そもそもカーボンニュートラルって?
環境省HP(※1)によると「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」とあります。要は「温室効果ガスの排出をプラスマイナスゼロ(ニュートラル=中立)」にするということです。
“プラス”については容易に想像がつくと思いますが、 “マイナス”とはどういうことでしょうか。
基本は、温室効果ガスの排出(=“プラス”)をできる限り削減し、小さくすることを目指すのですが、それでもどうしても削減が難しい排出分は、植林やネガティブエミッション技術(※2)を活用して、大気中のCO2を吸収、除去するといった”マイナス”の取り組みを行います。そして、温室効果ガス排出実質ゼロ=カーボンニュートラルの達成を目指します。
これらは、温室効果ガスの排出量よりも吸収量が多い状態のことを指します。
“ネガティブ”と“ポジティブ”が同じ意味を表すとはなんともややこしいですが、現状明確な定義はないようです。脱炭素はどんどん進化していますね。
マイクロソフト「2030年までにカーボンネガティブとなることを発表」
(※1)出典:環境省HP https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
(※2)ネガティブエミッション技術:BECCS(バイオマス燃料使用時に排出されたCO2を回収して地中に貯留)やDACCS(大気中にすでに存在するCO2を直接回収して貯留)に代表される大気中のCO2を吸収する技術のこと
(出典:経済産業省HP https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_02.html)
温室効果ガスとは?
温室効果ガスとは、大気中に含まれ、地表から放射された赤外線の一部を吸収することによって温室効果をもたらす気体の総称で、英語ではgreenhouse gas、GHGと言われます。
主にCO2に代表されるため、温室効果ガス≒CO2といった扱いをされることも多いですが、厳密には「地球温暖化対策の推進に関する法律」にて、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素他、7種類のガスが定められています。
世界の温室効果ガスのうち、CO2の占める割合は約75%となっています。一方、日本においては90%超と、その割合の高さが目立ちます。背景には、「エネルギー起源のCO2」と言われる、化石燃料の使用(電力利用含む)によって排出されるCO2の多さがあるようです。
ちなみに、こと悪者にされがちな温室効果ガスですが、もしなくなってしまうと地球の平均気温は極寒の氷点下19℃になるとも言われています。温室効果のおかげで、わたしたちは快適に過ごせているわけです(世界の平均気温14℃)。何事もバランスが大事ですね。
なぜ、カーボンニュートラル?
われわれはなぜ、カーボンニュートラルを目指すのでしょうか?
「偉い人が言っているから」「世の中の空気が…」そう心のなかでつぶやいた方、いらっしゃいませんか。
実際、日本政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、関係省庁や国内企業の動きが一層加速したのは確かですが、今回は改めてその取り組み意義や目的、いわゆる“パーパス”を考えてみたいと思います。
カーボンニュートラルは、よく地球温暖化防止のためと言われますが、温暖化が進むとどのようなことが起こるのでしょうか。
直接的な因果関係を明らかにするのが難しいものもありますが、影響は多岐にわたります。
- 海水温上昇に伴う海水面の上昇
- 異常気象や気象災害の増大および激甚化(洪水、台風、熱波や干ばつ、山火事など)
- 農業生産の減少など、農林水産物への影響
- 生物の生息域の変化など、生態系への影響
- 上記によって引き起こされる人命の喪失や健康被害
2021年10月、COP26の開幕に向けて国連開発計画(UNDP)が公開した動画は、絶滅したはずの恐竜が突如すごい迫力で国連本部に現れ、人間に向かって「絶滅を選ぶな」とお説教(!?)するというなんともインパクトのあるものでした。
そう考えると、カーボンニュートラルの推進は、地球、ひいては人類の未来がかかった究極の取り組みといえるのかもしれません。
と、少し大きな話になってしまったので視点を日本に移します。
日本としての取り組み意義は、どのようなものがあるでしょう。
いざ挙げてみると他人事ではない、日本なりのパーパスも見えてきます。
- 災害大国として
台風や豪雨、土砂災害など、自然災害が多い日本。その頻度は年々増し、自然の脅威は一層強大化しています。ニュースなどで、痛ましい被害を目にする機会も増えました。
- 島国として
海水面の上昇は、台風や高潮による浸水被害の拡大や、砂浜の侵食、低地帯にある農地や住宅地の冠水に繋がります。島国日本にとって、海面の上昇は大きな脅威です。
- エネルギー源の輸入依存国として
