人的資本経営を表現するモデルとは?
― 今回、人的資本経営を表現するモデルを作成したと伺ったのですが、簡単に言うと、どういう中身なのでしょうか?
近藤さん:一言で言うと、パフォーマンスを「5つの要素の掛け算」で捉え直したモデルです。
5つの要素は、個人の力(P)・職場の環境(E)・仕事の価値(V)・スキルフィット(Sk-F)・人間関係(So-F)です。
近藤さん:一言で言うと、パフォーマンスを「5つの要素の掛け算」で捉え直したモデルです。
5つの要素は、個人の力(P)・職場の環境(E)・仕事の価値(V)・スキルフィット(Sk-F)・人間関係(So-F)です。

※モデルについて、詳しく知りたい方向けに、プレプリント版の論文を公開しています。記事末尾のリンクを参照してください。
久野さん:正直、最初に見たときは少し難しいなと思いました。
でも、他部署の人に「人的資本経営を説明して」と言われたときに、あ、この式使えるな、と。
― どういうところが「使える」と感じたのですか?
久野さん:一番は、経営と人事を同じ枠組みで説明できるところです。
人的資本経営ってよく聞きますけど、実際に説明しようとすると、曖昧になりがちです。
エンゲージメントとか適材配置など、言葉はありますが、それがどう経営に影響を与えているのか見えにくい。でもこの式は、「仕事の価値(V)」と人事の取り組みが同じ枠組みで語れる。そこがすごく使いやすいなと思いました。
近藤さん:そもそも人的資本経営は人事戦略が経営戦略に連動してないといけないですからね。さらに、そこに各社独自の“価値創造ストーリー”が求められます。
久野さん:分かりやすい共通のKPIがあるわけではないということですね。
近藤さん:そうです。結果として、施策が乱発されたり、分断されたりしやすいのです。
久野さん:だからこそ、施策をばらばらに見るのではなく、同じ土俵に乗せて整理できるのがいいですね。
近藤さん:はい。掛け算というのもミソです。1つが極端に低いだけで、全体のパフォーマンスが一気に下がる。
現実も、ブラックな職場だったり、意味のない雑用ばかりだったり、人間関係が壊れていたりすると、能力が高い人でも成果が出なくなるじゃないですか。そこが実態に近いと思っています。
久野さん:組織で起きている様々な問題をこの式に当てはめられるのが面白いです。上司が原因の場合もあれば、制度や環境が原因になることもある。たしかに実態と合うと感じました。
近藤さん:はい。「人事は足し算で施策を考え、現場は掛け算で崩壊する。」といった状況を、どうにか終わらせたいんです。
久野さん:掛け算だと、一番低いところから直せる。そこが行動に移しやすいポイントですね。
― 「掛け算」以外で、このモデルの特徴は、どういうところでしょうか?
近藤さん:やはり、仕事の価値(V)を入れたことです。
仕事の価値(V)が入ることで、人事施策を「経済的な価値」の言葉で説明できる状態にしたかったんです。
久野さん:人事領域に閉じてると、いつまでも耳障りのいい話で終わりますもんね。
近藤さん:要するに、「その仕事、そもそも意味ある?利益貢献しているの?」ということです。人的資本経営の施策の中に「仕事の質の向上」を組み込む。そこまで踏み込まないと、経営とつながりません。
久野さん:シビアですが、実用的だと感じました。
人的資本経営を表現するモデルから何がわかる?
