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金融機関の事務改革の状況・トレンドなど
(※1)BPR:“Business Process Re-engineering”の略で、業務本来の目的に向かって既存の組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの視点で、業務フローや情報システムなどをデザインしなおすことを指す。
事務改革×デジタルBPRという観点では、RPA(※2)、AI-OCR(※3)やBPM(※4)といったワードがホットですが、まずはそれぞれのトレンドについて伺いたいと思います。「WinActor」というRPAソリューションを展開して企業のデジタルBPRを推進している鈴木さんは、現状をどのように見ていますか。
(※2)RPA:“Robotic Process Automation”の略で、これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業やより高度な作業を、人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習などを含む認知技術を活用して代行・代替する取組みを指す。
(※3)AI-OCR:“Artificial Intelligence - Optical Character Reader” の略で、AI技術を活用したOCRの仕組みやサービスを指す。AIの特徴である機械学習やディープラーニングによって、文字の補正結果を学習し、文字認識率を高めることができる。
(※4)BPM:“Business Process Management”の略で、業務プロセスの現状を把握し、変更や改善を行うことで、本来あるべきプロセスに継続的に近づけていくための業務管理手法を指す。
鈴木さん RPAはシステムやサービスにおける人間によるオペレーションを自動化させていく仕組みです。企業では、大量の業務については、IT部門のIT投資によりシステム化されて自動化が進んできましたが、少量多品種のような業務については、費用対効果が得られず、なかなか自動化が進んできませんでした。デジタルBPRで着目するのはまさにこの領域です。
RPAというと業務効率化や時間創出などの定量面が注目されがちですが、定性面のポイントもあります。例えば、人間の手が介在しないので人為的なミスが減少しますし、ルーチン業務から心理的に解放されるといった効果もあります。
橘さん 世界で最も嫌われるルーチンワークはデータ入力業務だと言われています。大量の紙のデータを入力する必要があることと、煩雑なシステム間連携がその発生原因ですが、その解決手段としてAI-OCRとRPAの組み合わせが注目されています。AI-OCRにより、申込書や、請求書などの帳票のデータ入力を効率化することができるためです。
AI-OCRは非常に高精度であり、今までのOCRでは解読できなかった、雑な文字や、複数行に渡った文字も解読できます。住所欄が塗りつぶされていたり、修正印が押印されていたりしても、AIが学習し、ノイズとして検知します。企業や発行者ごとに異なる非定型と呼ばれる帳票も認識可能で、タクシー会社の領収書なども高精度で認識できます。具体的なソリューションとしては、AI inside株式会社の「DX Suite」などがよく知られています。
駒崎さん 取引チャネルの改革が進む一方、後方事務については抜本的な改革ができていない金融機関は多いのではないでしょうか。例えば、データダウンロード、USBへのコピー、システムへのデータ投入、帳票への出力といった作業などを、システム単位で別々に実施しているケースもあると思います。これでは、チャネル変革の効果も薄れてしまうので、ここを解決することが重要です。
また、「ハンズオフ」によるユーザーと行員の結び付けも重要な観点です。デジタルチャネルでは、ユーザーは好きなタイミング・手段でサービスを受けられます。例えば、ユーザーが休日夜間に手続き開始することもありますし、その後は事務の担当者やコールセンターの担当者による業務が続きます。この複数の登場人物が連携した一連の流れをデジタル化することで、デジタルチャネルのUXのさらなる向上が見込めます。
ちなみにNTTデータではこうした課題への解決策として「オンラインデータ連携基盤」を展開し、UIや業務ロジックをGUIベースで容易に開発できる仕組みを整えています。
「RPA」「AI-OCR」「BPM」で事務はどう変わるのでしょうか?
