背景に、米国債をトークン化(※4)するようなプロジェクトに注目が集まっています。このような資産をオンチェーンのポートフォリオとして組み込むニーズも出てきました。これは、ビットコインETFとは反対に、伝統的金融商品をオンチェーンで管理可能とするものです。

※4 現実世界の資産をオンチェーンでトークン化したものをRWA(Real World Asset)と呼ぶことが多い。

これには、直接購入することが難しい商品をファンド化して販売できるようにするメリットがあります。また、資産管理などをオンチェーンで完結させたい(あるいは一定程度オンチェーンに寄せたい)人や企業にとっては、伝統的な金融商品をオンチェーンで管理できるというメリットがあります。

このように、現在はオンチェーン・オフチェーン(伝統的金融の世界)、それぞれの世界の資産が交わっていますが、注意すべきところは、その接点には両者をつなぐ「橋渡し役」が存在するということです。

ブロックチェーンの世界では“Don’t Trust, Verify”という言葉がよく使われますが、この橋渡し役はTrustを避けることが非常に難しい存在です。
一般に、オンチェーンの資産は透明性高く管理することができるため、資産の状況を示しやすく、Verify可能にすることが容易です。反対に、伝統的金融商品は、どんなに運用状況を細かく開示したとしても必ずTrustが必要となります。

このように、伝統的金融商品をオンチェーンでトークン化する場合には、そのトークンの発行体である橋渡し役の信用が極めて重要になります。トークンを保有していたとしても、それが実際は伝統的金融商品に紐付いていないということになっては元も子もありません。“Don’t Trust, Verify”を掲げるオンチェーンの住人にとっては保有を避ける理由になり得ます。

その点、BUIDLはどうでしょうか。
その橋渡し役は、世界最大の資産運用会社であるBlackRockです。絶対に避けられないTrustがBlackRockへのTrustだとしたら、そこにリスクを感じる投資家はかなりの少数派になるはずです。
発行総額や発行履歴などの透明性があり、ウォレットに保有しているだけで配当が支払われる、1BUIDL=1米ドルで安定的に運用され、オンチェーンでUSDCに即時交換可能。これらの特徴は、オンチェーンで生活する人々(富裕層や企業、プロジェクト)にとっては魅力的です。
このような伝統的な企業が、完全にオンチェーンで完結する形でトークン化を行う商品の橋渡し役となった事例は過去に無く、画期的と言えるでしょう。

<参考>DeFiについては、以下記事もご覧ください。
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2021/0831/

BUIDLトークンの革新性2~RWAプロジェクトの信用構造の革命~

RWA(※5)のプロジェクトには、オンチェーン・オフチェーンの橋渡しが存在し、その「信用」が極めて重要であることは前述した通りです。この信用の対象がBlackRockであるBUIDLは、他のオンチェーンのプロジェクトでも活用が始まっています。活用において重要になるのは、やはり「透明性」です。

※5 RWA(Real World Asset):現実世界の資産をオンチェーンでトークン化したもの

Etherscanによりトランザクション履歴や保有しているウォレットなどを容易に確認・検証が可能であるという高い「透明性」は、資産の保有状況を「示したい」投資家のニーズにも応えます。

一方で、BUIDLの保有者には信用は特に必要ありません。なぜなら、保有しているウォレットは改ざん不可能な形で公開されているため、ウォレットとその署名データを使うことで誰でも検証可能な形で示すことができるからです。

一例として、Ondo Financeの事例を紹介します。
Ondo Financeは、オンチェーンでステーブルコイン発行やトークン化米国債の発行を手掛けるRWA企業です。Ondo Financeは、いままで、伝統的な米国債を裏付けとしてオンチェーンにトークン(OUSG)を発行していました。この時、オンチェーン・オフチェーンの橋渡し役はOndo Finance自身です。そのOndo Financeは、BUIDLのローンチ後、OUSGの大半の裏付け資産(9,500万米ドル)をBUIDLに置き換えるという発表をしました。

これにはどのような効果があるのでしょうか。
BUIDLは認定投資家向けで、最低500万ドルからの販売のため、一般の人には手を出しにくい商品ですが、Ondo Financeにより買いやすい形になることは投資家にとってメリットと言えるでしょう(ただし、BUIDLと比べて敷居は低いが、OUSGも適格性のある投資家に限定して販売している)。
このように、直接購入することが難しい商品をファンド化して販売することは、伝統的金融の世界でも起こっていることです。

一方で、Ondo Financeにとってはどのような効果があるのでしょうか。OUSGの裏付けとしているBUIDLの管理状況は、誰でも検証可能な状態にすることが可能です。これにより、Ondo Financeが発行するトークンのカウンターパーティーリスク(※6)を低減させることができたと言えるでしょう。Ondo Financeが担っていた橋渡し役をBlackRockに任せることで、商品の信用を向上させることができたことになります。

