デジタル田園都市国家構想とは
デジタル田園都市国家構想とは、デジタルの力を用いることで地域の暮らしをより良いものにし、地域活性化を行うというものです。現在日本において、我々は人口減少・少子高齢化、過疎化・東京圏への一極集中、地域産業の空洞化などさまざまな課題に直面しています。こうした課題を解決するために、地方活性化には大きな期待が寄せられています。
技術が急速に発展する中、デジタルは地方の社会課題を解決する鍵であり、新たな価値を生み出す源泉となっています。
具体的には、オンラインによる母子の健康相談や、母子健康手帳アプリの拡大による子育て支援、企業版ふるさと納税等を活用したサテライトオフィスの整備推進、観光DXや地方大学を核とした産官学連携など、さまざまな分野でデジタルを活用した地方課題解決および地域活性化への取り組みが行われています。
いま正に現在進行形で、デジタルの実装を通じ、地域の社会課題の解決と魅力の向上が進められているのです。
デジタル田園都市国家構想実現に向けた方針
デジタル田園都市国家構想では、4つの方針が掲げられています。
具体的には、「デジタルを活用した地方の社会課題解決」「構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」「デジタル人材の育成・確保」「誰一人取り残されないための取組」の4つです。
今回はこの4つの方針のうち、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」と「構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」の2つの方針について詳しく見てみましょう。
今回はこの4つの方針のうち、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」と「構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」の2つの方針について詳しく見てみましょう。
デジタルの力を活用した地方の社会課題解決
地域活性化を図るには、その地域に特有の魅力を向上させることがなにより大切でしょう。そのための社会課題に密接に関係する経済や社会といったさまざまな分野において、デジタルの力を活用することが必要です。
さらにその魅力を地域の住人のみならず、移住や観光を目的とする地域外の方へ伝えていくことで、さらなる人の流れを作り出します。
都会から地方への人の流れを生み出す大きな原動力のひとつは、アフターコロナでますます高まる観光需要でしょう。
都会から地方への人の流れを生み出す大きな原動力のひとつは、アフターコロナでますます高まる観光需要でしょう。
観光分野では『観光周遊ポータル・アプリ』の開発が進んでいます。このアプリは、スマートフォンでの利用が可能で、観光客に対して観光情報を通知するだけでなく、クーポンも発行します。地域のさまざまな観光資源の魅力を発信することで人の流れの促進と観光客一人当たりの消費額の増加が期待されています。
観光客の周遊データは収集され、施策検討におけるデータ活用ができる点も魅力の一つです。実際にこれらの活動は山形県や長野県、鹿児島県などで行われています。
ハード・ソフトのデジタル基盤整備
デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、関係省庁や地方公共団体はハード・ソフトの両面から、デジタル基盤の整備を進めています。
具体的には、住民基本台帳などの公的機関が保有するデータベースの連携や有線無線を超えた通信ネットワークの活用、電車の線路や道路といった公共交通ネットワークのデジタル整備などに取り組んでいます。
今回はそのなかでもマイナンバーカードにフォーカスを当ててみましょう。
現在約8割の普及率に達したマイナンバーカードでは、コンビニで住民票の写しなどの公的な証明書を取得する、健康保険証として使えるといった利便性が実現化されています。
デジタル田園都市国家構想では、さらなる利便性を求めて、マイナンバーカードの新規用途開拓に取り組んでいます。
デジタル田園都市国家構想では、さらなる利便性を求めて、マイナンバーカードの新規用途開拓に取り組んでいます。
最新の活用事例として、群馬県前橋市で実施されている交通MaaS事業「MaeMaaS」があります。既存の交通手段と新しいテクノロジーを組み合わせて、前橋の交通をもっと便利にすることで、前橋での暮らしをより豊かにしていくサービスのことです。
前橋市では交通ICカード(Suica)を端末にタッチするだけで市民割引や高齢者割引などが自動で反映されます。マイナンバーカードと交通IC系カードを連携することによって、交通系ICカードをこれまでと同じようにタッチするだけで割引が可能になっています。
