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個人でできるカーボンニュートラルへの取り組み ~自分のCO2排出量を知っていますか?~

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現在、世界では日本を含む120以上の国と地域が「2050年までのカーボンニュートラル実現」を目指しています。これからの社会でより重要となっていくカーボンニュートラルの達成に向けて、私たちが個人として取り組めることは何でしょうか。身近な例としては、3R(リデュース、リユース、リサイクル)、マイボトル、クールビズ、節水節電…最近ですと、ビニール袋有料化をきっかけにマイバックの利用が普及しました。コロナ禍を契機に浸透したテレワークも、移動に伴うエネルギー消費量を削減できることから環境にやさしい取り組みの一つに挙げられます。本記事では、そんな個人でできるカーボンニュートラルについて、背景から最新動向まで、まとめてご紹介します。

世界と日本の動き

以前、オクトノットでは国や企業がカーボンニュートラル(※1)に取り組む意義をご紹介しました。こうしたカーボンニュートラルを巡る動きは、いまや国や企業にとどまらず、私たち個人にも強く求められるようになってきています。
(※1)地球温暖化の原因となる温室効果ガス(主にCO2)の排出量と吸収量を同等=プラスマイナスゼロにする考え。
【出典】環境省HP
2021年10月から11月にかけてイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(※2)では、議長国であるイギリスは自治体や市民社会などに対しても気候変動対策を講じるよう促しました。

また、日本でも2021年6月に地域の脱炭素化(※3)の工程と具体策を示す「地域脱炭素ロードマップ(※4)」が決定されました。既に「脱炭素先行地域」として全国26地域で地方自治体や地元企業・金融機関が中心となり、地域特性に応じた取り組みを実行しています。国民一人ひとりの衣食住や移動などに起因する温室効果ガスが、日本全体の排出量の約6割を占めるという分析もあり、ロードマップでは国民一人ひとりのライフスタイルの変革も重視されています。

つまり、カーボンニュートラルの実現のためには、私たち一人ひとりが意識し、主体的に取り組むことが求められています

ライフスタイルの変革というと仰々しく聞こえますが、冒頭に紹介した3Rやマイバックなど、私たちは思いのほか、すでに生活の中でカーボンニュートラルにつながる取り組みを実践しているのではないでしょうか。

(※2)Conference of the Parties(締約国会議)の略。COP26は第26回目の会合を指す。気候変動に対する国際協調を合意した「国連気候変動枠組条約」に基づき、地球温暖化対策のルールを協議する国際会議。
【参考】UNFCCC HP
(※3)地球温暖化の主要な原因である温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。
(※4)地域課題を解決し、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する脱炭素に国全体で取り組み、さらに世界へと広げるために、特に 2030 年までに集中して行う取組・施策を中心に、地域の成長戦略ともなる地域脱炭素の行程と具体策を示すもの。

カーボンニュートラル実現に向けたステップ

個人でできるカーボンニュートラルの話に入る前に、そもそもカーボンニュートラル実現に向けてどのようなステップが必要になるのか確認してみましょう。ステップは大きく分けて2つあります。実際は2つの取り組みを並行して進めることが理想ですが、取り組みの優先順からステップ1、2とします。

<ステップ1>
まずは「排出量の削減」です。資源を必要な分だけ利用し、その製造や処理で発生するCO2排出量を抑える取り組みのことを指します。
冒頭で挙げた、3R(リデュース、リユース、リサイクル)、マイボトル、クールビズ、節水節電といった身近な取り組みもこれにあたります。「排出量の削減」は比較的イメージしやすいのではないでしょうか。

<ステップ2>
次に「吸収量の増加」が考えられます。カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出量と吸収量の差し引きゼロを目指すのですから、排出量を削減するだけでなく、吸収量を増やすというアプローチも有効になります。個人の取り組みだとなかなかイメージがしにくく、実行が難しいかもしれませんが、植林や間伐などの森林保護がわかりやすい例です。

一方で、近年はステップ1・2に先立って、そもそも現状どれほどのCO2を排出しているのかを把握する必要性が注目されています。それが“ステップ0”となる排出量の「見える化」です。

ステップ0「見える化」とは

ここでの「見える化(可視化とも)」とは、経済活動や日常生活などに伴う温室効果ガスの排出量を算定し定量的に表すことを指します。

温室効果ガスには、次の特徴があります。
・排出に関わる組織(国、企業など)が多様である
・対策を考える、実行する組織や人が限定されていない

そのため、排出実態や対策などを把握・共有し、削減につなげるコミュニケーション手段として、「見える化」が特に重要だと考えられています。(※5)

見える化にかかわる具体的な動きとして、2022年4月の東証の市場再編に合わせて、プライム市場上場の企業には気候変動への取り組みの公表が求められるようになりました。その中で、温室効果ガス排出量の算定と開示が推奨されています。

また、2021年3月には、環境省が2022年度から個人のCO2排出量や環境への配慮を可視化して国民の意識を高める施策(※6)を実施すると発表しました。

民間では国内外問わず自身のCO2排出量を把握できるサービスが登場しています。2018年にはニュージーランドの電力会社Flick Electric社が、世界で初めて個人のCO2排出量を見える化するアプリをリリースしました。このアプリでは電力使用量に応じて排出量を割り出しています。

(※5)環境省『温室効果ガス「見える化」の役割について』参考。
(※6)デジタル技術を活用して日常生活に伴う脱炭素につながる行動履歴を把握・表示し、CO2削減量に応じたポイントを付与して国民のライフスタイルの転換を促す実証事業。

