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金融が変われば、社会も変わる!

実践に学ぶ

ブロックチェーンNFTを使った実物資産取引のデジタル化

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つい最近アートの世界を沸かせたBeepleのデジタルアート作品のNFTが6,900万ドル(約80億円)で取引されたことはまだ記憶に新しいと思います。NFTとデジタルアートは一躍脚光を浴びるようになりました。NFTとデジタルアート作品を含めたデジタルコンテンツとの結びつきはこれからアート業界やゲーム、エンタメ業界に新たな革命をもたらすと言われています。その傍ら、静かに実物資産をNFTに紐づけたプロジェクトも動き出しています。今回はウィスキーのようなアナログ(リアル)な商品にデジタルのブロックチェーンNFTを融合することによって新たな資産価値を作り出す『UniCaskプロジェクト』をリードする、株式会社レシカ 代表取締役のChris Dai(クリス・ダイ)さんに、その挑戦やNFT活用のポイントなどについて寄稿いただきました。


<はじめに>
UniCaskプロジェクトとは、ブロックチェーン技術を用いて、酒樽の所有権の証明及び移転登記、オンラインでの売買履歴管理の容易化を目指すプロジェクトです。お酒の取引を一般の愛好家にも普及させ、お酒の業界に革命を起こすことに挑戦しています。2021年4月にベータ版アプリ「UniCask」が誕生しています。

「UniCask」アプリイメージ

アナログ(リアル)な価値をブロックチェーンに記録する

UniCaskを開発することになったきっかけは2020年に株式会社ジャパンインポートシステムの社長 田中克彦さんとの出会いでした。レシカは当時デジタルコンテンツのNFT(※)をメインに事業の開発をしていましたが、それを何かほかのものにも使えないか、いろんな方々にアプローチをかけていたのです。

(※)NFT:Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略で、対象となる資産の鑑定書と所有証明書としての役割を備えた譲渡可能なデジタルデータを指す。改ざんが困難なブロックチェーン技術を用いることでデータに唯一性を付与することができ、デジタルアートの売買など、さまざまな分野での活用が期待されている。

田中さんと会う前までは実物資産とブロックチェーンとの紐づきがアート分野をはじめいろんな商品で盛んに話されていました。実物のアートの所有権をNFTにしてブロックチェーン上に登録することにより、アートの来歴管理にブロックチェーンのグローバルな透明性と不可改ざん性を利用することができます。そして、NFTで来歴の管理だけではなく所有権もデジタルにアカウントを紐づけることで個人のアート作品の所有権をデジタルに確認し、そして譲渡することができます。

しかし、1つだけ落とし穴があって実物とデジタルの紐づきがなかなか難しかったのです。物理的に存在するものとデジタルのNFTを紐づけるには、物理的に対象資産と分離できないデジタルの識別子を、物理的に対象資産に取り付けることが必要です。取り外しができないICタグをアート作品に取り付けたり、取り外したら壊れるようなRFIDシールを貼ったりなどの工夫がされていました。

しかしタグの複製や取り外しをして他の作品への取り付けるような行為を防ぐ方法がありません。さらにもっと大きな問題は、取り付けているタグ自体がデジタルデータを持つことで電子回路を使わなければならないということです。電子回路は環境要素で不具合を起こす場合がありますので、その時は本物の証明ができなくなります。

そんなことを思いながら、田中さんと話をしていましたが、実はウィスキーの業界では樽単位のウィスキーを購入して取引する商流がヨーロッパーでは昔からあって、ウィスキーを購入した人は樽を持ち帰らずにウィスキーの蒸留所に長年預けるビジネスがあることを知りました。まさにこれだと思ったのです。本物のアート作品とデジタルのNFTを紐づけるICタグはある種の信頼の担保です。ただその信頼の担保は物理的に複数の所有者の手を回るとリスクになってきます。所有者の手元に行かない、蒸留所が保管を担保するお酒の樽はそんな心配はなく、蒸留所の信頼を担保にしてNFTと実物の紐づきができます。

そして何よりも響いたのが、“ウィスキーの樽をブロックチェーン上に記録することで時間の価値(タイムバリュー)を刻むことができる”という田中さんの言葉。ウィスキーは樽に入っている間はエイジングという、お酒と樽の木が触れ合うことで味がよりまろやかによりおしくなる反応が続けられています。そして、エイジングが長いほどお酒がおいしくなり、貴重性も高まります。まさにウィスキーの樽は10年20年という年月を吸収し、味と価値を貯めていくのです。そして、ブロックチェーンはその時間による内部価値を誰でも見える形で刻み、取引しやすいデジタルの形を作っていきます。