鈴木さん RPAに関しては、企業規模別の導入状況を見ると、これまで中堅・大手企業の導入率は約50%以上である一方で、中小企業の導入率はそれほど高くありませんでした。ただ、昨今では体感的にも伸びてきており、今後は中小企業のDXが重要になってくると思います。
いまはRPA自体への理解が非常に進んできて、導入企業においても適用領域を広げていくフェーズに入ってきている状況です。電子署名のサービスも出てきていて、紙からデジタルへのシフトが見られますし、最近はリーガルテックも普及しており、AI診断などで契約書の自動化が進んでいます。
導入企業の約46%でRPA推進部門が設立されているという調査結果もありますし、さらに、RPAの推進部門は全社のDX推進担当にシフトしていく流れもあります。RPAを起点にさまざまなBPRソリューションを連携させることも大きなトレンドで、RPA導入企業の約15%は「AI-OCR」を導入しているとも言われています。
橘さん AI-OCRは設定が簡単で誰でも使用できるソリューションも多く、その点は大きな魅力ですね。スキャンした帳票の読みたい箇所をマウスで囲むだけで使用できます。例えばAI inside社のLearning Centerというサービスは、誰でも簡単にAIを学習させられる、ノーコードAI開発・運用プラットフォームで、文字認識だけでなく物体認識も可能となります。
製造業では、ベルトコンベア上での製品の品質検査にAIモデルを活用し業務効率化しています。そのほか、金融では損害査定、介護では転倒検知の仕組みが考えられますし、インフラだとドローンによる空中からの故障点検や、医療だとレントゲン診断への活用可能性など、現場目線でのビジネスプロセス変革を実現できる可能性がありますね。
駒崎さん そういう意味では、やはりBPM基盤によりチャネル改革ができるというところがポイントですね。ソリューションにもよりますが、AI-OCRやRPAと連携させることで、事務高度化やサービス自動化を図ることもできますね。例えば、当社の「オンラインデータ連携基盤」については、ローコード開発プラットフォームとしての側面もあり、内製化も視野に入れた開発もできたりします。
実際にどのような導入事例があるのでしょうか?
鈴木さん RPAについては、クレジットカード業界のJCBでは、データ入力や投入の処理自動化で1か月当たり2人が他業務にシフトできるようになりました。定常的な業務であればそのための態勢整備もできますが、短期間に大量処理が必要なケースだと、期間限定での人員用意や育成は難しいといった課題があります。また、京葉銀行では、申込書のスキャンおよびデータの抽出やシステムへの投入処理で「AI-OCR」を活用することで、82種の業務、合計で年間約26,000時間の削減が実現できたとのことです。
例えば当社パートナーであるWinActor特約店様では、金融機関・法人顧客企業と協業するスキームに取り組んでいます。従来金融機関としては、経営課題や事業運営の相談といったかたちで法人顧客企業と関係性を築いてこられたと思いますが、昨今は、人材不足や生産性向上、法改正への対応も必要になります。また、金融機関はDXに関する指針は出せても、実行フェーズは少しハードルが高いケースもあります。そこで、3社が協業し、RPAなどの導入に当たりどのような支援が必要かといった論点について、“win-win-win”の関係で課題解決していきます。
橘さん 鈴木さんが紹介された京葉銀行の事例では、本部に業務を集約させ営業部門の負担を軽減することで、営業力の強化をしていくことなどが狙いでした。また、パブリッククラウドを利用している点もポイントです。セキュリティ上、クラウドの利用は難しいこともありますが、京葉銀行は、運営企業への厳しい審査・チェックをしつつ、IPアドレスの制限・モニタリングをすることで課題解消しました。
福岡銀行では、外国送金業務に活用した事例があり、WIFESという金融機関における外国送金業務を効率化するクラウドサービスでAI-OCRとRPAを活用しています。これで高い専門性が不要となり、教育の時間削減や、自動化によるヒューマンエラーや属人性の削減ができました。
また、複雑な設定などをせずに簡易に使用できる製品や、プライバシー保護を重視した製品も出てきています。例えば、横浜市の保育園では、「AI inside Cube」というオンプレ型のAI-OCR製品が使われていますが、最大で1日当たり3,000通もの処理が発生する業務で活用されており、残業時間100%削減という効果が得られたほか、区役所からの問合せ回答時間を短縮できて住民サービスの向上に繋がりました。加えて、現場の人がデジタル化に接することで、職員の意識醸成やスキルアップに繋がります。
駒崎さん 横浜銀行では、オンラインデータ連携基盤で開発された業務基盤を、API Gallery上で他銀行・企業にご提供されるとの意思を持たれています。このように、このデータ連携基盤については、他の金融機関だけでなく、ゆくゆくは行政や一般法人にまで広げていくクロスインダストリーの取組みとしても、活用していけるのではないかと思います。
BPR推進や中小企業におけるDX促進のポイントは?
