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挑戦者と語る

コロナ後のオフィスはどうなるか 意識してチームワークを作る時代

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コロナ禍で私たちの働き方は大きく変わりました。テレワークの推進で自宅等での個人作業は効率化している面もあります。出社することで得ていた対面のコミュニケーションの効果はどうでしょうか?就業者がオフィスに出社することを前提としていた働き方が大きく変わったことで、チームワークは意識して作らなければならない時代になったのかもしれません。NTTデータのファシリティマネジメント事業部(FM事業部)は、NTTデータの自社ビル、借入ビルの管理を行ううえで、コロナ禍でオフィスの利用状況の調査を実施しています。就業者がより活躍できる環境を目指して、オフィス利用の現状分析と新たなワークスタイルへの取り組みを推進するFM事業部の上田康一さんにお話をお聞きします。

コロナ禍でのオフィスの市場動向

―新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年2月以降、オフィスへの出社制限が始まり現在もある程度は続いている状況です。オフィス空室率の増加などの調査結果をご覧になることもあるかと思います。オフィスの市場動向について簡単にお聞かせください。
上田さん コロナ禍から特に都心部の空室率が上昇しているのは事実のようです。入居を希望するNTTデータの事業部の要望に応じ、不動産会社や仲介会社に依頼を出すのですが、2021年から2022年にかけて状況が以前とは変わっています。コロナ禍前と比較してもオフィス物件の選択肢が増えています。

賃料相場も下がってきている印象です。継続利用の交渉の際にも、以前では望めなかった借り手側に有利な条件が出ることもあります。
―コロナ前とコロナ後でオフィスに関する状況は大きく変わったと思います。オフィスを利用する側の需要と供給の状況について、オフィスを提供するファシリティマネジメント事業部の視点からご意見をお聞かせください。
上田さん コロナ禍以降、NTTデータ全体でのオフィスへの出社率は30~40%で推移しています。それぞれ担当している業務やお客様の状況、地域によって出社率の濃淡はあります。こうしたなかで、従前のオフィスにほとんどの社員が出社することを前提とした執務エリア中心のオフィス機能を見直す組織も増えてきています。利用者数の減った固定席を見直し、コミュニケーション主体のオフィス機能へリニューアルするニーズが目立ちます。

単に固定席をフリーアドレス化するだけでなく、「就業者がオフィスに出社して何を実現したいのか?」をオフィス機能に落とし込むというコンセプト作りが、オフィスを供給する作業の大きな比率を占めています。出社率の濃淡の原因でもある組織や業務ごとの特性もあり、オフィスに入居する組織の特性に合わせることが必要です。就業者が実現したいことがやりやすいように物理的なオフィスを設計することが、オフィスを供給するFM事業部の大きな役割だと思っています。
―最近のオフィス動向に関連して、テレワークの促進が大きく関わっていると思います。テレワークの促進とオフィスの関係についてはどうお考えでしょうか。
上田さん テレワークは10年以上前から働き方改革のひとつとして認知され始めています。徐々に促進され浸透していき、コロナ禍で一気に定着することになったと思います。テレワークの定着と同時にABW(Activity Based Working)というワークスタイルに関するキーワードも見直されてきています。ABWはワーカーが時間と場所を自由に選択し働くワークスタイルですが、オフィス内に集中ブースやディスカッションが活性化するようなホワイトボードを壁面に広く配置した専用ルームを作ったりしています。

テレワークが定着して以降、物理的なオフィスには快適にオンライン会議できる設備のニーズが集中しています。リモートワーカーの発言内容や投影資料がはっきりと把握できるAV環境が整った会議室やミーティングブースの提供が多くなっています。出社しても個人でオンライン会議を行うケースが多くあるため、防音機能を持ったフォンブース(※)の設置が急増しています。かなりの台数のフォンブースを設置する組織もありました。

(※)フォンブース:企業のオフィス内に設置することができる遮音性の高い個室空間。一人で集中して作業する、オンライン会議や商談を行うといった社内における多様なニーズに応えることができる。

NTTデータグループのオフィスの利用状況について

―NTTデータグループは多種多様な業界、業種のお客様のビジネスパートナーとなっています。地域、ビル、事業部などの特性によりオフィスの利用状況はどのような特徴があるのでしょうか。

上田さん まず地域性についてお話しします。いろいろな調査結果にもありますが、首都圏に比べ地方ではリモートワーク率が低い状況です。私も地方のNTTデータグループ会社にうかがった際にリモートワーク率をお聞きしたのですが、やはり首都圏に比べ低いようです。実際のオフィスの様子を目にしましたが首都圏に比べ出社されている人数比率が多いように感じました。地方では首都圏に比べ通勤時間が短いことなども影響していると思われます。しかし以前と比較すると地方でも首都圏同様にオフィスの稼働率は低下しており、オフィスのリニューアルをする組織も増えています。