― このモデルで何がわかるのでしょうか?いくつか例を教えていただけると助かります。
① 研修が効かない理由
近藤さん:まず、研修が効かない理由がわかると考えます。研修が効きにくいのは、社会人はすでに一定のスキルを持っていて、足せる増分が小さいからです。掛け算で見ると、まあそうなるよね、という話です。
例外として、若手か、目的が明確でスキルフィットを上げる研修はありますが。
久野さん:「とりあえず研修」、ではあまり効果が出にくいということですかね。
近藤さん:はい。研修費を計上しただけで「人的資本経営をやっている」には、ならないといえます。
② 人間関係の重要性
久野さん:次に、人間関係のフィットにもかなり効きますよね。私はパワハラ傾向を診断するツールのプロトタイプを作りましたが、関係性が悪いとパフォーマンスが落ちるどころか、離職にも繋がります。
近藤さん:あー、あれですね。私のパワハラ度がやや高めだったので、ちょっとだけイラッとしたやつですね。
久野さん:そういうことを言うと、納得度が増しますよ(笑)
近藤さん:冗談はさておき、人間関係のフィットは、一気にゼロ寄りに落ちることがあります。
掛け算モデルだと影響が大きく、多様性の時代では、ますます重要度が増していくものと捉えています。
③ 特区などの施策
近藤さん:人事制度や権限規程みたいな「ルール」にも効きます。新規施策で“特区”みたいな例外組織を作るのは、職場の環境(E)を一時的に上げるためです。
久野さん:制度やルールって、個人差じゃなくて「全員に効く」から、総和で見ると大きいですよね。
近藤さん:そうです。職場環境は全員に影響しますから。だから、社内システム整備みたいな地味な話も、結果的にパフォーマンス向上につながります。
久野さん:これうちの会社の偉い人、読んでくれるといいな(笑)
― 仕事の価値(V)を実数でどう表現するのですか?
久野さん:やろうとすると、揉める気がしませんか?「いくらの価値だ」って言い出した瞬間に、会議が地獄になりそうです。
近藤さん:なりますね。だいたい、そこで人が嫌な顔をし始めます。だから、ここは割り切っていて、実数を当てに行くより、改善率を見るほうが現実的です。
久野さん:改善率というと、例えばどんなものでしょうか
近藤さん:たとえば「この半年で仕事の価値(V)がいくら増えたか」を正確に出すのは難しいけど、「この半年で、ムダな仕事が減ったか」「意思決定が速くなったか」みたいな、前よりマシになったかの比較は追える。人的資本の議論って、精密さを取りに行くほど、誰も動けなくなるので、この程度に留めておくのが実務的かと。
久野さん:人的資本経営の目的は、分析することじゃなくて、社員が本人の能力を最大限活かしたパフォーマンスを出すことですからね。
近藤さん:そうそう。だから、まずは「改善したかどうか」で実数は後でいい。「当てにいかない勇気」が、人的資本経営には必要だと思っています。
① 研修が効かない理由
近藤さん:まず、研修が効かない理由がわかると考えます。研修が効きにくいのは、社会人はすでに一定のスキルを持っていて、足せる増分が小さいからです。掛け算で見ると、まあそうなるよね、という話です。
例外として、若手か、目的が明確でスキルフィットを上げる研修はありますが。
久野さん:「とりあえず研修」、ではあまり効果が出にくいということですかね。
近藤さん:はい。研修費を計上しただけで「人的資本経営をやっている」には、ならないといえます。
② 人間関係の重要性
久野さん:次に、人間関係のフィットにもかなり効きますよね。私はパワハラ傾向を診断するツールのプロトタイプを作りましたが、関係性が悪いとパフォーマンスが落ちるどころか、離職にも繋がります。
近藤さん:あー、あれですね。私のパワハラ度がやや高めだったので、ちょっとだけイラッとしたやつですね。
久野さん:そういうことを言うと、納得度が増しますよ(笑)
近藤さん:冗談はさておき、人間関係のフィットは、一気にゼロ寄りに落ちることがあります。
掛け算モデルだと影響が大きく、多様性の時代では、ますます重要度が増していくものと捉えています。
③ 特区などの施策
近藤さん:人事制度や権限規程みたいな「ルール」にも効きます。新規施策で“特区”みたいな例外組織を作るのは、職場の環境(E)を一時的に上げるためです。
久野さん:制度やルールって、個人差じゃなくて「全員に効く」から、総和で見ると大きいですよね。
近藤さん:そうです。職場環境は全員に影響しますから。だから、社内システム整備みたいな地味な話も、結果的にパフォーマンス向上につながります。
久野さん:これうちの会社の偉い人、読んでくれるといいな(笑)
― 仕事の価値(V)を実数でどう表現するのですか?