日本は石油や天然ガスなどのエネルギー資源(化石燃料)の約90%を海外に依存しています。国際情勢によるエネルギーリスクを最小化するためにも、化石燃料からの脱却=輸入依存からの脱却が求められます。
- 先進国として
全世界で目指すカーボンニュートラル。先進国として世界を牽引すべく、積極的な推進姿勢を示すことはもちろん、開発途上国への技術的・経済的な支援も必要な取り組みの1つです。
いかがでしたでしょうか。
他にもまだまだありそうですが、何れにせよ、地球人としても、日本人としても、カーボンニュートラル推進の意義は大きいようです。
なぜ、カーボンニュートラル? ~ビジネス編~
ネガティブ・ポジティブ両面ありますが、まずは前者から考えてみましょう。
一言で言えば、取り組まないことによる「リスク」を回避するためです。
具体的には、以下のようなものです。
- 法規制やルールの変更による影響
グローバル企業では、海外の規制を受ける可能性がありますし、中小企業にとっても、取引先大手企業が脱炭素に取り組んでいる場合、サプライチェーンの一部として環境対策が求められます。最悪の場合、サプライチェーンから締め出される可能性もあります。
- コストの増加
前述の法規制に関連して、炭素税※が課されたり、再生可能エネルギーへの転換に伴う設備投資が必要になったりするなど、追加のコストが必要になる可能性があります。
※化石燃料やその利用に応じて課税する環境税の一種。国内では導入検討中の段階。
- 市場変化による顧客離れ、収益の悪化
消費者の環境意識が高まるにつれ、環境負荷が高いサービスや商品は敬遠され、競争力の低下や収益悪化の要因になります。
- 企業評価の低下
環境への配慮や、情報開示が不足すると、投資家や株主からの評価はもちろん、社会的な信頼の喪失やブランド価値の低下に繋がります。
- 気象変化による短期的(急性) 、長期的(慢性)被害
短期的なものとしては、気象災害による工場設備への被害や、物流の混乱、長期的なものとしては、気候変化による農林水産物の収穫量減少などが挙げられます。
一方、ポジティブ要素としては以下のようなものがあります。
- コストの削減
省エネやペーパレスの推進による経費の削減や、リサイクル促進による廃棄物処理費用の低減など、塵も積もればコストの削減に繋がります。
- 市場変化による新規顧客の獲得、収益の向上
環境嗜好の高まりに合わせて、魅力あるエコフレンドリーな商品やサービスを提供することができれば、新規顧客の獲得や大きな収益に繋がります。また、排出量取引制度※などを活用して、森林が吸収するCO2をクレジット化することができれば、新たな収益源を生み出すことも可能です。
※温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして市場で取引する制度。東京都など一部自治体では導入済み。
- 企業評価の向上
今までにない先進的な活動や積極的な情報発信は、社内外の注目を集め、企業のイメージアップに繋がります。従業員のモチベーションアップにも貢献するかもしれません。
脱炭素に向けた取り組みは、目先の利益やビジネス拡大にはつながらないかもしれません。ですが、全世界共通の最重要課題の1つであることに違いはなく、味方にすることができれば、自社のビジネス成長を強く後押ししてくれることでしょう。
一攫千金のチャンスが埋もれているかもしれません。
ビジネスパーソンにとって、まさに腕の見せどころですね。
終わりに
皆さんにとって、カーボンニュートラル実現に向けたパーパスは何でしょうか?
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、まずはそんなことから考えてみるのも良いかもしれません。
※温暖化による気温の上昇は、お米の収穫量や品質を低下させると言われています。
【参考サイト】
・気象庁HP https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p04.html
・環境省HP https://www.env.go.jp/press/110272.html
・資源エネルギー庁HP https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_02.html
・JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターHP https://www.jccca.org/ipcc/ar5/wg2.html
・脱炭素ポータル https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
・資源エネルギー庁HP https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2020_1.html
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
カーボンニュートラルよりも一歩進んだ、チャレンジングな目標です。