ビルの特性については、NTTデータグループはお客様のデータをお預かりしてシステム開発や維持運用を担っている組織も多くあります。それを支えるデータセンターが併設されたビルは一般のオフィスビルと異なり、リモートワーク率が低いようです。

また、事業部ごとの傾向としてはお客様によるところが大きいようです。お客様が出社なさっているのであれば、対面で打ち合わせしましょうか、という感じで出社することも多いようです。製造業のお客様は工場およびその管理など生産の現場に関わるため出社が多いようです。また、金融業でも金融機関の店舗の営業などで出社が多いようです。こうしたお客様を持つ事業部はオフィスへの出社が多い傾向にあります。

ファシリティマネジメント事業部では、コロナ禍で働く場所、ワークプレイスを3つに分類してそれぞれの位置づけを考えています。まずテレワークが主体になったため第一のワークプレイス(=1st Place)としての「自宅」があります。集中した資料作成や事務処理等において高い生産性を実現する場所です。

2nd Placeとしての「コアオフィス」は、これまで出社していたオフィスがそれに当たります。コミュニケーションやチームビルディングなど集まって働くことの意味を最大化させるオフィスです。

3rd Placeは「サテライトオフィス」等が該当し、自宅業務の代替場所、外出先から他所への移動などオンデマンドに利用されています。こうしたワークプレイスを組み合わせて利用し、高い生産性を実現していくことを狙いとしています。

図1:想定するワークプレイスの位置づけ

テレワーク推進のメリット・デメリット

―テレワーク主体となり、「自宅」、「コアオフィス」、「サテライトオフィス」を組み合わせる働き方に、現場はどのような反応を持っているでしょうか。
上田さん 少し前にNTTデータの各組織にリモート/リアルそれぞれで適したワークシーンを議論してもらったことがあります。リモート、すなわちテレワークに適したワークシーンとしては、場所や時間に制約なく実施できる個人集中作業がまずあげられました。そのほかは、ブロードキャスト型の情報発信の視聴がありました。ソロワークの効率性や生産性向上がテレワークによってもたらされるということです。テレワークはこうしたワークシーンに有効に作用する一方で、対面コミュニケーションが有効なワークシーンでは課題があるようです。

リアルに適したワークシーンとしては、対面コミュニケーションにより業務に対する思いや熱量をお互いに交換したり、上司や先輩の背中を見て学んだりする場面があげられました。思いがけない人と偶然出会って話すことでの気づきなど五感で感じることでの成長、仕事仲間のエンゲージメント向上ができるディスカッションやアイディア創出といったワークシーンです。

一方で、現行の執務中心のオフィスは稼働率も低い傾向で、かつ出社先がそれぞれの本拠オフィスに限定されています。こうした状況では人と会う機会そのものが少なくなっています。そこで、オフィスをコミュニケーション主体の機能に変え、全社共有とすることで人と出会う機会を増やすことができます。これまで執務エリア中心だったオフィスを集約しコストを削減し、そのコストを就業者のエンゲージメントと満足度の向上の投資に転換していく施策をいくつか実施しています。

その施策のひとつがシェアオフィスの実施です。「Productivity」、「Communication」、「Collaboration」、「Team Building」といった、オフィスに集まることで実施できることを具体化しています。オフィスに来ることでリアルな交流を自然に生み出せる空間を作り、フォンブースなどで出社時のソロワークも可能にしています。

図2:施策として用意されたシェアオフィスのコンセプト

―オフィスで集中できるフォンブースやディスカッションやコミュニケーションを行う会議設備などの施策を展開なさっていますが、うまくいっている点、改善すべき点などについてお聞かせください。
上田さん 施策の結果として変化したワークスタイルでの課題抽出、他社事例調査を踏まえ、解決への仮説を明確にし現場組織や経営層を含んだ合意形成を進めることで施策の改善などを行っています。経営層、社員、協働者などのステークホルダー各人が施策の目的を腹落ちしたうえで実施していることで多くのオフィスに関する施策が受け入れられています。

一方で、オフィスの運用面はまだまだ課題が多く残っていると考えています。シェアオフィスの施策では、目的である就業者のエンゲージメント向上は出社しないと体感できないものです。出社動機をどう作るかがキーポイントで出社したくなるオフィスであるとともに、イベント開催や一定の出社ルール化も必要と感じ議論しているところです。

図3:出社したくなるオフィスの写真(左側:少しゆっくりと情報収集できる空間、上側:リラックスして打ち合わせできる空間、右側:対面で集中して議論できる空間)

