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新しい働き方から生まれる、新しい地域コミュニティと情報銀行

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コロナによって通勤から在宅勤務中心へと変わった我々の生活。新しい生活様式は会社やオフィスが担っていた役割を地域コミュニティに求めるようになっていきます。そこから新しく生まれてくる地域コミュニティとは何か?ポストコロナの新しい地域コミュニティに求められる情報銀行の役割を『情報銀行のすべて』の著者花谷さんが解説してくれました。

もう、戻れない・・・

およそ9割。
どのような数字だと思いますか?

これは、私の行った情報銀行に関するセミナー講演の際に、約230名の参加者の皆さんにお答えいただいた、「コロナ後の社会」に関するアンケートです。

コロナ後はどうなる?

冒頭の数字は、「さらに進む」を選んだ方の数になります。私個人は、「今のまま」を選ぶ人が多いんだろうな、それでもコロナ前とはすっかり変わってしまうんだろうなと思っていましたが、結果は予想を上回り、実に多くの方が、今以上の変化が訪れることを予測していました。

社会人であるのに、定期券を持たない生活。そんな日が来るなんて思ってもいませんでした。職場の懇親会や、いわゆる「飲みニュケーション」もすっかりすたれてしまったように思います。

では、皆さんが考えた「さらに進んだ世界」というのはどのような世界になるのでしょうか?それは、「新しい働き方」がもたらす世界ではないでしょうか。

新しい働き方に伴う変化

1月に私が寄稿した「情報銀行とその先の社会」の中で、ケース1として、「個人の働き方に企業が合わせる社会」というものをご説明しました。今よりもテレワーク、在宅勤務が拡大すれば、オフィスに通勤しない人が増え、企業というものがなくなり、個人と個人で仕事をする機会が多くなる。その時に、どのように相手を信用すればいいのか?そのためにパーソナルデータの活用が考えられるというものでした。
実は、その時に、もう一つ影響を受けることがありました。それが、コミュニティです。
ちょっと順を追って、ご説明します。

私たちは、特に企業に勤めている人は、日中の多くの時間を、オフィスで過ごします。少なく見積もっても、9時間程度はオフィスにいることが多かったのではないでしょうか?当然、ランチは、職場の近くや、打合せ先の近くで済ませるでしょうし、人によっては、歯医者さんなどの医療機関も、職場の近くという人がいたと思います。

習い事があれば、職場の近くか、通勤経路の乗換駅を利用したでしょうし、飲んで帰るなら、それも職場の近くや途中駅だったでしょう。そう考えると、家にいるのは、就寝時間+αで、ほとんどの時間を自宅外の場所で過ごしていたということになります。

したがって、オフィスのそばには、ランチを提供するお店が多くあり、オフィスビルの中に、診療所があることも多くありました。

私たちは、企業、オフィスを中心としたコミュニティに属していたといえると思います。

その証拠に、ワクチン接種では、職域接種があり、所得税の支払いは、企業による源泉徴収と年末調整があり、企業やオフィスというコミュニティが私たちへの行政サービスの窓口、代行者になっていたわけです。

しかし、これが変わっていきます。

在宅勤務やテレワークが増えることにより、私たちはオフィスや外出先で過ごす時間が減っていきました。
NTTデータの本社がある豊洲の駅前でも、ランチを提供するお店が何軒か閉店あるいは縮小しています。社員食堂も、一部閉鎖されています。明らかに昼間人口が減っているということの証左ではないでしょうか。

では、そこにいた人たちはどこに行ったのか。

それが、自宅の周辺になるわけです。在宅勤務になる人の多くは自宅で昼食をとるか、近隣でテイクアウトするか、コンビニでお弁当を買うかするでしょう。
病院も、会議の合間に自宅周辺の病院に行くことになるでしょう。これまでの、企業、オフィスを中心としたコミュニティが崩れかけているのではないでしょうか。

在宅という働き方がもたらす経済的影響

少し前の話になりますが、2022年3月17日に、アジア経済研究所が主催する「“在宅”という働き方がもたらす経済的影響」と題するオンライン講座がありました。その中で、一橋大学の森川教授は、在宅という働き方のメリット、デメリットを以下のように説明していました。
・ 在宅勤務は高学歴、高所得者を中心に実施されており、2020年と2021年では、実施企業数は、50%から30%へと減少している。
・ 在宅勤務の頻度も、平均3.6日から、2.4日に下落した
・ 在宅勤務による生産性は、主観的な数値として、平均で通常の61%と感じている。生産性を下げる要因として、素早い情報交換ができないとする人が多かった。しかし、設備的な問題を除き、社内ルールの変更で、解決可能である課題もあると考えられる。
・ 在宅勤務の生産性のグラフでは、2020年から2021年に向けて、上昇傾向にある。これは、学習効果があったことと、生産性の低くなる仕事は、現場仕事にもどったからだろう。
・ 通勤時間の使い道はどうなったか?労働に割り振られた:20%、生活に割り振られた:41%、半々に割り振られた:38%で、結果的にワークライフバランスは向上した。
・ コロナ後の見通しとして、労働者は62%が在宅勤務を続けたいとしており、企業は15%しか在宅勤務の継続を望んでいない。
このような状況から、コロナ後に在宅勤務が続いたり、その比率が上がったりということは現時点では考えにくいかもしれません。
しかし、それは、今の社会通念、社会尺度で図った場合の考え方で、大学生活のほとんどをリモートで過ごした学生さんたちが就職し、中堅になったころには、価値観が変わっているかもしれません。
高学歴、高所得者から順に、在宅勤務が浸透していくことで、在宅勤務により下がった給与を、地元での新しい仕事を副業で補填するなどの働き方が出てくるかもしれません。

