「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信!

金融が変われば、社会も変わる!

挑戦者と語る

スマホ・セントリックの時代だからこそ 求められる銀行の“体験変革”とは

画像

フィンテックが加速させた「金融×デジタル」の流れは、これまでの金融サービスに変革を促しました。その変革の波は金融機関をも飲み込もうとしています。いまやバンキングアプリも珍しい存在ではなくなり、デジタルによる利便性だけでは勝負が難しい世界が到来しています。スマホ・セントリックの時代を迎えメガバンク、地方銀行、ネット専業銀行が渾然一体となってしのぎを削る中、注目が高まっているのが「銀行体験の変革」です。今回はスマホ・セントリックな金融サービスのトップランナーであるauじぶん銀行でCX(顧客体験価値)の変革に挑む清水健太さんと、NTTデータで銀行のデジタルチャネルの企画・開発を推進する島村純平さんが、銀行の“体験変革”について語りました。

1. デジタル化が顧客体験の重要性を高める

島村さん 私はインターネットバンキングやバンキングアプリなど、銀行とお客様を結ぶ仕組みづくりに長く携わってきました。振り返るとこの20年くらいのあいだに、その接点も大きく形が変化してきたことを実感します。

最近では、銀行本位ではなくお客様のニーズや生活様式に合わせた顧客接点を実現しようという動きが一層高まりつつあります。auじぶん銀行さんはいち早くCXを推進する組織を立ち上げて、CX(※)の向上に力を入れていらっしゃいますね。

※CX(顧客体験価値)とは、機能や性能といった物理的・合理的な価値だけでなく、顧客がサービスや商品の購入・利用する一連の過程において感じる心理的・感情的な価値のこと。

清水さん 2020年4月に「CX向上推進室」を立ち上げましたが、2021年7月には部に昇格し、現在は「CX企画推進部」として活動しています。CX専門の部署をつくった背景には、お客様目線を大切にしていくという、会社としての強い意思もあると思っています。

CX企画推進部は、組織横断的にCX観点でさまざまな調査分析・提案などを行っています。直近では、顧客調査にもとづく商品部門へのプロダクト改善提案や、顧客目線に立ったロイヤルティプログラム(※)「じぶんプラス」のリニューアルなどを進めています。

※ロイヤルティプログラムとは、サービスや商品の利用状況に応じて、企業が顧客に優遇特典を提供する施策。

島村さん 私は地方銀行の方とお話する機会が多いのですが、最近はCXを強く意識する地方銀行も増えています。地方銀行はこれまで地域社会と強い信頼関係を築いてきましたが、そんな地方銀行でさえ、お客様の維持に危機感を持つようになっています。CXはデジタルを得意とする銀行だけの取組みではなく、業界全体のテーマとなりつつある。清水さんは、銀行業界がCXを重視するようになった理由をどのように考えていますか?

清水さん お客様の行動が変わったことが大きいと思います。銀行ではこれまで顧客体験について深く考える機会があまりなかったのではないでしょうか。融資や運用商品の利用者など、目的を持って銀行店舗を訪れるお客様は全体から見るとごくわずかです。多くのお客様にとって銀行は入出金のツールであり、店舗の滞在時間もわずか数分ですから、接点自体が少なかった。それがいまではスマホに銀行のアプリが入るようになりました。時間も場所も問わず、常にお客様と接点が生まれている状態です。

さらにコロナ禍によってアプリを使うお客様が急激に増加したことも、CX重視の流れを加速させています。私たちのようなネット専業銀行も例外ではありません。一昔前のネット専業銀行のお客様はネットリテラシーが高いいわゆるアーリーアダプター層が中心でしたので、最先端の尖った機能に価値を感じてもらっていました。ところがコロナ禍でこれまではリアル店舗型の銀行を好んで使っていた新しい層のお客様が増えてくると、尖った機能よりも、便利に安心して使えることを重視する方の比重が高くなってきました。