橘さん AI-OCRについては、「思った以上に簡単だった」という声を多く耳にします。ですから、最初はトライアルで導入して、社員に「自分でも上手く使える」と実感してもらうことが第一歩なのではないかと思います。
駒崎さん そうですね、まずは細かい部分から始めていくのがよいと思います。実際、オンラインデータ連携基盤についても、初期の導入事例は、ウェブ上で住所変更を受け付けるといったものでした。まずは比較的容易なところから始めた例ですね。また、ゆうちょ銀行での導入の際にも実際に見学いただきましたし、他の銀行にも、横浜銀行が実際にご作成された画面をご覧いただいたり、実際の操作を対面で説明したりしましたし、そういったリアルな体験が有効だと思います。
駒崎さん 先般、銀行法改正により銀行子会社の業務範囲の規制が緩和されましたが、その影響で、中小企業向けの支援に関する悩みを持つ金融機関も増えているかと思います。ソリューションという意味では、オンプレのほかにも、クラウドやSaaSで提供するといったパターンもあると思いますので、組み合わせていくことで段階的に使っていただくことも考えられますね。
青柳さん 中小企業における悩みは共通点が多いですよね。事務効率化やIT機器導入、ペーパーレス化をしたいなどの悩みはよく聞きます。あとは例えば、会計簡略化のためにクラウド会計を導入したいとか、商品プロモーションのために分かりやすいアプリを作りたいとか、共通のニーズがあると思います。これら課題について、我々API Galleryでも協力するといった取組みをしていきたいですね。
鈴木 秀一 さん
株式会社NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 デジタルソリューション統括部 RPAソリューション担当 課長
NTTデータ入社後、主に大手通信事業者向けにデジタル化新規事業サービスの企画~営業を担当。2015年からAI×ロボティクスをテーマに活動。NTT研究所のAI技術群Corevoを活用した事業化、主にコミュニケーションロボットを活用した事業立ち上げに従事。現在はRPAからDX推進すべく、国内外のパートナー様の支援を行う。
WinActor.com(https://winactor.com/)
橘 俊也 さん
株式会社NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 デジタルソリューション統括部 RPAソリューション担当 課長
NTTデータ入社後、主に大規模行政システムの開発に従事。その後、RPAやAI-OCRの企画~営業を担当。スマート自治体のDXを実現する「NaNaTsu®」の事業立ち上げを行う。現在は法人企業向けにDXを実現するプラットフォームを企画中。
駒崎 淳 さん
株式会社NTTデータ 第二金融事業本部 第三バンキング事業部 営業統括部 営業担当 課長代理
NTTデータ入社後、主に金融大規模システムの開発に従事。最近では横浜銀行様デジタル案件を担当。BPM基盤であるデータ連携基盤のアライアンス等を対応。新しい共創モデル型エコシステムの実現に向けて推進中。
青柳 雄一 さん
株式会社NTTデータ バンキング統括本部 OSA推進室 部長
入社以来、数多くの金融系新規サービス立ち上げに従事。2015年からはオープンイノベーション事業にも携わり、FinTechへの取り組みを通じて、複数の金融機関のデジタル変革活動を推進。NTTデータのデジタル組織立ち上げ、デジタル人財戦略策定/育成施策も実行。現在は当社金融分野の新デジタル戦略、外部連携戦略策定・実行にも従事。2021年10月にリリースした金融APIマーケットプレイス「API gallery」の推進をリード。
API Gallery(https://api-gallery.com/)
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。