「MaeMaaS」についての詳しい内容は以下の記事を参考にしてください。
「MaeMaaS」についての詳しい内容は以下の記事を参考にしてください。
MaeMaaSは、Octo Knotがお伝えした2022年後半には実証実験を終え、社会に実装されるフェーズへと進みました。今では前橋市のMaeMaaSから、群馬県のGunMaaSへと広がっています。
デジタル田園都市国家構想交付金があります
地方だけで抱えている課題を解決しようと考えても、人手不足や資金難で難しいのが現状ですから、国や政府からの支援は不可欠でしょう。デジタル田園都市国家構想には国家予算で交付金が設けられています。
令和6年度は1000億円、令和5年補正予算では735億円が予定されています。ただしこの交付金は、各地方公共団体の意欲的な取組を支援するものとして位置づけられています。
具体的に4つのタイプに分別されていますが、その説明だけではどうすれば交付金をもらえるのか? これまでにない新しいことを試みようとしているのですからイメージするのはなかなか難しいのが実情でしょう。
具体的に4つのタイプに分別されていますが、その説明だけではどうすれば交付金をもらえるのか? これまでにない新しいことを試みようとしているのですからイメージするのはなかなか難しいのが実情でしょう。
そこでそれぞれのタイプについて具体的な事例を踏まえながら見ていきましょう。
デジタル実装タイプと事例
これまでに説明してきた4つの方針を実現するデジタル実装を行うために必要な経費を支援してくれます。
例えば、MaeMaaSのようなモデルケースとなりえる取り組みはもちろん、他の地域への横展開や、その整備や利用促進に対して交付されます。
交通・物流の分野と親和性が高く、宮崎県延岡市で行われた「脱マイカー社会推進のためのオンデマンド交通導入事業」はデジタル実装タイプの交付金を活用して、推進されています。
この取り組みは定時定路線ではなく、住民一人一人の需要に応じて運行するオンデマンド型の乗合タクシーであるため、自由度が高く、自宅近くから目的地までドアトゥドア方式で移動できる交通手段です。
停留所までの移動が課題となる高齢者はもちろん、比較的広域の町内での買い物での利用、通院の利便性の向上、路線バスと結ぶことでさらなる移動を促進させます。
外出機会が増えることで、健康増進にもつながり、経済をより活性化させると期待されています。
この乗合タクシーを運用するために欠かせない予約受付や運航計画の作成やタクシードライバーへの運航指示を行うサーバーの実装にデジタル実装タイプの交付金が活用されています。シェアリングエコノミーでよく紹介される配車サービスを地方公共団体が乗合タクシーに応用した、と説明するとわかりやすいでしょうか?
金融分野では奈良県天理市で推進されている地域デジタル通貨「イチカ」もデジタル実装タイプです。
イチカは地域貢献活動や健康増進活動などへの住民の参加に対してポイントが付与され、1ポイント1円相当でイチカに参加している地域の加盟店で使うことができます。その一部は地域のフードバンクなどに還元され、支え合いによる好循環を生み出そうとしています。
オクトノットの記事の中でも読者の関心が特に高い地域通貨やコミュニティ通貨をデジタル田園都市国家構想の交付金を活用して実現した、よい事例といえるでしょう。
デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)に関する詳しい情報は下記のリンクから閲覧ください。
デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ) - 地方創生未来技術支援窓口 - デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 (chisou.go.jp)
デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ) - 地方創生未来技術支援窓口 - デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 (chisou.go.jp)
地方創生推進タイプと事例
地方創生とは、それぞれの地域で住みよい環境を創り、将来にわたって維持していこうとする取組みですから、デジタル田園都市国家構想とは切っても切れない関係にあります。
地方創生推進タイプは地方の持つ独自の魅力である、農林水産業や観光に特にフォーカスしているタイプ、と考えるのがよいでしょう。
熊本県八代市で行われている「八代の儲かるアサリ漁業のV字回復に向けた産学官連携プロジェクト」は農林水産業にデジタルを活用した事例です。
八代ではアサリの漁獲量激減が大きな問題になっていました。これを産官学連携でV字回復させようというプロジェクトです。でもどうやって?