※撮影時のみマスクを外しています

島村さん 銀行のビジネスモデルが変わってきたこともありますよね。規制緩和が進んだことで銀行業務の枠を超え、自分たちの強みを生かしてビジネスの幅を広げる動きが活発になっています。私たちも商談用のビデオ通話機能やビジネス契約の機能などを開発してそうした動きを支援していますが、新しいビジネスチャンスを広げるためにCXを意識するようになったという側面もあるのではないかなと。

清水さん auじぶん銀行が銀行業界に参入した当初は、ガラケー(※)で色々な銀行取引ができることを大きなウリにしていました。それがいまやどの銀行にもアプリがあるのが当たり前になり、差別化が難しくなっています。では、どこで銀行を選んでもらうか。金利や手数料だけではないと思うんです。普段の生活でモノを選ぶシーンを考えてみると、多少値段が高くてもそのブランドが好きだからという理由で利用し続けることもありますよね。金融業界でも同じように、CXを向上させてお客様にファンになってもらえれば、長く使っていただくことができると考えています。

※ガラケーとはガラパゴス携帯の略で、日本独自の多機能な携帯電話のこと。

島村さん 長く使い続けてもらうと、就職や結婚、出産といったお客様のライフイベントに接する機会が多くなり、銀行としても収益性が上がっていくという話はよく聞きます。実際に私の周りでも、若い人にファンになってもらい、住宅ローンや資産形成はもちろん、相続時の資産継承まで含めて生涯使ってもらえるようなアプリにしたいというご相談が増えています。

清水さん そういった長いお付き合いができることが理想ですよね。年代別にお客様のニーズを分析してみると、若い世代の方が決済の利便性をすごく重要視する一方で、年齢が上がるにつれてセキュリティーを重視する方の割合が大きくなることが分かりました。年代に応じたニーズを汲み取りながら、利便性だけではなく、安心や信頼といった感情部分をどう満たしていけるかが、長く使っていただく上で大きなポイントになると思います。

※撮影時のみマスクを外しています

2.データでは分からない - 銀行体験変革のカギとは?

島村さん 私たちのようなIT企業では、以前はクライアントが決めた仕様通りにシステムをつくることが求められていました。それが最近は「このサービスをどう使ってもらいたいか、どうしたら使い勝手が良くなるか」まで一緒に考えて欲しいという相談が増えています。私たちも実際にサービスを使う人のニーズを知るために、さまざまなデータを集めて改善を繰り返しています。清水さんはどのようにお客様ニーズを把握していますか?

清水さん auじぶん銀行でもお客様の取引データを分析しています。ただ顧客体験という観点で見ると「なぜその行動をしたのか」というインサイトの部分はデータだけでは分かりません。例えばATMでお金を振り込む前に「キャッシュカードどこだっけ」と探したり、お金を振り込んだ後に「ちゃんと振込ができているかな」と不安になったりする。そうした、データでは分からない前後の行動や心の動きを知るために、お客様の生の声を聞くことを心掛けています。

島村さん 以前スマートフォンで個人間送金ができるサービスの企画に携わったことがあるのですが、送金相手のQRコードを読み取る仕様でつくっていたところ、評価があまり良くなかった。それで実際に使用した人に聞いてみると「飲み会で割り勘をするときに全員のQRコードを読み取るのは面倒だ」という話があり、なるほどと。生の声をしっかり聞くことで、利用者の行動や気持ちが見えてくる。それを改善に生かしていくことが大切ですよね。

清水さん そうですよね、新しいサービスを始めただけでは必ずしもCX向上にはつながりません。例えば、これまで対応していなかったクレジットカード会社の口座振替ができるようになったとします。一見便利になったようですが、お客様からすると引落口座を変えるひと手間が発生します。だから、その負担を減らすシステムやサービスまで考えた設計をすることが理想です。CXと言うと、どうしても目に見えるような大きな成果を狙いがちですが、実際には小さい改善を積み重ねるのが一番効果的だと思います。