UniCaskを利用してウィスキーの樽をNFTという形でブロックチェーンに登録することで、所有するコレクターは非常に簡単かつ安全に所有する樽を売買することができます。それ以上に蒸留所にとっても樽単位でまだお酒が若い時期から販売できることによって会社のキャシュフローを良くし、蒸留所の健康的な運営がより一層図れることになります。生産者である蒸留所が各地で雇用と経済価値を創出し、ブロックチェーンを利用してグローバルにビジネスを展開するきっかけにもなります。

デジタルデータと実物資産の結びつき

実物資産であるウィスキーの樽にNFTを紐づけることで、NFTが何の機能を果たすのかを問う方はいらっしゃると思います。簡単に言ってしまえば、NFTはウィスキーの樽の兌換券にもなり、箱書きにもなります。兌換券はおそらく一番想像しやすく、そのイメージを示したものが図1です。

まず、ユーザーがUniCask上で樽を購入します。樽は購入後もウィスキーの蒸留所で保管され、ユーザーの手に届くのは樽のNFT証明書です。ユーザー自身が持っている樽を売りたい場合は、持っている樽のNFT証明書をほかのユーザーに譲渡します。ユーザー間の樽の所有権の譲渡はNFT証明書の譲渡で取引され、もしユーザーが実際の樽を引き取りたい場合はそのNFT証明書を蒸留所に渡し、実物の樽を引き取ります。この引き取りの手続きでNFT証明書が兌換券的役割を果たします。

ユーザーにとってNFT証明書は兌換券としての役割だけが目的ではありません。骨董品の茶道具を購入されたことがある方はよくわかると思いますが、茶道具を入れる箱と箱書きは茶道具の価値を評価する上でとても重要なものです。箱書きは茶道具の作者本人やその家族、もしくはその分野で権威のある方が品名と年代と名前などを書いていき、その茶道具の 由緒正しさを証明します。

お酒の場合はいろんな地域や業界ルールで必ずしもお酒を評価するすべての情報がラベルに書いてあるわけではありません。その埋もれた真実の情報や作者の思いを画像や動画などのデジタルの方式で永遠に記録してウィスキーの樽の箱書き的要素を果たしていくことができるのです。

【図1】UniCask樽所有と取引のフロー図

アナログ(リアル)からデジタルへ、そしてエコシステムは広がる

UniCaskは実物資産をNFT化する1つの例であり、ほかの実物資産もNFT化することで新たな価値を生み出すことが可能です。そのようなユースケースを検討するにあたり、いくつかの視点を紹介します。

【グローバルな視点】
実物資産は限られた地域の中だけで取引されている場合も多いです。その資産をNFT化することにより、所有権と取引記録が全世界で確認できるようになるため、グローバルに販路を拡大することが可能となります。特に世界中の個人にリーチできる商品であれば、物流のハードルと支払いのハードルをNFTとブロックチェーンを利用することで解消し、容易に取引市場を構築できるようになります。

【流動性の視点】
NFT化することによって、実物の取引でありながら高い流動性を維持できる市場を作ることができます。そのような市場を作ることができる実物資産はNFT化に適していると言えます。

【エコシステムの構築】
アナログ(リアル)な商品(お酒)をデジタルの世界で取引可能なデータに変えることが最終のゴールではありません。NFT化することによって1つのシステムだけではなく、複数社のシステムがお互いに連携し、エコシステムを構築することができます。

例えば、樽の所有権の証明書であるNFTが担保となり、自動化されたローンプログラムから借り入れを行うことができます。オープンなマーケットプレイスで取引されたお酒のデータをベースに金融機関による蒸留所の正確な価値評価を行うこともできます。このようなエコシステムこそが最終的に産業に大きな躍進をもたらすものだと信じています。
【この記事を書いた方】

Chris Dai(クリス ダイ)さん
株式会社レシカ 代表取締役
株式会社UniCask 代表取締役社長

ブロックチェーンのエバンジェリストであり、株式会社レシカの創業者及びCEO、株式会社UniCaskのCEO。ブロックチェーン技術を活用した分散型ビジネスの考案に注力。分散型モデルとそのビジネス、社会学、哲学的側面に深く惹かれる。ブロックチェーンの技術・ビジネス動向の研究や、社内外への情報発信などに取り組んでいる。2019年に『ネクスト・ブロックチェーン 次世代産業創生のエコシステム(日本経済新聞出版社)』を共著。2020年に『Blockchain and Crypto Currency(Springer)』を共著。

(株式会社レシカ)
https://recika.jp/
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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執筆 オクトノット編集部

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