久野さん:やろうとすると、揉める気がしませんか?「いくらの価値だ」って言い出した瞬間に、会議が地獄になりそうです。
近藤さん:なりますね。だいたい、そこで人が嫌な顔をし始めます。だから、ここは割り切っていて、実数を当てに行くより、改善率を見るほうが現実的です。
久野さん:改善率というと、例えばどんなものでしょうか
近藤さん:たとえば「この半年で仕事の価値(V)がいくら増えたか」を正確に出すのは難しいけど、「この半年で、ムダな仕事が減ったか」「意思決定が速くなったか」みたいな、前よりマシになったかの比較は追える。人的資本の議論って、精密さを取りに行くほど、誰も動けなくなるので、この程度に留めておくのが実務的かと。
久野さん:人的資本経営の目的は、分析することじゃなくて、社員が本人の能力を最大限活かしたパフォーマンスを出すことですからね。
近藤さん:そうそう。だから、まずは「改善したかどうか」で実数は後でいい。「当てにいかない勇気」が、人的資本経営には必要だと思っています。
人的資本経営の要とは一体なにか?
― ここまで聞くと、いろんな要素があるのは分かりました。ただ、読者としてやはりはっきりと聞きたいことが一つあります。結局、人的資本経営の要はどれなんですか?
近藤さん:会社目線で言うなら、私は圧倒的に仕事の価値(V)だと思っています。要するに「その仕事、儲かるの?」「意味あるの?」という、あの嫌な質問です。
久野さん:嫌な質問ですが、避けると、ずっと都合のいい話のままで終わりますもんね。
近藤さん:そうです。個人の力(P)を上げる、職場の環境(E)を整える、スキルフィット(Sk-F)や人間関係(So-F)のフィット率を上げる。全部大事なんですけど、仕事の価値(V)が低い仕事を回している限り、努力が報われにくい。だから、人的資本経営の出発点は「人」だけじゃなくて、「仕事の棚卸し」になると思っています。
久野さん:じゃあ、フィット率の2項目はどういう位置づけなのでしょうか?
近藤さん:フィット率は、現場の戦術です。言い方を選ばないと、フィット率で“ごまかせる”局面もある。本来、仕事の価値(V)や職場の環境(E)で負けているのに、現場の頑張りや相性の良さで踏ん張ってしまう、みたいなことですね。
久野さん:つまり、現場が優秀だと、会社が問題に気づけないことがあるということでしょうか。
近藤さん:そうです。だからこそ、仕事の価値(V)をちゃんと見て、「まずい仕事をやめる」「勝てる仕事に寄せる」。人的資本経営って、結局そこまで踏み込まないと、筋トレだけして試合に負ける、みたいなことになってしまうのではないでしょうか。だから最後は、「仕事に価値を与える」「くだらない仕事を排除する」
ことです。
人的資本経営って、結局そこから逃げられない!
― 最後になりますが、この論文について、プレプリントとして以下のURLで公開しているので、興味のある方は参照してください。
https://doi.org/10.51094/jxiv.2545
久野さん:ちなみに、このプレプリント、どうやって書いたのですか?
近藤さん:半分ぐらい、ChatGPTと一緒に書きました。壁打ちしていたら「これ、論文にしちゃいなよー」と提案されたので。
久野さん:で、うまくいったのですか?
近藤さん:「完璧です!今すぐ提出しましょう!」と背中を押されて投稿したら、普通に差し戻しされました。
久野さん:(笑)
近藤さん:意地になって、差し戻しに丁寧に対応して、公開できるレベルには持っていきました。
久野さん:伴走してくれたAIに一矢を報いましたね。
近藤さん:会社目線で言うなら、私は圧倒的に仕事の価値(V)だと思っています。要するに「その仕事、儲かるの?」「意味あるの?」という、あの嫌な質問です。
久野さん:嫌な質問ですが、避けると、ずっと都合のいい話のままで終わりますもんね。
近藤さん:そうです。個人の力(P)を上げる、職場の環境(E)を整える、スキルフィット(Sk-F)や人間関係(So-F)のフィット率を上げる。全部大事なんですけど、仕事の価値(V)が低い仕事を回している限り、努力が報われにくい。だから、人的資本経営の出発点は「人」だけじゃなくて、「仕事の棚卸し」になると思っています。
久野さん:じゃあ、フィット率の2項目はどういう位置づけなのでしょうか?