島村さん アプリ開発でも同じですね。新しい機能をたくさん入れると、リリース当初はお客様から「使いづらい」とか「何をしたいかわからない」といった反応を受けることもあります。目玉となるような機能より、細かい改善のほうが意外と喜ばれることも多いですね。

清水さん auじぶん銀行のアプリはお客様から高い評価をいただいていますが、以前は先進的すぎてお客様に便利さが伝わっていないサービスや機能もありました。新しくて面白いことをやりたいという企業側の想いも大切ですが、お客様がどう感じるかもセットで考えなければならず、そこがまさに私たちCX企画推進部の役割だと思っています。

でも、実は私自身は、社内のすべての組織がお客様目線でサービスを考えられるようになったら、あえてCX専門組織が独立して存在する必要はないと思っています。CX企画推進部と社内のさまざまな組織が一緒になって顧客体験を考える活動を積み重ねる中で、少しずつCXの視点が浸透し、最近では社員の意識がお客様の方に向いてきているのを強く感じるようになりました。

※撮影時のみマスクを外しています

清水さん ネット専業銀行は他のネット専業銀行をライバル視しがちですが、お客様の立場に立ってみると、比較対象には自分が口座を持っているメガバンクや地方銀行も含まれてきます。島村さんのお話にもありましたが、地方銀行と地域との結びつきは強く、地方銀行が一番信頼できるからお金を置いている、という方はとても多いです。私たちは、どうしたらこのような方々にもauじぶん銀行のファンになってもらえるかを考え、工夫していかなければなりません。

島村さん 地方銀行は対面での接点を重視していますし、お客様のほうも顔が見える地元の銀行が一番安心だと言う方は多くいらっしゃいます。以前、銀行で資産運用をしている方に「どうして証券会社ではなくて銀行で資産運用しているんですか?」と尋ねたら、「銀行の担当者がすごく親身になってくれるから信頼して大金を預けている」という答えが返ってきました。デジタル化が進む一方で、そういった人と人のつながりの強さが、銀行には依然として求められている気もします。

清水さん お金に関わる接点は対面のほうが信頼できるという意識は、地方に限らず、多くの方が持っているものだろうと思います。コロナ禍で人に会う機会が減り、デジタル化が進展する一方で、相対的に対面の価値が上がっているという見方もありますよね。ネット専業銀行だからといってその流れは無視できません。色々と工夫をしながら「顔が見えるネット専業銀行」として新たな顧客体験を提供していきたいと考えています。

3.“ワクワク”する金融体験を提供するために

島村さん 今後も銀行の消費者向けサービスがスマホ中心になっていくのは必然的な流れです。それはネット専業銀行に限らず、メガバンクも地方銀行も同じだと思います。そうなると、auじぶん銀行さんのようにCXを強化してお客様のニーズをしっかりと理解し、その時代に合ったサービスを提供できる銀行が生き残っていくのではないでしょうか。

システム面で言えば、クラウドの技術も一般的になり、銀行のAPI(※)を開放する技術も普及し、あらゆるサービスを銀行機能と紐付けられるようになりました。テクノロジーが進化したことで、銀行業界ができることはまだまだいっぱいあると思います。必要なのは、技術をどのように生かしてお客様が求めるサービスを生み出すかという発想です。

※APIとは、アプリケーション・プログラミング・インターフェースの略で、あるアプリケーションの機能や管理するデータなどを他のアプリケーションから呼び出して利用するための接続仕様・仕組みを指すもの。
清水さん auじぶん銀行には“ワクワクする金融体験を提供する”というモットーがあります。お金と付き合っていく中でワクワクする体験とは何だろうかと考えると、資産運用でお金が増えていくワクワクや、お金を借りることで家が買える、夢を実現できるというようなワクワクもある。そういった、お客様の気持ちに寄り添えるようなサービスを発想していきたいですね。