個人でできる取り組み

このほかにも日々さまざまな方法で個人のCO2排出量を計算・表示する先進的なサービスが登場していますが、その計算に用いられている分析手法のタイプを2つご紹介します。

■タイプ1:アンケート回答式
日常生活についての質問に回答することで、自分の推定CO2排出量が算出・表示されます。短時間かつ気軽に始められるのがポイントです。

質問例としては、移動手段(公共交通機関や車、飛行機の利用頻度・時間)、食事傾向(ヴィーガン、肉食など)、購入品(服、家電、家具など)が挙げられます。

■タイプ2:決済情報連携式
クレジットカードの利用情報や銀行の口座情報と連携することで、購入品もしくはサービスのCO2排出量が算出・表示されます。一度連携すれば入力の手間がなく、毎日必ず行う消費活動からCO2排出量がわかるのがポイントです。

イタリアのデジタルバンク(※7)のFloweでは、同社のデビットカードで決済するとアプリ上で買い物当たりのCO2排出量をリアルタイムで確認できるサービスを提供しています。

実際に筆者がタイプ1にあたるDoconomy社のLifestyle Calculatorというサービスを試してみました。直近1年間の生活に関する10分ほどの質問に回答したところ、年間推定8.1トンのCO2を排出していると表示されました。杉の木1本で年間約14キロのCO2を吸収すると言われているため、(無理やりな計算ですが)筆者のCO2排出量を実質ゼロにするには、約630本の杉を植樹する必要があります。

記憶を頼りに回答したため、より精緻に日常の生活情報を把握できるタイプ2の決済情報連携式であれば推定排出量はもっと多くなると見込まれます…

Doconomy社サービス「Lifestyle Calculator」利用画面

https://doconomy.com/ja/lifestyle-calculator/

こうした先進的なサービス以外にも、個人のカーボンニュートラルを促すための取り組みは以前にもまして広がりを見せてきています。具体的な事例を2つご紹介します。

■CO2排出量の少ない商品・サービスを選べる【カーボンフットプリント】
カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)とは、商品やサービスのライフサイクル全般(原材料調達から廃棄・リサイクルまで)で排出された温室効果ガスの量を、CO2量に換算・表示する国際的な仕組みです。企業がこの仕組みに賛同していることが必須条件ですが、CFPが導入された商品やサービスであれば、購入時に自身の消費活動に伴うCO2排出量を把握・考慮できます。
国内では、日本ハム株式会社の「森の薫り」シリーズのハムやソーセージ、シチズン時計株式会社の「L」シリーズの腕時計など、様々な分野の商品にCFPが表示されています。2022年4月には、サンフランシスコ発のシューズブランドAllbirdsとadidasがコラボし、CFPを表示かつ最小化したシューズが日本で発売されました。
こういった環境に配慮した商品が増えて、CFPがお買い物をする際の選択基準の一つになっていくといいですね。

■排出したCO2を吸収・削減できる【カーボンオフセット】
カーボンオフセットとは、温室効果ガスの排出を減らす努力をしたうえで、それでも排出される温室効果ガスを、他の場所での削減・吸収活動によって埋め合わせするという考えです。カーボンニュートラル実現へのステップ2「吸収量の増加」にあたります。削減・吸収活動の例として、森林保全や再生可能エネルギーの利用、省エネ機器の導入があります。これらの活動の実施だけでなく、活動への資金提供(カーボンクレジット(※8)の購入)もカーボンオフセットの取り組みの1つとされます。

近年、個人向けに気軽にカーボンオフセットができるサービスが登場しています。見える化サービスに付帯していることも多く、自身の排出量を把握したうえで適切なカーボンオフセットを選択できることがポイントです。

DATA FLUCT社サービス「becoz wallet」のカーボンオフセット選択画面

https://becoz.ai/

(※7)店舗を持たず、スマホアプリ上で預金や決済といったすべての金融サービスを提供・完結できる銀行のこと。
(※8)森林保全や再生可能エネルギー導入などの活動で実現した温室効果ガス削減・吸収量を、決められた方法で定量化し取引可能な形態(=クレジット)にしたもの。

終わりに

ご紹介してきたように、カーボンニュートラル実現に向けた個人の取り組みが拡大すると同時に、技術やサービスも日々進化しています。アプリやサービスを活用して個人の健康データや決済情報が記録・参照・活用できるようになった今、自身のCO2排出量も当たり前のように把握し、対策を打つ未来が来る可能性があります。

ところで、世界のなかでも特に温室効果ガス排出量が多い60の国と地域の気候変動対策を評価したランキング「気候変動パフォーマンス指数(CCPI)」の2022年版で、日本は第45位と低い評価を獲得してしまいました。

個人の見える化が当たり前な未来の到来を待たずとも、今からわたしたち一人ひとりが身近な工夫を継続したりサービスを試してみたりすることが、カーボンニュートラル実現の鍵になるのかもしれません。


※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

2022年NTTデータ新卒入社。学生時代はITとは無縁で、外国語を専攻していた。現在はITに加え、カーボンニュートラルなどグリーン関連の知識を獲得し、国内外の最新動向に追いつけるよう日々奮闘している。今後はグリーン×デジタル×金融のフィールドで未来の社会やしくみを描き、日本とグローバルの両方でサステナブルな社会の実現を推進する存在を目指す。所属する金融イノベーション本部は、金融分野を横断するビジネスデザインやコンサルなどによりビジネス創出を担う。

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