※6 取引先の破綻などで契約が履行されずに損失を被るリスク

また、今まではOUSGの償還依頼があった場合、Ondo Financeは伝統的金融の世界で米国債を現金化するなどの運用負荷がかかっていました。それが、BUIDLが裏付けであれば、オンチェーンで瞬時にUSDCに交換することができるため、すぐにOUSGの償還依頼に応えることができるようになりました。

実際にその様子をEtherscanで確認してみましょう。

OUSGからUSDCへの一気通貫で交換される様子

https://etherscan.io/tx/0xa012e78ec1f3b1fafd08ff056235ded179a202684af129dc5dea45b396059612

これは、OUSGが、BUIDLを経由して瞬時にUSDCに交換されているトランザクションです。
伝統的金融の世界で考えると、OUSG → BUIDLの交換、そしてBUIDL → USDCの交換と、最後まで交換を完了させるまでに数日を要するような話であり、かつ交換が途中で失敗するようなリスクもはらんでいる交換でした。それが、ワントランザクションで瞬時に最後まで交換されています。ワントランザクションであるため、交換の途中で失敗するようなことはありません。これは、Ondo Financeの運用負荷の低減につながっていると言えるでしょう。

BUIDLが実現する世界観とパブリックチェーン~日本においても遠い将来ではない~

既存金融の延長でセキュリティトークン化をしてしまうと、ブロックチェーン活用の恩恵を受けられず、本質的には何も変わらない、ということになってしまいかねません(プライベート中心とするなど…)。

一方でBUIDLは、
・オンチェーンで誰でも検証可能な高信用の伝統的金融商品
・オンチェーンで保有するだけで利回りを得ることができる
・オンチェーン完結で償還可能
といった、パブリックチェーンによるオンチェーンの世界観を実現しつつ、既存金融の人達でも扱えるようなサポートが加えられています。

Web3の透明性の高い世界にこのような信頼性の高い伝統的金融商品が入ってきたのです。
その中でも注目されているのがBUIDLです。これまでRWA企業は、例えば米国債をバックアセットとする場合には、米国債とオンチェーンをつなぐ企業として自社の信用をアピールする必要がありました。BUIDLを保有することで、BlackRockの信用力に頼ることができます。オンチェーンの資産の信用構造は劇的に変化し、オンチェーンの資産が、今後ステーブルコインなどからBUIDLに流れていく可能性があります。

他方で、この動きは米国のようなオンチェーンの資産管理が浸透している投資家が多い国に限られています。
そのため、日本のようなオンチェーンでの資産管理が浸透していない国では、こういった世界観が広がるのはまだ先の話なのではと思われるかもしれません。

しかし、日本でも最近、法人の暗号資産「期末時価評価課税」が対象外になる方針が閣議決定され、法人による暗号資産保有/運用での税負担が軽減される見込みであることから、より多くの企業や個人が暗号資産市場に参入しやすくなっていきます。
また、ステーブルコインに関する法整備もなされた(2023年6月の改正資金決済法施行)ことから、日本でも近い将来ステーブルコインの発行事例が増えていくかもしれませんし、さらにパブリックチェーン上での発行も進んで可能性もあります。

このように、日本でもブロックチェーン上に資産が移動していく未来が近づいてきています。そのような世界では、BUIDLのようなトークンは、米国同様に高い需要が出てくると予想されます。
BUIDLがもたらすメリットは「パブリックチェーンだからこそ」です。まだ今の日本では、「KYC(Know Your Customer )/AML(Anti-Money Laundering)の観点やセキュリティの観点などで不安」といった声もあり中々進んでいません。しかし、BUIDLをはじめとするパブリックチェーン上のセキュリティトークンはこれら懸念に対する対策を実施した上で、発行・運用されています。今後、日本においても米国と同様にパブリックチェーンを利用した金融サービスが増えていくのではないでしょうか。

新卒で銀行の業界団体に入職。金融機関や他業界団体等との折衝・調整に携わり、具体的には資金決済インフラや為替取引の制度運営に関する業務に従事した後、金利指標改革や市場規制の案件に関する業務等を幅広く経験。
その過程で、金融分野におけるNTTデータの影響力の大きさを実感したこと、社会を支える重要インフラを提供している点に魅力を感じたこと等をきっかけに、NTTデータへ中途入社。
現在は、金融業界のトレンドを、IT技術やビジネス、社会課題といった様々な切り口で調査・整理し発信する「金融版NTT DATA Technology Foresight」の取組み等に携わる。

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