ちょっとした日々の取引でも同様です。銀行サービスの画面は機能重視の傾向があり、ボタンがあって取引が成立すればOKという無機質なデザインも多いですよね。でも、細かいところで楽しめるような画面にするだけでも、ワクワクした気持ちになれるかなと思います。

※撮影時のみマスクを外しています

島村さん 決済分野でも新しいことができそうですね。海外に比べると日本のキャッシュレス決済の普及率は低いですし、まだまだ現金を好むお客様も多いです。ただそうは言っても、キャッシュレス化はどんどん広がって、都心部に限らず地方でも一般的になっていくと思います。そうなると銀行の果たす役割がまた大きく変わりますよね。

清水さん 最近では、お店に入って商品を取って出るだけで、顔認証によって支払いが完了するという画期的な顧客体験が話題になりました。そうなるとアプリですらなくて、顔に銀行が紐づいてそこでお金が動くということになります。これが当たり前になる時代がやってきます。

そう考えるといまはアプリが主流ですが、ここで立ち止まっていてはダメで、社会のニーズに応えるにはアプリの次を探していかないといけない。銀行が金融機関という形にはとどまらず、総合的な金融サービスの提供者になるかもしれません。私たちも、お客様のニーズに合わせてどんどん形を変えていく必要があると考えています。

島村さん 私たちもIT企業として新しいテクノロジーを使ってみんなをあっと驚かせるようなサービスを作っていきたいですね。金融の世界はこれからどんどん広がって行くので、もっともっとワクワクすることが実現できると思います。

清水さん 私の好きな言葉に「僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる」という高村光太郎の詩の一節があるんですけど、金融の世界はまさにこれなのかなと思っています。これまでは厳格な規制のもとで、ここから先は進んじゃダメと道が閉ざされていました。それがいまでは規制緩和の流れの中で、好きな方向に進みやすくなり、変化やイノベーションを起こしやすくなってきています。同じ金融業界で働く方々とも、競合他社という枠にとらわれず、同業他社としてお互い協力して知恵を出し合いながら一緒に日本の金融を盛り上げていけたら良いなと思っています。
〈プロフィール〉

清水 健太 / Kenta Shimizu
auじぶん銀行株式会社
マーケティング戦略本部  CX企画推進部  

2009年頃、キャッシュレス先進国だったスウェーデンの大学院へ留学中、ネットバンキングの便利さを体感。帰国後は大手IT企業に入社し、EC部門の提案営業やマーケティング部門の企画を経験。2016年に金融×スマホに力を入れているauじぶん銀行(当時はじぶん銀行)へ入社。マーケティング部門でデータ活用による顧客目線のCRM活動推進や、資産運用商品・決済商品のプロモーション・サービス企画に従事。2020年4月にCX向上推進室長に就任し、その後の組織改定で2021年7月よりCX企画推進部長を務める。

島村 純平 / Junpei Shimamura
株式会社NTTデータ
第四金融事業本部 e-ビジネス事業部 技術戦略推進室

2003年にNTTデータ入社。金融機関の共同利用型システムの開発担当として経験を積んだのち、法人向け・個人向けのインターネットバンキングシステムの開発に従事、27金融機関が採用するバンキングアプリ「My Pallete®」の立ち上げを推進する。現在は100名程度のSAFeを活用したデジタル案件・企画/開発部隊のマネジメントを担う。また、社内他組織とも連携を取りながら、デジタル案件の事業開発も兼任。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じた上で取材を行っています。
画像

執筆 オクトノット編集部

NTTデータの金融DXを考えるチームが、未来の金融を描く方々の想いや新規事業の企画に役立つ情報を発信。「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融サービスに携わるすべての人と共創する「リアルなメディア」を目指して、日々奮闘中です。

感想・ご相談などをお待ちしています!

お問い合わせはこちら
アイコン