漁獲量減少の理由として考えられるのは、エイなどの魚がアサリを食べてしまうこと。地元の漁師にはアサリの食害魚として知られていました。
八代ではアサリの漁獲量激減が大きな問題になっていました。これを産官学連携でV字回復させようというプロジェクトです。でもどうやって?
漁獲量減少の理由として考えられるのは、エイなどの魚がアサリを食べてしまうこと。地元の漁師にはアサリの食害魚として知られていました。
そこでこうした食害魚の行動を魚群探知機によりデータ化し、食害魚のいやがる音を発生させて撃退しよう。そのためにデジタル機器を活用しよう、というわけです。
こうしてアサリがV字回復し、八代の水産資源が持続可能になれば、漁業収益も安定化し、ふるさとの創生につながります。
デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生推進タイプ)に関する具体的な交付対象事例は下記のリンクからご覧ください。
r5-suishin2_senku.pdf (chisou.go.jp)
r5-suishin2_senku.pdf (chisou.go.jp)
地方創生拠点整備タイプと事例
地方創生活動の中でも拠点整備を特に支援するタイプです。
デジタル田園都市国家構想の中でも、「デジタル」より「田園」にフォーカスがあてられていて、道の駅やアウトドア施設といった事例が見受けられます。
デジタル田園都市国家構想の中でも、「デジタル」より「田園」にフォーカスがあてられていて、道の駅やアウトドア施設といった事例が見受けられます。
ただ拠点を作ればよいというものではなく、4つの方針に沿って、地方創生に資する社会課題を解決する視点は欠かせません。
例えば、金太郎ゆかりの地として知られる、静岡県⼩⼭町は自然の豊かな地域。ホタルの飛び交う里山の麓に位置する古民家をリノベーションで多世代交流拠点として生まれ変わらせることで、地域活性化を目指しています。
空き家問題の解決だけでなく、地域の大人たちが参加・運営し、こどもたちが里山体験を楽しむ未来が想像されるのではないでしょうか。
東日本大震災からのさらなる復旧・復興を目指す宮古市は、周辺の観光資源にプラスして、防災教育が可能な受入設備を整備することで、体験教育旅行といった、新たな滞在型の観光を取り込もうとしています。
大震災を体験した地域だからこそできるプロジェクトではないでしょうか。
デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生拠点整備タイプ)に関する詳しい情報は下記のリンクからご覧ください。
地方創生拠点整備タイプ - デジタル田園都市国家構想交付金 - デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
地方創生拠点整備タイプ - デジタル田園都市国家構想交付金 - デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
地域産業構造転換インフラ整備推進タイプ
文字どおり産業構造を根本から変えるような壮大なインフラ整備を対象としていますが、具体的な事例はまだ公開されていません。なぜなら令和6年から新設されたタイプだからです。
コロナ以後世界的な半導体不足がまだ続いていますが、日本に生産拠点を新たに作っていこうとするプロジェクトが有力視されているようです。
これからの展望
デジタル田園都市国家構想の概要から実現に向けた方針、交付金制度、事例、について紹介しました。
デジタル田園都市国家構想は、デジタル化と地方創生を結びつけた新たな施策です。地方課題の解決だけでなく、都市の利便性と地方の豊かさを一緒に享受する、新しいライフスタイルを生み出す可能性があります。しかし、その実現にはICT環境の整備、デジタルリテラシーの向上、既存の規範やルールの見直しが必要になってきます。
デジタル田園都市国家構想は、デジタル化と地方創生を結びつけた新たな施策です。地方課題の解決だけでなく、都市の利便性と地方の豊かさを一緒に享受する、新しいライフスタイルを生み出す可能性があります。しかし、その実現にはICT環境の整備、デジタルリテラシーの向上、既存の規範やルールの見直しが必要になってきます。
多くの社会問題を解決し、デジタル田園都市国家構想を成功させるためには、政府や地方自治体、そして民間企業と市民が連携し、地域の持続可能な発展を目指していくことが重要ではないでしょうか。
そんな未来をオクトノットはこれからも応援していきます。