新しいコミュニティの誕生

実は、日本の企業は、仕事をする場所だけではなく、私たちの生活において重要な役割を担っていたと考えられます。

企業の福利厚生により、私たちの健康は維持されていた部分はあるでしょう。ワクチン接種や源泉徴収など行政サービスの代行もしていたわけです。災害対策についても、職場で非常食を用意していると思います。私たちに何かを伝えたいと思えば、企業というまとまりで伝達や行動がされて、行政が行われていた部分があると思います。

しかし、それが崩れかかっている。

ばらばらな個人をどのようにまとめていくのか、抜けもれがないように行政サービスを提供していくのか、企業が果たしていた役割を代替するものが必要になります。

それが地域コミュニティであると考えます。
自治会や子供会、マンション管理組合などが中心となって運営されている地域コミュニティです。

もちろん、こうした地域コミュニティはコロナ以前から存在していましたし、私たちの生活を支えてくれていたと思います。しかしながら、アフターコロナの世界の中では、その役割がより大きくなっていくのではないかと考えます。

自宅にいる時間が多くなれば、健康に関するアクションも自宅の周辺で行うのがいいでしょう。マンションの共用会議室を使って、健康診断をしたり、健康に関するセミナーをしたりすることも考えられます。
マイナンバーカードの申請も、町内会ごととかマンションごとに移動窓口ができるかもしれません。
地震が起きるのも自宅にいるときの可能性が高くなれば、備蓄の準備は自治会、マンションごとになるでしょうし、災害時の避難ルートも自治会、マンションで整備する必要があるでしょう。確定申告も自治会やマンションごとということになるのかもしれません。

そうなると、これまで以上に、地元での結びつきが増えていくでしょうし、共助という考え方も重要性を増してくると思います。そこで新たに、仕事を頼みあったり、助け合ったりということで、新たなビジネス、連携が生まれてくることになるかもしれません。

地域の情報銀行、自治会やマンションの可能性

しかし、現在の自治会やマンションに、そのようなアクションを主体的に提供できるだけのリソースや仕組みがあるわけではありません。
ニーズがあり、世の中が変わっていくとしても、自治会やマンションがその受け皿になるには、支援が必要です。
住民の個人情報を蓄積する必要があるので、十分なセキュリティを担保しなければなりません。
防災関連のサービスを提供するとして、十分な人的リソースを持っていない自治会やマンション(管理組合)が、企画運営するのは難しいでしょう。
そしてそれらを使ってもらうためにも、サービスは拡充する必要があり、それを個々の自治会やマンションで考え、実現するのはさらに難しいでしょう。おそらく、今後はそういうサポートをするサービスが必要で、企業の総務部、システム部のような役割が、地域コミュニティにも必要になるでしょう。それは、地域の情報銀行と併設される形で実現されるのではないでしょうか?

地域の情報銀行としての自治会やマンションとはどういうものでしょうか?

自治会やマンションが情報銀行となって、住民の個人情報を蓄積します。それは、マイナポータルなど行政サービスとも連携し、住民からの窓口になります。
ここに蓄積された情報を地域の商店街などと共有することで(もちろん、住民の同意が必要です)、ある程度まとまった世帯へのサービス提供が可能になり、共同購入や効率的な宅配サービスを実現することが可能になります。

そのほかにも防災の観点からは、各世帯の家族構成や、日中の行動がわかる(予定表を提供しその内容を共有する)ため、各家庭に合わせた避難経路のアドバイスや待ち合わせ場所の連携、さらには、各家庭の備蓄状況に合わせて、自治会、マンションの備蓄を用意するということもできるようになると思います。
ゆくゆくは、自治会やマンションごとに予防接種をする、健康診断を受ける、教育サービスを受けるなども可能になってくると思います。

このように考えると企業に代わる新しいコミュニティとして、自治会やマンションに可能性があるとかんがえられませんか?皆さんの新しい働き方が、新しいくらしを生んでいくのかもしれません。
今の学生さんが社会人になり、所帯を持つようになるころには、今まで以上にどこに住むのかということが重要になり、地域と密接な関係を持つようになるのかもしれません。
その結果、マンションで健康診断を受け、自治会ごとの防災レポートや備蓄計画があり、マンションや地域にあるシェアオフィスに勤務するようになり、お昼休みに帰宅して家族と一緒に食事をとり、子どもの塾の送り迎えも仕事の合間に行う。そんな世の中が、実現されているのかもしれません。

個人のスキルをいかし、つなぎ合わせて生まれる新たな労働力

本稿でも解説した新しい地域社会での働き方と可能性、ビジョンの紹介動画はこちら



※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
※記事中の所属・役職名は取材当時のものです。

1996年NTTデータ入社。入社以来、公共機関向けの業務に携わる中で、パーソナルデータビジネスに深く関わるようになる。近年はEUでのMyDataGlobalの取組やフランスでのFingとの実証実験などで得られた知見をベースに、パーソナルデータ活用の第一人者として、より効率的な社会を紹介し、そのために必要な社会制度、インフラなどについても発信している。著書に『情報銀行のすべて』(ダイヤモンド社、2019年)

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