近藤さん:フィット率は、現場の戦術です。言い方を選ばないと、フィット率で“ごまかせる”局面もある。本来、仕事の価値(V)や職場の環境(E)で負けているのに、現場の頑張りや相性の良さで踏ん張ってしまう、みたいなことですね。
久野さん:つまり、現場が優秀だと、会社が問題に気づけないことがあるということでしょうか。
近藤さん:そうです。だからこそ、仕事の価値(V)をちゃんと見て、「まずい仕事をやめる」「勝てる仕事に寄せる」。人的資本経営って、結局そこまで踏み込まないと、筋トレだけして試合に負ける、みたいなことになってしまうのではないでしょうか。だから最後は、「仕事に価値を与える」「くだらない仕事を排除する」
ことです。
人的資本経営って、結局そこから逃げられない!
― 最後になりますが、この論文について、プレプリントとして以下のURLで公開しているので、興味のある方は参照してください。
https://doi.org/10.51094/jxiv.2545
久野さん:ちなみに、このプレプリント、どうやって書いたのですか?
近藤さん:半分ぐらい、ChatGPTと一緒に書きました。壁打ちしていたら「これ、論文にしちゃいなよー」と提案されたので。
久野さん:で、うまくいったのですか?
近藤さん:「完璧です!今すぐ提出しましょう!」と背中を押されて投稿したら、普通に差し戻しされました。
久野さん:(笑)
近藤さん:意地になって、差し戻しに丁寧に対応して、公開できるレベルには持っていきました。
久野さん:伴走してくれたAIに一矢を報いましたね。
シリーズ「人材不足の処方箋!」 第1回~第6回はこちらから

近藤 博一 さん
NTTデータ コンサルティング事業本部 コンサルティング事業部 部長
20世紀末、NTTデータ通信株式会社(現在の株式会社NTTデータ)に入社。2002年のコンサルティング部門発足当初より、一貫してコンサルティング業務に従事。2020年に法人ソリューション分野のスタッフに異動し、人材面での取り組みに課題が多いことに衝撃をうけて、デジタルタレントチームを立ち上げ、現在に至る。
NTTデータ コンサルティング事業本部 コンサルティング事業部 部長
20世紀末、NTTデータ通信株式会社(現在の株式会社NTTデータ)に入社。2002年のコンサルティング部門発足当初より、一貫してコンサルティング業務に従事。2020年に法人ソリューション分野のスタッフに異動し、人材面での取り組みに課題が多いことに衝撃をうけて、デジタルタレントチームを立ち上げ、現在に至る。

久野 菜奈子 さん
NTTデータ コンサルティング事業本部 コンサルティング事業部 課長代理
NTTデータ入社後、法人・金融分野にて上流工程の開発プロジェクトを複数経験。社内公募制度によりコンサルティング事業部へ異動し、デジタルマーケティング領域のコンサルティングに従事。その後、二人の育休を挟みながらデジタルタレントチームへ異動し、People Analyticsのアセスメントツールを活用したサービスの企画・展開を推進している。
NTTデータ コンサルティング事業本部 コンサルティング事業部 課長代理
NTTデータ入社後、法人・金融分野にて上流工程の開発プロジェクトを複数経験。社内公募制度によりコンサルティング事業部へ異動し、デジタルマーケティング領域のコンサルティングに従事。その後、二人の育休を挟みながらデジタルタレントチームへ異動し、People Analyticsのアセスメントツールを活用したサービスの企画・展開を推進している。








X