今後のオフィスの展開

―オフィスビル、テレワークなど家庭での業務環境、サテライトオフィスなど、私たちが利用するオフィス環境は大きく変化しました。このように働く場所が分散している状態で、就業者も少しやりづらい点が発生していると思われます。就業者をつなげ快適に就業できる環境実現に向けての課題をお聞かせください。
上田さん 従前当たり前のようにみんなが出社してできていた対面コミュニケーションが少なくなったことにより、相手の状況が分かりづらくなり、偶発的に出会って相談、背中を見て学ぶといったことができなくなったと感じます。そこで、オフィスにおいてはリアルオフィスワーカーとリモートワーカーをつなげる仕掛けが必要であり有用と考えています。
―どのような仕掛けをお考えでしょうか。
上田さん まず、リモートワーク前提となり分かりづらくなった相手の状況をどう把握するか、今どこにいるか?というプレゼンスを明らかにする仕掛け作りに取り組んでいます。オフィス内で誰がどこにいるか?というプレゼンスシステムがさまざまなベンダーから提供されています。ワーカーにビーコンやスマートフォンを所持してもらい、室内に設置した複数のアンテナで位置情報を把握する技術や、席にQRコードを貼り付け座るときにスキャンし自分の居場所を伝えるという技術が主流です。

私たち自身がこれを試験的に利用してみたのですが、デバイスを携帯しないと機能しない、QRコードスキャンするのは割と手間で忘れるケースも多いという課題が残りました。そこでワーカーがデバイスフリーな状態でこれを実現できないか?と考え、カメラに目を付けました。
カメラで撮影した映像で人物を検知し、位置情報も取得するという技術です。これはあまり浸透していない技術であり、現在NTTデータの技術開発部門の協力で、人流トラッキング(追跡)技術を所有するベンチャー企業とタッグを組み開発を進めて今年中のリリースを目指しています。
予定表と連携しデジタル上のパーソナルアシスタントが会話できるタイミングをセットしたり、自身の業務に関係ありそうなメンバーを紹介したりといった機能の組み込みも実現したいと考えています。

次に、ワーカーの状況を把握についてヒアリングしたところ、近くの席に座っているメンバーがどういう人か?が分かることがうれしいということでした。同じ組織のメンバーでも最近はマスク着装ということもあり、本当にその人か?も分かりづらい状況が補完できることは効果的なようです。これはデジタルマップ上で表現することで話しかけるきっかけ作りにもなり得ると思います。

リモートワーク前提になり、意識してチームワークを作らなければならないようになっています。現在の私たちのコミュニケーションは、過去にいっしょに仕事をしたり、面識があったりした人たちとのコミュニケーションの貯金の上に成り立っているとも言えます。この貯金が尽きないように、また新たに増やしていけるように、効果的に多くの人との交流を新たに生み出せる機能をオフィスに実装していきたいと思います。
―物理的なオフィスやテレワーク環境など統合による就業環境の大きな変革を実施されていますが、この分野に関して将来的な展望とご自身の夢についてお聞かせください。
上田さん 物理的な働く場所の在り方は今後も進化・変化していくと考えます。また、デジタルテクノロジーは急加速度的に進化しています。NTTデータでは各企業のワークスタイル診断を行ったうえで、導入、運用フェーズでその時点で最適なソリューションを当社ソリューションおよびパートナーソリューションを組み合わせてタイムリーにデリバリーしていきたいと考えています。新たなワークスタイルにおける提供価値としてとらえていることはデジタルテクノロジーを活用し、ワークスタイル全体を統合的に診断・最適化するプロフェッショナルサービスをお客様にお届けすることです。
分散化するワークプレイスは就業者のエンゲージメントに大きく影響し、求められる提供価値が大きく変化しています。
具体的には、
・働く空間の最適化
・就業者同士のエンゲージメント
・マネジメントスタイルの高度化
・多様な就業者の活躍支援
・安全・安心の確保
など “場所”や“モノ”だけの提供ではなく、オフィスや自宅などのワークプレイスで体験できる“コト”の2つのフライホイル(はずみぐるま)が相互作用する新しいワークスタイルをお客様とともに創出していきたいと思います。

図4:ワークスタイルを変革するフライホイル

またNTT DATA PR のYouTubeチャンネルにFM事業部が目指す新たなワークスタイルのイメージ動画がありますのでぜひご覧ください。
〈プロフィール〉

上田 康一 (うえだ こういち)
株式会社NTTデータ 
ソリューション事業本部ファシリティマネジメント事業部

2011年よりオフィスソリューションに従事。社内オフィス改革施策の推進リーダーとして、社内オフィスサービスの企画、立ち上げを主導。2017年より新規オフィスソリューション「ICT Work Site®」の営業活動責任者、また社内においてはワークプレイスに関わる専門職であるワークプレイスイノベータとして活動している。
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。
※感染防止対策を講じたうえで取材を行っています。

企業の研究開発部門で、ナレッジマネジメント、Web系アプリケーションの研究開発に従事。事業部門で、業務プロセスの分析と業務設計を行い、事務の集中化やヘルプデスクの安定運用のための機械学習の適用などを経験。現在は金融分野における機械学習の応用を目的とし、自然言語処理、説明可能性、AIの公平性、異常検知などの調査、ユースケースの検討に従事。

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